エッセー

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トランプ発言で思い出したこと

2016-07-05 15:00:35 | 読書

 アメリカ共和党のトランプ氏発言が内外を驚かせている。

*不法移民入国防止のためメキシコ国境に万里の長城のように壁を築く                             *ムスリム(イスラム教徒)の入国は禁止する                                 
                                                                                                             物騒な暴言にアメリカの民主党はもちろん知識層の大部分ははアメリカを分断するポピュリズムだと反発している。
 しかし不法移民増加に伴う失業問題と権力層・知識層に反感を持つ「プアホワイト(白人貧困層)」に支持されているトランプ氏は、あれよあれよという間に共和党の大統領候補になってしまった。   

 

▼ヒスパニックの「スピア」   

   トランプ発言で私が思い出したのは、たびたび出てくる「ヒスパニック(中南米人)」という言葉だ。私は1947年に米軍千歳基地にいて米兵と対応していたことを前に書いた。手まね足まねのボディランゲージで、生まれて初めて接触した外人が「スピア」と呼ばれていた「ヒスパニック(中南米移民)」だった。

   愉快なメキシコ系だった。白人隊長の机に腰掛けているのを見て私はたまげたことがある。物品領収書にサインしたとたんに「スピア」の態度が改まって友好的になった。私のサインは筆記体で、彼のは活字体だった。彼らは活字体のたどたどしいサインしかできないのだった。                 

 だいぶ後の話だが、ヒスパニックというのは、アメリカ国内で、スペイン語やポルトガル語を話し、英語は話さない中南米出身者であること、経済的に恵まれないので教育環境も悪く、アメリカでは差別されている階層であることを知った。
 「スピア」はタダで世界見物ができるという宣伝で募集された兵士の一人だと陰口を言われていた。だが、ちゃんと英語を話していたし、たぶん恵まれたヒスパニックだったのだろう。

 

  「プアホワイト(白人貧困層)」のこと   

 不法入国のヒスパニックに対するプラント氏の暴言には、アメリカの人種的階層社会、経済的格差社会の問題が背景にある。                                                    WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)を頂点とし、その下がドイツ・フランス系移民、さらに下層がイタリヤ・スペイン・ユダヤと続き、黄色人種の日本人・中国人そして最下層に黒人が位置する。「プアホワイト」は「スパニッシュ(スペイン語圏)」と重なる。   

 このへんの状況は「アーロン収容所」や「日本人の意識構造」の著書で有名な会田雄次教授の比較文化論に詳しい。これらの著書は1970年代のものであるが最近のトランプ氏関連報道を見ていると、アメリカ文化の本質的なところは変わっていないと思わせる。
 お互いに貧乏なヒスパニックと「プアホワイト」のせめぎ合い、さらにこの下層社会の人たちが、中央のエスタブリッシュメント、エグゼクティブに反感を持ち反発している。こういう背景がトランプ氏の支持母体になっているという。


日米同盟関係トランプ氏発言                                                      
 

*日米同盟はアメリカに不利な片務条約                                                   *駐留費は日本が全額負担すべき
   *さもなければ日本駐留の米軍は撤退する
     *日本の核武装容認

 日米同盟関連のトランプ発言には日本の右も左も驚いたようだ。しかしこれを教養のないアメリカ人の短絡的暴言と断言するのは早計だ。                           欧米人は自由と民主主義を守るために全体主義の日独伊と戦って勝ち、共産主義のソ連との冷戦にも勝った。アメリカは「世界の警察官」であり日本も守ってやっている。これがアメリカ人の一般的認識だ。
  駐留費を全額日本が払わなければ米軍撤退も考えるべきだというのは、必ずしもトランプ氏だけの意見ではないと思う。
 さらに最近ではアメリカが「世界の警察官」をやめて、モンロー主義に閉じこもる可能性がないとはいえない情勢だ。太平洋を中国とアメリカで二分しようと中国軍高官が言った話も思い出した。
  トランプ氏にすれば日本の平和主義者、護憲主義者はわがままな甘えん坊にみえることだろう。


 ▼日本人を見る目                           

 マッカーサー元帥の「日本人12歳説」は、日本人を頭から馬鹿にしているのではなくて、 欧米の文明・文化を判断基準としてみると日本人(日本文化)は12歳レベルだというのである。アングロサクソンは征服民族としての誇りが高く、自由と民主主義、キリスト教文化について普遍主義的自信を持っている。マッカーサーはアングロサクソン人の常識でものを言っていたのだと思う。 

   一般の欧米人が日本人を見るとき、悪気はなくても「小さくて醜い」と感じるのが普通のようだ。イザベラ・バードの「日本旅行記」では日本人の誠実さ規律の良さなどに感心しながらも、繰り返し「小さくて醜い」日本人という表現が出てくる。ルースベネディクトの「菊と刀」のような相対主義的見方は一部の人に限られている。確かに欧米人の中に入ったとき、劣等感を感じない日本人は多くないと思う。日本の知識人が欧米の文化に抜け難い劣等感を持っていることは周知のとおりだ。
  昔とちがって経済大国、技術大国となった日本は一定の尊敬の目で見られてはいるが、欧米人の意識には通奏低音のように優越感、普遍主義感覚が流れていると認識しておいた方がよいのではないだろうか。もちろん、あまり自虐的になる必要はないが、日米同盟、基地問題を考える場合にもアングロサクソンの価値観、世界観つまりは「ものの見方考え方」に配慮する必要があると思う。                                                               

 いま騒がれているトランプ氏発言は、考えようによっては我々日本人にとって、世界の中の日本の立ち位置といったことについて改めて考えるいい機会だと思うのだがどうだろう。                            今またハンチントンの「文明の衝突」が読まれているというが、日本人による「新 文明の衝突」が書かれないものだろうか。    (2016/07/05)                                     

      


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