カスタムメイド


SIGMA DP2Merrill

大きな画像

宮城興業で誂えた「謹製誂靴」が出来上がってきた。
誂えると言っても、いわゆるパターンオーダーである。
製作期間は1ヶ月と数日間を要した。



さすがに多くのブランドのOEM生産を引き受けているメーカーだけあり、注文の際の仕様の選択肢は驚くほど多い。
下手にビスポークに走るより、出来上がる靴はこちらの方が面白いかもしれない。
実際同社のサイトを見ると、木型を作ったとしても意外に上手くいかないことが多く、豊富なバリエーションの中から実際に試着してベストを選ぶこの方式の方が、結果的に優れたフィッティングが得られる可能性が高い、と考えているようだ。

まず今回誂えた靴の仕様を書いてみよう。
デザインはMD-09。
オブリックラストを採用した革新的な形状のシリーズだ。
その中から外羽根式プレーントゥのMD-09を選んだ。

アッパーの革は、オイルレザーのブラック、底材は合成ラバーのダイナイトソール風のものにした。
オプション(有料)で、ソールの厚みを3mm増すダブル底を選んだ。
同じく踵もオプションの吟積上げにしてもらった。(断面に革の層が見えカッコよくなる)

ウエルトは、甲革との接触部分に水避けの返しの付いたストームにし、オプションで靴の周囲360度をぐるりと縫って踵にボリュームを持たせるダブル巻きを選んだ。
ウエルトの出し縫い糸の色は茶を選び、コバ(側面)の形状は平面にした。
ウエルトの色とコバの色はともに薄茶にして、甲革の黒とくっきりとコントラストが出るようにした。

裏革はオレンジにしてもらった。
底に文字を入れることも出来るが、今回は何も入れなかった。(しかし何か入れないと間が抜けることがわかった・笑)
靴紐は、とりあえずスタンダードなロウ引きの黒い丸紐としたが、これはあとからゆっくり考えて交換するつもりである。

このように仕様に関しては、書くのが大変なくらい細かく指定できる。
完全に自分オリジナルの靴が作れる・・といっていいだろう。
ちなみに今回の注文で追加料金の発生したオプションは、ダブル底、吟積上げ、ダブル巻きの3点のみで、それ以外は標準料金に含まれる範囲から選んでいる。

注文は、各県に数店舗ずつある、同社指定の特約専門店でのみ受けてくれる。
同社の哲学を理解し、しっかりと対応できる技術を持つお店が選ばれているのだろう。
実際に注文してみると、まずは信頼できるお店と出会うことが肝心であると実感する。
価格はお店ごとに違うので、探すと安いところもあるようだが、いずれにしてもカスタムメイドとしては破格の安さである。

サイズは、その特約店に出向き、専門家であるシューフィッターの方と相談しながら決めていく。
足長、足囲、甲といったサイズを測定したり、計測用のゲージ靴を次々に試着したりと、この工程がなかなか面白い。
服を誂えるのと同じで、わくわくする作業である。

靴を購入する際、通常僕は25.5の3Eを選ぶ。
しかしそのサイズだと前後方向に余裕があり、歩くと僅かに踵部分が上下に動く。
ゲージ靴を試着した僕の足に触れたお店の方から、このサイズでは大き過ぎると指摘された。
偏平足の為、足の幅に合わせて既成靴を買うのが習慣になっており、多少前後が緩くても我慢して履いてしまう・・という悪い癖がついていたのだ。

そこで今回は、シューフィッター氏の意見を尊重し、すべてお任せする事にした。
その結果、サイズは25.5の2Eを基準として、足幅部分のみ左右に1mmずつ広げて作ることになった。
オブリックラストであるMDシリーズの木型を前提に決定した拡張サイズで、他の木型の場合だと、もう少し広げる必要があるという。
パターンオーダーといっても、ここまで細かいフィッティングをしてもらえるのだ。

靴のデザインはスタンダードなものが揃っており、基本形としてラウンドトゥのESシリーズが30種類、チゼルトゥのCSシリーズが16種類、オブリックトゥのMDシリーズが12種類用意されている。(2013年10月現在)
それらをベースに、オプションで細部の形状を変更することも出来る。
その中から、今回は足の健康に留意した特殊な形状であるオブリックトゥのMDシリーズを選んだ。

足幅の広い僕の場合、オブリックラストを選ぶととんでもない形になる恐れがあり、少なからず不安を感じていた。
だが出来上がった靴を見ると、予想外にカッコいい。
当初はストレートチップにして、1本横線を入れることで、膨らんで見えるのを少しでも誤魔化そうと考えていた。
ところがお店に置いてあったMDシリーズの現物を見ると、線が入るとむしろ扁平感が強調されることが分かり、急遽プレーントゥに変更した。

オイルレザーを選んだのは雨に強いからで、最初の一足は実用性の高い普段履けるものを目指した。
オプションでアノネイ社のフレンチカーフや、コードバンなどを選ぶことも出来るが、今回は普通のオイルレザーにした。
凄みのある艶消しブラックで、なかなか渋い革である。
さらに前述したソール周りを強調する各種オプションを選び、イメージをカジュアルな方向に振った。

こうして出来上がってきたのが写真の靴である。
最初にお店で箱から出した時、おおっと声が出た。
製品というより「作品」と呼びたくなる精密感のある作りで、量産品とは違い、じっくり手間をかけて作り上げたのが伝わってくる。
感嘆し、これは細部まで丁寧ですね・・と言ったら、そりゃあ日本人が作ったものですから・・と返ってきた(笑)

足を入れてみると、緩くもなくきつくもなく、ほぼピッタリのサイズ・・という印象である。
足に当たる部分がまったくない。
心配していた踵も、遊びが少なくしっくりくる。
しばらく使ってみないとわからないが、やはり既成靴とは一味違う履き心地だと感じた。

海外から紳士靴を何足か取り寄せようと計画していたが、この出来を見てしまうと、予定を変更せざるを得なくなった。
価格もずっと安いし(オールデンやトリッカーズの半額以下)、作りも非常に丁寧である。
日本の職人のプライドを感じさせる出来といえる。
しかも世界にたった1足の、自分専用の靴なのである。
コメント ( 11 ) | Trackback ( 0 )
« 転送 7 好みの分析 »
 
コメント
 
 
 
Unknown (隠居)
2013-10-25 07:07:48
謹製誂靴のサイトを見てみました。自分の好みもMD-09やMD-10です。もうビジネスのフォーマルな場面には縁がないので、
カジュアルにも履けるのがよさそうです。過去に買った靴もこの系統でした。
自分の居住区からは横浜市の菊名のお店が一番行きやすそうなので 機会があれば覗いてみようと思います。
先日ブログでご紹介いただいた本は「靴の事典」といった趣ですね。基礎知識さえ持たなかったので大変
参考になりました。有り難うございます。
 
 
 
Unknown (COLKID@会社)
2013-10-25 07:57:01
少しでもお役に立てたらよかったです。
近くのお店が親切なお店だといいですね。
MDシリーズは足に幅があるとビックリするような不恰好になる場合もあるようなのでご注意ください。
カタログの写真のものは、足幅の狭い人用に作ったものですね(笑)
あと標準仕様だと革が平凡なものなので、磨いて光らせるとしたらアノネイの革など選ぶといいようです。(少しオプション代金が高いですが)
ちょうど2足目をアノネイ仕様で作っているので、出来上がったらまた写真を載せます。
 
 
 
Unknown (隠居)
2013-10-25 09:07:39
自分は幸い足幅が狭い方のようです(スニーカーはナイキでは幅狭すぎるけど
アディダスだとちょうど良い具合、ダンロップだと幅が余ってブカブカです)。
続編を楽しみに待っております(^^)
 
 
 
Unknown (COLKID@会社)
2013-10-25 09:26:17
そうですか。
続編は来月中旬くらいになると思います。

それともうひとつ、宮城興業は職人集団なので、納得できる出来でないと、後から断られることもあるようです。
例えば革のいいところがなかったため、これでは出せない・・ということになり、キャンセルになった例があるそうです。
またメールで問い合わせると、今どんな革を在庫しているか教えてくれるので、カタログに載っていなくても、それで特注することも出来るみたいです。
ただ具体的に(例えばヨーロッパのボックスカーフの茶系は何がありますか?など)聞かないと、なかなか教えてくれません(笑)
 
 
 
Unknown (リーマン)
2013-10-25 10:19:15
突然の投稿失礼します。
プチ日記、いつも楽しく拝見させて頂いております。

近所のスーツの仕立て屋さんで、宮城興業のオーダーを扱っており、いつか誂えてみたいと思っておりました。
最初からラバーソールが選べるのがサラリーマンとしてはポイントです。お写真を拝見する限り出来栄えも素晴らしいですね。スコッチグレインを買ってハーフラバーにしようと思っていましたが、思い切って宮城興業さんにお願いしようと思います。

時計のベルトシリーズも大ファンです。新作を楽しみにしております。
 
 
 
Unknown (COLKID@会社)
2013-10-25 12:13:18
はじめまして。
いつも読んでくださりありがとうございます。

ラバーソールは、ダイナイト風のものと宮城興業オリジナルのものと2種類用意されていますね。
革に比べると全面ラバーは少し蒸れるようですが、利点も多いですからね。
ぜひ挑戦されてみてください。

ちなみに私がもうひとつお願いしているのは、デザインはチゼルトゥのホールカットで、甲革はアノネイの黒、底面は革で中央にのみラバーが付いているタイプです。
 
 
 
Unknown (リーマン)
2013-10-25 17:09:31
それは既製では無さそうなタイプの靴ですね。
完成のご報告を楽しみにしております。
 
 
 
Unknown (COLKID@会社)
2013-10-25 17:39:29
完成したらここに載せますので、お楽しみに。
そのまた次も作りたくなってきました(笑)
 
 
 
経年変化 (通りすがりのブーツマニア)
2015-05-12 20:04:45
はじめまして。
この革の経年変化に興味があります。
いつか、現在のこの靴の写真をアップしていただけたら嬉しいです。
 
 
 
Unknown (COLKID@自分の部屋)
2015-05-12 21:42:59
ブーツマニアさん。はじめまして。
この靴は何故か気に入っていて時々履いています。
とはいえ靴が大量にあるので、履いたのは全部で十数回かと思います。

下に現在の写真のURLを付けておきますので、コピペしてご覧ください。

アッパーは比較的薄手に感じるオイルレザーで、ご覧のような皺がよります。
ちょっと人造物っぽい独特の感触の革で、海外のブーツなどでは見られないものです。
ただより良い革をみつけたり在庫が切れたりすると、メーカーが他の革に替えることもよくあるようです。

オイルレザーには禁じ手ですが、トゥを光らせて履いています。

http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/0f/17158d49a5b1e3b15adf133d5c02bc18.jpg?random=f1f0d1a78a10675021bbcf85f67239f3

http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/00/ceeb7ff5ea9f04810f2b94cd9b9c1ea4.jpg?random=1918aeae0a56dbab5dc52c152130473c
 
 
 
ありがとうございます (通りすがりのブーツマニア)
2015-05-12 22:29:50
早速画像アップしていただき、ありがとうございます!
宮城のカスタムオーダーをオイルドレザーでと考えていましたが、革は経年変化を見ないとイメージがつかめなかったので、大変参考になります。
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。