ヴィンテージ


D810 + AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G

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行きつけのお店で、古着を販売している。
時折見せてもらうのだが、その中に昔自分が着ていたものと同じ年代のコートがある。
サラリーマン時代に「日常」に着ていたものだ。

80年代、90年代くらいのものである。
30年も前であるから当然と言えば当然なのだが、それが実際に「クラシカルな服」として売られているのを見ると、少し複雑な気持ちになる。
だってまだ自宅のクローゼットに吊り下げてあるのだ。
お洒落とは到底言えない僕の場合、服をどんどん最新のものに入れ替えていくことなどなく、今でも当時の服がそのままになっている。
その同じ年代のものが、ヴィンテージ古着として売られているのだ。

自分自身の感覚も、ほとんど進化していない。
それらは仕事の時にいつも着ていた服であり、何でこれがヴィンテージなんだ・・という思いしかない。
家人が止めなければ、今でも着て出て行ってしまうだろう。
当人はどこが違うのかよくわかっていないのだ。
そう思うと、少々ぞっとする。

買いに来るお客さんは、多くが20代、30代である。
彼らにとっては、それらは自分が生まれる前に着られていた骨董品である。
自分が体験していない時代のものは、懐かしのアイテムというより、未知のアイテムと言った方がいい。
雰囲気が昔っぽくてお洒落・・という感覚である。
若い人にとっては、80年代のものも戦後すぐのものも、それほど変わらないのだろう。

腕時計なども、70年代くらいのものが、すでにアンティークとして扱われている。
70年代というと、あの内部が空洞になっている安価な家具であるカラーボックスを思い浮かべる。
僕にはすべてが「偽物」の時代だったという印象がある。
だからその頃の時計、例えばケース形状が楕円形で妙に未来志向のデザインの時計などを見ると、懐かしさよりもまずはあの頃のチープな空気が蘇ってしまう。
時代そのものに、あまりいい印象が無いのだ。

実際に自分が生きて体験してきた時代というのは、懐かしさよりも生々しい記憶の方が強く、そう気楽に受け入れられるものではない。
最近になってやっと、この年代のものも案外面白いな・・という気持ちを持てるようになった。
今度その楕円形の時計をひとつ買ってみようかな・・と考えている。
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