連続


昨日も今日も泊まり・・・
とても眠いです(笑)

S5 Pro + AF-S VR Nikkor ED 200mm F2G(IF)
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仮釈放


「仮釈放」という作品を読んだ。
例によって最近はまっている一連の吉村昭作品であるが、この作品の暗さは比類が無いほどで、夢中になり一気に読破してしまったが、あまりの重さに後味の悪さが強烈であった(笑)

吉村氏の作品は御存知の通り、徹底した調査に基づいて真実しか書かないという理念のもとに書かれた歴史小説と、氏の日常の体験をベースに書かれた軽いエッセイ、それにこの作品のように純然たるフィクションの小説などがある。
しかしフィクションといっても、他の作品のために徹底調査をした過程で発想を得たと思われ、そのためか一種独特のリアリティを感じさせる作品になっている。

主人公は浮気した妻を刺殺し、浮気相手の男に怪我を負わせ、その家に火を付けるが、その際男の母親を焼死させてしまった・・という過去を持つ男。
罪の無い母親までを死に至らしめたことが情状酌量の余地なしとされ、無期刑に処せられるが、模範囚として16年目に仮釈放が許され出所する。
その16年間のブランクの間に世間が大きく変わってしまい、変化に戸惑い対応に苦労する主人公と、彼を更生させ自立させようと努力する保護監察官、保護司の姿が描かれている。

もと教師の主人公は、基本的に善良で真面目な人間であり、少なくとも殺人を犯すまでは、ひとりの教育者として立派に生きてきた。
出所後も、自分のために尽くしてくれる保護司に対し、感謝の涙を流す場面も多い。
しかし子供の時から潔癖症気味で、信じていた最愛の妻の浮気がどうしても許せず刺殺に至るわけだが、犯行後16年経っても妻を許せないでいる自分自身に驚く。

ところが彼を更生させようと見守る人たちは、彼が過去の罪を悔いて、まともな人間に戻りつつあると錯覚している。
このギャップが悲劇の根底にある。
何とか新しい生活に適応しようと努力する主人公だが、その生活がゆっくりと狂い、最悪の方向へと向かっていく。

これが殺人犯の一般像だとしたら、とても恐ろしいことだ。
主人公は夜中にそっと故郷の地を踏み、自分の殺してしまった人の墓参りに行くのだが、そこで自分に後悔の念が無く、被害者に対し「死んで当然」と思っていることに気付く。
犯行当時の自身の心理を反芻し、裁判で心神喪失と言われても、実際には違っていたことを認識するのだ。

実行する時は目の前に朱色の幕がかかり、あたかも別の人格が行動を起こしたかのように体が動き、自分はその姿を冷静に見ている。
当人にはどうしようもない物理現象のようにさえ見える。
社会に適応している一般人が、自分たちの常識で主人公の心を量り、その罪を裁いたことが、まったく的外れなものであったのだ。

むしろ人より善良な面を持つ主人公が、まったくコントロールのきかない状態に陥る場面を読むと、空恐ろしささえ感じる。
彼の行動は、小説の中では触れられていなくても、彼の更生に尽力した多くの人々の誠意を、粉々に砕き徹底的に破壊した。
まさに救いの無い悲劇である。

余談だが、一般に世間が好況の時は、重厚で暗い色の家具が流行るという。
逆に不景気の時は、明るい色のインテリアが好まれると聞く。
株が暴落し先行きの暗い現在、この小説を読むのは少々辛いものがあった。

D2Hs + Nikkor-HC Auto 50mm F2.0
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