シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

NOノー

2014-09-02 | シネマ な行

1988年チリ。軍事独裁を続けるアウグストピノチェト政権の信任継続延長を問う国民投票が行われることになった。ピノチェト政権は政治犯の拷問・投獄などを行っていたが経済的成長を成し遂げたため、国民に間では信任派がたくさんいた。庶民の間では長らくの独裁のため政治に期待しても無駄というあきらめムードもあり、当初は信任派が勝つであろうとされていた。

広告マンのレネサアベドラガエルガルシアベルナルは信任継続反対派の中心人物である友人ウルティアルイスニエッコから依頼を受け、信任派、反対派が選挙期間中にそれぞれ1日15分間流すテレビCMを作成することになる。

まず軍事独裁政権に対する信任投票でYESに投票する人のほうが多いと考えられていたという状況に驚いた。ブルジョア層は別としても庶民層までもが経済的発展を理由に数々の政治犯を逮捕・拷問・監禁している政権にYESというのだということに愕然とした。

当然NO派は、政権が行っている拷問での死者の数、行方不明者の数などを並べ立てたCMを作る。

広告マンのレネは言う。「こんなの楽しくない」

「は?」

である。

人々を苦しめる軍事独裁政権にNOと言うのに、「楽しくない」とは何事だ?と上層部と揉めるレネ。レネには広告マンとして確固たる自信があった。いくら正しいメッセージでも暗くて辛いだけのCMに人々は心惹かれないのだと。人々が目をやるのは楽しくて喜びにあふれて未来を感じさせるCMだと。

軍事政権側から嫌がらせを受けながらも着々とCMを作成するNO派。徐々に人々の間にNO派が増えていく。。。

という展開でレネのCMが人々の心を掴み、NO派が増えていっているっていうのはもちろん歴史が証明していることだから分かるんだけど、実はこの作品の作りではいまいち分かりにくい。巷に溢れるNOバッジとYESバッジではNOバッジしか売れないからYESバッジは置いていないとかいうニュースが流れたりはするんだけど、これもNO側が流している番組の一部だからこれが宣伝なのか事実なのか分からない。

この作品の場合、軍事独裁政権にNOと言う事によって人々が解放されたということを知っているからレネの作ったCMは素晴らしいという評価を下しがちだけど、これはどちらの側に使われてもおかしくはないわけで、CMで世論を変えることができるという証明としては、ある意味ではとても怖いことだなぁと思った。小泉政権が繰り広げたワンイシュー選挙を通じるものを感じた。世論なんて簡単にころっと騙されるものだなぁと。騙されるというと人聞きが悪いですが。

レネとYES派の上司ルチョグスマンアルフレドカストロの関係が興味深かった。グスマンはYES派でNO派に加担するレネに対して脅してみたり昇進の条件を出して懐柔してみたり、汚い手も辞さない雰囲気でレネを説得にかかるんだけど、レネの妻ベロニカアントニアセヘルスがデモで逮捕されたときなどは、当局に口を聞いて釈放させてくれて「上司の仕事だから」と言ったりして、政治的信条が違うというだけで友人には変わりないという態度でいた。

1988年の雰囲気を出すためか、ビンテージカメラで撮影されたらしく逆光がまぶしく映像も荒くて見にくい。確かに昔の時代の雰囲気は出てるんだけど、ワタクシはいまの普通の映像で撮ってくれたほうが見やすかったなぁという気がした。

レネに関して、レネのお父さんもどうやら政治犯的な人だったらしく、レネには海外で暮らした経験がある、とか、奥さんは別に男の人と暮らしている、とか、はっきり語られないけどほのめかされるだけということが多くてちょっと謎な部分も多かったです。

ガエルガルシアベルナルは顔が可愛らしくて背も小さいから、大人の役者になりきれるのかなーと余計な心配をしていましたが、こういう役をやってもまったく違和感がなくなってきました。これからも楽しみな役者さんです。

小さな劇場ではありますが、立ち見が出ていました。注目されている作品のようですね。

オマケ話と全然関係ないんですが、ガエルくんの後ろ髪が1、2本ちょろっと長いのが気になって仕方ありませんでした。本物のサアベドラさんがそういう髪型だったのかな。



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