シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

愛を読むひと

2009-06-16 | シネマ あ行

これは以前にも記事にしましたが、ケイトウィンスレットがアカデミー賞主演女優賞を獲った作品。この作品の演技で他にも賞を受賞しています。彼女の演技はいつもどの作品でも素晴らしいので、いままでもたくさんノミネートはされてきましたが、ここまで賞を獲得したのは初めてですね。この映画のケイトに関しては、同じく高く評価された「レボリューショナリロード」の演技とは正反対と言っていいほど、感情を高ぶらせるシーンが非常に少なく、ただ朴とつにハンナという女性を演じきっていた。こういう演技のほうが実は難しいのだろう。

15歳の少年マイケルデヴィッドクロスは、家に帰る途中気分が悪くなり、ハンナ(ケイト)という女性に助けてもらう。数ヶ月の静養後、マイケルはお礼を言いにもう一度ハンナを訪ねる。ここから、二人の恋愛が始まる。マイケルにとっては初めての恋愛。ハンナは20歳以上も年上の女性だ。もちろん、そんな女性を相手にするのだから、“恋愛”と言うよりも“性愛”といった感じがした。15歳の少年がこんな性愛に溺れないわけはない。学校で同年代の友人たちと遊んでも、必ず帰りにハンナのところによるマイケル。そして、二人は毎日のように愛し合う。いつしか、彼らの逢瀬はセックスだけではなく、マイケルがハンナに学校で習っている小説を読んであげるという時間にもなっていく。ハンナは小説を読んでもらうのが好きで、とても感受性の強い彼女は小説の中に入り込み、熱心に聞き入り、時には号泣したりもする。そして、二人はその後にセックスをするという日々を続け、15歳のマイケルは生意気にもハンナとの小旅行まで企画し、二人で出かけたりする。そんな幸せなひと夏の経験であったが、ある日ハンナは忽然とマイケルの前から姿を消した。

10年後、大学の法科に進んだマイケルは思いがけないところでハンナと再会することになる。

二人が愛し合う前半と再会してからの後半で、随分と話の展開が変わっていくが、きちんと前半部分の伏線が後半で生かされている。マイケルにしても、あの前半のハンナとの日々のせいで人生をがらりと変えられてしまったのだ。彼にとってはまさに運命の人だったと言えるのだろう。

そんな運命の人の人生を救いたいという気持ちと、彼女のプライドを守りたいという気持ちでまたしても心をかき乱されるマイケル。マイケルさえ彼女の“秘密”を暴露すれば、彼女が問われているナチス時代の罪から救ってやれるのに。ここでのマイケルの心情とか、葛藤などはあまり深く語られず意外にさらっと進んでしまうので、なんで?と思っていると、こっからがまた物語のクライマックスがあるのだった。

自分自身の秘密を守り通したがために、長期に服役することになったハンナ。彼女に大人になったマイケルレイフファインズからの朗読テープが届くようになる。この一連のシーンで、ワタクシはもう号泣してしまった。マイケルはテープをひたすら送り続ける。そして、それがかたくなだったハンナの気持ちを揺り動かし、彼女の人生にとってはすごく大きかったであろう行動にでる。壁を挟んだこの二人の切ないやりとりに涙が止まらなかった。マイケルはあの恋によって、他人と上手に関係を結べない大人になってしまった。そのことへの苦い思いというものを持ちながらもハンナへの愛は失くせない。そして、不当に長期に服役することになったとは言え、実際に彼女の犯した罪のこともある。そんな相反する気持ちから、ハンナへは一度も手紙を書いてやれなかったのだろうか。

ハンナはとても感受性が強くシンプルで、ただまっすぐに生きてきた女性のように思えた。そして、自分自身に対するプライドも高い。それが、彼女の最後の決断を引き出したように思えたが、あの面会の日、もう少しマイケルがハンナに優しくできていたら、彼女はあんな選択はしなかっただろうか。それでも、マイケルにもっとうまく態度に出してやれよ、ひどいよ、と思うことはワタクシにはできなかった。マイケルの切ない気持ちが分かったからだ。少年時代の良いほうにも悪いほうにも強烈な経験をさせられたハンナに、そして、いまはすっかり年老いてしまったハンナに戸惑いを見せるなというほうが酷というものではなかっただろうか。そこにはナチスの罪という重みもハンナと同じようにマイケルの肩にもかかってしまっている。簡単に愛だけでは割り切れない気持ちのマイケルを誰が責めることができようか。

そんなマイケルも、最後に疎遠気味だった自分の娘にハンナとの出来事を話すことで、自分の中の何かを昇華することができたのではないかと思えた。甘い思い出だけでは終わることができなかった自分の人生を左右するほどの出会い。その苦さもともに、マイケルがハンナの分も生きていくことだろう。

物語の中で一応“秘密”とされていることがあるので、(見ているとすぐに分かりますが)肝心なところに触れずに書いているので、ちょっと分かりづらいレビューになっているかもしれません。内容的にはかなりワタクシ好みの作品でした。めっちゃ泣きました。二人の恋愛話とナチスの話をうまく絡めて非常によくできた物語だと思います。

オマケ1裁判のシーンでレナオリンがわざわざ老けメイクをして登場したので、レナオリンほどの人がなんで?と思っているとちゃんと最後にその老けメイクの人の娘という役で登場しました。そりゃそうよね。若い頃のような獲って食われそうなエロさはなくなったものの、相変わらずセクシーな方でした。

オマケ2ワタクシが大好きな大好きなアンソニーミンゲラシドニーポラック両氏に捧ぐと最後にテロップが出ます。両氏ともこの映画に関わり、その後亡くなってしまいました。どちらも亡くなるにはまだまだ若すぎました。とてもとても貴重な存在だった二人を映画界は失くしてしまいましたね。



最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お久しぶりです。 (NONM)
2009-06-29 09:56:51
お久しぶりです。
この映画を観て誰かと感想をわかちあいたくて
・・やはりすごい作品でした。CMで、少しあらすじみたいなものをしていて、ケイトは病気になって、レイフが朗読をしてあげるのかと勝手な想像をしていましたが、全然違っていて衝撃を受けました。ハンナが裁判官に「あなたならどうしましたか?」というシーンは、考えさせられました。ナチスの時代、ユダヤ人もドイツ人も苦しんでいたのだなぁと改めて戦争は不必要なものだと思いました。収容所では何も得るものはなかったというレナ。まさにそうです。レイフの青年時代の男の子が映画のあの短い時間で青年から男性に変化していく演技が素晴らしかったです。
NONMさんへ (coky)
2009-06-30 14:44:16
NONMさん!お久しぶりです
もう読んでくださっていないかなと思っていたので、NONMさんからまたコメントいただけてすごく嬉しいです

戦争を知らない大学生たちが議論するところで戦後のドイツの苦悩がよく表れていましたね。ハンナの罪はもちろん罪だけれど、彼女は実直に自分の「仕事」をこなしただけだったのでしょう。それが、NONMさんのおっしゃるシーンで表現されていましたね。

マイケルデヴィッドクロスは撮影当時17歳だったそうですが、中学生から大学生を演じてまったく違和感がありませんでしたね。

コメントを投稿