シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ルーム

2016-04-19 | シネマ ら行

17歳で誘拐されそれから7年間小さな納屋に閉じ込められている女性ジョイブリーラーソン。彼女には犯人(オールドニック)ショーンブリジャースとの間に出来た5歳の息子ジャックジェイコブトレンブレイがいる。ジャックは生まれてから一度もこの納屋(ルーム)を出たことがなく、ルームの外は宇宙空間が広がっているとママに教えられている。必要なものは日曜日にオールドニックが持ってきてくれる。必要なものを頼むことはできるが、面倒なものは頼めない。親子2人は必要最低限なものだけで暮らしていたが、ジャックにとってはここが世界のすべてでここにいればママとはいつも一緒にいられた。

ジョイはジャックを怖がらせまいと、自分たちが監禁されているとは教えていない。部屋のドアはオールドニックしか知らない暗証番号でロックされているが、そこがジャックは世界の端っこだと思っていて、オールドニックが持ってくる食糧などはオールドニックが魔法で出していると教えられている。テレビの世界はニセモノの世界。テレビにいる人間もニセモノ。このルームにあるものだけがジャックにとってはリアルなのだった。

5歳になったジャックにママは言う。今までママが言ってきたことは嘘だったと。このルームの外にも世界はあって、テレビの中の人間はリアルなの、と。そんなの嘘だ。ジャックは簡単には信じられない。ママはオールドニックに7年間このルームに閉じ込められているの。ジャックはそんな話聞きたくないといったんは拒否したものの、しばらくすると「この人たちはリアルなの?」とテレビを見てママに聞くようになる。

ジャックにルームの外に世界があることを認識させたママは大きな大きな賭けに出る。ジャックに仮病と偽らせオールドニックに病院に連れて行かせ助けを呼ぼうとしたが失敗。オールドニックは病院に連れて行ってくれなかった。そこで、放っておいたためにジャックが死んだことにして、オールドニックに遺体を外に出させる作戦に出る。カーペットでくるんだジャックの遺体。オールドニックには普段からジャックに指一本触れさせないようにしていたことが功を奏した。死んだジャックにも指一本触れないで、カーペットのまま捨ててきて。

正確な時間は分かりませんが、ここまでの監禁生活を描くのに上映時間の約半分を費やした印象でした。始めは、いつまで監禁されているんだろう。ここから出た後が作品の肝じゃないの?と思いながら見ていたんですが、この監禁生活を丁寧に描くことで後半の解放された後がすごく生きてくるのだと思いました。

オールドニックのトラックからジャンプして助けを求めるジャック。オールドニックにバレてママに渡された手紙は奪われてしまうが、通行人が助けてくれたおかげでオールドニックはジャックを置いて逃げて行った。警官にここから近い天窓のある納屋にママが閉じ込められていることを話すジャック。緊急手配でママも助けられた。

ここから一気に「世界」に触れることになるジャック。物語はジャックの目線で語られるが、ワタクシはママ、ジョイの辛さに感情移入してしまって涙が止まらなかった。解放されて幸せなはずのジョイ。自分でも幸せを感じているはずなのに、なぜかそう簡単に喜べない。自分がいない間に離婚してしまった父ウィリアムH.メイシーと母ジョーンアレン。母には新しい相手のレオトムマッカムスがいる。犯人の子どもであるということからジャックの存在を認められず、ジャックを見ようともしない父。近所やマスコミの好奇の目。お金のためにテレビ出演を薦めてくる弁護士。失った7年間を取り戻すすべが彼女にはない。

ギリギリの精神状態のジョイがテレビ出演を承諾した時、ジャックの父親のことを聞かれ、なぜ生まれたときにジャックを病院の前などに捨ててきてもらうよう犯人に頼まなかったのか、そのほうがジャックにとっては幸せだったのでは?などと言われ、ジョイの精神はついに壊れ、自殺未遂を起こしてしまう。

ジョイにとってジャックという存在が監禁生活の中で唯一の光だった。それがたとえ憎むべき犯人の息子だったとしても、ジャックなしの生活は考えられなかった。ジャックにとってもママが唯一愛すべき存在。そんなジャックを自分が育てるべきではなかったと言うのか。自分のエゴのために、自分が監禁生活を楽にするためにジャックを手放すことができなかったと?インタビュアーの質問はジョイのすべてを否定することに等しかったと言えるだろう。自殺することがどんなに自分勝手なことかなど通り越してジョイは壊れてしまった。

ジャックを置いて自殺しようとしたママにジャックは怒り傷ついた。それでもジャックは5年間伸ばし続けサムソンのようにパワーが宿ると信じていた髪の毛を切って入院しているママに届ける。そのパワーがママを助けると信じて。

病院から戻ったジョイが見たのは、少しの間にも成長したジャックだった。普通のおもちゃで遊び、近所の子とボール遊びをする。やはりジョイにとっての希望の光はジャックだった。ママは良いママじゃないかもしれないけど、でもジャックのママなんだ。

ある日ジャックはママにあのルームに行ってみたいと言う。ジャックにとっては恐怖の場所ではなく、懐かしい場所であるルーム。2人で訪ねていって(ママはドアから向こうには入れなかったけど)ルームにさよならを告げる。それが一つの区切りとなって未来へと歩き出す。

これからもまだまだママには辛いことがあると思う。前みたいに“ぬけがら”になってしまう日も来るだろう。ジャックが思春期になれば自分の出生を知って苦しむ日も来るだろう。それでも強く生きていってほしいと願わずにいられないラストだった。

アカデミー賞主演女優賞を始め数々の賞を取ったブリーラーソンの演技は本当に素晴らしかった。ルームの中で5歳になったジャックに今までの嘘とリアルな世界について説明するシーン、それを理解できないジャックへの絶望、母親としての苛立ちと絶対的な愛、両親に甘えたりなかった少女の表情などすべてが素晴らしく賞を総なめにするのも納得です。ジャックが物語のメインでありながら、ワタクシは彼女の演技に泣かされたと言っても過言ではありません。彼女は数年前に「ユナイテッドステイツオブタラ」というテレビシリーズで見ていて、その時はぶーたれたティーンネイジャーの役だったので、演技はうまいと思ったけど、ブサイクな子だなと思っていました。なので、今回美しく成長していてびっくりしました。この作品ではほとんどすっぴんだし、疲れた表情が多いけど、賞レースで登場した彼女は可愛らしかったです。これからの彼女の活躍が楽しみです。

途中にも書いた通り時間配分が絶妙だと感じました。レニーアブラハムソン監督の作品を見るのは初めてでしたが、非常に難しいテーマの作品を丁寧に作り上げたと思います。ジャックという5歳の少年の視点で描きながらも、その周囲にいる大人たちの心の機微を余すことなく拾い上げてきちんと描いていました。原作も読んでみようかな。