SEIKYO online (聖教新聞社):〈スタートライン〉「聞く力」を磨こうよ
今回の「スタートライン」は、作家としての活躍はもちろん、テレビ番組の司会や週刊誌の連載対談などでも人気の阿川佐和子さん。先日、出版された『聞く力――心をひらく35のヒント』(文春新書)をめぐって、阿川流“聞く力の極意”を探ってみた。
1 面白そう、と思ってただ一生懸命に聞くこと
阿川さんと言えば、週刊誌の人気対談企画を20年近くにわたり900回以上も行ってきた、まさに“インタビューのプロ”。そんな人にインタビューするという緊張感の中、まずは、どんな気持ちで仕事に臨んでいるのかを聞いてみた。
一喜一憂かな? 今も毎回が緊張の連続なんです。インタビューは当然、相手がいて成り立つ、言わば“生もの”。毎回、同じ方法でうまくいくわけがありません。
最近も『聞く力』なんて大それたタイトルの新書を出した矢先に、失敗だなと思ったこともあるし(笑い)。うまくなったと図に乗ったとたんに、失敗すると思っています。
自身の豊富な経験をもとに、今回、出版された『聞く力』――。伝えたかったことは?
昨年春、ちょうど本の企画が持ち上がったころ、あるテレビ番組で、子どもたちにインタビューの方法を伝えるという経験をしたんです。
子どもが一人で、実際に街中で働いている看護師さんやお巡りさん、電器屋さんとかに話を聞きに行くという企画。戸惑っている子どもにヒントを与えようと、最初に私がダメなインタビュアーを実演してみせました。
ちらちら時計ばかり見ている人、相手より自分の方がしゃべってしまう人、次に何を質問しようかと考えるあまり、相手が答えてくれている内容を聞いていない人など――。これじゃあ、うまくいかない。
だからまず大切なのは、“面白そうだなと思って、ただ一生懸命に聞く”こと。相手の目を見て上手に相づちを打つことが結構大事。分かりにくい時には「例えば?」「具体的には?」って投げかけてみることですね。
その番組で、私のあらゆる経験を踏まえて子どもたちに教えたことが、この本のベースにもなっていると思います。
2 月に1回でも、聞くことに徹する日をつくってみる
最近は、隣の席にいる人にさえ、メールでコミュニケーションする人も珍しくないという。お互いの声に耳を傾け、触れ合うことを避けているようにも見える状況を、阿川さんはどう見ているのか。
私もかつてボーイフレンドと折り合いが悪くなった時、話すと喧嘩になるのでノートに言葉を書いて会話しました(笑い)。時には文章の方が思いが通じることもありますので、一概にメールがダメとは思いません。
ただ、メールは一方的に速やかに返事を求めてくるもの。生身の人間の会話では、その時のお互いに対する心証を気づかいながら、これは話そうか、話すまいかと考える。時には感情を反すうしたり、熟成させる時間がコミュニケーションには大切。だから、メールに偏るのはよくないなって思うんです。
阿川さんの本の中で、東日本大震災後の今、実は被災者が求めているのは、「ただ声に耳を傾け話を聞いてあげること」と記されていたのを思い起こした。
人に話を聞いたり、答えたりすることは、本来、人間が呼吸をするのと同じように、無意識のうちに繰り返されていることだと思います。だから、無意識で聞いていることもあれば、聞いていそうで、全然、聞いていないこともある。
先ほどの小学校での授業の際に、最後に子どもたちに言ったのも、「月に1回でもいいから、“今日は聞くことに徹してみよう”という日をつくってみてほしい」ということでした。人って話をじっくり聞いてみると、意外な面白さを発見できますからね。
3 誰かがあなたの才能を見つけてくれることもある
阿川さんがテレビ局に勤めていた20代・30代のころ、自分のやりたい専門分野が見えずに悩んでいた時のこと。上司から「専門家をむすびつけることも、十分に意義のある仕事だ」って言われて、気持ちが楽になったという。
もちろん、専門性を徹底的に追究するのは素晴らしいことですが、自分が夢に描いていた場所に行ったとしても、嫌な人にも、嫌な仕事にもいっぱい出あうことがある。逆に嫌だと思っていた職場に入ったのに、誰かがあなたの才能を見つけてくれることだってよくあります。
私も、インタビューや作家の仕事をやりたいなんて思ってもいなかった。でも勧められてやってみたら、案の定、つらくて泣きながらやっていた時もある。それでも周りが評価してくれたり、面白がってくれたりするうちに、その楽しさに気づかせてもらった部分があります。
周りが見つけてくれる才能に敏感に反応するということも、阿川流の「聞く力」の一つなのか。
それともう一つ、やはり大切なことは“継続”するということ。インタビューをやり始めたころは特に怒られてばかりで、「こいつは才能がある。10年、20年続けさせよう」なんて思った人は絶対にいなかったはず。でも、「あっ、1年続いた。2年も続いた」ってやっているうちに、今に至ったということ。続けるということだけで、認められてよい一つの才能なんですよね。
本当の聞き上手の人は、書いても、話をしても一流なんだな、と教えてくれた阿川さんだった。
■プロフィル
あがわ・さわこ 1953年、作家・阿川弘之氏の長女として生まれる。大学卒業後は織物職人を目指し、アルバイト生活を経験。81年、テレビ番組「朝のホットライン」のリポーターを務めて以来、「筑紫哲也NEWS23」「ビートたけしのTVタックル」などで活躍。昨年、スタートした「サワコの朝」も好評。作家としては、2000年、『ウメ子』(小学館)で第15回坪田譲治文学賞を受賞するなど作品多数。
妻の愚痴話を聞いてはあげたいけど、ついつい…ねー。 