キエフ・バレエ『くるみ割り人形』(12月23日)-2


  ドロッセルマイヤーも冒頭で踊ります。ドロッセルマイヤー役はロマン・ザヴゴロドニーで、眉が薄く、眼がぎょろりとしていて、ちょっと怖い顔立ちです。黒いマントを翻しながら(マントさばきが上手い!)ジャンプして踊るので、コイツ、『白鳥の湖』あたりでロットバルトになって出てくんじゃねえか、と思いました。

  プログラムを見たら、ザヴゴロドニー、ロットバルトはやらないすね。でも、『眠れる森の美女』でカラボスをやるらしい。やっぱり~(笑)。はまり役だろうなあ。

  クララの弟だっけか?フリッツ(マリヤ・ドブリャコワ)をはじめとする男の子たちの役は、もちろんみな女性ダンサーが踊ります。これもバンバン踊る。男の子という役だけに、大きなジャンプで舞台を横断するとか、活発な振りが多かったです。大ぶりに踊ってみせていたけど、ジャンプで開いた脚の形が女性ダンサーのそれで、みーんな両脚が180度以上に反り返って開いてました。

  くるみ割り人形はしょっぱなから等身大、つまりダンサーが演じ踊ります。くるみ割り人形も女性ダンサーが担当します。今回はマリヤ・トカレンコが踊りました。

  ピエロの人形であるコロンビーナ(アンナ・ムロムツェワ)とアルレキン(セルギイ・クリャーチン)、サラセン人の人形たち(アンナ・ボガティル、マクシム・コフトゥン)のメイク・衣裳と踊りを見たら、『ペトルーシュカ』を思い出しました。登場人物(?)がそっくりじゃん。なにか関係があるのでしょうか?

  クララとフリッツの両親、シュタールバウム夫妻(ヴラディスラフ・イワシチェンコ、オクサーナ・グリャーエワ)と客人たちの髪型と服装は18世紀っぽいデザインです。この後も、くるみ割り人形が率いる兵隊たち、雪の精、花の精なども、男女ともにみな白いロココヅラをかぶってました。

  これらの群舞のダンサーたちはみな長身のように見受けられました。実際に長身でなくとも、長身に見える体型のダンサーばかりなのだろうと思います。みな大きくて見ばえがします。雪の精たちの踊り(第一幕)、花のワルツ(第二幕)でも、体型の整ったダンサーたちばかりで、踊りもよく揃っていた(←外国のバレエ団にしては珍しいと思えるほど)ので、ああ、この人たち、「バレエを踊りたい人たち」ではなく、「バレエを踊れる人たち」だなあ、と思いました。

  ねずみの王様役のセルギイ・リトヴィネンコは、今回はねずみの仮面をかぶっていたので、そのお顔を拝見できませんでした。でも仕草だけで笑えました。『バヤデルカ』では大僧正役をやるようです。なかなか演技派の模様。

  第二幕のスペイン、東洋、中国、ロシア、フランスの踊りでは、東洋の踊りがダントツで良かったです。東洋の踊りは、「アラビアの踊り」とか「コーヒーの踊り」とかともいうんじゃなかったっけ?よく分かりません。なんかあやしげな感じのゆっくりした音楽のやつ。

  この東洋の踊りは男女二人で踊られます。男性のほうは『シェヘラザード』の金の奴隷そっくりな衣装、女性のほうは『バヤデルカ』第二幕のニキヤみたいな衣装(ただし色は青)を着ています。振付は回転やジャンプなどの大技はなく、中国雑技団の軟体芸と尺取り虫の動きをまぜたような(表現力がなくてごめんね)、ゆっくりした動きのみで構成されていました。

  男性ダンサーの名前は、なぜかキャスト表にもプログラムにも書いてないので不明です。でもイイ体してました。

  印象的だったのは、女性ダンサーのほうです。アナスタシヤ・シェフチェンコという人です。これがまたほっそい華奢な人でね、手足、とくに脚が超長いの。今回はハーレム・パンツを穿いていたから、なおさら長く見えました。アラベスクやアティチュードで脚を伸ばすだけで、もう大迫力よ。こんなふうに容姿だけで観客に大きなインパクトを与えられるってのも才能の一つだと思います。

  身体能力にも恵まれていて、とにかく身体が柔らかかったです。後ろにえびぞると、頭が足の裏にほとんどくっついてたほどでした。脚も高く上がります。細い胴体と長い手足でかたちづくるポーズそのものがすっごく印象的。

  シェフチェンコには独特の雰囲気もありました。お顔つきは、ウリヤーナ・ロパートキナと、あとは厚木三杏さんにも似てるかなー。雰囲気も似てます。冷たい硬質な感じです。ただ性格はシェフチェンコのほうが悪そう。語弊があるかもしれんが、性格が悪そうなのがまた魅力的なんですよ(笑)。野心的なのはいいことだ。

  シェフチェンコは、容姿はニキヤにぴったりです。『バヤデルカ』では影のヴァリエーション、『白鳥の湖』では大きな白鳥、『眠れる森の美女』では妖精を踊るようです。細かい動きはどうなのか、後のお楽しみってことで。

  王子役のヤン・ヴァーニャは、長身(190近くはありそう)、整った体型、長い脚、そんなに美男子ではないけど優しげな顔つきと穏やかな表情、落ち着いた上品な雰囲気とたたずまいなど、まず見た目の王子要素はコンプリート。

  踊り。身体がさほど柔らかくないみたい。脚があまり高く上がらないし、開かない。ただ、技術は盤石の安定感。ゴリッツァと同じで、この人も目立ったミスはなし。回転ジャンプして片足着地でアラベスク、何度やってもまったくグラつかず。連続回転、軸が全然ブレない。回転から静止、やはり微動だにせずビシッとポーズを決める。回転ジャンプでの舞台一周、脚はそんなに開いていないけど、高さがあって力強くてダイナミック。

  一方、パートナリングはかなり不安定だった。第一幕のクララとのパ・ド・ドゥでは、オリガ・ゴリッツァの身体がかなりグラグラしていた。「しゃちほこ落とし」はなんとか無事に決めた。でも、第二幕最後のグラン・パ・ド・ドゥでは、二人の動きがかなりスムーズになった。ヴァーニャ、第一幕は緊張してたのかもしれないです。まあ、倒れてたのが起き上がって、いきなりクララとの踊りだから。

  上に書いたように、群舞は男女ともよく揃っていました。男子はみな長身イケメン君ばかりです。女子の群舞はより大事なんで注意して見ました。ステップが見た目に少し重くてもたついてるような気がしましたが、みなの動きは整然としていました。いや、『バヤデルカ』の「影の王国」の登場シーンは大丈夫かなって心配でさ。あれは有名バレエ団でも失敗するときがあるから。

  数年前、レニングラード国立バレエ(ミハイロフスキー劇場バレエ)が、日本公演で『バヤデルカ』を上演したときのこと。「影」の群舞が惨憺たる出来だった(グラつく、動きが揃わない)。そのときの芸術監督はファルフ・ルジマトフ。翌日の演目も『バヤデルカ』でした。どうなるんだろうと思ってたら、翌日には見違えるようにすばらしくなっていました。たった一晩でどうやったらあんなに改善させることができるのか、今もって謎です。

  『くるみ割り人形』、『バヤデルカ』、『眠れる森の美女』、『ドン・キホーテ』、『白鳥の湖』って、プティパの5作品全幕を3週間で一挙上演って、よく考えたら(よく考えなくても)すごい話だ。キエフ・バレエは侮れないのである。

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