ケスケラの読書と旅の日記

主に哲学・思想関係の本について要約紹介します。書き方のスタイルごとにカテゴリーを変えています。

『存在と時間(一)』(その12) ハイデッガー著 熊野純彦訳

2016年10月17日 | 哲学研究
世界内部的に出会われるものが、それにもとづいて開けわたされる結果になるものを先だって開示するとは、現存在が、存在者としてすでにつねにかかわっている世界を理解していることにほかならない。(411頁本文)

分かるようで、よう分からん文章である。「それにもとづいて開けわたされる結果になるものを先だって開示する」とはいったい何だ。そしてそれが現存在が世界を理解していることと等しいというのである。
現存在が世界を理解していることは実存カテゴリーである。この引用文でハイデッガーはいったい何をやろうとしているのか?
実存カテゴリーに何かを接合させようとしているのだ。
その何かが、「先だって開示する」ことである。だから「開示する」が決定的に重要である。
この引用文をよく読むと、主語は「開示する」ことである。
原文でみると「先だって開示する」ことはDas vorängige Erschließenと再び中性名詞扱いとなっており、これが主語である。思えば現存在もdas Daseinと中性名詞なので、どうもハイデッガーは実存カテゴリーに中性名詞化の造語を充てているような気がしてならない。ちなみに「開けわたされる」はdie Freigabeで女性名詞となっており、「開示」と似ているが意味はまったく異なる。(原・渡辺訳では「解放」となっている)
「開けわたす」は適所性と関連しており、ハンマーを振るうことや、釘を打つことなど、道具がそのうちでじぶん自身の側からみずからをあらわにすることである。
これに対し「開示」の初出は次のとおりである。

そのように閃いてくるものは、それ自身は、(略)手もとにあるものではない。(略)
閃くものは、いっさいの確認や観察に先だって「現にそこに」存在している。そのものは、(略)目くばりにとってすら接近できないものであるけれども、目くばりに対してそのつどすでに開示されているのである。(362頁本文)

「閃いてくるもの」とは周囲世界である。それは「手もとにあるもの」つまり道具ではない。それが「現にそこに」存在しているとは、現存在(世界内存在)の構造分肢として周囲世界が存在しているということだ。そして、その世界は「目くばり」によって接近できないとは、目くばりは道具存在に接近するのであって、世界が開示されていることはむしろその前提だということである。
つまり「開けわたす」は個々の道具存在との交渉なのだが、「開示」はその前提となる世界の開示である。
そして世界は世界内存在として実存カテゴリーであるから、「開示」も実存カテゴリーである。
以上をふまえて、最初の引用文を解釈するとこうなる。
「それにもとづいて開けわたされる結果になるものを先だって開示する」
この文章を分析すると、「それにもとづいて開けわたされる」とは、適所性にもとづく個々の道具存在との交渉である。それが「結果になるもの」とは周囲世界である。それを「先立って開示する」のは、周囲世界を開示することである。そしてその開示が現存在の世界理解に等しいと言っているのである。
ハイデッガーの意図としては、道具存在との交渉が世界内存在にどのように反映されるか分析しようとしたのだろう。
だが厳しく評価すれば、この文章は世界内存在の独語である。
外見はいかにも世界内部的に出会われるものとの存在交渉から出発しているように見えるが、主語は「開示する」ことである。実存カテゴリーである世界を開示することが、同じく実存カテゴリーである現存在(世界内存在)の世界理解に等しいと言っているだけである。どこにもカテゴリーとしての存在との交渉はない。実存カテゴリーに接合させようとした何かは、同じ実存カテゴリーにすぎないのである。
ここに私はハイデッガーの苦悩をみる。やはり道具存在から世界を構成することはできないのだ。この問題に注目するのは、「現存在の時間性」と「存在一般の有時性」との接合に成功したかどうかに関心があるためだが、まだこの段階では成功していないようだ。
もっとも『存在と時間』が現存在の実存論的分析論で終わっていることを勘案するとそれは当然とも言える。むしろハイデッガーは己の思考に厳しすぎたから、何度も不可能なことについて自問したのかもしれない。
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