ケスケラの読書と旅の日記

主に哲学・思想関係の本について要約紹介します。書き方のスタイルごとにカテゴリーを変えています。

『存在と時間(一)』(その8) ハイデッガー著 熊野純彦訳

2016年10月13日 | 哲学研究
「世界」が「閃く」ことがありうるなら、世界はそもそも「開示されて」いなければならない。(367頁注解)

しかしそれにしても『存在と時間』は悪文のてんこ盛りである。熊野訳はずいぶん読み易いとはいえ、元々の悪文は直しようがないだろう。
例えば「世界が開示される」とあれば、誰だって世界が目の前に開かれて現れるというイメージを抱くだろうが、そうではないからややこしい。ハイデッガーの言う「開示」はむしろ現れないのである。世界が現れるのは「世界が閃く」である。開示は世界が閃くための前提のようだ。つまりドアの把手とか、眼鏡とか、日常あまり意識せずに交渉している道具存在がめだたずにひそんでいる無明の世界である。それが開示された世界の意味のようだ。ハイデッガーが「開示」というときは、常に道具存在に対する配慮的な気づかいと関連して用いられているのだから、認識対象として世界が現れているのではない。そう理解すると、上の引用文が何を言っているか分かる。

これまでの分析によってすでにあきらかとなったように、世界内部的存在者の自体存在は、世界現象にもとづいてのみ、存在論的につかみうるものとなるのである。(366頁本文)

ここで言う「自体存在」とは道具存在(手もと存在)のことである。事物存在(目のまえ存在)は認識対象としての存在であるため、既に主観-客観図式とか古代存在論のカテゴリーなどを前提としており無垢な存在ではない。道具存在こそが何も前提しないという意味で自体存在である。
このことは「自体存在」が認識対象ではなく、日常において気づかずに交渉している存在であることを意味する。(ドアの把手、眼鏡など)
では何を手がかりに「自体存在」がつかまれるのか、認識対象でないとすれば、配慮的な気づかいとともに開示される世界にもとづくしかないということである。
これまで指摘したように世界が実存カテゴリーであり、現象が「存在」の別名であるなら、「世界現象」とは「世界内存在」と同じである。引用文は道具存在は世界内存在においてのみつかみうると言っているのである。
するとどうなるか。
ハイデッガーが目論んでいたことは、「存在」を従来の認識ではないやり方で、現存在の存在様式として捕まえることである。あるいはハイデッガーの言う「認識」とは従来の認識ではなく、現存在の存在様式なのだ。
上の引用文が言っていることは、自体存在は現存在の存在様式としてつかみうるということだから、まさに当初の目論見どおりということになる。
そして現存在の存在了解が漠然としているのは、「自体存在」である道具が目立たないことに対応しているということになる。なぜなら、前段で説明したように「開示された世界」はあくまで道具存在への配慮的気づかいとして、「閃き」のように認識された世界ではないからだ。自体存在においては「世界」は認識されず開示されている。だから世界内存在である現存在の存在了解が漠然としているのだ。
そのように見ると、どうもハイデッガーはこの漠然としている存在了解を否定的に捉えているのではなく、むしろ真正な存在なのだと言っているように思われる。そして漠然としていることの仕組みを解明しているようだ。

つまり、右のように解釈された配慮的な気づかいの様態のうちで世界が閃くこととともに、手もとにあるものの非世界化がおこり、その結果、<たんに目のまえにあるもの>が、<手もとにあるもの>にそくして、おもてにあらわれるということである。(364頁本文)

上に述べたことを補強するために引用したが、ここでハイデッガーは恐ろしいことを言っている。つまり世界を認識することは世界を喪失することであると言っているのだ。
「世界が閃く」とは世界が認識対象として現れるということだが、そのとき「手もとにあるもの」つまり自体存在である道具の「非世界化」がおこるというのである。
さらりと言っているが、非世界化とは、世界内存在が失われるということである。それは世界を認識対象とするとき、我々は世界との親密な交渉を失い、そのとき現存在の存在体制である世界内存在が失われていると言っているのである。
後年の神秘化傾向が既に『存在と時間』においても現れ始めているようだ。
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