★私のクラシック音楽館(MCM)★ クラシック音楽研究者  蔵 志津久            

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◇クラシック音楽CD◇アラベラ・美歩・シュタインバッハー&アンドリス・ネルソンスのショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番/第2番

2016-10-11 10:00:26 | 協奏曲(ヴァイオリン)

ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番/第2番

ヴァイオリン:アラベラ・美歩・シュタインバッハー

指揮:アンドリス・ネルソンス

管弦楽:バイエルン放送交響楽団

CD:キングインターナショナル ORFEO 687061

 ショスターコーヴィチの作品は、全体的に晦渋な趣を持った曲が多く、リスナーにとってはなかなか手ごわい。このヴァイオリン協奏曲第1番/第2番もご多分にもれず、全体的には重苦しい内容で、ビギナークラスのリスナーがいきなり聴くと当惑するかもしれない。しかし、何回も聴くうちに、その真価が次第にリスナーの体の隅々に響き渡り、そのうち気になって仕方がない曲の一つになっていく、そんな曲がショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲なのだ。一般のヴァイオリン協奏曲の多くが、ヴァイオリンの華々しい演奏を強調するのに対して、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲は、あたかも第1番が、「ヴァイオリン独奏付き交響曲」、第2番が「ヴァイオリン独奏付き管弦楽曲」といった趣で、いずれも管弦楽の比重が通常のヴァイオリン協奏曲に比べ格段に高い。その分、聴き終えた感じは、ずしりとした重量感に満たされる。そんなことがリスナーに浸透した結果なのか、特に第1番の演奏される機会が最近急増しているようで、その人気はチャイコフスキーやメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲に迫る勢いだという話も聞く。

 このCDは、アラベラ・美歩・シュタインバッハーのヴァイオリン、アンドリス・ネルソンス指揮バイエルン放送交響楽団の管弦楽のコンビで、ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番/第2番が収められているが、その演奏内容は、技術的にも、精神的にも一際優れたものに仕上がっている。アラベラ・美歩・シュタインバッハーは、ドイツ人の父親と日本人の母親との間に生まれた、ドイツ出身のヴァイオリニスト。9歳でミュンヘン音楽大学で学び、ドロシー・ディレイやイヴリー・ギトリスにも師事。2000年にハノーファーで開催された「ヨーゼフ・ヨアヒム・ヴァイオリン・コンクール」で入賞。華々しい音楽コンクールでの入賞歴はないものの、世界の音楽界での知名度は高く、それだけに実力のあるヴァイオリニストだと言えよう。このCDでもその技術的な高さが聴き取れるし、なにより曲の真髄に迫る力量には感心させられる。指揮のアンドリス・ネルソンス(1978年生まれ)は、ラトビア出身。ラトビア国立歌劇場管弦楽団の首席トランペット奏者を務めたのち指揮者となる。2008年バーミンガム市交響楽団、2014年ボストン交響楽団の音楽監督に就任。2017年からはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の楽長(カペルマイスター)に就任することになっている。このCDでもその卓越した指揮ぶりのを聴くことができる。

 ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番は、4つの楽章からなり、1947年6月~1948年3月に作曲された。しかし、初演が行われたのが1955年と7年も後になっている。スターリンが死去したのが1953年だから、この曲の初演はスターリンが死んだのを見届けた後に行われたのではないか、とも考えられている。つまり、この時、ショスタコーヴィチは旧ソ連政府により、「形式主義者」として批判を浴びて、苦悩の日々を過ごしていた。いわゆる「ジダーノフ批判(旋風)」である。旧ソ連政府の芸術政策は、労働者階級を鼓舞するような芸術以外は認めないとするもので、ショスタコーヴィチのほかプロコフィエフなども批判の対象となった。当時の芸術家にとっては、単なる芸術上の批判にとどまらず、命の保証もないという過酷なものであった。この第1番のヴァイオリン協奏曲の重苦しい雰囲気は、そんな時代的背景が反映されたものと考えると、この曲の真の意図が理解できるようになる。第1楽章「ノクターン」の不気味で不安げな雰囲気で始まり、第2楽章「スケルツオ」、第3楽章「パッサカリア」を経て、最後の第4楽章「ブルレスケ」で終わる。「ブルレスケ」とは、「ユーモアと辛辣さを兼ね備えた、剽軽でおどけた性格の楽曲」のことであり、ショスタコーヴィチの旧ソ連政府への必死の抵抗のようにも思えてくる。アラベラ・美歩・シュタインバッハーのヴァイオリンは、いたずらに悲劇ぶることはせず、冷静に、大きなスケールでこの曲を表現しており、説得力のある演奏内容となっている。アンドリス・ネルソンス指揮バイエルン放送交響楽団のキリリと引き締まった演奏もなかなかいい。

 一方、ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第2番は、3つの楽章からなり、1967年に作曲された。既にスターリンも死去してから時が経ち、東西間の「雪解け」の波が押し寄せる時代となって行った。この時代に作曲された第2番は、西側でも徐々にショスタコーヴィチの評価が高まりつつあることを思わせるような余裕もちらりと顔を覗かせる。つまり、この第2番は、第1番に比べて、音楽の持つ面白さに集中して書かれたようにも感じられる。この辺が第1番とは大分様相が異なるようである。私はこのショスタコーヴィチの第2番のヴァイオリン協奏曲を聴くと、何故かバルトークの「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」を思い出してしまう。全体に晦渋さはあるものの、第1楽章は、音楽そのものへの実験的挑戦的な意欲がその背後に感じられる。また、第2楽章などは、新古典的な優美なメロディーに彩られているところもあり面白い。第3楽章は、ショスタコーヴィチ節が全開したような展開となり、ショスタコーヴィチが好きなリスナーにとっては聴き応え十分といったところか。第2番は、第1番以上にヴァイオリン独奏とオーケストラの微妙な掛け合いが鍵を握るようだ。その点、このCDのアラベラ・美歩・シュタインバッハーとアンドリス・ネルソンス指揮バイエルン放送交響楽団の両者の息はぴたりと合い、聴いていて小気味良いほど。アンドリス・ネルソンスは、2017年からライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の楽長(カペルマイスター)に就任するというが、このCDの充実した指揮ぶりを聴いていると、そのことが十分納得が行く。(蔵 志津久) 

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