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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のシューベルト:弦楽四重奏曲第11、15番

2011-02-18 11:25:11 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

シューベルト:弦楽四重奏曲第11番
        弦楽四重奏曲第15番
        

弦楽四重奏:ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団

CD:MCA Records, Inc. 32XK-9

 シューベルトは、生涯で弦楽四重奏曲を何曲作曲したかというと、どうも25曲らしい。しかし、現在では通常15曲をもってシューベルト弦楽四重奏曲全集としている。シューベルトの弦楽四重奏曲で有名なのは、第12番「四重奏断章」、第13番「ロザムンデ」、第14番「死と乙女」など後期に集中している。シューベルトの弦楽四重奏曲を聴く時、どうしても避けて通れないのがベートーヴェンの弦楽四重奏曲であろう。特にシューベルトの弦楽四重奏曲第15番は、どことなくベートーヴェンの弦楽四重奏曲を感じさせるような内容となっているからなおさらだ。ベートーヴェンは弦楽四重奏曲を全く新しいジャンルとして作曲した。ピアノソナタや交響曲が外に向かったベートーヴェンのメッセージだとすると、弦楽四重奏曲は内に向かった心情の吐露が主題となっている。つまり、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、哲学的であり、リスナーがよほど集中して聞かない限り、その曲に込められた心情を解き明かすことは不可能だ。

 これに対してシューベルトの弦楽四重奏曲は、あくまで親しいもの同士の打ち解けた合奏を愉しむ曲としての位置づけが濃い。第13番「ロザムンデ」、第14番「死と乙女」などシューベルトの有名な弦楽四重奏曲の多くは、何か物語があり、その物語を4人の奏者が互いの演奏の呼吸を合わせるかのように曲を演奏していく。つまり、ベートーヴェンとシューベルトでは、弦楽四重奏曲の捉え方が大きく違っている。しかし、シューベルトの最後の弦楽四重奏曲第15番だけは、この両者の差は大きく近づく。これは、シューベルトがベートーヴェンの弦楽四重奏曲から強く影響を受けたためだと思われる。内容は、大変緻密に書かれた作品で、30分を超える曲にもかかわらず、全く飽きることなく全曲を集中して聴くことができる。これはベートーヴェンの影響を受けたとはいえ、根本にシューベルト特有の歌ごころがあるからなのであろう。聴き終わったあとは、何か爽快だ。このへんもベートーヴェンの弦楽四重奏曲とは異なる。シューベルトの弦楽四重奏曲の延長線上には、交響曲などの大曲があり、根本にあるのは、外に開かれた室内楽曲なのだ。

 今回のCDは、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団による「シューベルト:弦楽四重奏曲全集」の第6集で第11番と第15番が収められている。録音データを見ると1950年頃(ウィーン)とある。ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団は、ウィーン交響楽団のコンサートマスターの一人、アントン・カンパーを中心として結成された弦楽四重奏団で、ウェストミンスター・レーベルにシューベルト:弦楽四重奏曲全集をはじめとして、数々の名盤を残したことで知られる。1934年3月にウィーンの聴衆の前で初めての演奏会を行い、大絶賛で迎えられた。これは、それまで弦楽四重奏団は臨時編成がほとんどであり、聴衆が常設の弦楽四重奏団の出現を望んでいたこともあったようだ。1937年からウィーン・コンツェルトハウス四重奏団と名乗ることになる。もともと創立時のメンバーは、ウィーン交響楽団の出身者だったわけであるが、その後、メンバーがウィーンフィルに引き抜かれたこともあって、名声が決定的となったという。第2次世界大戦の後は、世界各国に演奏旅行を行い、その名を世界に広めた。1953年―1954年のシーズンには、ウィーンコンツェルトハウス協会から名誉会員の称号が与えられている。さらに、オーストリア文部省からメンバーにプロフェッサー(教授)の称号も加えられたという。1967年にカンパーの現役引退を機に解散した。

 この伝説の弦楽四重奏団であるウィーン・コンツェルトハウス四重奏団が残したシューベルト弦楽四重奏曲全集から弦楽四重奏曲第11番と弦楽四重奏曲第15番の2曲をおさめたのが今回のCD。音質は1950年頃録音とある割にはクリアーに聴こえ、モノラル録音ながら現役盤といっても通用しそうである。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の演奏の特徴は、何といってもその艶やかな音質にあるといえる。何とも優美な音色なのであろうか。そして、明快な語り口が聴いていて爽やか極まりない。さらに歌ごころに満ちているいるところがいい。弦楽四重奏団によっては、演奏技巧は申し分ないが何かぎすぎすしすぎか、逆に軽く流して心に残らない演奏を行うケースも少なくない。その点、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団はいい意味で中庸を得ている。私は、弦楽四重奏団というといまだにバリリ四重奏団とこのウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の呪縛から解き放されないでいるほどだ。このCDでウィーン・コンツェルトハウス四重奏団は、第11番の明るく清々しい曲想を巧みに演出して、リスナーを引き付ける。また、第15番ではシューベルト最後の弦楽四重奏曲らしく、厳粛に時には重々しく演奏するウィーン・コンツェルトハウス四重奏団が、決して飽きさせることはないところはさすがだと思う。
(蔵 志津久) 


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