~アントニオ・パッパーノ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とリサ・バティアシュヴィリの共演~
リャードフ:交響詩「魔の湖」
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
ドボルザーク:交響曲第9番「新世界から」
ヴァイオリン:リサ・バティアシュヴィリ
指揮:アントニオ・パッパーノ
管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
収録:2017年1月8日、オランダ・アムステルダム コンセルトヘボウ
提供:オランダ公共放送
放送:2017年6月21日(水) 午後7:30~午後9:10(100分)
今夜のNHK‐FM「ベストオブクラシック」は、アントニオ・パッパーノ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ヴァイオリン独奏リサ・バティアシュヴィリの演奏会である。アントニオ・パッパーノ(1959年生れ)は、イタリア出身の指揮者。1987年にオスロのノルウェー歌劇場でデビュー。1990年同劇場の音楽監督に就任。1992年ベルギー・ブリュッセルのベルギー王立歌劇場(モネ劇場)の音楽監督に就任。バイロイト音楽祭には、1999年楽劇「ローエングリン」を振ってデビューを果たす。2002年コヴェント・ガーデン王立歌劇場の音楽監督に就任。2005年からは聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団の音楽監督に就任し、現在に至っている。別府アルゲリッチ音楽祭には2001年の第3回から参加し、別府アルゲリッチ音楽祭特別オーケストラを指揮し絶賛を博した。なお2003年からは同音楽祭のアドヴァイザリー・コミッティーを務めている。
ヴァイオリンのリサ・バティアシュヴィリ (1979年生れ) は、グルジア出身。1994年ドイツのミュンヘンに移住。1995年わずか16歳にして「シベリウス国際ヴァイオリン・コンクール」において2位に入賞し、一躍脚光を浴びる。2003年シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭において「レナード・バーンスタイン賞」を受賞。2001年BBC が立ち上げた「New Generation Artists」の初代メンバーに選出される。BBCプロムスでのデビューした際はBBC Music Magazineにおいて「本年最も傑出した存在」と称賛された。その後ボン国際ベートーヴェン音楽祭において「ベートーヴェン・リング賞」を獲得。現在、世界中の主要オーケストラへの客演、ソロ、室内楽で活躍中。日本へは、2004年NHK交響楽団と共演した以後、しばしば訪れている。近年急速に人気が高まっている美貌の実力派ヴァイオリニストである。
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は、オランダ・アムステルダムに本拠を置くオーケストラ。1888年アムステルダムにコンセルトヘボウがオープンした際に専属オーケストラとして誕生した。第2代常任指揮者には24歳の若きウィレム・メンゲルベルク(1871年―1951年)が就任。その後半世紀に渡ってコンセルトヘボウに君臨し、同楽団を世界の一流オーケストラへと育て上げた。マーラーもしばしばコンセルトヘボウの指揮台に立ち、弟子のオットー・クレンペラーらが1920年「マーラー音楽祭」を催し、コンセルトヘボウとマーラーの伝統を確立した。1988年創立100周年を迎えたコンセルトヘボウは、ベアトリクス女王より「ロイヤル」(王立)の称号を下賜され、現在の名称「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」に改称された。2016年からイタリア出身のダニエレ・ガッティ(1961年生まれ)が首席指揮者を務めている。
今夜の最初の曲はリャードフ:交響詩「魔の湖」。リャードフ (1855年―1914年)は、ロシア出身の作曲家。ペテルブルク音楽院で教鞭を執り、その門下生にはプロコフィエフ、グネーシンなどがいる。作曲家としてはピアノ曲、交響詩、管弦楽曲などを遺している。この曲でのアントニオ・パッパーノ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏は、その懐の深い、揺るぎのない持ち味を十二分に発揮して、ロマンの色濃いこの曲の特徴を見事なまでに陰影深く描き切って、満足いく仕上がりぶりをリスナーに聴かせた。その演奏の堂々とした佇まいは、横綱相撲とでもいったところ。次の曲は、チャイコフスキー:バイオリン協奏曲。このヴァイオリン協奏曲でのリサ・バティアシュヴィリの演奏の瑞々しい弾きっぷりに聴き惚れた。決して極端な自己主張するわけではない。その一音一音を丁寧に弾き込む切々とした演奏内容は、かえってリスナーの心へ強く響き渡る。こんなにも優美なチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴いたことは久しぶりだ。そのことは当日会場にいた聴衆から第1楽章の終了時に思わず拍手が巻き起こったことからも察せられよう。最後の曲は、ドボルザーク:交響曲第9番「新世界」。ここでのパッパーノの指揮ぶりは、如何にもイタリアの指揮者らしく、十二分な歌心に満ち溢れた美しい「新世界」に仕上がった。私には、まるでメンデルスゾーンの交響曲を聴いているようにも感じられた。この屈託のない明るさは、今混迷を深める世界の中にあって一筋の救いのようにも思えた。それにしてもロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のこの分厚い響きは、心の隅々まで響き渡り、強い残像を遺す演奏会となった。(蔵 志津久)