不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

<戦争の罪>を問う「原爆と沈黙」と「731部隊の真実」

2017-08-16 19:11:34 | 社会、政治
 敬虔という言葉と無縁の俺でさえ、厳粛な思いで過ごすことがある。広島に原爆が投下された8月6日から敗戦の日に至る10日間だ。今稿では<戦争の罪>を問う2本のドキュメンタリー(ともにNHK制作)を紹介する。

 ETV特集「原爆と沈黙~長崎浦上の受難~」(12日)から。当初のターゲットは小倉だったが、天候上の理由で原爆は8月9日、長崎市浦上に投下される。1万2000人のカトリック教徒の3分の2が犠牲になり、隣接する被差別(浦上町)では居住者1000人のうち死者、行方不明者がそれぞれ300人を数えた。

 <神の子羊に選ばれた>という思いが、カトリック教徒に〝沈黙の祈り〟をもたらす。<浦上のピカドン>が市内に蔓延したことを、カトリック教徒の西村さん、浦上町出身の中村さんが証言する。中卒後に市内で働いた西村さんは職場で、中村さんは学校で厳しい差別に直面する。

 「河童」や「原爆」が通り名だった中村さんは卒業式だけ本名で呼ばれたが、抗議の意味を込めて席を立たなかった。被爆と出身という二重の差別に苛まれた中村さんは長年、沈黙を強いられる。長崎市に解放同盟支部が結成され、同対事業の一環で建てられたアパートに母と暮らすことになった1970年代後半、変化の兆しが表れた。

 番組では言及されていなかったが、宮本常一の<個人史の聞き取り>という方法論は解放運動に多大な影響を与えた。語り部のひとりだった母の遺志を継ぎ、中村さんも現在、差別、戦争、被爆の真実を若者たちに伝えている。

 江戸時代、浦上には隠れ切支丹が暮らしていた。<弱い者を相撃ちさせる>が権力の常道で、浦上では仏教に改宗した民が切支丹の動向を探り、検挙する任務を負わされた。悲劇(浦上四番崩れ)で決定的になった確執は、150年を経て和らぎつつある。ローマ法王の言葉に感銘を覚えて信仰を取り戻した西村さん、語り部になった中村さんは、カトリック教徒との人たちが共同で歴史を学ぶ会で手を携えている。

 恩讐を超える崇高な意志の欠片もないのが日本政府だ。核兵器禁止条約に批准しないことに抗議し、長崎の被爆者団体代表は安倍首相に「あなたはどこの国の総理ですか」と詰め寄った。「アメリカです」なんて本音は言えない首相の動揺を映像は捉えていた。

 浦上と重なるのは、小池都知事を筆頭に原発事故の自主避難者への冷酷な対応だ。教育現場では中村さんが少年時代に受けた差別が広がっている。頬被りしている教師たちの良心や矜持を疑ってしまう。戦後72年、人間の尊厳は死語になりつつある。
 
 NHKスペシャル「731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~」(13日)が大きな反響を呼んでいる。俺も731部隊(関東軍防疫給水本部)について書物を読み、折を見てブログに記してきた。「DAYSJAPAN」は発刊当時、繰り返し特集を組んでいた。

 NHKが夜9時に放送した意味は大きい。ブログには質量とも限りがあるので、本日深夜(午前1時)の再放送をぜひご覧になってほしい。ハバロフスク裁判(1949年)の録音に残された当事者の肉声、写真と資料、元隊員の証言を織り交ぜ、人体実験のおぞましい実態が明かされている。

人体実験を主導した医師のひとりは帰国後、「自分は良心を失った悪魔ではない」と語ったという。一方で罪を悔い、自殺した者もいた。アジアにおける日本軍の蛮行を自身に照らし合わせて追求したのが辺見庸だ。死を覚悟して上官に反抗する、遠巻きに眺める、あるいは先頭に立って行う……。辺見は書いている、「三つ目かもしれない」と。

 <国家はその罪に無限責任を背負う。決して外部化されず国民にも責任が問われる>と内田樹は指摘していた。私たちはまず、戦前の日本軍の振る舞いを直視し。併せて未来への指標も掲げなければならない。古今東西、歴史が証明するように戦争は人間を狂気に駆り立てる。日本人が人間であるための防波堤は、不戦を誓う憲法9条であることを、視聴者は再認識しただろう。

 エリートたちの戦争協力は今日的な課題である。京大から多くの後輩を部隊に送り込んだ教授、細菌兵器開発に寄与した研究者は莫大な見返りを得ていた。知人でもある杉原浩司さんは武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)代表として<軍学共同>に警鐘を鳴らし、数字を挙げて実態を詳らかにしている。番組後半では防衛省と大学の結びつきについての学術会議における発言が紹介されていた。

 細菌兵器は部隊施設だけでなく中国戦線、一般集落、捕虜収容所で使用されたが、アメリカは人体実験のデータと引き換えに731部隊を免罪した。野放しになった悪魔たちはその後、日本を闊歩する。3・11後、福島県のアドバイザーに就任し、「体内被曝は大丈夫」と繰り返した山下俊一氏は悪魔の末裔である。部隊のエリートたちは学会、製薬会社(主にミドリ十字)、厚生省トップとして戦後日本を蹂躙した。

 宇都宮健児氏は「体内被曝は大丈夫と喧伝した学者たちがシフトして、豊洲汚染は心配ないと主張している」と語っていた。この国の権力構造には悪魔が巣食っている。
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「容疑者の夜行列車」に乗っ... | トップ | ロックに親しむ冷夏~MAN... »

コメントを投稿

社会、政治」カテゴリの最新記事