酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「黒い迷宮」~浸潤する漆黒の闇

2016-10-14 00:06:30 | 読書
 衝撃が将棋界を襲っている。渡辺竜王への挑戦を決めていた三浦九段が対局中、スマホを用いて不正を行った疑いで出場停止処分を受けたのだ。〝棋界の武蔵〟の異名を取る三浦は濡れ衣を主張し、代役の丸山九段も「連盟の決定には賛成しかねる」と語っていた。今後の推移を見守りたい。

 「相棒シーズン15」が始まった。反町隆史は視聴率低迷の〝戦犯〟扱いされているが、脚本の質が落ちていることは否めない。「十津川警部シリーズ」(TBS系)では、体調不良で渡瀬恒彦が降板した。引き継ぐのは内藤剛志という。渡瀬、内藤といえば刑事ドラマの常連で、「相棒」の水谷豊とともに名推理を披露している。

 テレビの影響か、<日本の警察は優秀>と信じている人も多いが、京都で読了した「黒い迷宮」(リチャード・ロイド・パリー著、濱野大道訳/早川書房)で、著者は<犯罪に距離を置く多くの日本人が、警察に無能をカバーしてきた>との見解を述べている。併せて司法制度の矛盾を指摘していた。

 サブタイトルに〝ルーシー・ブラックマン事件 15年目の真実〟とあるように2001年7月、英国人女性(当時21歳)が失踪した事件の真相に迫っている。ハルバースタムや佐野眞一を囓った程度の俺だが、本作はこれまで読んだノンフィクションで白眉と感じた。英国生まれのパリーは長年、東京で活動しているジャーナリストである。

 ルーシーは幼馴染みのルイーズと日本にやってきた。主たる目的は借金返済である。欧州の若い世代にとって、<日本は社会的不適応者を引き寄せる魅力的な場所>らしい。01年といえば、バブルは既に崩壊していたものの、100万円単位なら手軽に稼げるという情報がネットで流布していた。ルーシーは「家族から自由になりたい」という切実な思いも抱えていたが、いずれにせよ、日本は彼女にとって数カ月のシェルターのはずだった。

 ルーシーは六本木にあるクラブのホステスになる。若くて美しい欧米女性のみを採用しており、客はといえば金回りのいい自営業者やサラリーマンだ。そこは純粋に会話を楽しむ場所で、接待費で落とすことも可能だった。来日後2カ月で常連客がつき、海兵隊の恋人も出来た。これからという時、ルーシーは姿を消す。

 店も住まいも同じルイーズは警察に駆け込むが、門前払いを食らい、共犯者扱いされる始末。犯人の目くらましの通報に引っ掛かり、初動捜査の対象は宗教団体だった。以前に失踪した外国人女性の友人、命は助かったものの暴行された女性が警察を訪れたこともあったが、相手にされなかった。その都度きちんと捜査していれば、ルーシーの件は確実に防げただろう。

 ルーシーの両親は離婚していた。家を出て再婚した父ティム、母ジェーンとともに暮らす妹ソフィーが来日し、メディアに対応する。ちなみにティムは、被害者の父にそぐわぬ言動で、本国でもバッシングを浴びることになる。事大主義の警察は、ティムがブレア首相に直接訴えたことで本腰を入れる。メディアも巻き込んだ大騒動になり、警察はかつて放置した訴えに注目する。

 六本木は俺にとって完全なアウエーだが、事件が起きた00年前後、知人に誘われ深夜に足を運んだことがある。見栄えのいい欧米人が練り歩き、イラン人とイスラエル人が売る薬が蔓延していた。暴力沙汰も頻繁だったが、治外法権の租界の如く、警察の介入は希だった。六本木は〝日本のダブルスタンダード〟を象徴する街といえる。

 ルーシー失踪に関わる容疑者として織原が逮捕される。数々の余罪が明らかになり、状況証拠も揃っていた。織原は迷宮に潜む魔物で、無数のプリズムで乱反射した光が吸収され、影さえ見えない。闇の濃さで匹敵するのは麻原彰晃ぐらいだろうか。

 織原は大阪生まれの在日2世で、一代で財を成した父が急死すると、母や兄弟とともに莫大な遺産を相続する。学生時代から友人は皆無で、意識的に自身の痕跡を消していた。バブル期は事業で利益を挙げたが、意識を失わせた上で陵辱した女性たちを除き、他者と交わることは一切なかった。著者は日本と朝鮮半島の歴史、日本における深刻な差別にページを割くなど、あらゆる角度から織原の実像に迫ろうとする。

 自己破産した織原だが、恐らく親族から援助されていたのか、〝主任弁護人〟として弁護団を指揮する。織原は著者の皇室関連の記事について、「そのうち右翼の攻撃を受ける」と予言し、その通りになる。不可視の人脈と底で連なっていたのだろう。日本の闇社会に精通し、本作にコメントを寄せている宮崎学氏でさえ、織原の謎を解き明かせなかったようだ。

 織原の魔性と闇は、既に崩壊していたブラックマン一家を苛み、ルーシーの知人にも浸潤する。著者は取材した人々の心象風景に迫っていた。母ジェーンとルーシーの思いが交錯するラストに痛みは和らぎ、救いを覚えてページを閉じた。
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