酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

早くも今年のベストワン?~「アイ・イン・ザ・スカイ」の衝撃

2017-01-08 10:18:09 | 映画、ドラマ
 上場廃止が囁かれる東芝だが、原発&武器の輸出で安倍政権を支える〝国営企業〟ゆえ、救済されるとみる識者もいる。倒産を免れ、大規模なリストラ、賃金カット、下請け切り捨てを断行すれば、多くの労働者が苦境に追い込まれる。そして、株式評論家は「買い時」と囃し立てるだろう。おぞましい仕組みに俺たちは組み込まれている。

 おぞましいといえば国連安全保障理事会で、日本は<南スーダン武器禁輸決議>を棄権した。常任理事国が先頭に立って武器を世界に蔓延させている国連など一切信用していないが、今回の決議案が可決されれば限定的な効果はあったと思う。<駆け付け警護を円滑に進めるため、スーダン政府を刺激したくない>との棄権の理由は人道に反している。

 日本政府はニュージーランドへの哨戒機と輸送機の輸出に舵を切った。南スーダン問題、日本とイスラエルとの武器を巡る連携などに対し、先頭に立って抗議活動を展開している武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)代表の杉原浩司さんに、「ドローン・オブ・ウォー」(米、14年)を薦められていたが、未見のままだ。同じくドローンを扱った「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(英、15年)を先日、日比谷で見た。今年の映画初めである。

 本作の背景にあるのが<戦争の新しい形>だ。一昨年夏、戦争法への抗議集会で語られていた戦争像に違和感を覚えた。日本人の多くが参加するのは<20世紀タイプ>の白兵戦ではなく、離れた場所からボタン一つで殺傷する<21世紀タイプ>の戦争ではないかと考えていたからである。人を狂気に誘う点は、〝ゲーム感覚の戦争〟でも変わらないだろうが……。

 <21世紀タイプ>では情報収集と分析が重要になる。基地で指示を受け、ボタンを押し、映像で〝成果〟を確認した後、家に戻って団欒を楽しむ……。「アイ・イン・ザ・スカイ――」でおぞましいルーチンワークを妨げたのは無邪気な少女だった。

 米英同盟が本作の前提だ。英国人夫婦と米国籍の男性をテロリストと指定する両国は、その動向を協力して追っている。ケニアの首都ナイロビに結集した3人を拘束すべく、テレビ回線で繋がった計5カ所――ロンドンの統合司令部と国家緊急事態対策委員会、アメリカのホワイトハウスとネバダ州の空軍基地、真珠湾の画像解析班――で協議している。

 高度6000㍍から地上を監視する米軍の最新鋭機、現地諜報員が操る虫型の2機のドローンが、ナイロビの3人をリアルタイムで捉える。協議のイニシアチブを握る英軍のキャサリン・パウエル大佐(ヘレン・メリル)は最強硬派だ。刻々と状況が変化する中、〝捕獲〟から〝排除〟に変更された。ターゲットに米国人が含まれていることもあり、シビリアンコントロールの観点から、法の逸脱に疑義を唱える声が上がる。

 白熱する議論に羨ましさを覚えた。世界観、正義、良心、倫理が軒並み死語になり、暴力への忌避感が薄らいだ日本では、上意下達が幅を利かせ、司法とメディアは権力に屈している。本作では英外相、米国務長官まで巻き込んだ末、結論に至り、実行指令がドローンを操作するネバダ基地にスティーヴ・ワッツ大尉(アーロン・ホール)に届く。

 緊迫感と密度が増すのはここからだ。「3・2」……。だが、ワッツは発射ボタンを押さない。攻撃ポイント近くでパンを売る少女の姿を見つけたからだ。この少女は冒頭にも登場し、フラフープに興じていた。

 命令に背く形になったワッツは、学生時代のローン肩代わりを条件に入隊したという設定だ。山本太郎参院議員の<戦争法と若者の貧困は無関係ではない>という主張が重なった。命の尊さに立脚したワッツの反抗が波紋を広げる。少女だけでなく、着弾が引き起こす民間人の殺傷を軽視していた上層部の〝氷〟が溶けていく。キャサリンさえ、国益と人道の狭間で惑うのだ。

 鋭く深いテーマとエンターテインメントが両立していた。完璧なシナリオと工夫された映像で1時間42分、緊張が途絶えることはない。観賞しながら、正義とは何かと、脳をフル回転させて自問自答していた。気が早いが、「アイ・イン・ザ・スカイ」は年間ベストワン候補である。

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