酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

犯罪ドラマの金字塔「64(ロクヨン)」を堪能する

2017-07-16 22:44:01 | 映画、ドラマ
 <秘密保護法→戦争法→共謀罪>の流れでも高止まりしていた内閣支持率は、国家を私物化する首相の魂胆が隠せなくなるや急激に低下した。<自由の制限>が安倍離れに繋がらなかったことに、俺は危惧を抱いている。政権に距離を置く朝日、毎日両紙の世論調査でさえ、共謀罪賛成は反対を上回っていた。

 当ブログに繰り返し記してきたが、俺が大学に入学した1970年代後半、既に<自由>は蝕まれていた。警察(公安)の恐ろしさを身に染みて知っている旧友のひとりは、「刑事ドラマは絶対見ない」と宣言していたほどだ。彼と十数年ぶりに再会したのは意外な場所だった。「相棒劇場版Ⅱ」(2010年公開)の上映館で、奥さんと一緒だった。

 数日後、飯を食った時、「カミさんが好きで見るようになった」とバツが悪そうな表情で話していた。今も反原発など様々な活動に関わる彼は、「相棒」を含めテレビ朝日系の刑事ドラマの問題点――国民監視への抵抗感を緩和することに貢献――を重々承知している。でも、何より大切なのは夫婦の和なのだ。

 〝ミステリーは映像化作品で楽しむ〟というのが自分に課したルールだ。〝松本清張の後継者〟の横山秀夫だが、原作は「第三の時効」ほか短編集を2冊読んだだけだ。最高傑作と評される「64(ロクヨン)」のドラマ版(15年、NHK制作)を、AXNミステリーでの再放送で観賞した。同時期、映画版もWOWOWでオンエアされたが、両方見た人に薦められてドラマを選んだ。

 全5回(4時間弱)を通して内容を把握した後、少し間を置いて再度見る。俳優たちが完璧に理解した上で演じていたことが窺えた。NHKらしい豪華なキャスティングに感嘆するしかない。還暦を超えて〝感動症〟が昂じた俺の言葉に説得力はないが、個人的には<犯罪ドラマ史上ベストワン>の評価だ。

 いずれ原作もしくは映画やドラマに触れる方も多いと思うので、ストーリーの紹介は最低限にとどめ、アウトラインと感想を記したい。7日しかなかった昭和64年、D県で誘拐事件が起き、少女が遺体となって発見される。未解決のまま14年が経ち、捜査を担当していた三上(ピエール瀧)は広報官として記者クラブに対応している。

 誘拐事件が起きた1989年は固定、模倣犯?が亡霊のように甦った14年後は固定と携帯、そして携帯が優先されるようになった現在……。十数年のインターバルを経て、コミュニケーションの形は大きく変化した。本作では固定にかかってきた無言電話が鍵を握っている。

 三者三様の娘への愛が物語を進める歯車になっている。三上と妻美那子(木村佳乃)は家出した娘の身を案じている。被害者の父である雨宮(段田安則)は14年後の今も、事件の傷は癒えていない。そして、もう一人の男もまた、娘への愛に駆られて行動する。

 森友&加計問題でも明らかになった<官の組織力学>を体現するのは、三上の同期の二渡警務官(吉田栄作)だ。二渡は横山作品でお馴染みのキャラで、TBS制作のドラマでは上川隆也と仲村トオルが人間臭く演じていた。隠蔽を試み、右顧左眄して、権謀術数が張り巡らされる警察の姿が真実に近いなら、共謀罪を正しく運用するなんて不可能だと思う。

 記者たちは県警に媚びることなく。厳しい抗議も厭わない。最も感銘を覚えたのは、轢き逃げされた幸薄き男の人生を、三上が記者たちに提示するシーンだ。三上によって、広報課と記者クラブの軋轢がいったん解消する。上毛新聞で12年、記者を経験した作者の経験が、この辺りに生きていた。
 
 警察庁と県警、そして新聞社本社と支社……。おいしいところを持っていく中央への反感を、三上と二渡、そして記者たちも共有している。警察だけでなく、全ての組織に敷衍できる病理が描かれていた。人間力をもって壁にぶち当たる三上には、信頼出来る元上司がいた。俯瞰の目で冷静に事態を見据える松岡参事官(柴田恭兵)である。

 救いを覚えるラストだったが、俺の想像と異なっているかもしれない。重厚で奥行きのある構図の上に、鮮やかな謎解きが成立している。苦闘と挫折の末、完成させた本作の行間に、横山の血と涙が滲んでいるはずだ。

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