酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「バンコクナイツ」~アジアと日本を俯瞰で捉えるロードムービー

2017-03-06 22:42:16 | 映画、ドラマ
 アメリカの<オルタナ右翼>はトランプ大統領就任に寄与した。本家というべき日本の<ネット右翼>は〝この世の春〟を謳歌しているが、彼らのシンボルというべき存在が今、苦境に追い込まれている。小心で姑息な内面が露呈した石原元都知事に加え、安倍首相も森友学園の件で集中砲火を浴びている。

 メディアは一昨年9月4日の首相の行動を報じている。戦争法案で議論が白熱する中、首相は国会を抜け出して大阪に向かい、森友問題で策を講じた。昭恵夫人の名誉校長就任は翌日である。黒幕は明らかに首相本人だが、<安倍、離婚を考える~こんな世間知らずの妻はもういらない>という「週刊現代」の広告に愕然とする。官邸は夫人をスケープゴートにするつもりなのだろう。

 この国は醜くなりつつある。そんな日本、そして日本人は、世界、とりわけアジアにどのような貌を晒しているのだろう。考えるヒントになる映画「バンコクナイツ」(16年)をテアトル新宿で見た。富田克也監督は映画作家集団「空族」の一員で、アジアに照準を定めて映画を撮り続けてきた。海外では高い評価を受けている。

 毎回ソールドアウトの盛況という。決してエンターテインメントではないが、深いテーマ性、シャープな映像、会話(監督の出身地に合わせて字幕は甲州弁)のセンスに引き込まれ3時間、も緊張が途切れることはなかった。セミドキュメンタリー風で、素人っぽい演技がリアルを色付けている。

 舞台はタイの首都だ。副題「地獄でも超えて行ける」が示すように、キーワードは<地獄>と<楽園>だ。タイといえば、プミポン国王の死を悼み、人々が泣き崩れるシーンに怪しさを感じたが、当地に友人が多い従兄弟によると、演出は確実にあるという。

 タニヤ通りの「人魚」で、美貌とアンニュイを武器にナンバーワンになった娼婦ラックが主人公だ。彼女はラオス国境沿いのイサーン出身だ。ラックだけでなく「人魚」の女の子たちは、おしなべて人工的だ。彼女たちに群がるのは〝醜い日本人〟である。

 バンコクは日本人の男にとって楽園で、タイ人の女にとっては地獄なのだ。ラックは国元の家族に仕送りしているが、他の女の子も似たり寄ったりだ。遊郭に娘を売るというかつての日本の状況が、タイでは今も続いている。さらに、バンコクで暮らす日本人の男たちの格差も鮮明だ。

 元自衛官で〝沈没組〟のオザワがラックの恋人的存在だ。ラックとオザワが惹かれ合ったのは、互いが秘めるやるせなさに気付いていたからだろう。人は生きる上で取り繕う。ラックとオザワは互いのコーティングを剥がし、素の人間として向き合うために旅に出る。行き先はイサーンだ。

 エンドロールで、キャストの素顔やNGシーンが紹介される。ラックを演じたスベンシャ・ポンコンは寺院を訪ね、僧の言葉に涙ぐんでいた。劇中で弟ジミーに入隊ではなく出家を勧めたのは本音だったのだろう。仏教はタイで今も息づいていることは、他のシーンからも窺える。自衛隊時代の上司の指令でラオスに直行するはずだったオザワは、イサーンで精霊に会う。

 思い出したのは「光りの墓」(2015年、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督)である。同作では幻想的な世界が表現されていた。タイは精霊の国なのだ。精霊といっても、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの戦乱で斃れた怨霊も交じっているだろう。ラオスから国境を超えて出稼ぎに来る生きた人間も紛れているかもしれない。

 ラックとともに楽園を探す道行きで、オザワのコーティングがであるこ剥がれていく。自衛隊時代に訪れたカンボジア、ベトナムに足を運び、オザワの目に映る光景が変わっていく。家族を背負うラック、日本人であることから逃れられないオザワ……。素の男女として愛し合える楽園は、果たして見つかるのだろうか。

 本作は様々な問題、そして謎を孕んでいる。咀嚼し切れず、理解に至らぬ点は多いが、アジアと日本を俯瞰で捉えたロードムービーの傑作と断言出来る。

 ブログをアップする寸前、衝撃のニュースが。WBC初戦で、韓国がイスラエルに敗れた。驚いた人も多いのではないか。

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