酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「白いリボン」~神秘的で暗示的なモノクローム

2011-01-09 00:18:10 | 映画、ドラマ
 勤め人時代の後輩女子(多くは既に退社)から、新年の挨拶を兼ねた〝そのうちメール〟を幾つも受信した。彼女たちとの再会が楽しみだが、俺ぐらいの年になると、〝忘れられていないこと〟がしみじみ嬉しい。

 郷里代表の久御山が流経大柏をPK戦で破り、決勝に進出した。自由奔放なパスを駆使する久御山は、5年前の野洲同様、高校サッカーの理想形を提示したといえる。吉報がもうひとつ、POG指名馬ターゲットマシンが寒竹賞を楽勝した。田中勝騎手とのコンビでクラシック戦線を賑わせてほしい。

 さて、本題。「相棒劇場版Ⅱ」、「アンストッパブル」、「海炭市叙景」と候補は幾つもあったが、「白いリボン」(09年/ミヒャエル・ハネケ、独=墺=仏=伊合作)を今年の〝スクリーン初め〟に選んだ。

 第1次大戦直前、北ドイツの農村で起きた奇妙な事件の数々が、教師(クリスティアン・フリーデル)を語り部として描かれる。<あの出来事が恐らく、当時の我が国そのもの>と、教師は来るべきナチズムを射程に入れて回想していた。

 財政と家庭に不安を抱える男爵、支配的に振る舞う男爵家の家令、罪と罰を高圧的に説く牧師、紳士の仮面の下に淫らな獣を隠すドクター、理不尽を受け入れるほか選択肢がない小作人と使用人……。しめやかで冷たい狂気が立ちこめる中、大人世界の偽善と欺瞞に感応した子供たちは、恐怖と怒りが形を変えた怪物を育んでいく。それはいずれ皮膚を食い破り、ナチズムとして蔓延する。

 翻って、現在の日本……。絶望と怨嗟が渦巻いているが、人々は叫ぶことなく押し黙っている。数十年後、〝21世紀初頭の無力感が怪物を胚胎させた〟と振り返る識者がいるかもしれない。

 自らの心の闇、普遍的な原罪を突き付けるモノクローム映像に引き込まれていくうち、俺はデジャヴを覚えていた。記憶の底から引き上げたのは、アンリ・ジョルジュ・クルーゾーの「密告」(43年)である。同作では街を混乱に陥れる<カラス>の正体を巡り、人々は疑心暗鬼に陥っていく。同様の混乱が「白いリボン」でも現れるが、警察も犯人を特定できない。

 白いリボンは明らかに未来の腕章(ナチスのハーケンクロイツ)のメタファーだ。<事件の背景にあるのは複数の人間(子供)の悪意の集合体>と俺はファジーに結論付けたが、キリスト教やドイツ精神史に造詣が深い方は、全く別の捉え方をされるはずだ。

 本作をご覧になる機会があったら、<笛>に注目してほしい。ラスト近く、家令が息子たちに笛について尋ねる。からかうような笛の音が階上から聞こえ、家令は怒りを爆発させるが、このシーンの意味を俺は全く理解できなかった。節穴の目が、全体像に迫る重要な鍵を見落としていたのだろう。

 大公夫妻暗殺をきっかけに第1次世界大戦が勃発する。戦争を閉塞からの解放と感じたのか、登場人物の表情は一様に明るかった。現在の日本と重ねると、不気味さを覚えざるをえない。
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