酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ポバティー・インク」&「0円キッチン」~週末はドキュメンタリーに親しむ

2017-01-25 23:14:38 | 映画、ドラマ
 松方弘樹さんが亡くなった。スケールの大きい名優の死を心から悼みたい。時代劇のスター、釣り師、スキャンダルの主役と様々な貌を持つ松方さんだが、スクリーンでの暴れっぷりが記憶に焼き付いている。「県警対組織暴力」、「沖縄やくざ戦争」も必見だが、白眉というべきは「北陸代理戦争」だ。狂気と清冽な愛が迸るピカレスクで、深作欣二監督にとってはヤクザ映画の集大成になった。

 睡眠障害気味の日々が続いている。早めに眠くなり、床に就くと目が冴えてくる。おまけに頻尿で寝たという実感がないまま、朦朧と朝に迎える。これも年のせいだ。<高齢者の定義を75歳に引き上げるべき>との日本老年学会の提言に基づき、年金支給を70歳とする案が検討されている。競馬に例えれば、ゴール板(65歳?)を過ぎた後も止まれないということか。

 先週末は老骨に鞭打ち、映画をハシゴした。ともにユナイテッドピープル配給のドキュメンタリーである。1本目は「ポバティー・インク~あなたの寄付の不都合な真実」(14年、マイケル・マシスン・ミラー監督)で、ソシアルシネマクラブすぎなみの第13回上映会(高円寺グレイン)にラインアップされていた。

 本作はサブタイトル通り、善意による寄付が、当該国を貧困のまま留め置いていることを明らかにしている。大地震の被害を受けたハイチには、大量の米国産米が寄付として送られてきたが、常態化したことで当地の米作は崩壊する。アフリカでも同様で、援助物資の大量流入が、各国の農業を成り立たなくしている。

 善意で始めたNGOが、結果として国連、IMF、世銀、グローバル企業とともに巨大な<貧困産業>を形成する。国の構造を変え、進歩を促すべきなのに、善意の押し付けによって途上国の成長はストップし、貧困のスパイラルが起きる。本作で槍玉に挙がっていたのは、ボノ(U2)、いや、彼に代表される金満の慈善家たちというべきか。

 貧困からの抜本的な脱却を主張するアフリカの活動家たちから「貧困産業に手を貸すのはやめてくれ」と訴えられていた。親族がアフリカ産原料を配合して作った化粧品メーカーを経営しているボノが、反グローバリズム、反資本主義の側に立って、アフリカの真の発展に寄与するのは難しい。とはいえ、彼の善意を否定する気にもなれない。

 米国の貧困を扱ったドキュメンタリーで、会社をリストラされたシングルマザーが以下のように証言していた。<子供を連れて訪れた施設を運営していたのが、私をクビにした会社だったんです>と。リストラによって経費を削減した会社が、貧困層支援によって税金を軽減する。この構図は、「ポバティー・インク」で描いたことと変わらない。

 夕方、アップリング渋谷で「0円キッチン」(15年、ダーヴィド・クロス監督)を見た。オーストリア生まれのジャーナリストで食材救出人のダーヴィドが欧州5カ国を回るロードムービーである。ちなみに、本作は俺にとってクラウドファンディング初体験だった。

 世界で生産される食料の3分の1(13億㌧)が廃棄されているという現実にショックを受け、ダーヴィドは製作に取りかかった。13億㌧とは想像を絶する数字だが、「ポバティー・インク」を見る限り、その量はもっと増える可能性もある。経費を考えて作られず、流通に乗らない〝食料未満〟を有効に活用したら、食糧危機への道筋も見えてくるのではないか。

 映像に親近感と既視感を覚えた。日本人、いや俺自身の日常と重なる部分もあるからだ。とっくに賞味期限が切れた食品が冷蔵庫の奥にあったり、逆に期限切れにこだわって簡単に捨てたり……。ダーヴィドはスーパーで売れ残った食材で料理を作り、道行く人に振る舞っていた。

 「ポバティー・インク」がヘビーな内容だったせいか、コミカルでエンタメの要素もある「0円キッチン」で緊張が緩んでくる。ふかふかのアップリングの椅子は〝導眠剤〟で、記憶が途切れた部分もあった。旧ユーゴ紛争で飢えを体験した人の「食べられないものはない」という言葉が記憶に残っている。

 日本でも見栄えが悪いと商品にならないケースがある。ダーヴィドはドイツで規格外の野菜を調理してパーティーを開き、フランスでは放流される小さな魚を使った料理を船員たちに振る舞っていた。オランダが進める昆虫食が世界規模で実現すれば、飢餓克服の一助になる。適正な飼育で健全に生長した家畜が、人間にも好影響を及ぼすという<ウェルフェアフード>を実践する養豚家も紹介されていた。

 意識を変えることで食は文化たり得ることを、本作で再認識する。グローバリズムを克服すべきミニマリズム、ローカリゼーションと同じ地平を、ダーヴィドも見据えているのではないか。

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