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Oliver's Army

2011年11月05日 | 音楽
 斉藤和義の新作アルバム『45 STONES』がなかなかパンクな傑作なようで、僕は聴いていないけど、いろいろなところからから出来が良いという噂が耳に入っている(たとえばトラックバックいただいたこちら)。
 僕からはそれのお祝いにというか景気づけにというか、エルヴィス・コステロの曲について紹介するのにいいタイミングかも、と思いついた。斉藤和義の作風に通底するんじゃないかと思うアーティストの一人がコステロであるし、、またここで紹介する「Oliver's Army」は、長い不況をベースに、、様々な方面で閉塞感にとらわれ続ける昨今の日本社会に、以前とは違う生々しさをもって響くと思えるからだ。

 そう、僕は長らくこの曲に「生々しさ」など感じないできた。
 「Oliver's Army」は1979年のアルバム『Armed Forces』からのシングル・ヒット曲。中学生の時ラジオで聴いて最初に知ったコステロの曲がこれで、鼻にかかった独特の歌声とキャッチーなメロディに、たちまち虜になった。
 ただ、その後輸入版を手に入れて聴いていたので、歌詞の中身についてはよくわからず、Armyというんだから漠然と軍隊のことをからかってるような曲だろ、程度の認識で付き合っていた。アルバムのタイトルArmed Forcesはずばり軍隊・軍事力のことだし、ジャケットに描かれている象の絵は「弱小の者を踏み潰す強大な者」を示唆しているようだった。アルバム最終曲はニック・ロウの名曲「What's so funny about peace love and understanding」のカヴァー(ニック・ロウはこのアルバムのプロデューサーでもある)。アルバム全体が「反戦」の意識を漂わせていることは、当時から何となく勘付いていた。だが、なぜこの時期コステロがそういうものを作ろうとしたのか、についてはまるでピンと来なかったし、別に興味もなかった。

 はっきりその中身について、背景を交えて理解したのは、やっとインターネットというものを通してだ。つまり、すっかりオヤジになってからである。「オリヴァーの軍隊」のオリヴァーとは、アイルランド侵攻の立役者、クロムウェルのことだと知った(※1)。実際、コステロは初めてベルファストを訪れて現地を見た時の衝撃がきっかけでこの曲を書いたと、自身語っている(※2)。
 ただ、だからといってこの曲は北アイルランド問題を扱った歌、というだけではない。虐殺者、占領軍、植民地主義というものを「オリヴァー」で象徴させながら、「大英帝国の栄光」を揶揄すると同時に、職の見つからない、行き場のない労働者階級の若者たちを、体よく軍隊に送り込む社会のシステムをも浮かび上がらせてみせたのだ。
 しかもそれを学のある評論家の視点や、心優しい市民の告発者の視点からというよりも、実際にフラストレーションを溜め込み、「軍務」での自己実現を願っているような、失業者の青年のやけくそ目線から歌っている点こそ、この曲の最も優れた点であり、僕が今聴いて「生々しさ」を感じる点だ。そこには今日あるレイシズム、排外主義の視点も顔をのぞかせ、イギリスばかりか、落ちぶれた先進国ならどこでもほぼ当てはまる──今の日本に、まさにおあつらえ向きの曲にすら感じる要素がある。
 「31歳フリーター。希望は、戦争。」なんていう問題提起を何十年も先取りする形で、サッチャー政権の新自由主義政策の下でのイギリスでは、クラッシュをはじめとするパンク~ニュー・ウェイヴ系のミュージシャンを中心に、そうした社会の矛盾を告発する歌は日常的に作られていた。コステロの「Oliver's Army」もその渦中で作られたものであり、なんらキワモノではなかった(そして1982年のフォークランド戦争の際、これらの多くは放送禁止になった)。

 それにしてもファンキーでウキウキした曲調+キッチュなメロディと、この歌詞の壮絶な落差には、何度聴いてもたまげてしまう。こういうことをやれるのも、ロックの強みなのである。ラップ・シンガーではこうした思い切った歌詞をぶつけてくる日本のアーティストも出てきたが、メロディアスなロック/ポップスの曲でも、こういう作風に挑戦する人がもっと出てきてほしいと、個人的には願う。
  以下、毎度ながら若干の推量も含む意訳。間違いがあれば、遠慮なくご指摘を。

Oliver's Army

おれにしゃべらせるなよ
おれは一晩中でもしゃべり続けるぜ
正しい世界について論じながら
おれの心は夢遊病
就職相談所に電話したら
占領軍には登録してますか?だとさ

オリヴァーの軍隊がここに駐留
オリヴァーの軍隊は絶賛活動中
おれもどこでもいいから外地で参加したい
だけど今日もここにいるんだ

ベルリンのチャーリー検問所ってとこがあった
チャーリーってのはニコリともしないやつだったりしてな
楽しいパーティなんてひとつもない
軍事境界線の仕事だもんな
むずむずする引き金をちょいと引くだけで
また一人の未亡人が増え 一人の白いニガー(※3)が減る

オリヴァーの軍隊がここに駐留
オリヴァーの軍隊は絶賛活動中
おれもどこでもいいから外地で参加したい
だけど今日もここにいるんだ

ホンコンを手に入れるのは簡単
ロンドンはアラブ人でいっぱい
おれたちゃパレスチナにだって行けるだろうし
中国国境だって越えちゃうぜ
マージーやテムズ、タイン(※4)から来た仲間と一緒にな

大丈夫 危険なんかないよ
プロのキャリアってことになるんだから
チャーチル閣下の耳に入ったチクリ一言で
うやむやにされるかもしれないけどな
もしあんたが幸運に見放されたり
仕事にあぶれたりしてるなら
ヨハネスブルグに送り込んでもらえるぜ

オリヴァーの軍隊がここに駐留
オリヴァーの軍隊は絶賛活動中
おれもどこでもいいから外地で参加したい
だけど今日もここから動けないんだ!


 歌詞も読めるYouTubeの動画はこちら。当初のオフィシャルPVよりシンプルな、演奏場面だけのPV。

 当初のオフィシャルPV。作りが安仕掛けでかなり評判が悪いけど、70年代だから仕方ないかな?
 http://www.youtube.com/watch?v=_b7W28uyRNA
 イラク戦争のアメリカ軍になぞらえた個人製作の動画。画面に歌詞つき。閲覧注意箇所あり。
 http://www.youtube.com/watch?v=oeHpWkTAY0I
 ちなみに、わかる人にはわかってると思うけど、「Oliver's Army」のエンディングの「オッオッオーオーオー」という節回しは、ブルース・スプリングスティーンの「Born To Run」をパロっている。つまり、最後の最後で「ヤンキーの軍隊」もからかっている。

※1 nofrillsさんのブログの「ベルファスト」を語る音楽、第2弾という記事より。
「・・・Oliver's ArmyのOliverは、Oliver Cromwellのこと。あの清教徒革命(ピューリタン革命)のクロムウェル。彼はアルスター入植(ピューリタンをアルスターに入植させた)で大量殺戮を行なった。その殺戮は、今なら「ジェノサイド」と言われるものだろう。」
※2 http://en.wikipedia.org/wiki/Oliver's_Army
※3 表向き、公式にこの「nigger(黒んぼ)」が放送禁止の際の理由らしい。
※4 マージー=リヴァプール周辺。テムズ=テムズ川沿岸地域のこと?ロンドンを筆頭に、オックスフォード、サンダーランドなども含まれる。タイン=ニュー・キャッスル周辺。

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1 コメント

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連コメで失礼します。 (井上俊介)
2011-11-12 22:27:59
唐突ですみません
僕 エルヴィス・コステロってバディ・ホリーなヴィジュアルの所為か、
以前からずっと聞かず嫌いだったんです。
(コステロに限らず、B-52’sを除いてトーキングヘッズを初めとしたニューウェーヴ系全般、未だに何か苦手なんですが。)

この前、「風の谷のナウシカ」のマンガ借りようと思って私立図書館に行ったら、
CDのコーナーにコステロのベストアルバムが置いてあるのを見つけて、
記事を思い出して、せっかくだと思って借りてみたんです。

コステロって結構良いですね。
僕の中でキンクスに次ぐ新発見です。

中でも一番のお気に入りの曲は
VeronicaとSheです。

こういう新発見もこのブログを読んでいて良かったなぁと思える所です。

普段どんな形でお礼を言えば良いのか分からないですけど。
ありがとうございます。

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