ノーベル医学・生理学賞が決まった大隅良典氏(71)が仕組みを解明した細胞の自食作用「オートファジー」。細胞内での栄養供給や浄化、防御の機能を担う現象で、神経疾患やがんなどの発症に関係していることがマウスなどの実験で分かってきた。この働きを促進したり、阻害したりすることで治療法の開発を目指す研究が進んでいる。

 国内で研究成果が目覚ましいのは神経疾患の分野。神経細胞内にたまった異常なタンパク質は通常、オートファジーで分解され、蓄積を防いでいることが分かってきたからだ。

 大隅氏に師事した東京大の水島昇教授らは平成25年、脳内に鉄分が蓄積して障害を起こす神経変性疾患「SENDA」の原因は、オートファジーの遺伝子異常であることを発見した。

 また東京医科歯科大のチームは27年、過度の食事制限で脳細胞が栄養不足になると、アルツハイマー病が悪化することを突き止めた。栄養不足になると、細胞内に異常なタンパク質が過剰に増加。オートファジーで分解しきれず蓄積され脳細胞が死んでしまう。

 微生物化学研究会のチームは今年6月、細胞内の異常なタンパク質をオートファジーが見つけて隔離する仕組みを解明。パーキンソン病の予防や治療方法の確立に役立つ可能性がある。

 生活習慣病との関係も次々と明らかになってきた。順天堂大のチームは26年、2型糖尿病の発症抑制にオートファジーが必要だとする論文を発表した。原因となる細胞内の異常タンパク質は、通常は毒性を示さないが、オートファジーの機能が低下すると毒性が表れ糖尿病を悪化させていた。

 東京医科歯科大のチームは27年、高血圧の一因である血管収縮にもオートファジーが関わっていることを明らかにした。血管の収縮に関わる物質は、通常はオートファジーで分解されているが、異常が生じて分解されなくなると収縮が始まるという。

 一方、大阪大のチームはオートファジーが抑制されると脂肪肝が悪化することを見いだした。高脂肪の食事をマウスに与えると、肝臓内でオートファジーを抑制するタンパク質「ルビコン」が増加。細胞内の脂肪が分解されず蓄積が進み症状が悪化する。ルビコンの働きを阻害する薬を開発すれば、効果的な治療につながりそうだ。

 関心が高まっているのががんとの関係だ。オートファジーはがん細胞の増殖を助けてしまうことが以前から指摘されている。抗がん剤を投与すると、がん細胞は急激な栄養不足に襲われるが、内部でオートファジーが起こり、不要なタンパク質などを食べて生き延びてしまうのだ。

 大隅氏に師事した大阪大の吉森保特別教授らは25年、細胞内にオートファジーを促進する物質と抑制する物質があり、これらのバランスが崩れると、がんなどの発症につながることを突き止めた。

 こうした国内の研究成果は、いずれもマウスなどを使ったものだが、米国ではオートファジー阻害剤でがんを治療する臨床試験が既に数十例行われており、実用化の研究は米国が先行しているのが実態だ。

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