アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

邦題が話題?の『さらば復讐の狼たちよ』

2012-06-18 | 中国映画

先日、『さらば復讐の狼たちよ』を試写で見せていただきました。原題は『譲子弾飛(Let the Bullets Fly)』、つまり弾丸を飛んで行かせろ、弾丸を発射せよ、というわけなんですが、直訳では意味がわからないことから、どうやらこんなひゅるるる~~~と跳んだ邦題になってしまったようです。

巷では、「香港映画みたい」とか、「ヒットした作品題名の寄せ集め」とか、さんざんなことを言われています。事実、「ジョニー・トー監督作品だと思って試写に来ちゃった」という方もいらしたようで、確かにそれっぽいですね。でも、中身はなかなかに硬派な作品なんですよ。硬派で、政治的な様相も帯びているんですが、おふざけもいっぱい。とても見応えのある作品なので、とにかく話題になる憶えやすい邦題を、ということから、こういうタイトルになっちゃったんでしょうね。でも、立派に話題になってますから、宣伝担当さんの勝ち!

まずは、映画のデータを書いておきましょう。

 『さらば復讐の狼たちよ』

原題:譲子弾飛 英語:LET THE BULLETS FLY
2010年/中国/132分/シネマスコープ/ドルビーデジタル/北京語
公式サイト (すぐに予告編が始まります)

<キャスト>
ホアン:チョウ・ユンファ(周潤發)
マー:グォ・ヨウ(葛優)
チャン:チアン・ウェン(姜文)
書記:フォン・シャオガン(馮小剛)
偽のアバタのチャン:フー・ジュン(胡軍)
マーの妻:ミャオ・プウ(苗圃)
八歳:マー・クー(馬珂)

夫人:カリーナ・ラウ(劉嘉玲)
ウー:チアン・ウー(姜武)
三弟:リャオ・ファン(廖凡)
ホアジエ:チョウ・ユン(周韻)
フー:チェン・クン(陳坤)
六弟:チャン・モー(張黙)

 <スタッフ>
監督:チアン・ウェン(姜文)
撮影:チャオ・フェイ(趙非)
造形設計:ウィリアム・チャン(張叔平)
音楽:久石譲(『陽もまた昇る』より)
   シュウ・ナン(舒楠)
原作:マー・シートゥー(馬識途)
   (短編集「夜譚十記」の「盗官記」)
脚本:チョウ・スーチン(朱蘇進)
   シュー・ピン(述平)
   チアン・ウェン(姜文)
   グォ・ジュンリ(郭俊立)
   ウェイ・シャオ(危笑)
   リー・ブコン(李不空)
(製作関係は省略)

提供:アミューズソフト 
配給・宣伝:ファントムフィルム

7月6日(金)より全国ロードショー

どうです、この豪華な面子。ここに写真が出ているチョウ・ユンファ(周潤發)、チアン・ウェン(姜文)、グォ・ヨウ(葛優)-写真右から順に-だけでなく、何とチアン・ウェンの弟で『捜査官X』にも出ていたチアン・ウー(姜武)、『レッドクリフ』の槍の趙雲ことフー・ジュン(胡軍)、さらに若手No.1のチェン・クン(陳坤)まで出ているんですよ。しかも、後者3人なんか、とってももったいない使われ方なんです。思わず、趙雲サマ、そんな役でいいんですか!?と画面に声を掛けたくなってしまいます。

お話は、1920年、辛亥革命から9年たった時点が舞台になります。県知事マー(グォ・ヨウ)が妻(カリーナ・ラウ)や書記(フォン・シャオカン)と共に、赴任先の鵝城(鵞鳥タウン)に馬が引く列車で向かっていたところ、盗賊のアバタのチャン(チアン・ウエン)一味が襲撃をかけ、大混乱に。金は全然ない、県知事の職を買うワイロに使い果たした、というマーに、チャンは、それならオレが県知事になりすまして、ガッポガッポと金を懐に入れよう、と鵝城にやってきます。ところが、その町にはホアン(チョウ・ユンファ)という実力者が君臨し、金と暴力で町の全住人を支配下に置いていたのでした。たちまち、ホアンの手下ウー(チアン・ウー)やフー(チェン・クン)と角突き合わすチャンとその弟たち。こうして、チャンとホアンの知恵比べ、力比べが始まります....。

スチールをいただきそこねたので、以前にも使った香港版VCDカヴァーの写真でスミマセン。上の写真のチョウ・ユンファ始め、とにかく登場人物がみんなものすごいハイテンション。昨年3月香港で見た時は、どうせ言葉がわからないから、と格闘技観戦的な目線で見ていたのですごく楽しかったのですが、日本語字幕を読みながら彼らの機関銃のようなセリフを聞き、おまけにオーバーな身振り手振りを見ているのはなかなかに疲れました。

セリフのやり取りの速さには字幕翻訳者の方も苦労なさったようで、日本語字幕ではまれな並列表示字幕(と言えばいいんでしょうか、2つの字幕が一緒に並べられて画面に出る)があったり、片方の短いセリフは全部はしょってあったり、という箇所がありました。本当は、ギャグになっている言葉とか、いちいち解説されてればよかったんでしょうが、それはとてもムリムリのムリ。あとでパンフレットを買って確認していただくしかないですねー。

ギャグの例を1つ出すと、たとえば「馬が引く列車」。昔の日本には鉄道馬車があったそうですが、それですね。機関車の代わりに、何頭もの馬が2両連結の列車を引っ張っているのです。しかも、驀進しているんですから、すさまじい迫力です。その中では兵士たちに警護をさせて、県知事マーと妻、そして書記が巨大な火鍋を食べています。この馬が引く列車、「馬列車」がクセモノなんですね。

「馬」は「馬克思」、つまりカール・マルクスのことで、「列」は「列寧」、つまりウラジーミル・イリイチ・レーニンのこと。余談ながら、エンゲルスは「恩格斯」と書きます。マルクス・レーニン主義は「馬列主義」と言い、「主」と「車」はちょっと音が似ているので、「馬・列・車」、ああ、マルクス・レーニン主義のことかい、と中国の人はピーンとくるんですね。こういうのが随所にあって、それで中国人観客は大笑い、というわけです。

日本人でも、中国語がよくできて、中国の歴史や事情に詳しい方は相当に笑えるかも知れません。でもそれがわからなくても、権力というものがどんな風に掌握され、どんな風に崩壊していくのか、というのを、カリカチュアで楽しむことができます。ラストも皮肉たっぷりで、単純な勧善懲悪というか、どちらも悪なので悪が悪をこらしめてオワリ、という風にはなっていません。それも含めて、いろいろに解釈できる、含蓄ある作品なんですね~。真夏にはちょっと暑苦しいかも知れませんので、ご覧になるならお早めに劇場にどうぞ

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ラ・ワン』1円試写会 | トップ | 「ロードショーとスクリーン... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

中国映画」カテゴリの最新記事