アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

イポーでヤスミン・アフマド記念館を訪ねる(上)

2016-08-14 | 東南アジア映画

今回の旅の一番大きな目的は、イポーという町に行って、ヤスミン・アフマド監督の記念館を訪ねることでした。ヤスミン・アフマド(アハマドと表記されることも)は、『細い目』(2004)、『ムクシン』(2006)、『ムアラフ 改心』(2008)、『タレンタイム』(2009)など素晴らしい作品を世に出した女性監督で、2009年にまだ51歳という若さで急死してしまった人です。日本でも彼女の作品がいろんな機会に上映され、評価され始めた矢先の急死で、本国マレーシアはもちろん、日本でもその死はファンを嘆かせました。

Mukhsin PosterMuallafsg.jpgTalentime Poster

私と彼女の作品との出会いは、マレーシアの大御所監督ジャミール・スロン氏と奥さんのロスナニさんを訪ねた時に、「今、この映画がすごく話題になっているのよ」と『Sepet』こと『細い目』を教えてもらい、早速VCDを買って帰って見たのが最初です。多民族、多文化、多言語のマレーシアならではの恋物語なのですが、見たとたん、これは私のための映画だ、と思ったのが、ヤスミン作品に惚れ込むきっかけでした。台湾の金城武の写真で始まり、オープニングタイトルの曲はサミュエル・ホイの歌「世事如棋」、その後にタゴールの詩が出て来て、アミターブ・バッチャンの名前が言及される....。まさに、自分がこれまで関わってきた世界がこの作品にはモザイクのように散りばめられていて、すっかり虜になってしまったのでした。その年の秋、東京国際映画祭のアジア映画賞の審査員を引き受けた時に、たまたまこの『細い目』も対象になっていて、審査員3人全員一致で賞を差し上げたという、これまた幸運なご縁もありました。

Yasmin Ahmad'  Sepet 2004.jpg

『細い目』はイポーを舞台にしています。そのほか、ヤスミン作品には随所にイポーが登場することから、彼女の死後イポーに記念館「Yasmin at Kong Heng」が作られたようです。こちらがそのフェイスブックです、とアドレスを取ろうとしたら、何と私の写真がアップされていました。そう言えば、以前東京で会ってこの時再会したジャーナリストのジャヴィアンさんが、「FBに載せていい?」と言っていたなあ。ご自分のFBじゃなくて、こちらだったのね。説明が微妙に違うけど、まあこの時上映されたマレーシア映画『Jagat』を見るのも目的の1つだったので、よしとしましょう。『Jagat』のお話はまたあとで出て来ますが、マレーシア映画ながら全編ほとんどタミル語という作品です。そのお話の前に、これからイポーにいらっしゃる方のために、行き方等を少し書いておきましょう。

イポーはKLから北へ列車で約2時間の所にあり、ETSエクスプレスという特急列車が日に何本か走っています。上のようになかなかきれいな車両で、日本で言うと京成スカイライナーという感じ。料金は、KLセントラル駅から次のKL駅を経由してあとはノンストップ、という列車で46リンギット(約1,150円)、あちこちに泊まっていって2時間半ほどかかる列車は35リンギット(約875円)と格安です。問題は、切符(右写真)が買えるのが24時間前から、ということで、KLセントラル駅の地上階にあるチケットセンターでは、最初に番号をもらう時に必ず、「いつが旅行日ですか?」と尋ねられます。最初に買いに行った時、私が「The day after tomorrow」と言ったのを「Tomorrow」と聞き違えられたのか番号が渡されたので、その番号の順番が来るまで30分ぐらい待って窓口に行ったところ、「買えるのは24時間前からなんですよ~」と気の毒そうに言われてしまいました。「行きが朝で帰りが夕方なら、明日の夕方一緒に買いに来た方がいいですよ」と親切なアドヴァイスもしてもらったのですが、してみるとあまりすぐ売り切れるもんでもないんだな、と様子がわかってありがたかったです。


高い方の列車では、途中で飲食サービスもあり、小さなミロのパックと、オールブランなどのクッキーが出ました。車中では映画の上映もあり、行きは何か洋画をやっていたのですが、帰りは最初『Bajrangi Bhaijaan(バジュランギー兄貴)』をやっていて、それが終わったら『命ある限り』が始まりました。すごく贅沢なラインアップですね(でも、一部カットしてあったような気が)。


さて、ここでお話は突然、8月12日(金)の夜に戻るのですが、その日は前からお目に掛かりたかったマレーシア研究者のTさん、それから、KLの国際交流基金で働いておられるTさんの友人Kさんとうまくお目に掛かることができ、お二人の友人である映画のポスト・プロダクション制作者サマッドさん(上写真)とも引き合わせてもらったのでした。サマッドさんは1998年に半年ばかり芦屋南高校(現在はもう閉校になっているとか)に交換留学生として来ていたそうで、日本語もまだまださびつかずに話せる方です。で、その時Tさんがぜひ紹介したいと呼んで下さったのが、『Jagat(ワル)』の監督サンジャイ・クマール・ペルマル(Shanjhey Kumar Perumal)さんとプロデューサーのシヴァ・ペリアナン(Siva Perianan)さんでした(下写真)。2人ともインド系マレーシア人で、ベジタリアンです。


その時はまだ映画を見ていなかったので、一般的な話をしただけでしたが、聞くとサンジャイさん(右)とシヴァさん(左)も13日(土)の朝9時発のETSでイポーに向かうとのこと。彼らは上映素材を持参し、終了後のQ&Aに出るのだそうです。おお、ラッキー、それならイポー駅までどなたかお出迎えがあるはずだから、行き方が少々不案内でも辿り着けるわ、と思ったら甘かった。日本と違って、イベントにお招きした監督にもお迎えは特段ナシ、というのがどうもマレーシア・スタイルのようで、駅に着いた3人はちょっと途方にくれたのでした。私「歩ける距離でしょ?」、シヴァさん「いや、タクシーで行った方がいいかも」というわけでタクシーのチケット・カウンターに行ったら、「いやいや、歩いて行った方がいいよ」と言われて、行き方を教えてもらいました。


まず、駅を出ます。イポー駅もイスラーム建築とコロニアル様式が混じったような、素敵な建物です。駅前広場を突っ切り、広い通りを勝手に渡って(笑)まっすぐ行くと、右手に大きなモスク、州のモスクが見えてきます。


モスクの前でひとしきり悩んだ後、そこをさらに進み、次の四つ角まで行くことになるのですが、その途中、本日の上映のチラシが貼ってあるのを発見。サンジャイ監督にその横に立ってもらってパチリ。


左側を歩いて四つ角をそのまま渡ると、蔦の絡まるホテルがあります。その左横の小路を入って行くサンジャイ監督です。その次は、一番最初の入り口を右に入らないといけなかったのですが、ついその先に行ってしまいました。ここはイポーの中でもトレンディ・スポットという感じで、多くの観光客が集っていました。


いろいろサンジャイ監督とシヴァさんが聞いてくれて、「違ってた~」とわかり引き返します。すると、受付のテーブルが外に出た、ヤスミン記念館に行き当たりました。


何と、受付の机の上には、猫がねそべってお出迎え。ここで10リンギット(約250円)の入場料を払い、数種類あるヤスミン自筆のいろんな言葉をスタンプにしたものから、好きな言葉を選んで押してもらいます。私は「サラーム」にしました。


狭い階段を3階まで上がるのですが、その途中には、ヤスミンの写真や似顔絵などが飾ってあります。


部屋に入ると、すでに午後2時からの上映のために床には敷物が敷かれていて、壁に掛けられた写真を見たり、テレビ画面に流されているヤスミンのCFを見たりしながらみんな時間を潰していました。


ここの記念館のスタッフはみんなボランティアのようで、サフィア(Safia)さんという事務局長的な方の下に、ジャスティン(Justine Wan)さんという日本語もちょっとできる女子大生、そしてさっき受付をしてくれていた大学生のアフマド(Ahmad Sukri)君などがあれこれと立ち働いています。アフマド君(下写真)はUniversity Technology MARAの学生だそうで、ヤスミンの映画に出会ったのは彼女が亡くなってからとのことですが、いろいろよく見ていました。


さて、そこで2時になり、前述のジャヴィアンさん(下左写真の左端)やヤスミンの妹さんオーキッドさん(右写真)も到着して、『Jagat』の上映が始まります。会場はほぼぎっしり、といった感じで、マレー系の人、タミル系の人、華人がそれぞれ3分の1ぐらいずつ。5、60人入っていたでしょうか。オーキッドさんが「これで前の方から写真を撮って」とスマホを出してMCの人に頼みました。

ちょっと長くなるので、あとはまた明日に。



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2 コメント

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イポー (エドモント)
2016-08-19 19:44:55
cinetamaさん もの凄く行動的ですね。
イポーへ行かれたとのこと。以前blogでもイポーのことコメントしておられましたが、まさか初訪問とは思わなかったので、先日高津でお会いした際に、5月に駆け足ながらイポーを訪れた時の情報をお話いしませんでした。
実はETSは、週末クアラルンプール~イポー間かなり混雑します。
友人からWeb予約が可能との情報を得ていたのですが、土曜夜イポー着、日曜夜遅くにクアラルンプール帰着の予定だったので、たぶん大丈夫だろうと、当日クアラルンプール駅出札に行ったら、イポー行は最終のETSしか空席有りませんでした。その為深夜着となり、翌日曜日の帰路も、14時発までしか空席が無くそれ以降は全て満席でした。
従って、イポー滞在はほぼ半日となり、駆け足でイポー市街町歩き&食べ歩き、ヤスミン・ミュージアムを回る羽目になりました(笑)。
cinetamaさんは、平日でのイポー滞在だったのでしょうか?座席は確保が割と簡単だったよでなによりです。
ヤスミン・ミュージアムへの道筋もとても解りにくいので(こちらも友人から前情報ですんなりと辿り着きました)、お話しておけば良かったですね。失礼しました。
イポー名物の"もやし鶏"、"鶏の塩竃焼き"はお食べになって来ましたか?
エドモント様 (cinetama )
2016-08-19 22:02:06
コメント、ありがとうございました。

エドモントさんもイポーにいらしていたのですね。
そんなご苦労をなさったとは。

私は当初から、水~月のKL滞在中の土曜日にイポーに出かけることにしていて、日曜日は何かの時の予備日と考えていました。
ですので、前のTomoさんへのコメントに書いたように、
当日帰りの席が取れない時は泊まってもいい、と思っていたのです。
ここに書いたように、木曜日に土曜日のチケットを取りに行って一度敗退し、またあくる日金曜日の昼前に行ったら土曜日朝9時のチケットは問題なく取れ(しかも、写真のように先頭車両Aの窓際席が取れています)、旅行日当日の朝8時半ごろ行って夜7時半の帰途の席も取れた、という次第です。
帰途の席は最後尾車両Eの通路側だったので、多分席は残り少ない状態だったのではと思います。
私の場合は、混んだ週末だったのに幸運が味方してくれた、というところでしょうか。

ヤスミン記念館の位置はFBなどで確かめていたので、あまり迷わず行けると思っていたのですが、サンジャイさんとシヴァさんというマレーシア人お二人の顔をつぶしてはいけない、と思って、お任せにしていたのでした。
もしエドモントさんからうかがっていたら、もっと出しゃばっていたかも知れず(笑)、ちょうどよかったです。

”もやし鶏”の存在は知らず、昼はインド料理の安食堂に入ってしまいました(笑)。
あと、記念館近くにすごく流行っている食堂があり(上のサンジャイ監督の後ろ姿が見えている写真の先の方)、サテがとてもおいしそうだったので夕食に食べようと思っていたら、記念館を出た4時半頃にはもうその食堂は営業終了で、かなり残念でした。
サテの仇は、次の日の夜ブキットビンタンの野外食堂街で、サテ・アヤムとサテ・カンビンを5串ずつ食べて仇討ちを果たしました(笑)。

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