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第29回東京国際映画祭報告<その3>中国語圏映画が面白い!

2016-11-04 | 中国語圏映画

インド映画の報告が続きましたが、今回は中国語圏映画も面白い作品を何本か見ました。簡単にですが、ご紹介しておきましょう。

『メコン大作戦』
2016年/香港・中国/中国語・タイ語・英語ほか/123分/原題:湄公河行動/英題:Operation Mekong
 監督:林超賢(ダンテ・ラム)
 主演:張涵予(チャン・ハンユー)、彭于晏(エディ・ポン)

OperationMekong 

この作品はプレス上映プログラムには入っていなくて、当初見る予定ではなかったのですが、浦川とめさんのブログに「大当たり! ありがとうダンテ・ラム」とあったので、これは見なくては、と早起き(私にしては)してチケットを買って見たのでした。あとのQ&Aで司会のプログラミング・ディレクター石坂健治さんが、「この映画はどうしても大きなスクリーンでなくっちゃ、ということで、3回の上映のうち2回をスクリーン7にしました」と言っていましたが、まさにナイス!なご判断で、迫力に酔いしれる体験をしました。

お話は実際に起きた事件に基づいており、ゴールデン・トライアングルのメコン川で中国船が襲撃を受け、のちに全員が遺体で発見、船には大量の麻薬運搬の嫌疑がかけられた、という流れが冒頭で描かれます。中国政府は真相究明のために、タイ、ラオス、ビルマ(ミャンマー)各国と合同捜査本部をタイに開設、中国からは凄腕捜査官(チャン・ハンユー)が若き部下数名からなるチームと共に送り込まれ、タイに潜入している協力者(エディ・ポン)と手を携えて巨大な闇組織に立ち向かっていく、というのがストーリーです。タイ人俳優もそれぞれに個性的な悪役俳優が選ばれていて、さらに子役もうまく(というかちょっとかわいそうなんですが)使うなど、ダンテ・ラム監督の演出が冴え渡ります。この人、こんなにスケールのでっかい演出ができる監督だったかしらん、と見ている間中舌を巻いていましたが、もちろん主演の二人にも見せ場が山ほど。エディ・ポンはアッと驚く変身を見せてくれるし、チャン・ハンユーも「おぬし、役者やのう」的シーンが用意されていて、ファンにはたまりません。


終了後のQ&Aでダンテ・ラム監督は、「エディ・ポンは過去に何作品か一緒にやっていますが、とても好きな若手俳優です。今回の作品は相当大変だと思ったので、この役はエディにどうしてもやってもらいたかった。そうすると、自分が安心して演出できますからね」と言っていましたが、ハードなアクションシーンがたくさんあったので、「俳優には大変なトレーニングを重ねてもらいました。そうすることで役者は映画の中に入り込めますから」という、かなり厳しい要求が出された現場だったようです。こういったアクションシーンはフィクションなのですが、その他のロケ場所とかは7割方実際の現場だったところなのだとか。「ラスト近くのシーンで洞穴が出てきたり、野原に地雷が埋められていたシーンがありますが、あれも事実に基づいているんです」


また、中盤では、巨大なショッピングモールを舞台にした、チャン・ハンユーが化けた人物と麻薬組織の大物との顔合わせから銃撃戦になだれ込むシーンが登場しますが、そのモールの破壊ぶりもハンパではなく、よく撮れたなあ、とあきれるぐらいの出来になっています。「あのシーンは当初構想はしたものの無理かも、と思っていたんですが、スタッフがちょうどいい所を捜してきてくれました。ただ、モールのオーナーは映画撮影とは何か、ということがわかっていなかったらしくて、その後モール内の店を1軒1軒回って説明をしなくてはなりませんでした。お店は開けた状態にしてもらわないといけないし、エキストラもたくさん入れるのでお店の品物がなくなったりしてもまずいし、と気を遣いました。でも結局撮影時に店をたくさん壊してしまったので、弁済が大変でしたね。撮影中も、”いつ終わるのよ!”と毎日文句が出て、”もうすぐ終わりますから”と平謝りしていました。あのモールは二度と使わせてくれないと思います。日本でどこか、撮影に使わせてくれるショッピングモールがあると嬉しいんですが(笑)」。


というような大迫力の『メコン大作戦』、大きなスクリーンでの日本公開があるといいですね。


『ゴッドスピード』
2016年/台湾/中国語・広東語/111分/原題:一路順風/英題:Godspeed
 監督:鍾孟宏(チョン・モンホン)
 主演:許冠文(マイケル・ホイ)、納豆(ナードウ)、戴立忍(レオン・ダイ)、庹宗華(トゥオ・チョンホア)


続いて大いに楽しんだのが、『ゴッドスピード』。原題の「一路順風」、広東語発音なら「ヤッロウソンフォン」は、旅に出る人を送り出す時に無事を祈って言う言葉ですが、それと同じ意味の英語が「Wish you godspeed」。チョン・モンホン監督作品は、以前『4枚目の似顔絵』が2010年のTIFFで、そして『失魂』が2013年のTIFFで上映されています。今回の『ゴッドスピード』は、『4枚目の似顔絵』を思い出させてくれる作品で、監督お気に入りの俳優レオン・ダイと共に、『4枚目の似顔絵』でユニークな存在感を示したコメディアン、納豆(ナードウ)が出演しています。納豆はもちろん芸名で、林郁智(リン・ユーチー)という立派な本名を持っているのですが、チョン・モンホン監督作品での彼は、まさに「納豆」としか呼びようがない面白さ。『4枚目の似顔絵』で主人公の少年に「年青人(ニェンチンレン/年若いキミ)」とまじめくさって呼びかけるあのおかしみは、強烈な印象を残しました。『ゴッドスピード』でも、あの「年青人」を憶えている人が心くすぐられるセリフが出てきます。

©Creamfilm

物語は最初、ヤクザの親分バオ(レオン・ダイ)がタイにやってくる所から始まりますが、台湾を出る時手下が「一路順風」と言ったとかで、それが妙に気になっていた彼は、バンコクに着いたとたんトラブルに巻き込まれます(またタイか、なんですが、『メコン大作戦』にも出ていたタイ人俳優ウィッタヤー・パンスリンガムがこちらにも出演していました)。どうもヤクの流れがおかしい、と思ったバオは、帰国してトゥオ(トゥオ・チョンホア)の所を訪ね、彼の手下から不穏な空気をかぎ取ります。そこで、ヤクの運び屋を新聞広告で雇い、トゥオの所に運ばせようとするのですが、その求人に応募したのが納豆(納豆)でした。ややこしいバオの指示に従い、ヤクを持った納豆が乗ったタクシーの運転手は、人の良さそうな初老の男シュウ(マイケル・ホイ)で、二人は珍道中を重ねながらトゥオのアジトに辿り着くのですが...。

一路順風

寄り道・迷い道ムービーとでも言いたいような一筋縄ではいかない作品で、それが妙味につながっていっている秀作でした。香港返還の時に先を見限って台湾に移住してきた男、という設定のシュウ(許)役マイケル・ホイがさすがの貫禄で、『ミスター・ブー』シリーズを彷彿させるすっとぼけた演技を見せてくれます。このシュウと納豆の絶妙コンビが、変人ヤクザのレオン・ダイを喰ってしまっているのも面白く、ラストのオチは二人にしか醸し出せない人情味がたっぷり。う~ん、しかし、これはハッピーエンドと言ってしまっていいのだろうか...。「どうぶつのお医者さん」として陳玉勲(チェン・ユーシュン)監督がカメオ出演し、大いに笑わせてくれます。11月26日に発表される金馬奨にも各部門でノミネートされており、期待の1作です。


『八月』
2016年/中国/中国語/104分/原題:八月/英題:The Summer Is Gone
 監督:張大磊(チャン・ダーレイ)
 主演:孔維一(コン・ウェイイー)、(チャン・チェン)、(グオ・イエンユン)

 

1994年、中国は映画製作体制を劇的に変更し、各地にあった国の映画撮影所をすべて独立採算制にします。それまでは悠長な映画作りをしていた撮影所は大嵐に見舞われ、目端のきくスタッフがのしあがっていくようになるのですが、そんな年の8月を描いた作品です。舞台は内モンゴル。小雷(コン・ウェイイー)のお父さん(チャン・チェン)は撮影所の編集担当、お母さん(クオ・イエンユン)は教師でしたが、撮影所の体制改変、お母さんの実家の祖母の病気と逝去、小雷の進学問題等々、さまざまな出来事や事件が起きるうちに、やがて八月は終わりを迎えます...。

最初、モノクロ画面と90年代がどうしてもそぐわず、なかなか映画に入り込めなかったのですが、お母さん(上写真、眼鏡姿の中央後ろの女性)の存在感で徐々に映画の世界に引き入れられました。淡々とした出来事の羅列になっていますが、時代を切り取り、哀切を込めて呈示するには、モノクロ画面がぴったりだったのかも知れません。『オールド・ドッグ』や『タルロ』のペマ・ツェテン監督が製作総指揮を執っています。シャオレイ役のコン・ウェイイーは新人賞で金馬奨にノミネート。いつも手製ヌンチャクを持っていた、線の細い姿が思い出されます。


『ミスター・ノー・プロブレム』
2016年/中国/中国語(種々の方言を含む)/143分/原題:不成問題的問題/英題:Mr. No Problem
 監督:梅峰(メイ・フォン)
 主演:范偉(ファン・ウェイ)、殷桃(イン・タオ)、張超(チャン・チャオ)


コンペ部門にノミネートされた作品ですが、これがまたモノクロで撮られていたものの、こちらは舞台が1943年ということで納得。タイトルもレトロな文字になっていました。主人公たちのポスカが宣伝用に作られており、TIFFカフェでゲットした男優2枚に加え、上映終了時に女優のパートが配られていて、思いがけずコンプリートとなりました。「駱駝の祥子」や「茶館」などで知られる中国の文学者老舎の原作を映画化したもので、地方の金持ちの第三夫人、彼女の夫の農場を管理する忠実(そう)なマネージャー、外からやって来た芸術家青年を中心に、周囲にいる人々の様々な人間模様を描いたものです。舞台劇を思わせるような撮り方で、そのあたりも昔の中国映画を意識しているのでしょうか。舞台は重慶郊外ですが、いろんな方言が聞こえてきました。


終了後のQ&Aに登場したのは、メイ・フォン監督と、マネージャー役のファン・ウェイ、第三夫人役のイン・タオシー・イーホンの3人。イン・タオシー・イーホンは京劇女優だそうで、劇中でも夫と一緒に歌うシーンがあったのですが、とてもたおやかな感じの人でした。監督の弁によるとモノクロにしたのは、「1940年代の映画はみんなモノクロで撮られていました。ですからこの作品もモノクロにすると、当時がどんなカラーだったのか表現できると思ったのです」とのこと。そこで司会のプログラミング・ディレクター矢田部吉彦さんが、「何か当時の作品で、これをイメージして作ったという作品がありますか?」と質問。きっとあの答えを引き出す確信犯的質問だな、と思っていると、案の定監督から、「当時の映画で好きな作品はたくさんありますが、特に好きなのは『小城之春』です」というお答えが。

小城之春』は費穆(フェイムー)監督による1948年の作品で、のちに田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)監督が2002年にリメイク、それは『春の惑い』という邦題で公開されました。オリジナルの『小城之春』はフィルムセンターで上映された時に『田舎町の春』という邦題が付けられたようで、あるブログで「通訳はこの日本語タイトルを言うべきだった」という批判がされていましたが、私などは通訳さんが「しょうじょうのはる」と言ってくれたおかげで『小城之春』と瞬時に脳内変換でき、にんまりしたのでした。本作は最終日のコンペ結果発表で「最優秀芸術貢献賞」を受賞、賞金5,000ドルを獲得しました。おめでとうございます!

© Youth Film Studio

『シェッド・スキン・パパ』
2016年/中国=香港/広東語/100分/原題:脱皮爸爸/英題:Shed Skin Papa
 監督:司徒慧[火卓](ロイ・シートウ)
 主演:呉鎮宇(ン・ジャンユー)、古天楽(ルイス・クー)

 © Magilm Pictures Co., Ltd. & Dadi Century (Beijing) Co., Ltd

珍しく、香港映画がコンペ作品に選ばれました。ただ原作は日本の戯曲で、佃典彦作の「ぬけがら」。それを香港で舞台化したロイ・シートウ監督自身が映画化したものです。アルツハイマーで、世話をしている息子の映画監督(ルイス・クー)をいらだたせるだけの存在だった父親(ン・ジャンユー)が、ある日気がついてみると脱皮していて若返り、その後どんどん脱皮を繰り返す、という奇想天外な物語です。抜け殻が何とも不気味ですが、老けメークから最後には若作りになるン・ジャンユーの変身ぶりは、見ていて心弾みます。まあ、アルツハイマーというか認知症の描き方がだいぶ現実と違うぞ、という重箱の隅をほじくる(何せ、この間までそばでつぶさに見ていましたから)クレームや、ラストに出てくる監督名の字幕が、「謝霆鋒」は「ニコラス」になっていてOKだけど、あとは英語字幕に従った英語名になっていて残念、やっぱり「杜琪峰」は「ジョニー」、「陳可辛」は「ピーター」でしょう、というこれまた重箱の隅的不満もあるものの、新しい発想で楽しめました。日本映画へのオマージュも作中に出てきて、ご覧になった映画人の方は頬をゆるめられたことでしょう。

★  ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★

風邪に悩まされ(上映中に耳障りな咳をしていたのは私です、皆様すみません!)、従兄逝去の後始末に追いまくられ、さらに「OMG!」な韓流ドラマも真っ青の展開にストレスがマックスだった今年のTIFFですが、『ブルカの中の口紅』のアランクリター・シュリーワースタウ監督(「国際交流基金アジアセンター賞」の受賞、おめでとうございます!)にインタビューできたり、『ファイナル・ラウンド』のマーダヴァンと会えたりと、楽しいこともいっぱいありました。会期中にお目にかかれた皆様、また来年のTIFFで再会しましょうね! 今回のTIFFの受賞結果はこちらです。 



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4 コメント

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女優さん (マダム・チャン)
2016-11-09 06:20:55
QAに登場した京劇女優さんの名はイン・タオではありません。イン・タオは新しく赴任する主任の奥さん役の女優さんで、『蒼穹の昴』にも西太后の養女の役で出ていました。この京劇女優さんの名は私も失念しましたが、ステキな人でしたね。
マダム・チャン様 (cinetama )
2016-11-09 21:59:30
コメントでのご指摘、ありがとうございました。

すみません、今TIFFのプレス資料を調べましたら、「ワン・ズートン(女優)」(10月29日用の資料)と「シー・イーホン(女優)」(11月2日用の資料)というお名前が上がっていますが、私が見たのは11月2日なので、シー・イーホンさんなのでしょうか。
お名前の漢字がわからず、ネットで調べられないのですが、まずは「シー・イーホン」に訂正しておきます。
違っていたら、またご指摘下さい。
早く中国語版Wikiとかがアップされるといいですのにね。
シー・イーホン (マダム・チャン)
2016-11-10 07:30:29
はい、シーさんですね。私も11月2日に見ましたが
そう呼ばれていました。映画祭のプログラムの名前表記
がカタカナだけというのも困りものですね。中国で公開してなければ調べようがありません。
マダム・チャン様 (cinetama)
2016-11-10 22:25:11
コメントでのご確認、ありがとうございました。

本当に、カタログには氏名の漢字表記も入れてほしいですね。
氏名の漢字表記は監督名のみ、というのは残念です。
紹介をアップする時に調べるんですが、調べ切れないのでした....。

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