アジア映画巡礼

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第18回東京フィルメックスが始まりました

2017-11-21 | アジア映画全般

第18回東京フィルメックスが、11月18日(土)より開催されています。私の初日は11月19日(日)で、デジタル・リマスター版の『山中傳奇』(1979)で幕開け。実は以前にも見ていますし、DVD(↓何だか手抜きのパッケージデザインですが、2005年11月の発売です)も持っているのですが、張艾嘉(シルヴィア・チャン)のQ&Aがあるというので、それを楽しみにして見に行くことにしました。


『山中傳奇』の物語は、写経を頼まれてある山中の寺に出向く書生何(石雋/シー・チュン)が、途中で農夫(呉家驤)に出会ったり、ラマ僧(呉明才)や笛を吹く娘(シルヴィア・チャン)の姿を遠くに見かけたりしながら、やっとのことで目的地に着くと、手配をしてくれる崔(佟林/タング・リン)が出迎えてくれます。さらには、得体の知れない男(田豊/ティエン・ファン)や家主の老婆である王夫人、その侍女、そして王夫人の娘である樂娘(徐楓/シュー・フォン)らと顔を合わせることになります。招かれた王夫人の家で、何は飲み過ぎたのか樂娘が叩く太鼓の音に気が遠くなっていき、気がつくと樂娘と一夜を過ごしていました。結局何は樂娘を妻に迎えることになりますが、樂娘や王夫人はラマ僧を嫌っており、そこには深いわけがあるようでした...。


というような筋なのですが、今回のデジタルリマスター版はかなりしつこいヴァージョンで、こんなにくどかったかなあ、と帰宅後チラとDVDをチェックしたところ、時間も大幅に違っていました。DVDが117分なのに対し、デジタルリマスター版は何と191分! 後半は樂娘とラマ僧側との戦いが延々と続き、それも煙合戦、太鼓合戦が繰り返し登場するもので、見ていて睡魔に襲われてしまいました。DVD版の方がはるかにわかりやすく、楽しめます。短縮版も、デジタルリマスターしてくれればよかったのに。


終了後のQ&Aには、ジーンズとシャツ姿のスリムなシルヴィア・チャンが颯爽と登場。もう64歳だというのに、全然そんなお年に見えません。


で、市山尚三さんの司会により、Q&Aが始まりました。この日はシルヴィアは英語での受け答えで、お上手な英語通訳さんが登場。


市山:この映画はいくつものヴァージョンがあって、今回上映したのは長いヴァージョンです。シルヴィアさんは、この長いヴァージョンを今回初めてご覧になったのでは? 感想はいかがですか?

シルヴィア:この作品は39年前のものになります。私がとても若かった頃のもので、自分の姿をこういう形でみるなんて、という感じです。見ていて思い出したんですが、この作品ではスモークをいっぱい使ったので、キャストは皆ロケ地の韓国から帰国したら、レントゲン検査をうけなくてはいけなかったんです。何せ、黄色の煙、赤の煙、緑の煙といっぱい使って、それを吸い込んだものですからね。韓国で、1年半ぐらいかけて撮った作品です。


市山:この映画にお出になったきっかけをうかがいたいのですが、確か 山田宏一さんと宇田川幸洋さんの本「キン・フー武侠電影作法」にも、映画に出る前からのご家族の友人だった、ということが出て来ますね。

シルヴィア:胡金銓監督は家族ぐるみの友人で、私が映画界に入る前から知っていました。この『山中傳奇』は『空山霊雨』と同時に撮られていたのですが、韓国で1年以上にわたって撮られていたのです。キン・フー監督は韓国へ来てくれる女優を捜していらして、それで私に声がかかりました。で、韓国に行ったのですが、行って40日間は1カットも撮影されなかったのです。そのかわり、どうやってスモークを出すのか、とか、メークの仕方とか、エキストラの配し方とか、映画作りに関することを学ばされました。


市山:1年間ずっと韓国に?

シルヴィア:私は『山中傳奇』の前には李翰祥(リー・ハンシャン)監督の『紅楼夢』を撮っていました。リー・ハンシャン監督とキン・フー監督は親しい友人だったので、キン・フー監督はリー監督に対して「すぐに韓国へこさせてほしい」とおっしゃったようです。リー監督はちょっとイヤな顔をなさったんですが、「行ってきなさい」と言って下さって、韓国に行くことになりました。でも、リー監督からは、「あなたが行って撮るシーンはきっとカットされるから」と言われました。すると案の定、沼の所で笛を吹くシーンだったのですが、カットされてしまいました。
撮っている間はまったく休みなしだったのですが、一度だけ韓国が深い雪に見舞われて、1ヶ月間お休みになったことがありました。


:石雋とか徐楓とかの、撮影中のエピソードを教えて下さい。

シルヴィア:そんな環境だったので、私たちはみんな、一生の親友になりました。ですので、今年の金馬奨で徐楓さんは生涯貢献奨を受賞なさるのですが、そのプレゼンターに私を指名して下さいました。あの作品は山の中を歩き回るシーンが多く、すごく寒くて風も強かったんです。特に、ソラク山できのこを採りに行くシーンは、ホテルから45分ぐらいかかって歩いて行くのですが、気温が-16℃なんですよ。だから、俳優たちはお互いに助け合い、かばい合わないといけなくて、それで仲良くなったんです。


:助監督のフレッド・タンですが、彼が実際に演出したということはありましたか?

シルヴィア:それはなかったですね。フレッド・タンさんはもう亡くなりましたが、元はジャーナリストだった人で、いい友人でした。あの時は初めて助監督として現場に入り、どうしていいかわからない状態で、ショックを受けていたようでした。メロドラマの部分とかは撮影に関わっていたかも知れませんが、アクションシーンはすべてキン・フー監督が仕切っていました。


:リー・ハンシャン監督との、演出上の違いなどはありましたか?

シルヴィア:お二人とも美術監督出身ですが、リー監督は『紅楼夢』のようにスタジオで撮ることが多く、一方のキン・フー監督はあちこち行ってはロケをすることが多かったですね。実際の風景があると、俳優もその物語へスリップすることができます。キン・フー監督はリー監督ほど製作資金が潤沢ではなかったため、市場へフェイクのジュエリーを買いに行ったりして、そんな時にもご一緒しました。あと、キン・フー監督は日本へ来ては、和服の帯をいろいろ買ったりして、いろんな衣裳をお金をかけて集めていました。布に関するセンスもいい方でした。私はリー監督よりもキン・フー監督との方が親しくて、あれこれお仕事を一緒にしましたね。
そう言えば、『山中傳奇』の中で写経用に使う紙が青い紙で、チャイナ・ブルーと呼ばれていたんですが、それがなかなか見つかりませんでした。スタッフに香港で捜してもらってもなくて、シュー・フォンさんが台湾で捜してきたのも「違う」とおっしゃる。それで、私がある日韓国でオフの時に美術品の店に寄ったら、青い紙があったんですね。それを持って行ったら、「まさにこれだ!」と言われたこともありました。その紙が調達できないばっかりに、何ヶ月も写経のカットは撮れなかったんですよ。


:シルヴィア・チャンさんも監督として活躍してらっしゃいますが、同じ監督としてキン・フー監督をどう見てらっしゃいますか? 今回上映される監督作品『相愛相親』には、キン・フー監督の影響はあるでしょうか?

シルヴィア:キン・フー監督には、深い、深い愛情を抱いています。監督と女優という関係だけでなくて、それ以上、先生というか師弟関係だと言っていいと思います。キン・フー監督は生涯を映画に捧げた方でした。一生、ぶれなかった人、ですね。一つ、教えていただいたことがあります。選ぶなら、シンプルなストーリー、シンプルなテーマを選びなさい、そこから発展させていけばいい、ということでした。とても尊敬しています。

と、いっぱい語ってくれたシルヴィア・チャン。『相愛相親』も楽しみにしています。

 


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