アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

韓国映画つるべ打ち<3>『あの人に逢えるまで』

2017-06-10 | 韓国映画

前にもご紹介したように、今夏「ハート アンド ハーツ コリアン・フィルムウィーク」が開催されます。その上映作品を、続けてご紹介していこうと思います。まずは、短編映画なので、『春の夢』との併映になる予定の『あの人に逢えるまで』。『シュリ』(1999)、『ブラザーフッド』(2003)、『マイウェイ 12,000キロの真実』(2011)などの大作を手がけた、カン・ジェギュ監督の短編作品です。


『あの人に逢えるまで』 公式サイト 
2014年/韓国映画/28分/原題:민우씨 오는날/英語題:Awaiting
 監督:カン・ジェギュ
 主演:ムン・チェウォン、コ・ス

 ©2014 Big Picture

原題は、「ミヌさんが来る日」。香港国際映画祭が毎年製作しているオムニバス映画『美好』シリーズの『美好2014』に収録された4篇のうちの1篇で、中国語タイトルは「戀慕」でした。主人公はソウルの庶民的な住宅街に住む女性ヨニ。ヨニはもう長い間、「あの人」が帰ってくるのをずっと待っているのです。市場に行って食材を買い、おいしいお料理を作って、「あの人」こと「ミヌさん」を待つヨニ。近所の人は気さくにヨニに声を掛け、買い物の手助けなどをしてくれますが、彼らの目にはいつも同情するような光が宿っています。また、ヨニには、アメリカに在住する若い韓国人女性、ソラから時々連絡が入ります。そんな日々を過ごすヨニのところに、ある日役所から男女の職員がやってきて、「明日、あの人に会いに行きますよ」と告げます。ミヌさんに会える...。ヨニはご馳走を詰めた重箱を抱えて、北へと向かうバスに乗り込みますが、同乗者の多くは年老いた男女でした...。

 ©2014 Big Picture

『美好』シリーズは特にテーマが決められているわけではなく、毎年アジアのいろんな監督が、今持っている問題意識を映像にしていくシリーズです。今回カン・ジェギュ監督が選んだのは、「南北分断」のエピソードでした。朝鮮戦争の直前、「土曜には帰るから」と出張に出かけて行った「ミヌさん」。坂を下りていく背広姿が、今でもヨニの目に焼き付いています。その時からヨニの時間は止まったまま...ということで、現在のシーンで画面に登場するのは、若い時のままのヨニなのです。朝鮮戦争が勃発してから60数年、その間のヨニの生き様が少しずつ明らかになっていきますが、観客の目に入るのは若い姿なので、少々違和感を憶える時があるのも確か。ただ、カン・ジェギュ監督の巧みな脚本が、年月が経っても少しも色あせないヨニの思いを上手に表現していて、最後にはヨニの切ない思いに目頭が熱くなってしまいます。

  ©2014 Big Picture

ヨニを演じているのは、『神弓-KAMIYUMI-』(2011)でパク・ヘイルの妹役を演じたムン・チェウォン。大きな瞳がヨニのひたむきさを余すところなく伝えてくれて、この不思議な物語の成立を可能にしています。現在のヨニの本当の姿が見えるシーンも、瞬間的に、あるいは写真の中で登場するのですが、そこではベテラン女優のソン・スクがヨニを演じています。

 ©2014 Big Picture

そして見どころは、何と言っても「ミヌさん」に扮するコ・スでしょう。ほんの少ししか登場しないのですが、こんな素敵な人だったからこそ、ヨニがずっと待ち続けているのだ、と納得できるオーラを放っています。コ・スは以前、時代劇の『尚衣院-サンイウォン』(2014)紹介の時に「ハマリ役」と書いたのですが、今回もクラシカルな役柄にピッタリの雰囲気を醸し出しています。後日ご紹介したいと思っている韓国映画『ラスト・プリンセス-大韓帝国最後の皇女-』(2016)にも出ていますので、ファンには嬉しい連続登場ですね。

 ©2014 Big Picture

それにしても、「南北分断」がこれほど長く朝鮮半島に存在することになろうとは。統一への歩みは現在の北朝鮮政権下でさらに遠のいた感がありますが、離散家族の再会事業は今でも行われているのでしょうか。『あの人に逢えるまで』では、「ミヌさん」が86歳で生きていることがわかり、ヨニが他の離散家族と共に国境線を越えて会いに行こうとするものの、政治情勢に振り回されて実現しないシーンが出てきます。さらには、「ミヌさん」に再会できない不幸だけでなく、「ミヌさん」への思いにとらわれているヨニが意図せず不幸にしてしまった人々の思いも、劇中で描かれます。二重、三重に不幸の連鎖を作りだしている「南北分断」。先日ご紹介した『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』(2016)とは異なる叙情的な作品ですが、『あの人に逢えるまで』もまた、朝鮮半島に生きる女性の悲しみと苦しみを描いていて、胸を打たれます。28分という短編ですが、見応えのある作品ですのでぜひご覧になってみて下さい。予告編を付けておきます。

Awaiting JapaneseTitle Trailer web


 

『映画』 ジャンルのランキング
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 親友の素敵な詩集が届きました | トップ | 中国ドキュメンタリー映画上... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

韓国映画」カテゴリの最新記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。