アジア映画巡礼

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第18回東京フィルメックス:中国語圏映画秀作の数々

2017-11-29 | アジア映画全般

東京フィルメックスのレポートもこれで最後です。最後はまとめて中国語圏映画を3本見たのですが、いずれもが秀作で、とても力のある作品ばかりでした。Q&Aがない回だったのが残念ですが、監督をお見かけした作品もあったので、パチリしました。簡単にご紹介しておきます。 

『シャーマンの村』


 2017/中国/109 分/原題:跳大神/英語題:Immortals in the Village
 監督:ユー・グァンイー (于広義/YU Guangyi)


上の写真は、会場入り口でお見かけしたユー・グァンイー監督です。ユー・グァンイー監督のドキュメンタリー映画は、これまでにも『最後の木こりたち』(2007)、『サバイバル・ソング』(2008)、『独り者の山』(2011)といずれも東京フィルメックスで上映されています。『シャーマンの村』は中国東北部のある農村に住むシャーマンたちが主人公。いずれも男性で、”大神”と呼ばれる憑依体となるシャーマンと、”二神”と呼ばれるトランス状態に持って行くための太鼓を叩き、歌を歌うシャーマンとに分かれます。主人公と言えるのは、二神シャーマンのシュー。味のある声で精霊を誘う歌を歌い、大神シャーマンのニエに憑依させて、人々の病気を治したり悩みに答えたりします。シューは妻と2人暮らしで、豚や鶏を飼い、畑も作っています。シャーマンの厄除け儀式の収入は、660元、880元、990元と、約1万円~1万5千円ぐらい。ほかに護符を書いたりとサブ収入もありますが、どのシャーマンも村人の生活と変わらない毎日を送っています。監督は何年かにわたって二神シューをフォローし、彼が亡くなるまでの足跡を辿ります...。


シューよりも先に奥さんが亡くなるのですが、「こんなボロ家撮って面白いの?」と言ったりする、大人しいけれどしっかりした奥さんで、亡くなったあとシューは「儀式は疲れるよ。生きるのにも疲れた」と気力をなくします。そんな、老年にさしかかった夫婦の愛情物語という側面でもみることができ、民俗学的な記録と共に強い印象を残します。実はこの日の午後、専修大学では土屋昌明研究室等の主催により、ユー・グァンイー監督の『最後の木こりたち』の上映があり、監督のトークも行われたのです。その終了後に監督はフィルメックスでの上映に顔を見せて、観客の入場時と退場時に入り口に立ってくださったのでした。下の写真は、左から映像作家・批評家の金子遊さん、専修大の土屋昌明先生、ユー・グァンイー監督、そしてフィルメックスのプログラム・ディレクター市山尚三さんです。

 


『相愛相親(そうあいそうしん)』


 2017/中国、台湾/120 分/原題: 相愛相親/英語題:Love Education
 監督:シルヴィア・チャン (張艾嘉/Sylvia CHANG)

今年のフィルメックスのオープニング作品『相愛相親』をやっと見ることができました。舞台は中国の中部あたり。母親を亡くした中学校の教師慧英(ホェイイン/シルヴィア・チャン)が、田舎にある父親の墓を街に移し、母親の遺骨と一緒に埋葬しようと考えたことから様々な問題が起きてきます。ホェイインは「母がいまわの際にそう言った」とかたくなに譲ろうとせず、自動車教習所教師である夫孝平(田壮壮/ティエン・チュアンチュアン)や娘の薇薇(ウェイウェイ/郎月婷/ラン・ユエティン)は困惑気味。ホェイインの父親の故郷には、父親の最初の妻であるナーナー(呉彦妹/ウー・イェンメイ)が住んでいて、お墓をずっと守ってきたのでした。3人がナーナーを説得しようと田舎に行ってみると、案の定ナーナーは怒り、村人の後押しを受けて3人を追い返そうとします。TV局に勤めるウェイウェイは一部始終を撮影し、番組に使えないかと考えます。また、ウェイウェイはロック・ミュージシャンの阿達(アダー/宋寧峰/ソン・ニンフォン)と付き合っており、ついには同棲状態に。いくつもの問題が起きる中、ホェイイン、そしてナーナーはどういう結論を出すのでしょうか...。


見ている時から「父親の骨を分骨すればいいのでは?」と思っていたのですが、見終わったあと友人と話していて、さらない疑問が。街で亡くなった父親は「故郷に埋葬してくれ」と言ったのか、遺体がそのまま故郷に運ばれ、埋葬されて畑の真ん中に土饅頭の墓ができています。ただ、画面に映る白髪頭の父親の写真からすると、亡くなったのは老年になってからで、おそらく10年ぐらい前では、という感じです。その時にはすんなりと父親の埋葬を認めながら、なぜ今になって娘は遺骨となった父親を街に戻そうとするのか、さらには亡くなった当時なぜ火葬にしなかったのか、等々、いろんな疑問がわいてくる作品でした。脚本もシルヴィア・チャンともう1人の合作ですが、コメディにするために無理な展開になってしまったのでは、と思われます。金馬奨でも最優秀作品賞、監督賞、主演男女優賞、助演女優賞等にノミネートされていましたが、受賞はナシでした。予告編を付けておきます。

 金馬獎最佳影片等7項提名【相愛相親】HD中文電影預告

 

『天使は白をまとう』


 2017/中国/107 分/原題:嘉年華/英語題:Angels Wear White
 監督:ヴィヴィアン・チュウ (文晏/Vivian QU)

これも金馬奨で最優秀作品賞、監督賞等にノミネートされ、ヴィヴィアン・チュウ監督が見事監督賞を受賞した作品です。原題の「嘉年華」とはカーニバルのことで、主人公は中学生の少女小文(シャオウェン)と、海辺のホテルで働く少女ミア(文淇/ウェンチー)。ミアは身分証がないため、ホテルの掃除係としてモグリで働いているのですが、フロント係の先輩がボーイフレンドとのデートでミアにフロントを任せた時、中学生の少女2人を部屋に連れ込む劉局長を監視カメラで見つけます。その中学生がシャオウェンと新新(シンシン)でした。後日この件が明るみに出て、シャオウェンとシンシンは親に叱られた上、病院で検査を受けさせられたりしますが、警察当局としては何とかうやむやのうちに終熄させたい気配が見え見えでした。ホテル側は知らぬ存ぜぬで通しますが、実はミアは監視カメラ映像を自分の携帯で撮影していて、それを証拠に劉局長から金を引き出そうとします。村から逃げてきて身分証のない彼女は、身分証を手に入れるために多額の現金を必要としていたのでした...。

Angels Wear White.jpg

舞台となる海辺の街には、海岸に巨大なマリリン・モンローの像がそびえていて、その、風に吹き上げられて白いスカートを翻す像が、女性の性を示すものとして象徴的に使われます。また、遊園地のような施設もあり、妻とは別居しているシャオウェンの父がそこで働いているという設定になっていますが、さびれたその施設は、一時は繁栄したもののその後人々から見捨てられた地方都市をこれまた象徴しているかのようのです。そんな状況の中で、男たちの権力や暴力、そして金力に踏みにじられながらも、強い瞳を彼らに向ける2人の少女がとても印象に残る作品でした。ヴェネチア国際映画祭のコンペに選ばれた作品で、前述のように金馬奨の最優秀監督賞を受賞したほか、本作で主演女優賞、『血観音』で助演女優賞にノミネートされていたウェンチーは、後者で助演女優賞を受賞しました。まだ14歳だそうで、その才能恐るべし、といったところです。シャオウェンを演じた少女も圧倒的な存在感を放っており、監督の演出力の確かさを見る思いでした。予告編を付けておきます。

《嘉年华》改档11.24曝预告



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