アジア映画巡礼

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香港国際映画祭総括<1>この韓国映画がすごかった!

2012-04-04 | 韓国映画

現地から何度かアップした香港国際映画祭ですが、まだまだご報告したいこと、ご紹介したい作品がいっぱいあるので、3回ほどに分けてまとめてみたいと思います。で、まずは韓国映画をまとめてご紹介。香港国際映画祭は、いつもインディーズ系の作品の紹介に力を入れているのですが、今年の韓国映画は特にバリバリのインディーズ系作品が揃っていました。

『棘』 (Choked) 

    監督:キム・ジュンヒョン 
  出演:オム・テグ、パク・セジン、キル・ヘヨン、ユン・チェヨン、ユン・スア、ハ・テソン

主人公の青年(オム・テグ)は、地上げ屋と言ってもいい建設会社に勤務。恋人(ユン・チェヨン)はモデルルームの案内嬢として勤務していて、その豪華な部屋で2人は時々デートします。そろそろ結婚を考えている2人なのですが、「あなたのお母様に紹介して」と言われても青年は生返事。というのも彼の母(キル・ヘヨン)は、健康食品を扱う詐欺まがいの商売をしていて、舌先三寸で人を丸め込むそのやり方に彼は嫌悪感を抱いているのでした。

そんなある日、母が失跡してしまい、彼の住むマンションには、被害にあった女性(パク・ヘジン)が押しかけて来るようになります。その女性は離婚後、幼い娘が夫のもとに行ってしまったため、プレゼントをして娘の歓心を買おうと儲け話に飛びついたのでした。母の失跡を境に、青年は警察沙汰やヤクザの脅迫に巻き込まれ、どんどん窮地に陥って行きます....。

これでもか、これでもか、という負のスパイラルが描かれ、救いはまったくありません。主人公の青年と、サブの主人公とも言える騙された女性の境遇は、あがけばあがくほど悪い方へと進んでいきます。とはいえ、ほんの一瞬、人間らしい温かさを感じさせるシーンが出現します。結局警察に捕まった主人公の母が釈放される時、騙された女性が、かつて彼女に抱いていた好意を捨てきれず迎えに行ったり、無理矢理地上げ書類にハンコをつかせた主人公が自分の犯した罪に動揺するシーンなどです。人間の複雑さを冷徹なまなざしで描くキム・ジョンヒョン監督(下写真)、タダモノではありません。

出演者はいずれも、監督の演出によく応え、見る者を引き込んでくれます。特に主人公役のオム・テグと、その母親役キル・ヘヨン、そして騙された女性役パク・セジンは名演でした。作品を見ている間中、オム・テグが誰かに似ている~、と気になって仕方がなかったのですが、今書き出してもう一度考えてみると、言承旭(ジェリー・イエン)にそっくりなのです。そうかー、それでよけいに引き込まれたのか...。 

『[口卒]啄同時』 (Stateless Things)  公式サイト

    監督:キム・ギョンムク 
  出演:イ・バウル、ヨム・ヒョンジュン、キム・セビョク、イム・ヒョングク、キム・ジョンソク、ソ・ヒジョン

「[口卒]啄同時」というのは禅の用語だそうで、下のように解説されています。

臨済禅 黄檗禅 公式サイト」より
”「[口卒]啄同時」という禅語があります。[口卒]啄同時とは、鶏の雛が卵から産まれ出ようとするとき、殻の中から卵の殻をつついて音をたてます。これを「口卒」と言います。そのとき、すかさず親鳥が外から殻をついばんで破る、これを「啄」と言います。そしてこの「口卒」と「啄」が同時であってはじめて、殻が破れて雛が産まれるわけです。これを「[口卒]啄同時」と言います。これは鶏に限らず、師匠と弟子、親と子の関係にも学ぶべき大切な言葉です。”

物語は、ソウルのガソリンスタンドで働く脱北者の男女がまず登場します。ガソリンスタンドの経営者から不法残留者と見破られ、こき使われる青年と少女。少女に好意を抱く青年は、彼女にセクハラしようとした経営者が許せず、経営者を殴って2人で逃げることに。それまで観光するヒマもなかったソウルの街を2人で歩いた後、少女は自分の住まいに青年を誘います。ところがそこに、居所を突きとめた経営者が現れて...。

もう一つのストーリーは、高級マンションに囲われている男の子が主人公。主人である金持ちのビジネスマンがやってこない時は、ライブハウスで歌ったり、ほかの男と寝たり。やがて彼は、生活に困って男娼のような仕事を始めた元ガソリンスタンド勤めの青年と出会うのですが....。

最初は脱北者同士の純愛物語かと思って見ていたのですが、だんだん様子が違ってきます。最終的にはゲイ・ムービーに着地、とはいえ、ハイティーンの若者3人の痛々しいまでの姿にこちらも胸が痛んできました。過激な性描写は好きではありませんでしたが、ソウルという街の闇にひっそりと息づく青春を見せてもらった気分です。特に冒頭、青年がガソリンスタンドで黙々と働き、そのほかにチラシ配りのバイトなどをこなして必死に生きていく様は、ほっぺの赤い高校生にも見えるその姿ゆえにグッときます。でも、同僚の少女が脱いでいった制服の匂いを嗅いだりするんだよなあ....。「[口卒]啄同時」も、どれを指しているのかよくわからないし。

いろいろググってみたら、キム・ギョンムク監督(上写真)は前作『清渓川の犬』 (2008)でもセクシュアリティをテーマにしていた模様。私としては、脱北者@韓国というテーマの方が見たかったのですが、監督の描きたかったのはどうもそちらではなかったようです。
 

『ソウルからベナレスへ』 (From Seoul to Varanasi)

  監督:ジョン・ギュファン
  出演:ユン・ドンファン、ムン・ソンヨン、チェ・ウォンジョン

ベナレス、正式にはヴァーラーナシーと呼ばれるインドの聖地がタイトルに入っていたので見始めたのですが、これも力はあるものの、奇妙な作品でした。出版社と書店を経営する社長(ユン・ドンファン)は、女性作家(ムン・ソンヨン)と浮気をしています。ホテルや彼女のマンションで関係を持つ2人。その赤裸々な性行為シーンがたびたび挿入されます。一方社長の妻(チェ・ウォンジョン)はヨーガを習っており、その帰途、あるレストランの看板と接触事故を起こしたことで、レストランで働くレバノン人と親しくなります。レバノン人はヨーガ教師の友人でもありました。

ソウルには頼る人もいないレバノン人に、徐々に心を寄せていく妻。レバノン人は、イスラーム教徒過激派の男にリクルートされ、ベナレスへと旅立ちます。それを追って妻はインドへ。突然の妻の失跡にわけがわからない夫は、いろいろ調べて妻はベナレスにいると突きとめ、彼女を迎えにインドへと向かいますが...。

まず、時制があちこにち飛ぶので非常に理解が大変です。時制が飛ぶ、ということは、その舞台である場所も移動するわけで、ソウルの各所とインドとが目まぐるしく立ち現れては消える繰り返し。そして、その間に挟まれる不倫シーンの数々。ちょっと、映画に悪酔いしてしまいます。

それでも何か訴えかけてくるものがあればいいのですが、イスラーム教徒過激派の理解も表面的で、彼らが「ベナレスのレストランで自爆テロを起こす」という設定に到っては、もう何をか言わんや。バリ島のレストランでのテロ事件を意識しているのでしょうが、あれは西洋人が多くたむろしていた場所だから狙われたのであって、ベナレスのあんなレストランを狙ってもなー、という感じです。ヒンドゥー教徒にケンカを売るなら黄金寺院に、西洋人をターゲットにするなら、2008年のムンバイテロ事件でターゲットになったような超高級ホテルで事を起こすが当然でしょう。というわけで、これは私にとっては説得力のない作品でした。

ほかにもホン・サンス監督作品『北村の方向』(The Day He Arrives)もあったのですが、これは見られず。日本でもビターズ・エンドの配給が決まっているので、そちらで見せていただくことにします。

*第36回香港国際映画祭提供

 

 


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