アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

タイ映画博物館に行ってきました

2015-08-11 | 東南アジア映画

ずっと行きたかったタイ映画博物館に行ってきました。タイ在住の友人が車で連れて行ってくれたのです。場所はバンコクの西の郊外、ナコーンパトムにあり、住所としては次のようになるようです。

Thai Film Museum

Hwy 3414, Salaya, Nakhon Pathom 73170, Thailand, Salaya, Thailand

バンコクからハイウェイを30分ぐらい行き、ちょっとUターンしたあと左折すると、Rajamangala Univ. of Technologyが見えます。その隣にこぢんまりと存在しているのがタイ映画博物館。道路からの外見はこんな感じです。右のように、「映画史料館(FILM ARCHIVE)」という標識があります。裏から見ると、立派な建物が書き割りだというのがモロわかりますね。


入場は無料。門を入ってすぐ広場があり、その正面が様々な映画史に関する展示をしているこの特徴的な黄色い建物なのですが、今は1ヶ月間の閉館期間だとかで、中が見られず残念でした。展示替えをしているのかも知れません。敷地内にはボランティアとおぼしき若いスタッフが数人いて、見学者が来るとすぐガイドしてくれるものの、彼らは英語がそれほどできないため、外国人相手の説明は最低限という感じでした。タイ人相手には能弁に説明していましたので、知識は豊富に持っている人たちだと思います。


この黄色い建物の向かいにあるのが、エジソンのキネトスコープ(のぞき眼鏡方式で映画を見せる装置)を並べた建物。10数台入っていて、10バーツ入れると中のフィルムが見られるようになっています。「猫のボクシング」とか「日本の踊り」とか、ほんの1分ほどの作品がいろいろ見られて楽しめます。


その横には、リュミエール兄弟がシネマトグラフを初めて上映したパリのホテル(グラン・カフェ)を模した建物が(下右)。中には小さなカフェがあり、地下にはリュミエール兄弟が上映に使った広間「サロン・インディアン」まであるという凝りようです。この日は地下のサロンではパーティーか何かをやっていたようで、地下の見学はできませんでした。


このグラン・カフェのこっち側というか隣は小さな映画館になっていて、時間を決めてサイレント映画が上映されています。この日は『大列車強盗』(1903)でした。下の写真は、座席数15席ほどの劇場の内部です。


外に出てみると、広場に敷いてあるレールの上に、スタッフの人がミッチェルらしきカメラを据え付けていました。


あと、広場を囲む建物としてはスーペニア・ショップがあります。ここにはタイ映画の歴史に関する本(残念ながら全部タイ語)や、ラット・ペスタニー(ローマナイズは「Ratana Pestonji(ラトナ・ペストンジー)」で、インド系、それもパールシーの名前であることがわかります)監督作品のDVDなどが売られていました。ラット・ペスタニー監督は以前国際交流基金アジアセンターで特集上映がなされ、『地獄のホテル(Rong Ram Narok)』(1957)や『黒いシルク(Prae Dum)』(1961)が上映されましたが、タイ映画史の中では、現代タイ映画の基礎を作った監督という位置づけになっているようです。今回見られなかった展示には、彼に関連するものがたくさんあったようでちょっと残念でした。

ショップではラット・ペスタニー作品のDVDや、日本で言えば石原裕次郎的な存在だったミット・チャイバンチャーの記念切手、古いタイ映画のスチールを使った絵はがきなどを買って、その後黄色い建物の奥にある映画館へ。ここでは過去の作品の上映が時折あるようです。

そこからは野外展示というか、タイで映画が撮られ始めた初期の頃の撮影風景を模した彫像展示(この水中撮影の写真は、タイ映画史の本によく登場します)などのある一画へ。


その脇には本物の汽車と客車が。客車内はコンパートメントが展示場になっていて、そこに「映画と鉄道の関係」が説明してあるのですが、実はタイで最も早く映画を製作し始めたのは、タイ国鉄に作られた映画部だったのです。


コンパート内では、タイ映画の歴史を辿る撮影風景や撮影機材のほか、スクリーン・プロセス感覚で窓の外を風景が走って行く装置もあったりしました。また、鉄道に関係する映画のワンシーンを集めた映像も上映されていました。

さらにその近くには、1台の小型バスのような自動車が。屋根の上にはスピーカーが備えられています。実はこれ、戦後間もなくから1970年代頃まで、薬屋さんが映画上映に使っていた自動車なんですね。地方の村々に出向き、映画上映を餌に客を呼んで薬を販売していたわけですが、経費を抑えるためにこれら薬屋さんが上映する作品はみんな16ミリのサイレント映画でした。運びやすいのと経費削減で16ミリフィルムにし、加えて音声を入れないことでさらに経費を浮かし、薬屋さん自身が弁士役をして上映していたのですね。その時代に活躍していたのがこの車、というわけです。


そんな風に半日近くこのタイ映画博物館で遊んできました。ただ、問題もあって、1.バンコク市内から遠い、2.英語の説明や印刷物などが皆無に等しい、3.スーベニア・ショップがあまり充実しておらず、商品がショボい、といった点などが気になりました。タイ映画絵はがきもタイ語のみの説明であるなど、外国人訪問者に対する配慮はまだまだこれからというところのようです。おいでになりたい方は、タイ語がよくできる方と一緒に行かれることをお勧めします。私の場合も、友人がかなりタイ語ができるので、いろんな場面で助かりました。

このタイ映画博物館ができるまでの経緯などは、こちらのブログにいろいろ書かれています。タイ映画史についても解説がなされていますので、ぜひご参照下さい。


ここでもらってきた「フィルム・アーカイブ・ニュースレター」(左)もタイ語で、読めなくてかなり残念なのですが、シリントーン王女が訪問した時に出迎えている人々の中に「あれ、この人は?」という顔を発見(右)。白髪と白いヒゲで面差しが変わっていますが、映画史料館の館長をしていたドーム・スックウォンさんです。実は私はこの博物館ができる前、確か2003年にまだ仮の史料館だった頃に一度お邪魔して、研究員のチャリダーさん、そしてドームさんにすっかりお世話になったのでした。ドームさん、お元気そうで何よりです。

もう一度、今度は展示が見られる時に来たいと思っていますが、その時にはさらに内容が充実し、外国人も気軽に見学できる施設になっていてほしいものです。がんばれ、タイ映画博物館! 



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