バンコクに来ています。バンコクは日本よりずっと涼しくて、夕方などは爽やかなぐらい。1日中冷房の中にいた身には、外の少しの暑さがかえってありがたいです。
冷房の中にいた、ということはつまり、昼間はずっとシネコンで映画を見ていたのでした。ターミナル21というショッピングモールにあるSFシネマシティ系のシネコン(左)と、エカマイのメジャー・シネプレックス系シネコン(右)で見たのですが、1本はハリウッド映画『嵐の中へ(Into The Storm)』(2014)だったので、こちらのご紹介はパス。オクラホマ州を襲うトルネード(竜巻)を描いたもので、CGがすごい迫力でした。それが時間つぶしで、お目当ては15時35分から1日1回だけ上映しているサルマーン・カーン主演作『キック(Kick)』。インドでは7月25日に公開され、現在もヒット中で、Wikiによると製作費10億ルピー(約17億円)で現在の興収が全世界で35億4240万ルピーというのですから、ブロックバスター級のスーパーヒットです。
監督は、製作者として名高いサージド・ナーディヤードワーラー。プロデューサーとしてはすでに20年のキャリアがありますが、監督作品は初めてです。脚本には、サージド・ナーディヤードワーラーと共にラジャト・アローラー、キース・ゴメスという名前がクレジットされ、さらには人気作家チェータン・バガト(『きっと、うまくいく』の元ネタになった小説の著者。他にも彼の著作はたくさん映画化されています)の名前も入っています。その上予告編を見ると、『チェイス!』(2013)にも、そしてリティク・ローシャン主演の仮面のヒーローもの『クリシュ3』(2013)にも似ているような...。これは期待が高まります。
調べてみると、『キック』は2009年のテルグ語映画『キック』のリメイクでした。テルグ語版の主演はラヴィ・テージャーと、『バルフィ!人生に唄えば』のイリヤーナー・デクルーズ。オリジナル版では最初の舞台がマレーシアのクアラルンプルになっていたりと、今回の『キック』とは少し違っているようです。
さて、今回の『キック』はポーランドのワルシャワからお話が始まります。インドの文化担当官である父(ソウラブ・シュクラー)、祖母、妹と共にワルシャワに住んでいるサーイナー(ジャクリーン・フェルナンデズ)は精神科医。父始め家族はみんな、早く結婚しろとサーイナーにうるさく言い、父はサーイナーの見合い相手までセッティングしてしまいました。その相手とは、仕事でワルシャワにやってくるデリーの刑事ヒマーンシュ(ランディープ・フダー)。空港に彼を迎えに行かされたサーイナーは、電車で市内へ移動する間に、お互いに忘れられない人物のことを語り合います。
サーイナーの忘れられない人は、デリーで出会ったデーヴィー・ラール・シン(サルマーン・カーン)でした。サーイナーは友人の結婚式のためにデリーに行ったのですが、友人は親の反対を押し切って駆け落ち婚をしようとし、それを八面六臂の活躍で成功させたのがデーヴィーだったのです。最初は変な自動車の運転手として現れたデーヴィーを、この教養のない乱暴者、という目で見ていたサーイナーでしたが、本当は彼は知識も教養もある男であることを知って驚きます。ただ、デーヴィーは常に「キック(人生の刺激)」を求めていたので、どんな職業にも満足できずすぐにやめてしまうため、常にプー太郎だったのです。父(ミトゥン・チャクラボルティー)と二人して酔っぱらうデーヴィーにあきれるサーイナーでしたが、やがて彼に惹かれていきます。でも、結局は仕事をやめてしまうデーヴィーにサーイナーは愛想を尽かし、彼と別れてワルシャワへ戻ってきたのでした。
一方、ヒマーンシュの忘れられない人物は、泥棒のデヴィル(サルマーン・カーン)。ヒマーンシュが逮捕しようとしてできなかった大泥棒です。デヴィルは大金持ちや政治家から大金を盗み出し、その場に自分のマスクを置いてくるのですが、デヴィルに狙われた人々は必ずある男と関係がありました。その男とは、内務大臣の甥で、チャリティ活動もしているシヴ(ナワーズッディーン・シッディーキー)。ヒマーンシュはデヴィルがワルシャワに現れるという情報を掴んでやってきたのですが、シヴもまた、叔父の大臣と共にワルシャワ訪問にやってきます....。
今回の『キック』はかなり楽しめました(今年初めのサルマーン・カーン主演作『ジャイ・ホー』はイマイチでしたからねー)。途中まで、デーヴィーとデヴィルが同一人物なのか、それとも別人なのか、はたまた....というサスペンスでぐぐっと引っぱってくれます。アクションシーンも見応えがあり、特にワルシャワで撮られたカーチェイスは手に汗握りました。そんなにワルシャワの街を壊していいのか、ちょっと心配になるぐらいでした。(あれ、ホントに壊してるよね??)
デリーでのアクションシーンでは、自動車の後ろ半分+オートバイという変な乗り物が大活躍。そこには『ダバング 大胆不敵』の着メロ下っ端ギャング(憶えてますか、あの面白い顔の人)と共に、”チュルブル・パンデー”も特別出演、大いに笑わせてくれます。
アクションシーン以外では、デリーのシーンはド派手に、ワルシャワのシーンは格調高く、とメリハリも効いていて楽しめるのですが、残念ながらというかやはりというか、脚本が大ざっぱすぎてだんだんと意気消沈してきます。つぎはぎだらけのようなエピソードの積み重ねやら、途中から突然シヴが現れる不自然さなど、脚本のまずさは致命的で、『チェイス!』のように緊迫感が持続する作りにはなっていません。
そして、本来なら演技のうまいランディープ・フーダーやナワーズッディーン・シッディーキーも、かなりもったいない使い方をされています。サルマーン・カーンを目立たせるように、編集段階で彼らのシーンが相当削られたのかも。
あと、『チェイス!』が連想される、という指摘はインドの記事にも出ていましたが、父親役のミトゥン・チャクラボルティーとのシーンは、アクシャイ・クマール主演の『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』(2009)を思い出させてしまいます。こんな風に、デジャヴ感があちこちに漂うのもちょっと残念です。
ただ、本作には大きな魅力があります。それは、ヒロインのジャクリーン・フェルナンデズ。ワルシャワのシーンでは、灰色や黒などモノトーンの服にメガネ、というストイックな姿で現れるのですが、メガネ越しのその目力にはクラクラ来てしまいます。元モデルだけあってスタイルも抜群で、デリーでのガーグラー・チョーリー姿や、ソング&ダンスシーンで黒のワンピースを脱いで赤いレースの服姿になって踊るシーンは見応え十分。ダンスもうまく、サルマーン・カーンはいいから彼女だけ見せて、と言いたくなるこんなシーンも。「金曜日の夜に(Jumme Ki Raat)」という歌ですが、本編ではもっとたっぷりとジャクリーン・フェルナンデズの踊りが見られます。
踊りと言えば、ナルギス・ファクリーが特別出演してる歌「恋人がいなかったら(Yaar Naa Mile)」もとっても魅力的。ナルギス・ファクリー、こんなにセクシーでダンスがうまかったとは! こちらです。
ジャクリーン・フェルナンデズ(上の写真はWikiより)はスリランカ出身。お父さんはスリランカ人で、お母さんがマレーシアとカナダのハーフなのだとか。ミス・スリランカに選ばれたあとモデルとなり、その後日本でもDVD化されている『アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター』(2009)でデビュー。2011年の『殺人2(Murder 2)』では、イムラーン・ハーシュミー相手に不思議な存在感を見せてくれました。そして、『キック』でいよいよ人気女優の仲間入り、というわけです。彼女をメインにした映画を作っても面白いのでは、と思わせられるほど、魅力に溢れていました。
明日はタイ映画を2本ほど見たいと思っています。今回はあまり動き回らず、映画を見ることに専念する予定です。そうそう、タイの国歌演奏フィルムはまだ上映が続いており、全員起立も守られています。国歌演奏フィルムは映画館のチェーン毎に作られているのですが、SFの方のは国王のご病気を考慮してか、ちょっと沈んだ調子のものでした。