アジア映画巡礼

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韓国映画つるべ打ち<4>『ラスト・プリンセス -大韓帝国最後の皇女-』

2017-06-14 | 韓国映画

バラエティに富んだ作品が、この夏次々と公開される韓国映画。その中でも、スターのオーラが輝く作品であり、日本との関係性も考えさせてくれる歴史映画が登場しました。原題を「徳恵翁主」という、『ラスト・プリンセス -大韓帝国最後の皇女-』です。1910年代から1960年代までが描かれ、近代から現代にかけての日韓両国間における、日本ではあまり知られることのなかったエピソードが次々と画面に登場します。監督は、『八月のクリスマス』(1998)や『四月の雪』(2005)のホ・ジノ監督。まずは基本データをどうぞ。

 © 2016 DCG PLUS & LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

『ラスト・プリンセス -大韓帝国最後の皇女-』 公式サイト

2016年/韓国/127分/原題:덕혜옹주(徳恵翁主)
 監督・脚本:ホ・ジノ
 主演:ソン・イェジン、パク・ヘイル、ユン・ジェムン、ペク・ユンシク、パク・チュミ、ラ・ミラン、戸田菜穂、コ・ス

 配給:ハーク
6月24日(土)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開

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20世紀初頭の朝鮮半島。「李氏朝鮮」から1897年に国名が「大韓帝国」と代わったこの国を、日本は1910年に併合してしまいます。その2年後の1912年に、本作のヒロイン徳恵翁主は、1907年に日本の意を受けた臣下に退位を迫られて息子に譲位した高宗(ペク・ユンシク)と、側室梁(ヤン)貴人(パク・チュミ)の娘として誕生しました。59歳という年を取ってからの子供だったのと、唯一の皇女ということで、徳恵は父高宗に深く愛されて育ちますが、その父も1919年に急死してしまいます。毒殺と言われており、それを指揮したのは李王職長官のハン・テクス(ユン・ジェムン)でしたが、その裏には日本政府の思惑がありました。

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日本は、1910年の日韓併合以前から朝鮮半島に介入していました。1907年に大韓帝国の皇帝が高宗から息子純宗に代わった時には、皇太子となった純宗の異母弟英親王を日本に留学させ、伊藤博文らが扶養し教育することで日本に取り込もうとしました。その後、英親王(パク・スヨン)は日本の陸軍士官学校を卒業し、1920年に日本人貴族であった梨本宮方子(まさこ/戸田菜穂)と結婚させられます。そしてまた、成長した徳恵(ソン・イェジン)も1925年、日本への留学を強いられたのでした。

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徳恵には、父高宗が存命中に見込んだ結婚相手キム・ジャンハンがいましたが、ジャンハンは自分は将来独立運動に身を投じるつもりだからと辞退し、以後、徳恵の友人として彼女を見守ってきていました。東京に留学させられて異母兄英親王のもとに身を寄せた徳恵は、日本で陸軍少尉となったジャンハン(パク・ヘイル)と再会します。さらに、これも異母兄である義親王の息子、イ・ウ王子(コ・ス)とも出会います。イ・ウ王子らは、ジャンハンの叔父キム・ファンジン(アン・ネサン)をリーダーにして、日本からの独立運動を秘かに組織していたのでした。もちろんジャンハンもメンバーの1人で、彼らは英親王と徳恵を、日本から上海に亡命させる計画を立てますが....。

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日韓併合から日本の敗戦に到るまでの朝鮮半島の歴史は、日本の学校ではほとんど教えられていないのでは、と思います。私もここに登場する人たちの中で、晩年は韓国で障害児教育等に力を注いで亡くなった李方子のことは知っていましたが、他の大韓帝国関係者は相互の関係すらよくわからず、いろいろWikiで調べました。徳恵翁主はもちろんのこと、父の高宗、異母兄の英親王にその妻の李方子、さらに英親王の異母兄でありながら1907年の純宗即位の時には皇太子に任ぜられなかった義親王と、本作の中ではイ・ウ王子(コ・ス/下写真)として登場する義親王の息子李[金禺]等々、それら関係者の経歴を読み合わせて、本作の背景がやっと大まかにわかった次第です。

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とは言っても、そういった人物の相関関係がわからないと楽しめない作品ではありません。というのも、脚本も担当したホ・ジノ監督は、歴史的事実を把握した上でかなり大胆な脚色を施し、本作を一大スペクタクル作品に仕上げているからです。冒頭の高宗暗殺から始まって、日本に留学させられる時の徳恵をめぐる緊迫したやり取りや、日本で朝鮮独立を目指して闘う人々の波乱に満ちた活動、そして、英親王と徳恵を亡命させようとする時の手に汗握る展開など、いずれもがドラマチックで実にスリリング。「まさか、そんなことまで!」と思うシーンもありますが、ホ・ジノ監督によると「史実だけで、映画を作り上げるには限界がありました」とのことで、史実に依拠しながらも想像力も駆使して構築されたストーリーは、エンターテインメント要素が十分にあって見る者を引きつけます。

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その一方で、徳恵の日本での大変だった生活もしっかりと描かれています。1931年に旧対馬藩主の宗家当主である宗武志(キム・ジェウク)と結婚させられ、女の子もできたものの、心を病んでいった徳恵は、日本の敗戦後解放された祖国に帰ろうとしますが、帰国を拒否されてしまいます。プレスにあった作家・康煕奉(カン・ヒボン)の解説によると、「韓国の初代大統領になった李承晩(イ・スンマン)が、旧王家の人々の存在を極度に警戒し、李垠(英親王)や徳恵翁主の帰国を認めなかったからだ」とのことで、徳恵の精神的な病は進行し、入院治療が続いて、夫宗武志とは1955年に離婚することになります。こういったことの間に、ソウルで新聞記者となっていたキム・ジャンハンが来日して徳恵を探し出し、帰国の道筋を切り開いていったことも描かれますが、日韓の近・現代史に翻弄された「ラスト・プリンセス」の悲劇が、見る者の胸に迫って息苦しいほどです。結局徳恵が帰国できたのは、李承晩が1960年に政権の座から滑り落ちてアメリカに亡命し、朴正煕(パク・チョンヒ)が軍事クーデターを起こして全権を掌握してのちの1962年、英親王は1963年でした。

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出演者たちはいずれも熱演で、それぞれに時代の雰囲気を上手に身にまとい、実在の人物を手堅く演じています。徳恵を演じたソン・イェジンとジャンハン役のパク・ヘイルはもちろんのこと、独立運動家に扮したキム・デミョン(『ビューティー・インサイド』(2015)、『インサイダーズ 内部者たち』(2015)のふっくらした男優)らも強い印象を残し、そのほか途中まで徳恵を守り続ける侍女ボクスンのラ・ミランも忘れがたい演技を見せてくれます。また、徳恵の夫宗武志役で『アンティーク~西洋骨董洋菓子店~』(2008)のキム・ジェウクが出ているのにもびっくりで、幼い時に日本に7年間いたという彼は、日本人と変わらない日本語を聞かせてくれます。

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本作の原作となった権丕暎(クォン・ビヨン)著/齊藤勇夫訳「朝鮮王朝最後の皇女 徳恵翁主(トッケオンジュ)」(かんよう出版、2013)もアマゾンで手に入りますので、興味がおありになる方はさらに詳しく調べてみて下さい。本作の宣伝を担当した方のお話だと、ホ・ジノ監督は、「あくまで”ひとりの女性と、彼女を守ろうとした人たちのお話”として描きたかった、とおっしゃっていました。日本で公開できると思ってなかったんだそうで、先日来日してプレミア試写会の舞台挨拶に立たれたとき、とても感激していらっしゃいました」だそうです。韓国では、2016年の観客動員数第8位となるヒットを記録しましたが、日本でもたくさんの人が見に行って、ホ・ジノ監督をさらに驚かせたいですね。最後に予告編を付けておきます。

ソン・イェジン主演!映画『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』予告編  

 

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