アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

東京フィルメックス通勤中

2011-11-22 | アジア映画全般

第12回東京フィルメックスが11月19日(土)に開幕しました。オープニング・フィルム『アリラン』のチケ取りには敗れたため、初日は出勤(?)しませんでしたが、その後は事務局からいただいたパスを持って毎日有楽町マリオン11F朝日ホールに出勤、充実の作品群を見せていただいています。今回は、午後9時過ぎからのレイトショーも、同じ有楽町マリオン内のTOHOシネマズ日劇で上映されるので、昨年までのように朝日ホールで6時台の上映が終わると、ビックカメラの上階にある劇場に向かってダッシュ! ということをやらなくてもよくなりました。エスカレーターを降りるだけでいいなんて、ホント助かります~。

残念なのは、今年は朝日ホールの喫茶コーナーが閉鎖されていることで、毎年あそこのコーヒーを楽しみにしていた私はがっかり。コーヒーメーカー等は置いてあるので、フィルメックスの時だけ会場レイアウトの都合で閉鎖、ということのようです。その喫茶コーナーには、私と同世代ぐらいの上品なマスターがいらして、毎年、また今年もお会いしましたねー、てな感じで笑顔を交わし合っていたのですが、そんなわけで今年はお目にかかれませんでした。

でもその代わり、レイトショー@TOHOシネマズ日劇ではちゃんと飲食カウンターが営業していて、熱々のコーヒーが飲めます。私が見たスクリーン3は結構大きなホールで、ゆったりと見ることができますし、レイトショーのしんどさがかなり解消される鑑賞環境は嬉しい限りです。そう言えば、メイン会場朝日ホールのスクリーンも大きくなっていましたね。これまでは舞台奥、ずずーっと奥の方にスクリーンがある、という感じだったのですが、前に出てきたうえにスクリーンが大きくなった感じで、とても見やすくなりました。

さて、そういう環境でこれまでに見た映画は5本です。以下、「cinetamaのミタ」@東京フィルメックスの簡単レポート。各作品のストーリーや解説、そしてゲストの全発言等は、映画祭の公式サイトをご覧下さいね。

『カウントダウン』
韓国 / 2011 / 120分 / 監督:ホ・ジョンホ

チョン・ジェヨンが熱演。過激な取り立て屋、ガンで余命わずかの病人、ダウン症の息子をかわいく思いながらも、妻に逃げられて息子にいらつく父親と、それぞれ別人かと思うような演技を見せてくれます。相手役チョン・ドヨンは、詐欺師という役柄に少々違和感がありましたが、車の中からヤクザたちに向かって中指を立てて見せるシーンなどは、したたかでかわいい、という感じでよかったです~。

この日のゲストはホ・ジョンホ監督。優しい顔立ちの方で、劇中のあのド派手カーチェイス・アクションをこの監督が?とびっくり。

主人公役にチョン・ジェヨンとチョン・ドヨンを選んだのは、「みんなが望む顔合わせですよね。今回はむしろ、このお二人が私を選んでくれた、と言った方がいいです」とのこと。大物プロデューサーがついてくれたおかげで、2人とも出演を快諾してくれたのだとか。チョン・ジェヨンの息子役の少年は実際にダウン症の子が出演していて、スタッフが1人1人該当する子を訪ねていった中から選んだそうです。ピアノが上手な、愛らしいティーンの男の子でした。

『カウントダウン』は暗い雰囲気の作品だったので、次回作は軽快で明るい作品を撮りたいのだとか。いや~、暗い面が勝っていたとはいえ、見応えのあるいい作品でしたよ。Q&Aの司会は市山尚三さん、通訳は根本理恵さんでした。

『グッドバイ』 (原題:Be omid e didar)
 イラン / 2011 / 100分 / 監督:モハマド・ラスーロフ

これがレイトショーで見た作品。イランの閉塞感が、見事に画面から発散しています。映画から観客に伝わる情報量を極端に少なくし、観客をイライラさせることで、抑圧されたイランの人々と同じ思いを味わってもらおう、という監督の意図のようでした。反政府的な記者である夫を持ったために、家宅捜査を受けたり、衛星放送の受像器にリモコンまで当局に押収されてしまったりと、具体的な弾圧がわかるシーンがいろいろ出てきます。また、女性1人ではなかなかホテルに泊まれないことも驚きでした。鏡を使った撮影が多い作品で、その点も面白かったです。

ところがこの映画の上映中、あと20分ぐらいでエンド、というところで突如としてTOHOシネマズ日劇の機械が故障。復旧するのに10数分かかりました。でも、すぐに市山さんの声でアナウンスが入り、その後舞台下で市山さんが状況説明とお詫び、と、行き届いたケアはさすがフィルメックス。

『フライング・フィッシュ』
スリランカ / 2011 / 124分 / 監督:サンジーワ・プシュパクマーラ
 

スリランカ内戦の傷を描いて余りある作品です。それと同時に、プシュパクマーラ監督のトラウマも描いてあるようで、劇中に何度か壁を前にしての性交シーンが出てくるのですが、それは昔プシュパクマーラ監督が実際に目にしたものだとか。

 

監督は、8歳の時に叔父が反政府組織であるタミル・イーラム解放の虎(LTTE)に殺され、その後叔母がLTTEの兵士と性交している場面を見てしまったのだそうで、それが壁の前で行われていたため、今回執拗に登場させることになったようです。すべてのエピソードは実際に村人たちが体験したもので、そのリアリティを出すために俳優はほとんど素人を起用、撮影もプシュパクマーラ監督の家の周辺で行ったそうです。監督のトラウマを小さくするためにも、この映画は必要だったのかも知れませんね。

司会は市山尚三さん、通訳は藤岡朝子さんでした。

『オールド・ドッグ』
中国 / 2011 / 88分 / 監督:ペマツェテン

この映画は、今年春の香港国際映画祭でも見たのですが、強い印象を受けたので今回日本語字幕付きでもう一度見直しました。字幕は樋口(渋谷)裕子さんで、チベット語の監修を東京外大AA研(私の古巣なのだ~)の星泉先生が担当しておられます。星先生のお話によると、衝撃のラストに到る直前にあるサインが出ていて、それがあのラストを暗示しているのだとか。そういえば、ハゲタカだかハゲワシだかが空に舞っているシーンがあったのですが、あれかなあ。「犬の命運ここに定まれり」ということだったのかも知れません。

この作品のゲストは、ペマツェテン監督と、プロデューサーのサンジエ・ジアンクオさん。ペマツェテン監督によると、衝撃のラストは「老人にとっても犬にとっても解脱であったと思っている」とのこと。それから、老人が犬を連れて行ったあと、放牧されている羊のうち1頭がたまたま鉄線の柵の外に迷い出てしまい、何とか中に入ろうとするシーンがあるのですが、あれは偶然に撮れたシーンだそうです。この時の司会は林加奈子さん、通訳は渋谷(樋口)裕子さんでした。

『ムサン日記~白い犬』
韓国 / 2010 / 127分 / 監督:パク・ジョンボム

これは脱北者を主人公にした、とてもリアルな物語でした。パク・ジョンボム監督は自ら主人公の脱北者を演じていて、その表現が素晴らしいのです。何でも主人公と同じ名前のチョン・スンチョルという脱北者が大学の後輩にいたそうで、彼は2000年に脱北し、2002年にパク監督の大学に入学してきたのだとか。そういうモデルがいたことが、リアリティを高める結果になったようです。

この日のゲストは、パク監督と女優カン・ウンジン、男優のジン・ヨンウクとソ・ジンウォン(下の写真、右から順に)でした。男優のうち、ジン・ヨンウクはスンチョルの同居人で親友のドンチョル役、ソ・ジンウォンはスンチョルがバイトするいかがわしいポスター張り会社の社長です。上映前の挨拶の時、ドンチョル役のジン・ヨンウクは、「映画をご覧になったら、僕を憎たらしく思われるかも知れませんが、映画は映画なので」と、粋なご挨拶。また、社長役のソ・ジンウォンは達者な日本語で、「私の役はとても小さいけど、よく見て下さい」と挨拶。

終了後のQ&Aでは、俳優たちから撮影現場が大変だったことが語られ、中でもソ・ジンウォンは、「(ポスター張りのバイトである主人公をバンの中でいじめるシーンの)撮影は1日だけで、脚本がなくてセリフは全部アドリブでした。主人公役の監督と、車の中でアクションを繰り返しながら撮ったんですが、時間もなかったことから本気を出して演技したので、ちょっとアブなかったです」という状態だったよう。監督からは、「低予算映画なので、アクション・シーンでもプロテクターも着けず、どれもぶっつけ本番でした。殴り合いのシーンも本当に殴られています。脱北者の人はまさにああいう状態に置かれているわけであって、それが表現できたのでは、と思っています」との発言がありました。

作品の迫力が買われてか、すでに来年の公開が決まっているそうです。今回見逃した方は、公開時にぜひ! この時の司会は市山尚三さん、通訳は根本理恵さんでした。さー、明日もまた出勤です。

 


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