鈍いろの雨ひと色に降り頻る庭に紅さすたちあふひかな,平成二十五年五月三十日
あぢさゐの花のよひらは雨うけて悲喜交々の色を映すや,平成二十五年五月二十九日
つゆ草の結ぶ露ほどはかなげな取るに足らぬは我が恋心,平成二十五年五月二十八日
あでやかな立待ち月にいざなはれ暗き山べに君し思ほゆ,平成二十五年五月二十七日
胸えぐる言ひも解けば一点の我がゆく道の灯し火となる,平成二十五年五月二十七日
いざよひの月影さやか降る夜にわが心ねをあやに綴らむ,平成二十五年五月二十七日
眼差しはいづくに向かふ遠つ君夕暮れの野にひとり佇む,平成二十五年五月二十六日
しろがねとくがねに色ふ忍冬夜の深みに香ぞまさりける,平成二十五年五月二十六日
あさね髪とく甘やかな指先は今ひとたびの夢路いざなふ,平成二十五年五月二十六日
薄暮れに来ぬ文待ちて佇めばわが衿あしに風は戯ゆる,平成二十五年五月二十六日
すべらかに墨染の夜を渡りゆく真珠の月のしづくかなしも,平成二十五年五月二十六日
君よりは遠つ淡海の浜に立つ白波ひけばやがて消えゆく,平成二十五年五月二十五日
ひとり寝の傍らそぞろ寒き夜の訪ぬるものは月ばかりなり,平成二十五年五月二十五日
とろとろと溶けゆく月のぬくもりで埋め尽くそうか夏の空白,平成二十五年五月二十三日
月まとふ雲ながらへて行きまどふ君がみ胸ぞあやに恋しき,平成二十五年五月二十三日
小夜ふけて闇の底なる時つ鳥忍び音ひとつふたつ零るる,平成二十五年五月二十三日
螢なすほのかに浮かぶ君が影涙かたへに忍びたづぬる,平成二十五年五月二十三日
山なかに初音ゆかしき不如帰思ひつつめど忍び音もるる,平成二十五年五月二十一日
人知れず身を隠し咲く木の花にわが身重ねてしばし眺むる,平成二十五年五月二十一日
小夜ふけて届く便りはゆくりなく雨の間にいづる月かも,平成二十五年五月二十日
わが背子の背にすがりてゆく川の流れいざなふ涙ひとひら,平成二十五年五月十九日
帳おりほがら三日月凛として天路わたるを愛でつ眺むる,平成二十五年五月十九日
髪撫づる風もしづまる夕なぎの潮騒にきくわが名呼ぶ声,平成二十五年五月十九日
縁ありて古の歌ひもとけばもののあはれを知りたる夕べ,平成二十五年五月十九日
東雲の明けゆく野辺に一人きて露おく白き花を手折らむ,平成二十五年五月十九日
朝まだきおぼろ野に立つ紫のひときは冴ゆる夏あざみかな,平成二十五年五月十八日
ひとり寝のため息ひとつ歌にせむ枕辺に置く詞さがして,平成二十五年五月十八日
悲しみの闇に浮かべるひとひらの歌はわが胸こがす螢火,平成二十五年五月十八日
ぬばたまの夕べ君詠む恋歌に今朝咲く白き花のしをりを,平成二十五年五月十八日
移ろへる記憶たどりて歌ひろふ君の教へし花をしるべに,平成二十五年五月十七日
月影の中にただよふ愛しさを如何に綴りて君に捧げむ,平成二十五年五月十三日
貴やかな三日ばかりの月の灯をほのと置きたる胸あたたかき,平成二十五年五月十二日
頑なな心とも見ゆる蕾さへつとほどきゆくはつ夏の風,平成二十五年五月十二日
今朝しづかにほろり零れし恋歌はわが髪撫でて遠くへ去りぬ,平成二十五年五月十二日
一条の雨を眺めて遠き日の淡き思ひの糸をたぐりて,平成二十五年五月十二日
空白の日々埋め尽くす雪に似たひたすら白き君がまなざし,平成二十五年五月十一日
懐かしき痛みやはらぐ朝に似たベイクドチーズケーキのにほひ,平成二十五年五月十一日
雲居なす心と知りて聞き澄ます声と覚ゆるはなやぎの雨,平成二十五年五月十一日
風かをる野にありてこそ美しき人知れず咲く花の紫,平成二十五年五月十日
夜いろににじむ涙とため息をこの新月の闇にかくして,平成二十五年五月十日
ほろほろと永の別れに涙する枕べ濡るる夢のさめぎは,平成二十五年五月九日
名も知らぬ花を手折りてさしのべる言葉少なき人の眼差し,平成二十五年五月八日
おぼろげな芍薬ひとつ狭庭べに神代この方にほひぬるかな,平成二十五年五月八日
東雲をただ待ちながら山ぎはに幻めいて月のほの見ゆ,平成二十五年五月七日
ひとり来て綾なす風に佇めば心に滲む遠きまなざし,平成二十五年五月六日
緑なす風もあらたにはつ夏の五感に触るるものいとをかし,平成二十五年五月六日
まだ淡き夏のゆふべの月詠みて歌ひもとけば心やはらぐ,平成二十五年五月五日
黄昏の山のふもとの物すべてこがね纏ひて華やぎの頃,平成二十五年五月五日
あけ初めし夏の夕べの月白に来ぬひとを待つ心地こそすれ,平成二十五年五月五日
声かすか匂ひほのかな店の奥胎内記憶といふ名の時間,平成二十五年五月四日
待ちわびし下弦の月のいづる頃秘め咲く花の露ぞこぼるる,平成二十五年五月三日
寄る辺なき命のやうに掌にうけて朽ち落つ白き花を弔ふ,平成二十五年五月二日
夏にほふ南に低き星々をつなぐ指さき思ふて眠る,平成二十五年五月二日
魂きはる命と知りてさみどりの春より夏へかはる日に逝く,平成二十五年五月一日
花ひけばぷつりと音の立つ如く艶かしかり恋の散りぎは,平成二十五年四月三十日
君すでに雨夜の月となりにけり文のみならず通はぬ思ひ,平成二十五年四月二十九日
くれなゐの野に佇めば立ち迷ふ心にひそむ色知るゆふべ,平成二十五年四月二十八日
待てど来ぬ便りにも似た切なさをゆふべの月の白に重ねる,平成二十五年四月二十七日
願はくは朝ひとひらの花のなりふと訪ねたき君がかんばせ,平成二十五年三月三十日
うつむきて零すすべなき花ごころ知るや知らずや春の夜の雨,平成二十五年三月十八日
懐かしき変はらぬ笑みに安堵する月よみ人の歌に仰げば,平成二十五年三月十八日
小雪の星くずひとつ流れたりセピアとなりし記憶の中に,平成二十四年十一月二十四日
時雨るるを耳そば立てて聞きゐれば折々わらひ折々に泣く,平成二十四年十一月十一日
訥々と湧きては落つる一言に似てふり初むる小夜時雨かな,平成二十四年十一月七日
落日の日ごといそぎて山ぎはの紅うすれゆく暮れの秋かな,平成二十四年十一月六日
ゆく秋の夜を惜しみて滲みたる妖しきまでに匂やかな月,平成二十四年十一月四日
いかばかり思ひ重ねて朝咲く露ににほへる白菊の花,平成二十四年十一月四日
電飾のあまた燦めく木々の間にしづかに色ふ月のかんばせ,平成二十四年十一月四日
風にゆれ雨に枝垂るる花に似たしなやかなりて心ある人,平成二十四年十月二十八日
いにしへの歌ひも解けば通ひ路に人知れず降る秋の雨音,平成二十四年十月二十八日
秋更けて音もか細き小夜の雨黙しかたらぬ人のなみだや,平成二十四年十月二十八日
道ゆけば出会ふ数多の花のいろ白をし伝ふこころを聞かむ,平成二十四年十月二十八日
雨音に耳そば立てて夜もすがら夢まぼろしや月の声きく,平成二十四年十月二十三日
秋雨の落ち初む野辺に濡れそぼつ花の心を何にたとへむ,平成二十四年十月二十二日
鶸いろの月といふ名の香ひとつ炉に燻らせば迷ひの如き,平成二十四年十月二十一日
紗をまとひ月やまぎはに添ふるころ狭庭のすみににほふ白菊,平成二十四年十月二十一日
水ぬくき夕べとなりて星ひとつ我が心よりこぼれ落ちたる,平成二十四年十月二十日
月の灯に浮かぶ面影消え入りて露おく袖にしみる秋の夜,平成二十四年十月二十日
しづか夜の心に降りしひとひらの歌に宿れる月のぬくもり,平成二十四年十月二十日
うす紅をさしたる白き手をのべて紫紺の花は月に焦がるる,平成二十四年十月十九日
おほらかに背を抱かるる心地してふと眺むればやはらかき闇,平成二十四年十月十五日
仕事するお料理をして掃除する月をも愛でる恋のかたはら,平成二十四年十月十四日
さそはれて触るるほどにも心近くされど消えゆく幻の道,平成二十四年十月十四日
風のなか流れゆきたる日常を歌と云ふ名の付箋で誌す,平成二十四年十月十四日
面影の心の其処にある如くほの白きかな蕎麦の花畑,平成二十四年十月十四日
瀬をきざみ秋の陽なづむ夕暮れに白鷺ひとり何をか思ふ,平成二十四年十月十日
白菊のほころぶ先に結びたる花よりしろき寒露ひとつゆ,平成二十四年十月八日
いづくより訪ひ来しものよ秋茜儚きまでの風置き往ぬる,平成二十四年十月七日
一抹の風詠むひとの歌にきく花かげ白くにほふ秋かな,平成二十四年十月六日
墨染のこころとぞ思ふ秋の夜の吐息とけゆく月の静寂に,平成二十四年十月六日
一条の光こぼるる月の夜に重ね詠へり淡きしらべを,平成二十四年十月六日
立待ちの月はめぐりて更くる夜にわが待ち焦がるもの影はなし,平成二十四年十月二日
いざよへる月影白く仄みゆるゆかしき方の面差し浮かべ,平成二十四年十月一日
野分ゆく雲間にのぞく月眺め揺るがぬものの愛しさを知る,平成二十四年九月三十日
西方の遥けし空の野分来よかを匂やかに連れてこよかし,平成二十四年九月三十日
涼風に野辺の花よりこぼれたる白き月の香ものさびしかり,平成二十四年九月二十九日
たゆたひて待ち渡る夜に漫ろはし玉梓に添ふ恋花ひとひら,平成二十四年九月二十六日
ふところに白露いだき隠れ咲く花をあまねくつつむ秋の陽,平成二十四年九月十六日
訪ひ去りし風のやうなる白萩の花に思ひのあることを知る,平成二十四年九月十五日
まだ眠る淡き花野にひとりきてこぼるる玻璃の一言を待つ,平成二十四年九月十五日
秋なかば色なき風にとけゆきぬ臥し初むる日も予後の名残も,平成二十四年九月九日
地に降れば渇きを知りて葉に降れば茂れるを知る雨の音かな,平成二十四年九月八日
秋あかね血潮の羽に雨もよふ空をうつして風にただよふ,平成二十四年九月八日
鳥の音にけさ忍びこむ窓風にたしかな秋のおとづれをきく,平成二十四年九月八日
ちよろづの葉に結びゐる白露をわがゆく道の標とやせむ,平成二十四年九月七日
あやしくも薄衣まとひ闇に咲く滴るほどの白は誰がため,平成二十四年九月五日
野路ひとり鬼灯の朱にひかれつつ触るれば揺るる心にも似て,平成二十四年九月二日
かほ花は色なき風のなかにゐて擁かれて伏す秋のふところ,平成二十四年九月二日
あしもとを訪ふ白波の音にきくまだ見ぬ風とこれからの秋,平成二十四年九月二日
壮大なもののやうにも朝露のやうにも見ゆる縁おもほゆ,平成二十四年九月二日
涼もとめ窓辺に置きし文机にたづぬる月の花影いとし,平成二十四年九月一日
草ひばり侘し寂しとそぞろ鳴き雲より出でし月と相和す,平成二十四年九月一日
うす墨に浮かびし蒼き月みれば遠音ゆかしく濡るる袖かな,平成二十四年九月一日
鮎くだる頃かと語る先みれば白瀬にまろぶ秋の日のあり,平成二十四年八月二十八日
やはらかき花ひとひらの言はなち混じりて消ゆる遠きしほ音に,平成二十四年八月二十六日
求めてもなほ遠白き寝ねがての夜は薄衣の声をしとねに,平成二十四年八月二十六日
しら明くる朝訪ふ風に焔立つわがたなすゑに残る夏かな,平成二十四年八月二十五日
上弦の白あてやかにうち黙しゆく末のみを眺むるゆふべ,平成二十四年八月二十五日
わだつみの蒼にほひ立つ残り音に折々みゆる花のくれなゐ,平成二十四年八月二十五日
煌めきの一言などに囚われたこのワタクシの心かへして,平成二十四年八月二十三日
夕闇に浮かびし月は色めいてまだ見ぬひとの囁きに見ゆ,平成二十四年八月二十三日
とうにゐぬ蛍火ひとつ掌にうけて君なき夜に文待つ心地,平成二十四年八月二十二日
今しがた移ろふ風を眺めつつ刹那にほへる秋に身を置く,平成二十四年八月十九日
手さぐりの闇にて待たむ一条のこころに見ゆる朔の月影,平成二十四年八月十九日
一人きて残る夕べの雨に触る心やはらかき風を詠みつつ,平成二十四年八月十九日
君がため歌詠むここち夜もすがら雨音なども指折り数へ,平成二十四年八月十一日
枕辺に恋うたひとつまたひとつ夢の路ゆく君を追ひつつ,平成二十四年八月十一日
夜もすがら遠き雷かぞへつつ覚えし文を読みつつ待たむ,平成二十四年八月十一日
雨ふれば君待つここち君訪へば星降る心地まつさらな秋,平成二十四年八月十一日
くれなゐに灯る言の葉ひもといて秋の声きく愛しき夕べ,平成二十四年八月十日
戸惑ひとせつなき深きため息ときみ問ふ花の白に染む月,平成二十四年八月十日
朝まだき夢かとまがふ文いだき心あらたな秋は初めにし,平成二十四年八月七日
深き夜の歌にちりばむ言の葉をわれの心の鍵にて解かむ,平成二十四年八月七日
暮れなづむ心とも見ゆるくれなゐの涙に滲むゆく夏の雲,平成二十四年八月七日
色めきてやがてかぎろふ君が影歌をたぐりて心ひも解く,平成二十四年八月六日
移ろへる夏の陽のいろ風の色あはと色めくうすものの影,平成二十四年八月五日
陽炎にみつけた羽をかざし見て心のこりの空へふたたび,平成二十四年八月五日
陽と風のとけ合ふ夏の片隅に二胡の音そふる昼下りかな,平成二十四年八月五日
墨染のゆふべ朽ちゆく花ひとつ恋の行方を教えしやうに,平成二十四年八月四日
いつの日か君に触れたきものとしてわが指先を眺むる夕,平成二十四年八月四日
空蝉の侘しさを聞くかたぶきて背のたしかな真一文字に,平成二十四年八月四日
待ち侘びしなほもいざよふ月影に愛しき方の歌重ねつつ,平成二十四年八月四日
東雲に朝顔ほのか浮かび咲くこころに露をひとつ結びて,平成二十四年八月二日
まくらべに面影さがすため息のただよふごとき淡き月影,平成二十四年八月二日
月かがみこよひ心も満ちたたふ玉梓うけし夏のはたてに,平成二十四年八月二日
夏の夜のあだめく月のため息にこころ潤みてそぞろ涙す,平成二十四年七月三十一日
とほつ君おもひ侘ぶれば西方にゆく七月の月をおくりて,平成二十四年七月三十一日
しづかなる君が心の花の名を一夜めぐりて尋ぬすべなし,平成二十四年七月三十一日
寄る辺なき心に月は立添ひて伏し目がちなる睫毛に白し,平成二十四年七月三十日
人けなき月のゆふべに相聞こゆ待宵草の小さきともしび,平成二十四年七月三十日
薄暮れの道の辺に吾をさし覗く月影のごと白きむくげよ,平成二十四年七月三十日
歩みとめ見上ぐる先に懐かしき言よみがへる百日紅咲く,平成二十四年七月二十八日
弓張の月に追はれて暮れいそぐ山ぎは蒼き夜半の夏かな,平成二十四年七月二十八日
ゆく夏に別れ告ぐるや日暮しの声に涼しき風訪ふばかり,平成二十四年七月二十八日
腰折れの私のうたにそつくりな二胡の音わらふ上弦の月,平成二十四年七月二十七日
先制といふやうな君の表情に喧嘩わすれて仕返しのキス,平成二十四年七月二十六日
謙譲の花ことばもつアベリアの白灯り咲く晩夏のゆふべ,平成二十四年七月二十六日
ひとり夜は君の教へし星訪ねこぼるる言の流れては消ゆ,平成二十四年七月二十六日
君が影ふとさしのぶるゆび先に触るるは淡く白き月かな,平成二十四年七月二十三日
哀れにもわが心より蒼き月もろ手に受けてとくと抱かむ,平成二十四年七月二十二日
端居して久方の月ながめつつ君詠むうたを待つ良夜かな,平成二十四年七月二十二日
白々と薄きぬの如き風訪へばひと肌を恋ふかなしき夕べ,平成二十四年七月二十一日
夏の夜の雨は窓辺に訪ねきて言問ひながら刹那ちりゆく,平成二十四年七月二十一日
訥々とまた降り出した雨音にふと思ひ出すやはらかき言,平成二十四年七月二十一日
叶はぬと知れど俯き闇の夜にただありふれた一言を待つ,平成二十四年七月十九日
玉梓は月なき夜にゆくりなく白く灯りてやがて消えゆく,平成二十四年七月十八日
奥深き音いろ探りてゆく道の気高き白きいちりんの花,平成二十四年七月十七日
泡沫の夢は消にけりほの見ゆる姿はるけし虎が雨かな,平成二十四年七月十七日
よべの雨ひとつ抱いてつゆ草は空の忘れし青を湛へて,平成二十四年七月十五日
東雲に月影淡くしづみゆく気づけば落つる涙のごとく,平成二十四年七月九日
星数ふ面差しに触れ淡き君ただ遠白きあくがれと知る,平成二十四年七月九日
ふたたびの雨に隠れし月影を慕ひて濡るる一花一葉,平成二十四年七月八日
待てど来ぬ夜の帳のうらめしき心のひだに隠す涙よ,平成二十四年七月八日
久方の月はにほひて野辺白くさやかに秋の訪れを聞く,平成二十四年七月八日
雨の間に月影を待つまなざしに今云ひかけて飲みこみし言,平成二十四年七月七日
悲しみの涙の化身かと思ふ夜をわたりて降りしく雨を,平成二十四年七月七日
いかづちと雨音のみの夜にゐて愛しき歌をただ待つばかり,平成二十四年七月七日
薄暮れの白雨に灯るまぼろしの紅さす如き夏花ひとつ,平成二十四年七月四日
君思ひふて腐れたるこのこころ波の如くにゆきもどりする,平成二十四年七月四日
七月の月なき夜のこころにも離ればなれに同じ雨降る,平成二十四年七月四日
日にありてよひらの花のいろ淡く雨にありせば脈々とあを,平成二十四年七月三日
なまめかし闇の窓よりたづぬるは月の涙と花のしかばね,平成二十四年七月三日
深き夜にさやけき君も眠れぬかうたに残りし名をば愛しむ,平成二十四年七月二日
ふたたびのたづねし雨に心しむいにしへの夜のうたを解けば,平成二十四年七月二日
なにとなく眠れぬ夜の片隅に時計の針と雨をかぞへて,平成二十四年七月二日
探しても探しても触れぬ指先に愁ふる夏の風いろまとふ,平成二十四年七月二日
雨だれに心しづめてひとり寝の枕べにふとうたを訪ぬる,平成二十四年七月二日
ものの影みなやはらかきこの夕べ嵐と共に去りゆくおもひ,平成二十四年六月十九日
寝ねがてに筆とる指のやすらひて蒼き心にほむら立ちそむ,平成二十四年六月十九日
雨風に揺らぐセピアの部屋にゐてもの云ひたげな焔をみつむ,平成二十四年六月十九日
折々にあま風の訪ふ窓べにてうたのやうなる蛍火ながむ,平成二十四年六月十五日
心もなくゆふべ切なき諍ひに卯の花くたす雨はにほへる,平成二十四年六月九日
君待てど雨音のみの聞こえくる窓にうつるはわが憂ひかな,平成二十四年六月九日
遠き日の月に宿した面影とほのか残り音連れくる夜雨,平成二十四年六月九日
降りやまぬ雨に心を滲ませて月なき闇の窓に君待つ,平成二十四年六月九日
薄暮れに白雨けぶりて紫の小路をいそぐ人はまぼろし,平成二十四年六月八日
ほの明り灯しては消ゆる初ほたる見果てぬ恋のゆくへ探して,平成二十四年五月三十日
月さがし窓にふれたる指さきで求めるままのうたを綴らむ,平成二十四年五月三十日
葉より葉へかけたる糸を紡ぎゆく蜘蛛の営みあかず眺むる,平成二十四年五月二十六日
打ち寄する波の如くに繰り返すひとつの言の思ひは深き,平成二十四年五月二十六日
枕辺に置き忘れたる心をばふと思ひだす白き月影,平成二十四年五月二十六日
忘れえぬ夜に残した歌ひとつひも解き結ぶ白き夕月,平成二十四年五月二十六日
風のごと青田わたりて舞ひ来る鷺たたずめば青きは立てり,平成二十四年五月二十六日
知るや君わづかに残るともしびを胸にしづめて眠りし夜を,平成二十四年五月十三日
もしやわれ月にありせばひとり寝の君が枕辺訪ねしものを,平成二十四年五月十三日
今しばし禊の如き透明なさはやぐあをき風にひたらむ,平成二十四年五月十三日
折にふれ交はせし歌を抱きしむる玻璃の向かふの届かぬ君の,平成二十四年五月十二日
紅の花降りつむ雨にいろ褪せていざよふ夏の切なさ思ふ,平成二十四年五月五日
白々と春の泊に漂ふは嗚呼うたかたの夢とほの知る,平成二十四年五月四日
ゆく春のしるべと咲くや野辺とほく薄紅の灯火かなし,平成二十四年五月四日
思ふれば深まるばかりほの遠く卯の花のごと白き君かな,平成二十四年四月二十六日
花のもと鳥の音聞きし春の果てしのぶ思ひもいづくにか消ゆ,平成二十四年四月二十四日
わが夢の終焉として導かる桜ちり敷く白き花道,平成二十四年四月二十一日
一抹のかなしみ沈むわが心知るや知らずや花うつろへる,平成二十四年四月十九日
遠白き気高き花にあくがれて足もとに咲く花に気づかぬ,平成二十四年四月十八日
残り花よべの涙を受け止めてひとひら落ちてひとひらの追ふ,平成二十四年四月十八日
遠ざかる空を背にして踏み出せば我がゆく道に戻るすべなし,平成二十四年四月十八日
惜別の空に舞ひゆくひとひらの花とみまがふ東雲の月,平成二十四年四月十三日
瀬をはやみなどて流るる涙雨ゆくへも知らぬ花のふねかな,平成二十四年四月十二日
木のもとの落ち敷く花に重ねみる思ひこぼれし言葉の欠片,平成二十四年四月十二日
一条の光とも見ゆる花ぶさの白きはだてる春の月かげ,平成二十四年四月九日
山の辺は花かかすみか遠白く折々見ゆるわが思ひかな,平成二十四年四月九日
久方の月はおぼろに花ともし君ゆく道のしるべとなりぬ,平成二十四年四月九日
散りぎはの花それぞれに思ひありて最期の風に託すひと色,平成二十四年四月九日
ふと風に声聞く心地ほつえよりわが足もとにたづねし花の,平成二十四年四月九日
桜さくら抱けよ抱けけさの陽を雨に落ちたるものの命を,平成二十四年四月一日
春の夜のまだうら若き花ひとつ落とすは阿修羅のごとき雨かな,平成二十四年四月一日
やうやくに綻ぶ淡き花のもと佇むひとの思ひうかがふ,平成二十四年四月一日
問いかけに答えぬ君の横道に逸れる話を春愁と呼ぶ,平成二十四年三月二十四日
うす紅の桃いちりんの花時を旧暦三月三日に思ふ,平成二十四年三月二十四日
うたらばのフェイドアウトの速さにはおよそそぐわぬ切なき余韻,平成二十四年三月二十四日
綴りゆかむ健やかなる日も病める日も怒りの夜も旅の朝も,平成二十四年三月二十四日
やうやくに降りそそぐ春燦々と真白き花の白はやはらぎ,平成二十四年三月二十二日
おそらくは春来たりなば遠ざかる星のやうなる心とぞ知る,平成二十四年三月二十一日
春の陽に咲きこぼれたる花に似て受ける手のなきわが思ひかな,平成二十四年三月十九日
鼻歌が寝息にかわる午前二時余韻のごとき雨音聞こゆ,平成二十四年三月十八日
降り暮らすなどや華やぐ春の雨花にこぬれに光を添へて,平成二十四年三月十八日
問ひかけと静けき強きまなざしと祈りの風を纏ふ春の夜,平成二十四年三月十五日
白き日の一編の詩をくちずさむ君詠む「君」に見ゆる眼差し,平成二十四年三月十五日
薄氷のぬくみて流るる水の如ちしほかよひて解けゆく心,平成二十四年三月十四日
ゆくりなく受くひと枚の花の如やはらかきかな白き春の日,平成二十四年三月十四日
春なかばなごりの雪は花となり日々津々と淡く色めく,平成二十四年三月十四日
薄ら氷の消えゆくやうに透明な記憶の端に残るかなしみ,平成二十四年三月十四日
折々のひとの流れの中をゆく思ひおもひの歌はうるはし,平成二十四年三月十日
水墨に彩そふ如きうぐひすの初音ゆかしき春のほころび,平成二十四年三月十日
はやも散る雨に打たれし白梅を花の涙とこぼすまなざし,平成二十四年三月十日
浮かびくる花は灯りてかぐはしき何やらゆかし春の夕闇,平成二十四年三月八日
紅木瓜のけさ咲き初めし花房を綻び愛でつ名こそ憐れみ,平成二十四年三月七日
まだ満ちぬ月眺めをり春の夜にわれ唯足るを知らむとぞ思う,平成二十四年三月六日
春告げと云ふ名の酒に咲き初めの白梅うかべ月と呑む宵,平成二十四年三月三日
山茶花は冬枯れの野に紅さして春の風にて花をおさむる,平成二十四年三月三日
春の野辺ひと雨ごとに青芽立ちひと風ごとに花は紅さす,平成二十四年三月三日
春の宵灯せど消ゆるほの明かり身を知る雨に濡るる袖かな,平成二十四年三月二日
小夜更けて花月語れる友を知るいま山の辺に上弦の月,平成二十四年三月二日
いづくにか隠るる春を捉へむと眼光するどき鳶一羽あり,平成二十四年二月二十六日
梅の香に瑠璃鳥つどひふたたびの時知らぬ雪は深々と舞ふ,平成二十四年二月二十六日
きぞふたつけさ五つ咲き梅の花色なき雨のこころは知らず,平成二十四年二月二十五日
雨の夜の月の如くに君が影まぼろしと消え夢に色なし,平成二十四年二月二十五日
人けなき山里に降るまつすぐな雨に浮き立つ菜の花おぼろ,平成二十四年二月二十五日
久方の雨はまろびてあらたなる上枝わたりて白梅いだく,平成二十四年二月二十二日
おぼろげな菜花に雨に心入りておもむろにゆく春の別れ路,平成二十四年二月二十一日
うたのわに人の織りなす色ありてわがひと色の歌を灯さむ,平成二十四年二月十八日
ひとひらの言葉によつて起こりうる笑顔はまるで化学反応,平成二十四年二月十八日
まだ淡き春の嵐かいづくにぞ残れる冬の未練なるかな,平成二十四年二月十八日
生かされることを厭ふて味をみて香をきく心をあたためた人,平成二十四年二月十八日
現し身の心はいづこさまよへる闇より舞ひ来しあは雪に問ふ,平成二十四年二月十八日
そこここにちらりほらりと咲き初むる梅はや散ると見まがふは雪,平成二十四年二月十七日
君の名のルーツをたどるこの川のまつすぐなどに重なりを見た,平成二十四年二月十七日
無機質なポップアップにほころびる笑顔のもとは君の誠実,平成二十四年二月十七日
なにげない日常の中にころがった微笑みこそをしあわせと云ふ,平成二十四年二月十六日
雪消して花をおこして降る雨の色もにほへる春は来にけり,平成二十四年二月十五日
よみがへる思ひとともに瑠璃いろの春を贈らむ如月なかば,平成二十四年二月十四日
君思ふ涙はかなく結びたり薄氷わたる月のなぐさみ,平成二十四年二月十三日
春淡し君がみ胸に眠る夢描けどとほき面影と知る,平成二十四年二月十三日
君がいふ「辛夷の蕾が膨らんだ」その指さきに春は宿れり,平成二十四年二月十三日
桜さくらきのふ険しき花つぼみまろびて白し今朝の春かな,平成二十四年二月十二日
しあわせの種をひと粒くれるやうに今朝いちりんの連翹咲けり,平成二十四年二月十二日
わが心激情の文字渦巻いてそぞろあだめく春のお月夜,平成二十四年二月九日
ほの白きことばを闇に解き放ち今宵かぎりの月を眺むる,平成二十四年二月八日
脱ぎ捨てた靴下みたいに投げやりな送った直後のメールが痛い,平成二十四年二月八日
しとしとと何故しとしとと雨音は私の心を知るのでしょうか,平成二十四年二月七日
春の夜の寝息つんざく着信音十七歳の事情に怒り,平成二十四年二月六日
卒論の残骸ひろふ指さきを太宰治は音なして切る,平成二十四年二月六日
指さきに陽の訪れて煩へる永久凍土に閉ざされし春,平成二十四年二月五日
掌の中に淡きたしかな陽をとらへ春を見据えるしづかものの芽,平成二十四年二月四日
花陰に風の泊にうすらひに春は名のみと諭さるる朝,平成二十四年二月四日
連綿のなかに思ひを忍ばせて雪といふ名の恋文おくらむ,平成二十四年二月四日
答えなき質問のみを胸に抱き雪はしづかに心をおおふ,平成二十四年二月三日
しあわせな君の心の片隅に映ることなき雪のひとひら,平成二十四年二月二日
でき立てのパスタに白くやわらかき陽だまり遊ぶ透明な午後,平成二十四年一月三十一日
受験票鉛筆消しゴムちゑさんのお手紙入れるお守りとして,平成二十四年一月二十九日
墨染の山ぎはに座す月みれば沖に浮かびし舟あかり思ふ,平成二十四年一月二十八日
ふりむけば三日月かかる梅が枝にほころび初むる白き花房,平成二十四年一月二十七日
愛すべき微笑む月を探すため分厚いテキストぱたりと閉じる,平成二十四年一月二十六日
超えられぬ時空と心の隔たりと人称定義をかなしむ夕べ,平成二十四年一月二十五日
淡雪に似てさりげなき君の言ゆきげとなるも心に積もる,平成二十四年一月二十四日
木のもとに白寒椿ほとり落つ冬の夕となりにけるかな,平成二十四年一月二十四日
質感も色も匂いもぬくもりもわからぬままの愛しき右手,平成二十四年一月二十四日
薄れゆく面影懐けばまぼろしの月のやうなる温もり匂ふ,平成二十四年一月二十二日
ひとりきて玻璃をはなてば救はるる心の果の海の蒼さよ,平成二十四年一月二十一日
わが胸に灯れる歌をけふ君におくりて願ふ雪解のこころ,平成二十四年一月二十一日
うす衣を纏ひて眠る山並みのあを重なりて思ひしづむる,平成二十四年一月二十一日
寒つばき君恋ふごときくれなゐの花ひと色に添ふる白雪,平成二十四年一月二十一日
いつよりか傍らにゐし猫とみる雨とつとつと大寒の朝,平成二十四年一月二十一日
もう二度と心は元に戻らない形状記憶の素材じゃなくて,平成二十四年一月二十日
雨つぶの戯れに似た旋律でなみだの夜を奏でるピアノ,平成二十四年一月二十日
夢やぶれセピアとなりし君の住む江戸も小雪の宵となるかな,平成二十四年一月十九日
手をのべて探る切なき憧れをわらふあなたの暗号解けず,平成二十四年一月十九日
薄ら日に淡く儚き香をとかし君に色添ふただ待ちながら,平成二十四年一月十九日
聞きたくて聞けない心音もなく降りだす雨にもらひ泣きする,平成二十四年一月十九日
ひとひらの花びら落ちてゆくやうに記憶失ふ人の愛しさ,平成二十四年一月十五日
散る花や欠けゆく月の愛しさに重なる人の旅立ち祝ふ,平成二十四年一月十五日
人知れずほころぶ思ひまたひとつ眠れぬ夜と朝の静寂に,平成二十四年一月十五日
花びらにたしかに結ぶ露ひとつこぼるる如し恋ごころとは,平成二十四年一月十二日
掌にふいに舞ひ降る星屑のほのあをきかな恋心とは,平成二十四年一月十二日
小夜ふけて愛しき人の来ぬ窓を月はめぐりて思ひやすらふ,平成二十四年一月十二日
いざよひの月はあなたに送るからひとつ私に詠んで下さい,平成二十四年一月十一日
遠つ方思ひ届かぬ宵ふかく祈りのごとくまぶた閉じなむ,平成二十四年一月五日
初夢は月わたる夜の枕べにあくがれびとの甘きささやき,平成二十四年一月三日
初風に心ほのかに伝へたきひと言たくし待つゆふべかな,平成二十四年一月三日
遥かなるセピア色した青春をひもとくゆびにあはき面影,平成二十四年一月三日
老いし母とひと息つきて見あぐれば梅一輪の綻びを知る,平成二十四年一月三日
吾が君は如何に詠ふやこの月を涙かたしきやすらふ月を,平成二十四年一月一日
花散りてつもる思ひは秘めやかに後の世までの手土産として,平成二十四年一月一日
若水のしづくに墨の香をこめて月をおくらむ玉梓にして,平成二十四年一月一日
去年今年変はらぬ夜にあらたなるこころで眺む上弦の月,平成二十四年一月一日
私の勘違ひだと思ふけど「月が綺麗」はさういふことね,平成二十三年十二月三十一日
一条の光となりてかなしみのなみだの淵の底をも照らす,平成二十三年十二月三十一日
絆とは斯くも良き字をあてたもの嗚呼しみじみとほろ酔ひの夜に,平成二十三年十二月三十一日
君思ふため息のごと朝もやに溶け入るほどに名をば囁く,平成二十三年十二月三十一日
ねえ今夜あなたの夢を打ち明けて今年最後の月眺めつつ,平成二十三年十二月三十一日
月淡くせつな消えゆく君が影はかなき夢にさしのぶる指,平成二十三年十二月二十八日
月星のつかず離れぬ距離感にわれのことばの無力を思ふ,平成二十三年十二月二十七日
くちづけの理由はいらぬ墨染の街に降りしくすき通る星,平成二十三年十二月二十四日
あかぎれのゆびさき包む心にて私のうたをいつくしむ人,平成二十三年十二月二十四日
今もなほきみの記憶の奥底に私の欠片はあるのでせうか,平成二十三年十二月二十三日
冬枯れの野にあたたかき一輪の花はゆふべの涙をいだき,平成二十三年十二月十七日
面影をさがしてのばす指先に落ちては消ゆる雪を哀れむ,平成二十三年十二月十七日
語らひの夜を重ねて降りつもる思ひ水脈引く月の舟かな,平成二十三年十二月十五日
朧げにいざよふ月を眺めみむ甘きゆふべのひと言を抱き,平成二十三年十二月十三日
月影にふたたび光さし初めてあはあは見ゆる夢の通ひ路,平成二十三年十二月十一日
君の見た感じたままをひと枚の歌といふ名の絵手紙にして,平成二十三年十二月五日
ひさかたの光やはらぐ小春日の雪見障子にうつる残り葉,平成二十三年十二月四日
無機質な壁の寒さを知らされる終の暦をめくるゆびさき,平成二十三年十二月三日
うす墨のゆふべに浮かぶ月灯り唯それのみを至福と思ふ,平成二十三年十一月三十日
東雲の明くれば消ゆる面影に祈りのごとく香を焚きしむ,平成二十三年十一月三十日
おほらかな小春のゆふべに浸む月臥しゐる母を見守り給へ,平成二十三年十一月二十九日
祐輔の半分ほどのパンプスが夕べ我が家にお泊まりをした,平成二十三年十一月二十六日
霜まとひかなしきまでに浮かびくる月なき夜の白菊の白,平成二十三年十一月二十五日
寂しいな空がこんなに澄んでゐて星が瞬く夜といふのに,平成二十三年十一月二十五日
君が掌の温もりほどの愛しさで胸に灯れるやはらかき歌,平成二十三年十一月二十五日
遠つ君しのべば渡る月影にかよはぬと知るうたを託さむ,平成二十三年十一月二十五日
君の眼に映る景色を知りたくてつぶやいたけど実は恋文,平成二十三年十一月二十四日
一条の光のやうにかよひ合ふ君と交はせし真夜中のうた,平成二十三年十一月二十三日
ゆくりなく紅葉ひとひら舞ひ来り冬のはじめの夕闇の中,平成二十三年十一月二十三日
凩に窓うつ上枝の声きけば愛しきひとの訪ふを知るかな,平成二十三年十一月二十一日
侘しさに月なき窓を眺むれば君よりとどくふたたびの雨,平成二十三年十一月二十日
つぶやきと深き愛しき雨音とあの懐かしきうたは重なる,平成二十三年十一月十九日
月影のなき闇いろの窓つたふ思ひのごとく雨はそぞろに,平成二十三年十一月十九日
更待ちの月を眺めてひとり寝の閨につもれるため息の白,平成二十三年十一月十七日
明らかに欠けゆく月の瞳よりせつなきものは君の眼差し,平成二十三年十一月十六日
陽だまりの一言をもつ人ありていかなる人の心もひらく,平成二十三年十一月十五日
星の夜はしんみりあなたが愛おしいこの青ひとつ君にあげよう,平成二十三年十一月十五日
盃に飲めぬ酒など並々とゐ待ちの月を浮かべては愛づ,平成二十三年十一月十四日
月影にはらり山茶花落ちる夜はきみの心のひと欠片知る,平成二十三年十一月十四日
立待の月を仰げばくちびるにゆふべ囁くきみのくちぐせ,平成二十三年十一月十三日
一葉とともに木末に灯るごとひとつ残さる木守り柿かな,平成二十三年十一月十三日
いざよひの月のやうなるかの人は今宵いづこの空を漂ふ,平成二十三年十一月十三日
いざよひの月待つ白き山の辺にまだ見ぬ人の面影うつし,平成二十三年十一月十二日
蒼き星ま白き月のささやきを眠れぬ夜のまくら辺に置く,平成二十三年十一月十二日
語りましょ私たちの棲む地球の海を映した星たちのこと,平成二十三年十一月十二日
あす待てどいや遠ざかる月影の涙となりし小夜時雨かな,平成二十三年十一月十一日
冬立ちぬ川面に揺るる白鷺のたつたひとつの思ひを掬ふ,平成二十三年十一月十日
山茶花の散り敷く白き音聞けば闇にかそけき初時雨かな,平成二十三年十一月十日
玉梓に添ふるひとひら手に受くる秋の名残の月の灯りを,平成二十三年十一月七日
晩秋のただまつすぐに降る雨に遣りどころなき思ひ浸さむ,平成二十三年十一月六日
君がほら育ったように育ててる一筆書きの星座のように,平成二十三年十一月五日
穴が開くハンコ押される角折れる切符の様ねわが人生も,平成二十三年十一月五日
一連のつぶやきをただ読みながすBGMはのこる虫の音,平成二十三年十一月三日
昨夜の雨なん天の実の紅うつしあらはれ渡る空を映して,平成二十三年十一月一日
降り初むる雨に心は奪はれて今詠みかけの歌をうしなふ,平成二十三年十月三十日
うち偲びふともれいづる忘れ音の眺めのすゑに流るる思ひ,平成二十三年十月三十日
朝まだきゆふべの露をたづさへて吐息ゆかしき白菊の花,平成二十三年十月三十日
白絹の衣は月と相和して夜ごと散りぬる野辺の山茶花,平成二十三年十月二十九日
ほろ酔ひて星を繋ぎし指先をただ見つめては俯くゆふべ,平成二十三年十月二十九日
ゆく秋に律のしらべのむし絶えて小夜の衾となりし落葉,平成二十三年十月二十二日
降りやまぬ雨に心は見透かされ夕べ一つの言葉のみこむ,平成二十三年十月二十二日
一葉のひと雨ごとに色ましてただ来ぬひとに募りし思ひ,平成二十三年十月二十一日
まなざしのやうなる星の瞬きに残るゆふべのひと言思ふ,平成二十三年十月二十一日
あなたから心はなして佇めばうつろふ花のやうに色褪す,平成二十三年十月二十一日
末枯れて月は欠けゆき虫絶ゆる斯くもさらりと秋は暮れゆく,平成二十三年十月十七日
夜に果てし熱き血潮をさます如今ひとたびの冷たき雨に,平成二十三年十月十六日
吾を穿つ激しき雨になり給へ吐息もなみだも闇に流さむ,平成二十三年十月十六日
君とゐて雨音さへも愛ほしく月なき空もかがよふゆふべ,平成二十三年十月十六日
あなたより届く雲間に隠さるる月を返歌のやうに贈らむ,平成二十三年十月十五日
週末のそぼ降る雨の夜に酔ふ切子グラスの酒にあなたに,平成二十三年十月十四日
今しがた風に別れのにほひしてつうと心が冷たくなつた,平成二十三年十月十二日
閨一つ明かり落として月灯し通ひ路まどふ我を照らさむ,平成二十三年十月九日
山の辺に身をばしづむる月の如君がみ胸に頬寄すゆふべ,平成二十三年十月九日
嘘でいい今宵かぎりの恋歌を私に宛てて詠んでください,平成二十三年十月九日
風いろに君を思ほゆ月影にまして偲ばゆひとり寝のまど,平成二十三年十月七日
月けぶるけし炭いろの秋の夜の思ひは闇の淵にしづめむ,平成二十三年十月四日
秋あかね舞ふ暮れ方に幻の素風にとけるゆふべのこわ音,平成二十三年十月二日
秋さびて淡き白磁の月のふね浮かべてとほき君を偲ばゆ,平成二十三年十月二日
千にひとつ野辺にま白き曼珠沙華千々に乱れし月の心か,平成二十三年九月三十日
懐かしき歌をひも解き忘れ音のこぼれて夜の灯火となり,平成二十三年九月二十七日
朝に花ゆふべに月を詠めては差し隔たれし時をとぶらふ,平成二十三年九月二十七日
をりをりの花を歌へる唇は消えゆく月のともしびに似て,平成二十三年九月二十五日
白秋のひかりのめぐる花々に結ぶゆふべの露のひとこと,平成二十三年九月二十四日
ほの揺るる蝋燭の灯を中にしてむかし話の花咲くゆふべ,平成二十三年九月二十一日
雨風の荒れ狂ひなく天つ空そのいと深きふところにゐて,平成二十三年九月二十一日
朝まだき露にかがよふ虫の音のうつりて浮かぶ有明の月,平成二十三年九月十八日
秋の夜の長らふ雨によび応ふセピア色したピアノひと歌,平成二十三年九月十八日
彼岸花ほの末枯るる野に出でて凛と紅さす秋のひと日に,平成二十三年九月十八日
これでいいこれでいいとか言いながら涙に滲む声で鼻唄,平成二十三年九月十八日
聡明なあをの広がる歌でしたわたしの胸をさらふ海です,平成二十三年九月十八日
ゆく雲の流れのなかに佇みてちさきゆふべの涙をわらふ,平成二十三年九月十七日
雨あひに星降る如くしろがねの夜の静寂にすだく虫の音,平成二十三年九月十七日
夕されば人なき野辺にさめざめと白く降りしく萩の雨かな,平成二十三年九月十七日
十六夜の月に漂ふわびしさをひとり寝る夜の枕べに置く,平成二十三年九月十三日
をりをりに絹雲まとふ月影に灯り落として親しむゆふべ,平成二十三年九月十三日
万物をあまねく包む月影に身をさらしては思ひたゆたふ,平成二十三年九月十二日
ぬばたまの月咲まふ夜の片隅にたつた一つの約束を置く,平成二十三年九月十一日
ひとひらの蝶おふ影の如き雄蝶いろなき風に色添ふ如く,平成二十三年九月十一日
日々高く遠のく空に薄れゆく夜ごと語りしやはらかき言,平成二十三年九月十一日
名月を肴にうたをうたはむとさそはれし夜の月の白さよ,平成二十三年九月十一日
憂鬱なゆふべの月の淡きこと二度と戻らぬ穏やかな文字,平成二十三年九月十日
立ち添ふる涼しき星よ君はいま何する人ぞ呼べど届かず,平成二十三年九月八日
わが君は如何詠むかな落日をとけて消えゆく海月の月を,平成二十三年九月八日
青藍のひがしに淡き月ひとつ白露のごとき思ひこぼるる,平成二十三年九月八日
なにとなく君の影さす面立ちに夢現にてふいに名を呼ぶ,平成二十三年九月七日
久方の月かたぶきぬ山ぎはにしづむは深きわが思ひかな,平成二十三年九月六日
名残り惜し硝子の如き黎明にほのかに移る紫檀のにほひ,平成二十三年九月五日
錫いろの空の降りさうな春でした時折浮かぶ不知火の声,平成二十三年九月四日
目に見えぬバリアに心壊れゆく決して届かぬ思いと共に,平成二十三年九月四日
散らかつた欠片を集め文綴りまた悔やんでるちつぽけな夜,平成二十三年九月四日
こんなにも傍にゐるのに触れられぬ今宵の月の瞳やはらか,平成二十三年九月四日
野分立ち夏の名残りの花流れ千々に乱るるわが思ひかな,平成二十三年九月三日
花あはく色を映して夕まぐれ風にひとひら身を解きつつ,平成二十三年九月三日
穏やかな言葉さがして闇の窓こころの澱を溶かすが如く,平成二十三年九月三日
儚げなまた降りだした雨音に立ち去るものの面影を抱く,平成二十三年九月二日
まゆ月の流るる空に月をみて花ちる木末に花みるここち,平成二十三年九月二日
朴訥と語るしらべの愛しさを懐いてねむる野分きの夜に,平成二十三年九月二日
うたた寝の耳元訪ぬる雨音に覚めれば白き秋の蛍火,平成二十三年九月一日
白壁にとどまる秋の透明な陽だまりの如き言葉しみ来ぬ,平成二十三年八月三十日
夜をこめて思ひの丈の言あつめ歌に結べぬ文月更けゆく,平成二十三年八月二十八日
遠き夏ゆき交ひし時の旅人の記憶は淡く霧中に消ゆる,平成二十三年八月二十八日
まだ青き栗の実みつけ語り出す寡黙な人の記憶のひと日,平成二十三年八月二十六日
去る人を見送る人の目に浮かぶ計り知れない涙のふかみ,平成二十三年八月二十六日
雨落ちに天寿全うせし蝉の野辺の送りになづむ夕暮れ,平成二十三年八月二十六日
虫の音と雨音のみのすだく夜に消えゆくものの儚さを知る,平成二十三年八月二十五日
振鈴の闇をさまよひ夢うつつ君がひとみに映るまぼろし,平成二十三年八月二十四日
欠けゆくも再びめぐる明月を偲びてゆかむ秋のきざはし,平成二十三年八月二十三日
夕さればゆるし色染むくりや辺に訪ぬる虫の鈴の音深し,平成二十三年八月二十二日
雨音に埋もるる部屋にただ独り書を紐解くも水泡と消ゆる,平成二十三年八月二十一日
幻のやうなる日々の語らひもわが青き史のエッセンスかな,平成二十三年八月二十一日
鈍いろの空より落つる細き雨さざれ波立つ胸をしづむる,平成二十三年八月二十一日
風かよひ花より落つる朝つゆはよべの雨かなわが涙かな,平成二十三年八月二十日
つゆ草のあを訥々とともる野に佇むやうなゆふべの余韻,平成二十三年八月二十日
まどろみの耳に虫の音ほのかなる白き窓辺に秋やどる朝,平成二十三年八月二十日
しつとりと虫の音のみの降り頻る秋のにほひの漂ふ夕べ,平成二十三年八月十九日
更けゆくもまだ長からぬ秋の夜に結び文をば読みて綴らむ,平成二十三年八月十九日
秋あかね稲の実りを教ふごと風を渡りてしるべとなりぬ,平成二十三年八月十七日
期せずして待ちゐし文の舞ひ来る色なき風のやうなる心,平成二十三年八月十六日
いざよふは月のみに非ずこの秋や空音の如き蟋蟀ひとつ,平成二十三年八月十六日
夕風に線香花火のほのにほふ遠き記憶のいろはあでやか,平成二十三年八月十五日
ふとよぎる不安をふつと消し流す満ちたる月の瞳やはらか,平成二十三年八月十五日
秋めくやひかりの巡る花々もかたぶく月をいだける山も,平成二十三年八月十四日
わが思ひほろり一すぢ零れたる流るる星の行方も知らで,平成二十三年八月十四日
秋あさしはや末枯れの桜葉に斜陽わびしき別れのことば,平成二十三年八月十四日
迎へ火に誘はれ出でし今宵月おぼろたゆたふ秋色をして,平成二十三年八月十三日
捕われし蝉なく声に子らの声それぞれの目にそれぞれの生,平成二十三年八月十三日
ゆふ闇の藍を染めぬく月白しかの聡明なまなこに似たり,平成二十三年八月九日
ゆく夏の背にただよふ切なさをわが哀しみと重ぬる夕べ,平成二十三年八月七日
凪むかへ夕風やがてふつと絶ゆ届かぬ文を待ちたる心地,平成二十三年八月七日
をりをりに雲より見ゆる月影の宿るましろの露涼しかり,平成二十三年八月七日
くれなゐの玻璃に宿りし黄昏は音なく落ちて夏を閉じゆく,平成二十三年八月七日
いかづちのつれ来し雨は草々に約束のごと青き玻璃おく,平成二十三年八月七日
触るるものに添ひて天さす朝顔の性のやうなるわが恋心,平成二十三年八月五日
朝は来る心の闇を切り裂いて強制的な今日のはじまり,平成二十三年八月四日
玉梓をあかき曽呂利の花入にさして待ちたる夕月夜かな,平成二十三年八月三日
夕さればにほふ茜の山の端に淡きみかづき思ひ添ふらむ,平成二十三年八月二日
白花のとをにひとつはあを浮かべ水に涼しきけさの朝顔,平成二十三年八月一日
部屋の隅ため息一つまた一つ風いろ変わる夏の果てかな,平成二十三年八月一日