うたの小箱

こころのままに

うたのわ自動和歌集

2013-10-12 12:16:30 | 短歌
眼差しのやうなる蒼き星流れ歌にへんげしわが胸に落つ,平成二十五年十月十一日
どの星を見てるのだらう数多ある星よりとほき人の心は,平成二十五年十月十日
とつとつと思ひはらみて文字は降る旧暦長月三日の夜に,平成二十五年十月八日
刻々ともの影のびてあは白く色なき風のほのみゆる午後,平成二十五年十月六日
さつきより少しまはりし秋の陽の隣に座り二胡日和かな,平成二十五年十月六日
秋の陽は月見の窓のかたちしてわがため息の傍らに座す,平成二十五年十月六日
微笑みが黄昏いろに沈澱しやうやく馴染むさくらんぼ酒,平成二十五年十月五日
時折に深緑する風かよふこころの小径に落ちし実ひらひ,平成二十五年十月五日
変はりゆく景色のなかに移ろはぬ紅ひと色の花のひと群,平成二十五年十月五日
人知れず消え果つ星の瞬きに似てほのかなる細き虫の音,平成二十五年十月一日
手鏡の冷たさにふと重ねみる春浅き日のことばひとひら,平成二十五年九月三十日
オリーブの花言葉知り朧げに呟きながら手のひらに書く,平成二十五年九月二十九日
転寝の爪先に訪ふそぞろ寒過ぎ去りし夏の忘れ音つれて,平成二十五年九月二十九日
晴れ渡るただひと色の空眺めわが見る夢のとほき道のり,平成二十五年九月二十八日
筆あとを辿れば見ゆるみ心の大地のやうな深きぬくもり,平成二十五年九月二十八日
柿渋の巻き文とけば渓流のせせらぎを聞く如き書に触る,平成二十五年九月二十八日
むら雨の夜にふたたびの文ほどき墨の香にほふ水茎の跡,平成二十五年九月二十七日
川の辺の葛の花ぶさ手にとりて紫の香に酔ひしゆふぐれ,平成二十五年九月二十六日
むら雨の訪ねし野辺の傍らの尾花に宿るは白つゆばかり,平成二十五年九月二十二日
一面のくがねの波のかたはらに白たへの羽と紅の花ぶさ,平成二十五年九月二十二日
立ち並ぶしろがねの穂の花ごとにただ立待の月は宿れる,平成二十五年九月二十二日
曼珠沙華せわしき人の眼うらに灯りてほのと季つぐる紅,平成二十五年九月二十一日
いざよひの紫にほふ歌びとの御髪かかりし天のうすぎぬ,平成二十五年九月二十一日
哀しみの横顔あをき夕暮れにまなざしのさき雁渡りゆく,平成二十五年九月二十一日
つま先に秋は漫ろに訪れるガラスの月のにほふ夜更けに,平成二十五年九月二十日
中の秋ほほに冷たき膝がしら伏したまつげにともる名月,平成二十五年九月十九日
野分去り洗はれわたる月涼しけさ咲く花の面立ちをして,平成二十五年九月十七日
たをやかな真白き花は透きとほり誰を偲びて黎明に立つ,平成二十五年九月十四日
稲ならぶ刈田のあぜにねぎらへる九夜月いろの玉簾咲く,平成二十五年九月十四日
言まよふ指先とほき雷に見透かされてはとどまるゆふべ,平成二十五年九月八日
年経るを沁々思ふいと疾しとこぬれに今朝の白露結べば,平成二十五年九月七日
いつぞやの聞き逃したる呟きに似て朧なる遠きいかづち,平成二十五年九月五日
満場の拍手のやうにゆくりなく背戸の柿の葉打ち頻る雨,平成二十五年九月四日
床に伏す母のたゆげな眼差しに時へて触るる指の冷たき,平成二十五年九月四日
星々の瞬きめいたつぶやきを月のいろにてつつんで懐く,平成二十五年九月三日
墨染めの夜をわたれるとほり雨硯にとりて秋したためる,平成二十五年九月三日
やうやくの月やま際に灯る頃遠き街の灯ふたつ三つ消ゆ,平成二十五年八月三十一日
墨染めの夕べに沈むかなしみを掬ひて詠ふ小さき虫の音,平成二十五年八月二十七日
残る雨ひと粒こぼしけさの陽に涼ほどきゆく白桔梗かな,平成二十五年八月二十四日
あかときを渡る雁がね仰ぎみて悲しみ暮るる月は隠らふ,平成二十五年八月二十三日
しらとりの羽桃いろに染まる頃まぼろしとなる遠き約束,平成二十五年八月二十二日
月の下二胡の音そそと忍びなく帰らぬ夏の言葉さがして,平成二十五年八月二十二日
雨だれを一つ二つと数へるは来ぬ人を待つ夜のなぐさみ,平成二十五年八月二十一日
久方の雨たをやかな秋の夜に夢消え果てて思ひわづらふ,平成二十五年八月二十一日
つぶやきに月さがせども雨落ちて小さき秋の白露と化す,平成二十五年八月二十一日
夕映えに明星ひとつ灯るころ名残の雲はやがて消えゆく,平成二十五年八月二十日
瓶づめの青苺のジヤムのなか秋の気配を添へてし閉じむ,平成二十五年八月十八日
もの憂げな窓に置きたる朝の日に靜かな秋の訪れをきく,平成二十五年八月十八日
あらためて月を仰げば懐にいだきし熱のやがて溶けゆく,平成二十五年八月十八日
深き霧まとふ暦となりにけりこよみにあらず我が人生の,平成二十五年八月十七日
言一つけさ咲く花に掛け結ぶそを解きゆくやはらかき風,平成二十五年八月十一日
あかねさす紫の蕊残りたる臥した窓よりみゆるアベリア,平成二十五年八月九日
何もかも受容せむとし流れゆく雲に思ひを重ねて生きむ,平成二十五年八月八日
やはらかき記憶の中に聞こえくる茜いろした夕雲のこゑ,平成二十五年八月八日
つゆ草のあをひと色にほの白くけさ結びたる涙ひとつぶ,平成二十五年八月七日
星消えて月しらみゆく黎明のただうるはしき心とぞ思ふ,平成二十五年八月七日
秋立ちぬ白き微かな残り音を消してひとつの季を納むる,平成二十五年八月七日
闇のなか水泡と消ゆるわが思ひただ遠白き記憶となりぬ,平成二十五年八月五日
寄る辺なき身にぞしみ入る蟋蟀の呟きに似た涙こぼるる,平成二十五年八月五日
くち吟み青き夏草わけてゆくただまつすぐな亜麻色の道,平成二十五年八月三日
人知れずやまぎはともす繊月のきぬ糸めいて白より白し,平成二十五年八月三日
宵闇に身を知る雨の露の如なくこほろぎの初音かなしき,平成二十五年八月三日
緑葉の篠つく雨に打たれしを見やりて思ふ悪しき言の端,平成二十五年八月三日
閨の窓あふぎ見すれば折節に夜ごといざよふ月うら寂し,平成二十五年七月二十八日
雷のつれ来る雨の激しきを二胡の手やすめしばし眺むる,平成二十五年七月二十七日
夕立は折り重なりしかなしみの鈍いろめいた心より落つ,平成二十五年七月二十五日
森白みさわぐ風さへ眠る朝ひぐらしなきて晩夏を告ぐる,平成二十五年七月二十三日
徐にささやきかくる者ありて仰ぎみすれば月のほの見ゆ,平成二十五年七月二十三日
目も綾な今宵の月のそのいろに心を染めて君がかたへに,平成二十五年七月二十二日
しづかなる褥に白き月さしてあをき吐息のさざ波立ちぬ,平成二十五年七月二十一日
語らひの長らふ夜に夢うつつ文字とりこぼし舟を漕ぐ君,平成二十五年七月二十一日
過ぎし日もこの一瞬も瞭然とセピア色した道となりゆく,平成二十五年七月二十一日
泣き言も辛さも見せず休みなく雀啼く朝みかづきの夜も,平成二十五年七月二十日
打ち水に追はれてまどふ黒き猫はや片蔭を拾ひやすらふ,平成二十五年七月二十日
眼かひをゆく風いろにいにしへの思ひ重ねてしばし佇む,平成二十五年七月二十日
涼風やこぞの虫音に出会ふ朝はやもあらたな季を迎ふる,平成二十五年七月二十日
月送り丑三つに降る雨を聞く届かぬ文をただ待ちながら,平成二十五年七月二十日
石段をのぼりて仰ぐ夕まぐれ闇に溶けゆくあをき栗の実,平成二十五年七月十七日
透明な青き言の葉掌にとりて安らぎの夜の端に浮かべむ,平成二十五年七月十七日
どことなくうるむ虫の音かぜの色はや遠州の夜は秋いろ,平成二十五年七月十七日
棘をもつ言葉うづむる木の下におぼろに浮かぶ白き花影,平成二十五年七月十三日
かぎろひの燃ゆる昼べに確かなる涼知りて咲く朝顔の花,平成二十五年七月十一日
やすらぎの三日ばかりの月の舟その切つ先に浮かべる涙,平成二十五年七月十一日
月明かり去年の花いろ雨の音わすれかけたる様々のこと,平成二十五年七月十一日
滾々と願ひあふるる言の葉は嗤ひの渦に千切れて消ゆる,平成二十五年七月九日
躊躇ひの指さき拾ふ訥々とつぶやきこぼす星をさがして,平成二十五年七月九日
逢ふこともままならぬ夜は軒端より鵲かける橋渡りたき,平成二十五年七月七日
まろき背と蓮のつぼみのやうな掌を傍にみて杜すぐる朝,平成二十五年七月六日
文はなく雨音だけの訪ね来るそこはかとなく寂しき夕べ,平成二十五年七月六日
穏やかな迎へが早く来るやうに代筆の手をふと止める声,平成二十五年七月五日
東雲の鳥も歌はぬあづまやに訪ぬるものは雨ばかりなり,平成二十五年七月四日
おほらかな風に花びら舞ふやうに蝶ふたひらの綾とぶ夕,平成二十五年七月三日
合歓の花ひとつふたつと落ちる朝五つ六つと咲く百日紅,平成二十五年七月二日
とりどりのあふるる歌は八百万いづみ湧く如花咲く如く,平成二十五年七月一日
東のやまぎは白く染めぬいてねむれる里の月はしづけし,平成二十五年七月一日
半夏生わが胸の内知りたるや葉を片染めし恋ふるが如く,平成二十五年七月一日
もののけの眼とも見ゆる螢の別れを告ぐる蒼きともし火,平成二十五年六月三十日
夕まぐれ君が手折りしひと本の花に身を変え命燃やさむ,平成二十五年六月二十九日
アベリアの白際立てる落日のやはらかきかな遠き眼差し,平成二十五年六月二十九日
蓮池を訪ぬるものは朝咲くつぼみにとまる風のひとひら,平成二十五年六月二十九日
さめざめと降る雨の中ほろほろと啼く山鳩の声は鈍いろ,平成二十五年六月二十七日
唐突に遠き目をしてつぶやける雨のにほひを風に聞く人,平成二十五年六月二十七日
けさめ降る白ひと色の山間にやは肌めいた合歓の花咲く,平成二十五年六月二十七日
雨されば望むゆふべの穏やかな寝息に似たる青き山並み,平成二十五年六月二十六日
雨滴よひらの花の輪郭をたどりてやがて落ちるむらさき,平成二十五年六月二十五日
雨間にのぞける月の灯かげにて君が結びし文をほどかむ,平成二十五年六月二十五日
雲ときて現れ渡るいざよひの月のかんばせ懐かしきかな,平成二十五年六月二十五日
耳元でおやすみ囁くすべもなく蛙となりて詠ふもかなし,平成二十五年六月二十四日
羽衣か富士の高嶺のしら雪か知らねど白し雲ゐながるる,平成二十五年六月二十四日
月待てど葉音に訥と知る雨は君待つ夜のなみだに似たり,平成二十五年六月二十四日
漆黒のやみ降りしけば凛々と無月こひしき虫ぞ鳴くなる,平成二十五年六月二十四日
五月雨に凌霄花こぼれ咲く地に降るものは夏のしかばね,平成二十五年六月二十三日
片影を拾ひてあるく黒ネコの足あとぽつり夏かげりゆく,平成二十五年六月二十二日
東雲のむらさきほどに漂へる香に微睡みてあさね髪梳く,平成二十五年六月二十二日
ひと頃の思ひは雨に流れゆきさやけき歌は耳にとどまる,平成二十五年六月二十日
待宵の白雨けぶりて虚ろなる花のいろほどはかなき恋路,平成二十五年六月二十日
うたた寝の耳にさやかなあま音に君が手枕思ふて二度寝,平成二十五年六月二十日
歌に添ふ愛しき君が名にふれてほのと紅さす指先あはれ,平成二十五年六月十八日
一陣の雨さりてのち移ろへる虹のやうなる詠み人知らず,平成二十五年六月十八日
いつぞやの三季ともにし青がえるなにをや思ふ夏の厨べ,平成二十五年六月十七日
寝ねがてに言葉探して指折りて降りくるはただ再びの雨,平成二十五年六月十七日
天地の結べる白き雨糸を織りて行き交ふぬれつばめかな,平成二十五年六月十六日
朝ぼらけほつえに咲きし一輪の花とみまがふ青き鳥の音,平成二十五年六月十五日
雨落ちに打たるる花の弾きゐる言葉のやうなちさき宝玉,平成二十五年六月十五日
山の辺のつきなき月を眺めつつ音なき雨に思ひしづむる,平成二十五年六月十三日
重ねしも消ゆる思ひを闇におき露もこぼさぬ螢かなしき,平成二十五年六月十三日
人知れずとほき灯かげを眺むれば思ひも闇にとけむ高楼,平成二十五年六月十三日
やはらかき弥勒菩薩の指先に似かよふ花にこぬか雨降る,平成二十五年六月十三日
満ちみちてやがて落ちゆく心かなけさ雨粒の滴るを見て,平成二十五年六月十二日
あぢさゐの下枝を灯す螢火のほのめくあをに思ひ隠らふ,平成二十五年六月十一日
雨の夜は君が傍へに寄り添ひてふくみし甘き酒を給はむ,平成二十五年六月十一日
朝まだき鳥の音のみの透きとほる蒼ひといろの道に佇む,平成二十五年六月十日
月影も絶えてひさしき枕辺にかよひし文の玉とかがよふ,平成二十五年六月九日
玉かぎるゆふべの涙けさの花うつろふ謎の君がまなかひ,平成二十五年六月八日
夜を渡りやをら散りしく言の葉を薄衣の如重ねて寝ぬる,平成二十五年六月七日
わが胸の内に秘めたる熱情を映すや今朝のざくろ花咲く,平成二十五年六月六日
あを梅の香に懐かしき花の頃夜ごとにものを思はざる頃,平成二十五年六月五日
香を聞けばくゆる煙ぞ立ち迷ひ背にまとふは君が影かな,平成二十五年六月四日
幾そたび悔みてやまぬおほけなき文を送りし闇夜思ひて,平成二十五年六月四日
くちなしの香に誘はれて訪ぬれば夜目にも白し絹の花影,平成二十五年六月三日
ぬばたまの闇深々としづみゆく月もとどかぬ夜の底ひに,平成二十五年六月三日
つばくらめ軒を仮寝の宿として羽繕ひてふたたび出でむ,平成二十五年六月二日
夏時雨 白雨 青梅雨 虎が雨 名のあることを知らず降る雨,平成二十五年六月二日
空おもくあしもと濡るる憂鬱をぬぐふ朝のまろき紫陽花,平成二十五年六月二日
ぎこちなき気配のままにすれ違ふ下弦の月の懐く悲しみ,平成二十五年六月二日
来む来じと花に占ふ歌ありていにしへ人の小粋にふるる,平成二十五年六月一日
薄暮れに君が我が名を呼ぶ声のかすかに匂ふ麦の秋かな,平成二十五年六月一日
種々の名もなき草の生ふる道日ごとせまりて青き雨降る,平成二十五年六月一日
雨の糸紡ぎ織られしたをやかなうす衣の如き歌を纏ひて,平成二十五年五月三十一日

うたのわ自動和歌集 その2

2013-10-12 12:16:13 | 短歌
鈍いろの雨ひと色に降り頻る庭に紅さすたちあふひかな,平成二十五年五月三十日
あぢさゐの花のよひらは雨うけて悲喜交々の色を映すや,平成二十五年五月二十九日
つゆ草の結ぶ露ほどはかなげな取るに足らぬは我が恋心,平成二十五年五月二十八日
あでやかな立待ち月にいざなはれ暗き山べに君し思ほゆ,平成二十五年五月二十七日
胸えぐる言ひも解けば一点の我がゆく道の灯し火となる,平成二十五年五月二十七日
いざよひの月影さやか降る夜にわが心ねをあやに綴らむ,平成二十五年五月二十七日
眼差しはいづくに向かふ遠つ君夕暮れの野にひとり佇む,平成二十五年五月二十六日
しろがねとくがねに色ふ忍冬夜の深みに香ぞまさりける,平成二十五年五月二十六日
あさね髪とく甘やかな指先は今ひとたびの夢路いざなふ,平成二十五年五月二十六日
薄暮れに来ぬ文待ちて佇めばわが衿あしに風は戯ゆる,平成二十五年五月二十六日
すべらかに墨染の夜を渡りゆく真珠の月のしづくかなしも,平成二十五年五月二十六日
君よりは遠つ淡海の浜に立つ白波ひけばやがて消えゆく,平成二十五年五月二十五日
ひとり寝の傍らそぞろ寒き夜の訪ぬるものは月ばかりなり,平成二十五年五月二十五日
とろとろと溶けゆく月のぬくもりで埋め尽くそうか夏の空白,平成二十五年五月二十三日
月まとふ雲ながらへて行きまどふ君がみ胸ぞあやに恋しき,平成二十五年五月二十三日
小夜ふけて闇の底なる時つ鳥忍び音ひとつふたつ零るる,平成二十五年五月二十三日
螢なすほのかに浮かぶ君が影涙かたへに忍びたづぬる,平成二十五年五月二十三日
山なかに初音ゆかしき不如帰思ひつつめど忍び音もるる,平成二十五年五月二十一日
人知れず身を隠し咲く木の花にわが身重ねてしばし眺むる,平成二十五年五月二十一日
小夜ふけて届く便りはゆくりなく雨の間にいづる月かも,平成二十五年五月二十日
わが背子の背にすがりてゆく川の流れいざなふ涙ひとひら,平成二十五年五月十九日
帳おりほがら三日月凛として天路わたるを愛でつ眺むる,平成二十五年五月十九日
髪撫づる風もしづまる夕なぎの潮騒にきくわが名呼ぶ声,平成二十五年五月十九日
縁ありて古の歌ひもとけばもののあはれを知りたる夕べ,平成二十五年五月十九日
東雲の明けゆく野辺に一人きて露おく白き花を手折らむ,平成二十五年五月十九日
朝まだきおぼろ野に立つ紫のひときは冴ゆる夏あざみかな,平成二十五年五月十八日
ひとり寝のため息ひとつ歌にせむ枕辺に置く詞さがして,平成二十五年五月十八日
悲しみの闇に浮かべるひとひらの歌はわが胸こがす螢火,平成二十五年五月十八日
ぬばたまの夕べ君詠む恋歌に今朝咲く白き花のしをりを,平成二十五年五月十八日
移ろへる記憶たどりて歌ひろふ君の教へし花をしるべに,平成二十五年五月十七日
月影の中にただよふ愛しさを如何に綴りて君に捧げむ,平成二十五年五月十三日
貴やかな三日ばかりの月の灯をほのと置きたる胸あたたかき,平成二十五年五月十二日
頑なな心とも見ゆる蕾さへつとほどきゆくはつ夏の風,平成二十五年五月十二日
今朝しづかにほろり零れし恋歌はわが髪撫でて遠くへ去りぬ,平成二十五年五月十二日
一条の雨を眺めて遠き日の淡き思ひの糸をたぐりて,平成二十五年五月十二日
空白の日々埋め尽くす雪に似たひたすら白き君がまなざし,平成二十五年五月十一日
懐かしき痛みやはらぐ朝に似たベイクドチーズケーキのにほひ,平成二十五年五月十一日
雲居なす心と知りて聞き澄ます声と覚ゆるはなやぎの雨,平成二十五年五月十一日
風かをる野にありてこそ美しき人知れず咲く花の紫,平成二十五年五月十日
夜いろににじむ涙とため息をこの新月の闇にかくして,平成二十五年五月十日
ほろほろと永の別れに涙する枕べ濡るる夢のさめぎは,平成二十五年五月九日
名も知らぬ花を手折りてさしのべる言葉少なき人の眼差し,平成二十五年五月八日
おぼろげな芍薬ひとつ狭庭べに神代この方にほひぬるかな,平成二十五年五月八日
東雲をただ待ちながら山ぎはに幻めいて月のほの見ゆ,平成二十五年五月七日
ひとり来て綾なす風に佇めば心に滲む遠きまなざし,平成二十五年五月六日
緑なす風もあらたにはつ夏の五感に触るるものいとをかし,平成二十五年五月六日
まだ淡き夏のゆふべの月詠みて歌ひもとけば心やはらぐ,平成二十五年五月五日
黄昏の山のふもとの物すべてこがね纏ひて華やぎの頃,平成二十五年五月五日
あけ初めし夏の夕べの月白に来ぬひとを待つ心地こそすれ,平成二十五年五月五日
声かすか匂ひほのかな店の奥胎内記憶といふ名の時間,平成二十五年五月四日
待ちわびし下弦の月のいづる頃秘め咲く花の露ぞこぼるる,平成二十五年五月三日
寄る辺なき命のやうに掌にうけて朽ち落つ白き花を弔ふ,平成二十五年五月二日
夏にほふ南に低き星々をつなぐ指さき思ふて眠る,平成二十五年五月二日
魂きはる命と知りてさみどりの春より夏へかはる日に逝く,平成二十五年五月一日
花ひけばぷつりと音の立つ如く艶かしかり恋の散りぎは,平成二十五年四月三十日
君すでに雨夜の月となりにけり文のみならず通はぬ思ひ,平成二十五年四月二十九日
くれなゐの野に佇めば立ち迷ふ心にひそむ色知るゆふべ,平成二十五年四月二十八日
待てど来ぬ便りにも似た切なさをゆふべの月の白に重ねる,平成二十五年四月二十七日
願はくは朝ひとひらの花のなりふと訪ねたき君がかんばせ,平成二十五年三月三十日
うつむきて零すすべなき花ごころ知るや知らずや春の夜の雨,平成二十五年三月十八日
懐かしき変はらぬ笑みに安堵する月よみ人の歌に仰げば,平成二十五年三月十八日
小雪の星くずひとつ流れたりセピアとなりし記憶の中に,平成二十四年十一月二十四日
時雨るるを耳そば立てて聞きゐれば折々わらひ折々に泣く,平成二十四年十一月十一日
訥々と湧きては落つる一言に似てふり初むる小夜時雨かな,平成二十四年十一月七日
落日の日ごといそぎて山ぎはの紅うすれゆく暮れの秋かな,平成二十四年十一月六日
ゆく秋の夜を惜しみて滲みたる妖しきまでに匂やかな月,平成二十四年十一月四日
いかばかり思ひ重ねて朝咲く露ににほへる白菊の花,平成二十四年十一月四日
電飾のあまた燦めく木々の間にしづかに色ふ月のかんばせ,平成二十四年十一月四日
風にゆれ雨に枝垂るる花に似たしなやかなりて心ある人,平成二十四年十月二十八日
いにしへの歌ひも解けば通ひ路に人知れず降る秋の雨音,平成二十四年十月二十八日
秋更けて音もか細き小夜の雨黙しかたらぬ人のなみだや,平成二十四年十月二十八日
道ゆけば出会ふ数多の花のいろ白をし伝ふこころを聞かむ,平成二十四年十月二十八日
雨音に耳そば立てて夜もすがら夢まぼろしや月の声きく,平成二十四年十月二十三日
秋雨の落ち初む野辺に濡れそぼつ花の心を何にたとへむ,平成二十四年十月二十二日
鶸いろの月といふ名の香ひとつ炉に燻らせば迷ひの如き,平成二十四年十月二十一日
紗をまとひ月やまぎはに添ふるころ狭庭のすみににほふ白菊,平成二十四年十月二十一日
水ぬくき夕べとなりて星ひとつ我が心よりこぼれ落ちたる,平成二十四年十月二十日
月の灯に浮かぶ面影消え入りて露おく袖にしみる秋の夜,平成二十四年十月二十日
しづか夜の心に降りしひとひらの歌に宿れる月のぬくもり,平成二十四年十月二十日
うす紅をさしたる白き手をのべて紫紺の花は月に焦がるる,平成二十四年十月十九日
おほらかに背を抱かるる心地してふと眺むればやはらかき闇,平成二十四年十月十五日
仕事するお料理をして掃除する月をも愛でる恋のかたはら,平成二十四年十月十四日
さそはれて触るるほどにも心近くされど消えゆく幻の道,平成二十四年十月十四日
風のなか流れゆきたる日常を歌と云ふ名の付箋で誌す,平成二十四年十月十四日
面影の心の其処にある如くほの白きかな蕎麦の花畑,平成二十四年十月十四日
瀬をきざみ秋の陽なづむ夕暮れに白鷺ひとり何をか思ふ,平成二十四年十月十日
白菊のほころぶ先に結びたる花よりしろき寒露ひとつゆ,平成二十四年十月八日
いづくより訪ひ来しものよ秋茜儚きまでの風置き往ぬる,平成二十四年十月七日
一抹の風詠むひとの歌にきく花かげ白くにほふ秋かな,平成二十四年十月六日
墨染のこころとぞ思ふ秋の夜の吐息とけゆく月の静寂に,平成二十四年十月六日
一条の光こぼるる月の夜に重ね詠へり淡きしらべを,平成二十四年十月六日
立待ちの月はめぐりて更くる夜にわが待ち焦がるもの影はなし,平成二十四年十月二日
いざよへる月影白く仄みゆるゆかしき方の面差し浮かべ,平成二十四年十月一日
野分ゆく雲間にのぞく月眺め揺るがぬものの愛しさを知る,平成二十四年九月三十日
西方の遥けし空の野分来よかを匂やかに連れてこよかし,平成二十四年九月三十日
涼風に野辺の花よりこぼれたる白き月の香ものさびしかり,平成二十四年九月二十九日
たゆたひて待ち渡る夜に漫ろはし玉梓に添ふ恋花ひとひら,平成二十四年九月二十六日
ふところに白露いだき隠れ咲く花をあまねくつつむ秋の陽,平成二十四年九月十六日
訪ひ去りし風のやうなる白萩の花に思ひのあることを知る,平成二十四年九月十五日
まだ眠る淡き花野にひとりきてこぼるる玻璃の一言を待つ,平成二十四年九月十五日
秋なかば色なき風にとけゆきぬ臥し初むる日も予後の名残も,平成二十四年九月九日
地に降れば渇きを知りて葉に降れば茂れるを知る雨の音かな,平成二十四年九月八日
秋あかね血潮の羽に雨もよふ空をうつして風にただよふ,平成二十四年九月八日
鳥の音にけさ忍びこむ窓風にたしかな秋のおとづれをきく,平成二十四年九月八日
ちよろづの葉に結びゐる白露をわがゆく道の標とやせむ,平成二十四年九月七日
あやしくも薄衣まとひ闇に咲く滴るほどの白は誰がため,平成二十四年九月五日
野路ひとり鬼灯の朱にひかれつつ触るれば揺るる心にも似て,平成二十四年九月二日
かほ花は色なき風のなかにゐて擁かれて伏す秋のふところ,平成二十四年九月二日
あしもとを訪ふ白波の音にきくまだ見ぬ風とこれからの秋,平成二十四年九月二日
壮大なもののやうにも朝露のやうにも見ゆる縁おもほゆ,平成二十四年九月二日
涼もとめ窓辺に置きし文机にたづぬる月の花影いとし,平成二十四年九月一日
草ひばり侘し寂しとそぞろ鳴き雲より出でし月と相和す,平成二十四年九月一日
うす墨に浮かびし蒼き月みれば遠音ゆかしく濡るる袖かな,平成二十四年九月一日
鮎くだる頃かと語る先みれば白瀬にまろぶ秋の日のあり,平成二十四年八月二十八日
やはらかき花ひとひらの言はなち混じりて消ゆる遠きしほ音に,平成二十四年八月二十六日
求めてもなほ遠白き寝ねがての夜は薄衣の声をしとねに,平成二十四年八月二十六日
しら明くる朝訪ふ風に焔立つわがたなすゑに残る夏かな,平成二十四年八月二十五日
上弦の白あてやかにうち黙しゆく末のみを眺むるゆふべ,平成二十四年八月二十五日
わだつみの蒼にほひ立つ残り音に折々みゆる花のくれなゐ,平成二十四年八月二十五日
煌めきの一言などに囚われたこのワタクシの心かへして,平成二十四年八月二十三日
夕闇に浮かびし月は色めいてまだ見ぬひとの囁きに見ゆ,平成二十四年八月二十三日
とうにゐぬ蛍火ひとつ掌にうけて君なき夜に文待つ心地,平成二十四年八月二十二日
今しがた移ろふ風を眺めつつ刹那にほへる秋に身を置く,平成二十四年八月十九日
手さぐりの闇にて待たむ一条のこころに見ゆる朔の月影,平成二十四年八月十九日
一人きて残る夕べの雨に触る心やはらかき風を詠みつつ,平成二十四年八月十九日
君がため歌詠むここち夜もすがら雨音なども指折り数へ,平成二十四年八月十一日
枕辺に恋うたひとつまたひとつ夢の路ゆく君を追ひつつ,平成二十四年八月十一日
夜もすがら遠き雷かぞへつつ覚えし文を読みつつ待たむ,平成二十四年八月十一日
雨ふれば君待つここち君訪へば星降る心地まつさらな秋,平成二十四年八月十一日
くれなゐに灯る言の葉ひもといて秋の声きく愛しき夕べ,平成二十四年八月十日
戸惑ひとせつなき深きため息ときみ問ふ花の白に染む月,平成二十四年八月十日
朝まだき夢かとまがふ文いだき心あらたな秋は初めにし,平成二十四年八月七日
深き夜の歌にちりばむ言の葉をわれの心の鍵にて解かむ,平成二十四年八月七日
暮れなづむ心とも見ゆるくれなゐの涙に滲むゆく夏の雲,平成二十四年八月七日
色めきてやがてかぎろふ君が影歌をたぐりて心ひも解く,平成二十四年八月六日
移ろへる夏の陽のいろ風の色あはと色めくうすものの影,平成二十四年八月五日
陽炎にみつけた羽をかざし見て心のこりの空へふたたび,平成二十四年八月五日
陽と風のとけ合ふ夏の片隅に二胡の音そふる昼下りかな,平成二十四年八月五日
墨染のゆふべ朽ちゆく花ひとつ恋の行方を教えしやうに,平成二十四年八月四日
いつの日か君に触れたきものとしてわが指先を眺むる夕,平成二十四年八月四日
空蝉の侘しさを聞くかたぶきて背のたしかな真一文字に,平成二十四年八月四日
待ち侘びしなほもいざよふ月影に愛しき方の歌重ねつつ,平成二十四年八月四日
東雲に朝顔ほのか浮かび咲くこころに露をひとつ結びて,平成二十四年八月二日
まくらべに面影さがすため息のただよふごとき淡き月影,平成二十四年八月二日
月かがみこよひ心も満ちたたふ玉梓うけし夏のはたてに,平成二十四年八月二日
夏の夜のあだめく月のため息にこころ潤みてそぞろ涙す,平成二十四年七月三十一日
とほつ君おもひ侘ぶれば西方にゆく七月の月をおくりて,平成二十四年七月三十一日
しづかなる君が心の花の名を一夜めぐりて尋ぬすべなし,平成二十四年七月三十一日
寄る辺なき心に月は立添ひて伏し目がちなる睫毛に白し,平成二十四年七月三十日
人けなき月のゆふべに相聞こゆ待宵草の小さきともしび,平成二十四年七月三十日
薄暮れの道の辺に吾をさし覗く月影のごと白きむくげよ,平成二十四年七月三十日
歩みとめ見上ぐる先に懐かしき言よみがへる百日紅咲く,平成二十四年七月二十八日
弓張の月に追はれて暮れいそぐ山ぎは蒼き夜半の夏かな,平成二十四年七月二十八日
ゆく夏に別れ告ぐるや日暮しの声に涼しき風訪ふばかり,平成二十四年七月二十八日
腰折れの私のうたにそつくりな二胡の音わらふ上弦の月,平成二十四年七月二十七日
先制といふやうな君の表情に喧嘩わすれて仕返しのキス,平成二十四年七月二十六日
謙譲の花ことばもつアベリアの白灯り咲く晩夏のゆふべ,平成二十四年七月二十六日
ひとり夜は君の教へし星訪ねこぼるる言の流れては消ゆ,平成二十四年七月二十六日
君が影ふとさしのぶるゆび先に触るるは淡く白き月かな,平成二十四年七月二十三日
哀れにもわが心より蒼き月もろ手に受けてとくと抱かむ,平成二十四年七月二十二日
端居して久方の月ながめつつ君詠むうたを待つ良夜かな,平成二十四年七月二十二日
白々と薄きぬの如き風訪へばひと肌を恋ふかなしき夕べ,平成二十四年七月二十一日
夏の夜の雨は窓辺に訪ねきて言問ひながら刹那ちりゆく,平成二十四年七月二十一日
訥々とまた降り出した雨音にふと思ひ出すやはらかき言,平成二十四年七月二十一日
叶はぬと知れど俯き闇の夜にただありふれた一言を待つ,平成二十四年七月十九日
玉梓は月なき夜にゆくりなく白く灯りてやがて消えゆく,平成二十四年七月十八日
奥深き音いろ探りてゆく道の気高き白きいちりんの花,平成二十四年七月十七日
泡沫の夢は消にけりほの見ゆる姿はるけし虎が雨かな,平成二十四年七月十七日
よべの雨ひとつ抱いてつゆ草は空の忘れし青を湛へて,平成二十四年七月十五日
東雲に月影淡くしづみゆく気づけば落つる涙のごとく,平成二十四年七月九日
星数ふ面差しに触れ淡き君ただ遠白きあくがれと知る,平成二十四年七月九日
ふたたびの雨に隠れし月影を慕ひて濡るる一花一葉,平成二十四年七月八日
待てど来ぬ夜の帳のうらめしき心のひだに隠す涙よ,平成二十四年七月八日
久方の月はにほひて野辺白くさやかに秋の訪れを聞く,平成二十四年七月八日
雨の間に月影を待つまなざしに今云ひかけて飲みこみし言,平成二十四年七月七日
悲しみの涙の化身かと思ふ夜をわたりて降りしく雨を,平成二十四年七月七日
いかづちと雨音のみの夜にゐて愛しき歌をただ待つばかり,平成二十四年七月七日
薄暮れの白雨に灯るまぼろしの紅さす如き夏花ひとつ,平成二十四年七月四日
君思ひふて腐れたるこのこころ波の如くにゆきもどりする,平成二十四年七月四日
七月の月なき夜のこころにも離ればなれに同じ雨降る,平成二十四年七月四日
日にありてよひらの花のいろ淡く雨にありせば脈々とあを,平成二十四年七月三日
なまめかし闇の窓よりたづぬるは月の涙と花のしかばね,平成二十四年七月三日
深き夜にさやけき君も眠れぬかうたに残りし名をば愛しむ,平成二十四年七月二日
ふたたびのたづねし雨に心しむいにしへの夜のうたを解けば,平成二十四年七月二日
なにとなく眠れぬ夜の片隅に時計の針と雨をかぞへて,平成二十四年七月二日
探しても探しても触れぬ指先に愁ふる夏の風いろまとふ,平成二十四年七月二日
雨だれに心しづめてひとり寝の枕べにふとうたを訪ぬる,平成二十四年七月二日
ものの影みなやはらかきこの夕べ嵐と共に去りゆくおもひ,平成二十四年六月十九日
寝ねがてに筆とる指のやすらひて蒼き心にほむら立ちそむ,平成二十四年六月十九日
雨風に揺らぐセピアの部屋にゐてもの云ひたげな焔をみつむ,平成二十四年六月十九日
折々にあま風の訪ふ窓べにてうたのやうなる蛍火ながむ,平成二十四年六月十五日
心もなくゆふべ切なき諍ひに卯の花くたす雨はにほへる,平成二十四年六月九日
君待てど雨音のみの聞こえくる窓にうつるはわが憂ひかな,平成二十四年六月九日
遠き日の月に宿した面影とほのか残り音連れくる夜雨,平成二十四年六月九日
降りやまぬ雨に心を滲ませて月なき闇の窓に君待つ,平成二十四年六月九日
薄暮れに白雨けぶりて紫の小路をいそぐ人はまぼろし,平成二十四年六月八日
ほの明り灯しては消ゆる初ほたる見果てぬ恋のゆくへ探して,平成二十四年五月三十日
月さがし窓にふれたる指さきで求めるままのうたを綴らむ,平成二十四年五月三十日
葉より葉へかけたる糸を紡ぎゆく蜘蛛の営みあかず眺むる,平成二十四年五月二十六日
打ち寄する波の如くに繰り返すひとつの言の思ひは深き,平成二十四年五月二十六日
枕辺に置き忘れたる心をばふと思ひだす白き月影,平成二十四年五月二十六日
忘れえぬ夜に残した歌ひとつひも解き結ぶ白き夕月,平成二十四年五月二十六日
風のごと青田わたりて舞ひ来る鷺たたずめば青きは立てり,平成二十四年五月二十六日
知るや君わづかに残るともしびを胸にしづめて眠りし夜を,平成二十四年五月十三日
もしやわれ月にありせばひとり寝の君が枕辺訪ねしものを,平成二十四年五月十三日
今しばし禊の如き透明なさはやぐあをき風にひたらむ,平成二十四年五月十三日
折にふれ交はせし歌を抱きしむる玻璃の向かふの届かぬ君の,平成二十四年五月十二日
紅の花降りつむ雨にいろ褪せていざよふ夏の切なさ思ふ,平成二十四年五月五日
白々と春の泊に漂ふは嗚呼うたかたの夢とほの知る,平成二十四年五月四日
ゆく春のしるべと咲くや野辺とほく薄紅の灯火かなし,平成二十四年五月四日
思ふれば深まるばかりほの遠く卯の花のごと白き君かな,平成二十四年四月二十六日
花のもと鳥の音聞きし春の果てしのぶ思ひもいづくにか消ゆ,平成二十四年四月二十四日
わが夢の終焉として導かる桜ちり敷く白き花道,平成二十四年四月二十一日
一抹のかなしみ沈むわが心知るや知らずや花うつろへる,平成二十四年四月十九日
遠白き気高き花にあくがれて足もとに咲く花に気づかぬ,平成二十四年四月十八日
残り花よべの涙を受け止めてひとひら落ちてひとひらの追ふ,平成二十四年四月十八日
遠ざかる空を背にして踏み出せば我がゆく道に戻るすべなし,平成二十四年四月十八日
惜別の空に舞ひゆくひとひらの花とみまがふ東雲の月,平成二十四年四月十三日
瀬をはやみなどて流るる涙雨ゆくへも知らぬ花のふねかな,平成二十四年四月十二日
木のもとの落ち敷く花に重ねみる思ひこぼれし言葉の欠片,平成二十四年四月十二日
一条の光とも見ゆる花ぶさの白きはだてる春の月かげ,平成二十四年四月九日
山の辺は花かかすみか遠白く折々見ゆるわが思ひかな,平成二十四年四月九日
久方の月はおぼろに花ともし君ゆく道のしるべとなりぬ,平成二十四年四月九日
散りぎはの花それぞれに思ひありて最期の風に託すひと色,平成二十四年四月九日
ふと風に声聞く心地ほつえよりわが足もとにたづねし花の,平成二十四年四月九日
桜さくら抱けよ抱けけさの陽を雨に落ちたるものの命を,平成二十四年四月一日
春の夜のまだうら若き花ひとつ落とすは阿修羅のごとき雨かな,平成二十四年四月一日
やうやくに綻ぶ淡き花のもと佇むひとの思ひうかがふ,平成二十四年四月一日
問いかけに答えぬ君の横道に逸れる話を春愁と呼ぶ,平成二十四年三月二十四日
うす紅の桃いちりんの花時を旧暦三月三日に思ふ,平成二十四年三月二十四日
うたらばのフェイドアウトの速さにはおよそそぐわぬ切なき余韻,平成二十四年三月二十四日
綴りゆかむ健やかなる日も病める日も怒りの夜も旅の朝も,平成二十四年三月二十四日
やうやくに降りそそぐ春燦々と真白き花の白はやはらぎ,平成二十四年三月二十二日
おそらくは春来たりなば遠ざかる星のやうなる心とぞ知る,平成二十四年三月二十一日
春の陽に咲きこぼれたる花に似て受ける手のなきわが思ひかな,平成二十四年三月十九日
鼻歌が寝息にかわる午前二時余韻のごとき雨音聞こゆ,平成二十四年三月十八日
降り暮らすなどや華やぐ春の雨花にこぬれに光を添へて,平成二十四年三月十八日
問ひかけと静けき強きまなざしと祈りの風を纏ふ春の夜,平成二十四年三月十五日
白き日の一編の詩をくちずさむ君詠む「君」に見ゆる眼差し,平成二十四年三月十五日
薄氷のぬくみて流るる水の如ちしほかよひて解けゆく心,平成二十四年三月十四日
ゆくりなく受くひと枚の花の如やはらかきかな白き春の日,平成二十四年三月十四日
春なかばなごりの雪は花となり日々津々と淡く色めく,平成二十四年三月十四日
薄ら氷の消えゆくやうに透明な記憶の端に残るかなしみ,平成二十四年三月十四日
折々のひとの流れの中をゆく思ひおもひの歌はうるはし,平成二十四年三月十日
水墨に彩そふ如きうぐひすの初音ゆかしき春のほころび,平成二十四年三月十日
はやも散る雨に打たれし白梅を花の涙とこぼすまなざし,平成二十四年三月十日
浮かびくる花は灯りてかぐはしき何やらゆかし春の夕闇,平成二十四年三月八日
紅木瓜のけさ咲き初めし花房を綻び愛でつ名こそ憐れみ,平成二十四年三月七日
まだ満ちぬ月眺めをり春の夜にわれ唯足るを知らむとぞ思う,平成二十四年三月六日
春告げと云ふ名の酒に咲き初めの白梅うかべ月と呑む宵,平成二十四年三月三日
山茶花は冬枯れの野に紅さして春の風にて花をおさむる,平成二十四年三月三日
春の野辺ひと雨ごとに青芽立ちひと風ごとに花は紅さす,平成二十四年三月三日
春の宵灯せど消ゆるほの明かり身を知る雨に濡るる袖かな,平成二十四年三月二日
小夜更けて花月語れる友を知るいま山の辺に上弦の月,平成二十四年三月二日
いづくにか隠るる春を捉へむと眼光するどき鳶一羽あり,平成二十四年二月二十六日
梅の香に瑠璃鳥つどひふたたびの時知らぬ雪は深々と舞ふ,平成二十四年二月二十六日
きぞふたつけさ五つ咲き梅の花色なき雨のこころは知らず,平成二十四年二月二十五日
雨の夜の月の如くに君が影まぼろしと消え夢に色なし,平成二十四年二月二十五日
人けなき山里に降るまつすぐな雨に浮き立つ菜の花おぼろ,平成二十四年二月二十五日
久方の雨はまろびてあらたなる上枝わたりて白梅いだく,平成二十四年二月二十二日
おぼろげな菜花に雨に心入りておもむろにゆく春の別れ路,平成二十四年二月二十一日
うたのわに人の織りなす色ありてわがひと色の歌を灯さむ,平成二十四年二月十八日
ひとひらの言葉によつて起こりうる笑顔はまるで化学反応,平成二十四年二月十八日
まだ淡き春の嵐かいづくにぞ残れる冬の未練なるかな,平成二十四年二月十八日
生かされることを厭ふて味をみて香をきく心をあたためた人,平成二十四年二月十八日
現し身の心はいづこさまよへる闇より舞ひ来しあは雪に問ふ,平成二十四年二月十八日
そこここにちらりほらりと咲き初むる梅はや散ると見まがふは雪,平成二十四年二月十七日
君の名のルーツをたどるこの川のまつすぐなどに重なりを見た,平成二十四年二月十七日
無機質なポップアップにほころびる笑顔のもとは君の誠実,平成二十四年二月十七日
なにげない日常の中にころがった微笑みこそをしあわせと云ふ,平成二十四年二月十六日
雪消して花をおこして降る雨の色もにほへる春は来にけり,平成二十四年二月十五日
よみがへる思ひとともに瑠璃いろの春を贈らむ如月なかば,平成二十四年二月十四日
君思ふ涙はかなく結びたり薄氷わたる月のなぐさみ,平成二十四年二月十三日
春淡し君がみ胸に眠る夢描けどとほき面影と知る,平成二十四年二月十三日
君がいふ「辛夷の蕾が膨らんだ」その指さきに春は宿れり,平成二十四年二月十三日
桜さくらきのふ険しき花つぼみまろびて白し今朝の春かな,平成二十四年二月十二日
しあわせの種をひと粒くれるやうに今朝いちりんの連翹咲けり,平成二十四年二月十二日
わが心激情の文字渦巻いてそぞろあだめく春のお月夜,平成二十四年二月九日
ほの白きことばを闇に解き放ち今宵かぎりの月を眺むる,平成二十四年二月八日
脱ぎ捨てた靴下みたいに投げやりな送った直後のメールが痛い,平成二十四年二月八日
しとしとと何故しとしとと雨音は私の心を知るのでしょうか,平成二十四年二月七日
春の夜の寝息つんざく着信音十七歳の事情に怒り,平成二十四年二月六日
卒論の残骸ひろふ指さきを太宰治は音なして切る,平成二十四年二月六日
指さきに陽の訪れて煩へる永久凍土に閉ざされし春,平成二十四年二月五日
掌の中に淡きたしかな陽をとらへ春を見据えるしづかものの芽,平成二十四年二月四日
花陰に風の泊にうすらひに春は名のみと諭さるる朝,平成二十四年二月四日
連綿のなかに思ひを忍ばせて雪といふ名の恋文おくらむ,平成二十四年二月四日
答えなき質問のみを胸に抱き雪はしづかに心をおおふ,平成二十四年二月三日
しあわせな君の心の片隅に映ることなき雪のひとひら,平成二十四年二月二日
でき立てのパスタに白くやわらかき陽だまり遊ぶ透明な午後,平成二十四年一月三十一日
受験票鉛筆消しゴムちゑさんのお手紙入れるお守りとして,平成二十四年一月二十九日
墨染の山ぎはに座す月みれば沖に浮かびし舟あかり思ふ,平成二十四年一月二十八日
ふりむけば三日月かかる梅が枝にほころび初むる白き花房,平成二十四年一月二十七日
愛すべき微笑む月を探すため分厚いテキストぱたりと閉じる,平成二十四年一月二十六日
超えられぬ時空と心の隔たりと人称定義をかなしむ夕べ,平成二十四年一月二十五日
淡雪に似てさりげなき君の言ゆきげとなるも心に積もる,平成二十四年一月二十四日
木のもとに白寒椿ほとり落つ冬の夕となりにけるかな,平成二十四年一月二十四日
質感も色も匂いもぬくもりもわからぬままの愛しき右手,平成二十四年一月二十四日
薄れゆく面影懐けばまぼろしの月のやうなる温もり匂ふ,平成二十四年一月二十二日
ひとりきて玻璃をはなてば救はるる心の果の海の蒼さよ,平成二十四年一月二十一日
わが胸に灯れる歌をけふ君におくりて願ふ雪解のこころ,平成二十四年一月二十一日
うす衣を纏ひて眠る山並みのあを重なりて思ひしづむる,平成二十四年一月二十一日
寒つばき君恋ふごときくれなゐの花ひと色に添ふる白雪,平成二十四年一月二十一日
いつよりか傍らにゐし猫とみる雨とつとつと大寒の朝,平成二十四年一月二十一日
もう二度と心は元に戻らない形状記憶の素材じゃなくて,平成二十四年一月二十日
雨つぶの戯れに似た旋律でなみだの夜を奏でるピアノ,平成二十四年一月二十日
夢やぶれセピアとなりし君の住む江戸も小雪の宵となるかな,平成二十四年一月十九日
手をのべて探る切なき憧れをわらふあなたの暗号解けず,平成二十四年一月十九日
薄ら日に淡く儚き香をとかし君に色添ふただ待ちながら,平成二十四年一月十九日
聞きたくて聞けない心音もなく降りだす雨にもらひ泣きする,平成二十四年一月十九日
ひとひらの花びら落ちてゆくやうに記憶失ふ人の愛しさ,平成二十四年一月十五日
散る花や欠けゆく月の愛しさに重なる人の旅立ち祝ふ,平成二十四年一月十五日
人知れずほころぶ思ひまたひとつ眠れぬ夜と朝の静寂に,平成二十四年一月十五日
花びらにたしかに結ぶ露ひとつこぼるる如し恋ごころとは,平成二十四年一月十二日
掌にふいに舞ひ降る星屑のほのあをきかな恋心とは,平成二十四年一月十二日
小夜ふけて愛しき人の来ぬ窓を月はめぐりて思ひやすらふ,平成二十四年一月十二日
いざよひの月はあなたに送るからひとつ私に詠んで下さい,平成二十四年一月十一日
遠つ方思ひ届かぬ宵ふかく祈りのごとくまぶた閉じなむ,平成二十四年一月五日
初夢は月わたる夜の枕べにあくがれびとの甘きささやき,平成二十四年一月三日
初風に心ほのかに伝へたきひと言たくし待つゆふべかな,平成二十四年一月三日
遥かなるセピア色した青春をひもとくゆびにあはき面影,平成二十四年一月三日
老いし母とひと息つきて見あぐれば梅一輪の綻びを知る,平成二十四年一月三日
吾が君は如何に詠ふやこの月を涙かたしきやすらふ月を,平成二十四年一月一日
花散りてつもる思ひは秘めやかに後の世までの手土産として,平成二十四年一月一日
若水のしづくに墨の香をこめて月をおくらむ玉梓にして,平成二十四年一月一日
去年今年変はらぬ夜にあらたなるこころで眺む上弦の月,平成二十四年一月一日
私の勘違ひだと思ふけど「月が綺麗」はさういふことね,平成二十三年十二月三十一日
一条の光となりてかなしみのなみだの淵の底をも照らす,平成二十三年十二月三十一日
絆とは斯くも良き字をあてたもの嗚呼しみじみとほろ酔ひの夜に,平成二十三年十二月三十一日
君思ふため息のごと朝もやに溶け入るほどに名をば囁く,平成二十三年十二月三十一日
ねえ今夜あなたの夢を打ち明けて今年最後の月眺めつつ,平成二十三年十二月三十一日
月淡くせつな消えゆく君が影はかなき夢にさしのぶる指,平成二十三年十二月二十八日
月星のつかず離れぬ距離感にわれのことばの無力を思ふ,平成二十三年十二月二十七日
くちづけの理由はいらぬ墨染の街に降りしくすき通る星,平成二十三年十二月二十四日
あかぎれのゆびさき包む心にて私のうたをいつくしむ人,平成二十三年十二月二十四日
今もなほきみの記憶の奥底に私の欠片はあるのでせうか,平成二十三年十二月二十三日
冬枯れの野にあたたかき一輪の花はゆふべの涙をいだき,平成二十三年十二月十七日
面影をさがしてのばす指先に落ちては消ゆる雪を哀れむ,平成二十三年十二月十七日
語らひの夜を重ねて降りつもる思ひ水脈引く月の舟かな,平成二十三年十二月十五日
朧げにいざよふ月を眺めみむ甘きゆふべのひと言を抱き,平成二十三年十二月十三日
月影にふたたび光さし初めてあはあは見ゆる夢の通ひ路,平成二十三年十二月十一日
君の見た感じたままをひと枚の歌といふ名の絵手紙にして,平成二十三年十二月五日
ひさかたの光やはらぐ小春日の雪見障子にうつる残り葉,平成二十三年十二月四日
無機質な壁の寒さを知らされる終の暦をめくるゆびさき,平成二十三年十二月三日
うす墨のゆふべに浮かぶ月灯り唯それのみを至福と思ふ,平成二十三年十一月三十日
東雲の明くれば消ゆる面影に祈りのごとく香を焚きしむ,平成二十三年十一月三十日
おほらかな小春のゆふべに浸む月臥しゐる母を見守り給へ,平成二十三年十一月二十九日
祐輔の半分ほどのパンプスが夕べ我が家にお泊まりをした,平成二十三年十一月二十六日
霜まとひかなしきまでに浮かびくる月なき夜の白菊の白,平成二十三年十一月二十五日
寂しいな空がこんなに澄んでゐて星が瞬く夜といふのに,平成二十三年十一月二十五日
君が掌の温もりほどの愛しさで胸に灯れるやはらかき歌,平成二十三年十一月二十五日
遠つ君しのべば渡る月影にかよはぬと知るうたを託さむ,平成二十三年十一月二十五日
君の眼に映る景色を知りたくてつぶやいたけど実は恋文,平成二十三年十一月二十四日
一条の光のやうにかよひ合ふ君と交はせし真夜中のうた,平成二十三年十一月二十三日
ゆくりなく紅葉ひとひら舞ひ来り冬のはじめの夕闇の中,平成二十三年十一月二十三日
凩に窓うつ上枝の声きけば愛しきひとの訪ふを知るかな,平成二十三年十一月二十一日
侘しさに月なき窓を眺むれば君よりとどくふたたびの雨,平成二十三年十一月二十日
つぶやきと深き愛しき雨音とあの懐かしきうたは重なる,平成二十三年十一月十九日
月影のなき闇いろの窓つたふ思ひのごとく雨はそぞろに,平成二十三年十一月十九日
更待ちの月を眺めてひとり寝の閨につもれるため息の白,平成二十三年十一月十七日
明らかに欠けゆく月の瞳よりせつなきものは君の眼差し,平成二十三年十一月十六日
陽だまりの一言をもつ人ありていかなる人の心もひらく,平成二十三年十一月十五日
星の夜はしんみりあなたが愛おしいこの青ひとつ君にあげよう,平成二十三年十一月十五日
盃に飲めぬ酒など並々とゐ待ちの月を浮かべては愛づ,平成二十三年十一月十四日
月影にはらり山茶花落ちる夜はきみの心のひと欠片知る,平成二十三年十一月十四日
立待の月を仰げばくちびるにゆふべ囁くきみのくちぐせ,平成二十三年十一月十三日
一葉とともに木末に灯るごとひとつ残さる木守り柿かな,平成二十三年十一月十三日
いざよひの月のやうなるかの人は今宵いづこの空を漂ふ,平成二十三年十一月十三日
いざよひの月待つ白き山の辺にまだ見ぬ人の面影うつし,平成二十三年十一月十二日
蒼き星ま白き月のささやきを眠れぬ夜のまくら辺に置く,平成二十三年十一月十二日
語りましょ私たちの棲む地球の海を映した星たちのこと,平成二十三年十一月十二日
あす待てどいや遠ざかる月影の涙となりし小夜時雨かな,平成二十三年十一月十一日
冬立ちぬ川面に揺るる白鷺のたつたひとつの思ひを掬ふ,平成二十三年十一月十日
山茶花の散り敷く白き音聞けば闇にかそけき初時雨かな,平成二十三年十一月十日
玉梓に添ふるひとひら手に受くる秋の名残の月の灯りを,平成二十三年十一月七日
晩秋のただまつすぐに降る雨に遣りどころなき思ひ浸さむ,平成二十三年十一月六日
君がほら育ったように育ててる一筆書きの星座のように,平成二十三年十一月五日
穴が開くハンコ押される角折れる切符の様ねわが人生も,平成二十三年十一月五日
一連のつぶやきをただ読みながすBGMはのこる虫の音,平成二十三年十一月三日
昨夜の雨なん天の実の紅うつしあらはれ渡る空を映して,平成二十三年十一月一日
降り初むる雨に心は奪はれて今詠みかけの歌をうしなふ,平成二十三年十月三十日
うち偲びふともれいづる忘れ音の眺めのすゑに流るる思ひ,平成二十三年十月三十日
朝まだきゆふべの露をたづさへて吐息ゆかしき白菊の花,平成二十三年十月三十日
白絹の衣は月と相和して夜ごと散りぬる野辺の山茶花,平成二十三年十月二十九日
ほろ酔ひて星を繋ぎし指先をただ見つめては俯くゆふべ,平成二十三年十月二十九日
ゆく秋に律のしらべのむし絶えて小夜の衾となりし落葉,平成二十三年十月二十二日
降りやまぬ雨に心は見透かされ夕べ一つの言葉のみこむ,平成二十三年十月二十二日
一葉のひと雨ごとに色ましてただ来ぬひとに募りし思ひ,平成二十三年十月二十一日
まなざしのやうなる星の瞬きに残るゆふべのひと言思ふ,平成二十三年十月二十一日
あなたから心はなして佇めばうつろふ花のやうに色褪す,平成二十三年十月二十一日
末枯れて月は欠けゆき虫絶ゆる斯くもさらりと秋は暮れゆく,平成二十三年十月十七日
夜に果てし熱き血潮をさます如今ひとたびの冷たき雨に,平成二十三年十月十六日
吾を穿つ激しき雨になり給へ吐息もなみだも闇に流さむ,平成二十三年十月十六日
君とゐて雨音さへも愛ほしく月なき空もかがよふゆふべ,平成二十三年十月十六日
あなたより届く雲間に隠さるる月を返歌のやうに贈らむ,平成二十三年十月十五日
週末のそぼ降る雨の夜に酔ふ切子グラスの酒にあなたに,平成二十三年十月十四日
今しがた風に別れのにほひしてつうと心が冷たくなつた,平成二十三年十月十二日
閨一つ明かり落として月灯し通ひ路まどふ我を照らさむ,平成二十三年十月九日
山の辺に身をばしづむる月の如君がみ胸に頬寄すゆふべ,平成二十三年十月九日
嘘でいい今宵かぎりの恋歌を私に宛てて詠んでください,平成二十三年十月九日
風いろに君を思ほゆ月影にまして偲ばゆひとり寝のまど,平成二十三年十月七日
月けぶるけし炭いろの秋の夜の思ひは闇の淵にしづめむ,平成二十三年十月四日
秋あかね舞ふ暮れ方に幻の素風にとけるゆふべのこわ音,平成二十三年十月二日
秋さびて淡き白磁の月のふね浮かべてとほき君を偲ばゆ,平成二十三年十月二日
千にひとつ野辺にま白き曼珠沙華千々に乱れし月の心か,平成二十三年九月三十日
懐かしき歌をひも解き忘れ音のこぼれて夜の灯火となり,平成二十三年九月二十七日
朝に花ゆふべに月を詠めては差し隔たれし時をとぶらふ,平成二十三年九月二十七日
をりをりの花を歌へる唇は消えゆく月のともしびに似て,平成二十三年九月二十五日
白秋のひかりのめぐる花々に結ぶゆふべの露のひとこと,平成二十三年九月二十四日
ほの揺るる蝋燭の灯を中にしてむかし話の花咲くゆふべ,平成二十三年九月二十一日
雨風の荒れ狂ひなく天つ空そのいと深きふところにゐて,平成二十三年九月二十一日
朝まだき露にかがよふ虫の音のうつりて浮かぶ有明の月,平成二十三年九月十八日
秋の夜の長らふ雨によび応ふセピア色したピアノひと歌,平成二十三年九月十八日
彼岸花ほの末枯るる野に出でて凛と紅さす秋のひと日に,平成二十三年九月十八日
これでいいこれでいいとか言いながら涙に滲む声で鼻唄,平成二十三年九月十八日
聡明なあをの広がる歌でしたわたしの胸をさらふ海です,平成二十三年九月十八日
ゆく雲の流れのなかに佇みてちさきゆふべの涙をわらふ,平成二十三年九月十七日
雨あひに星降る如くしろがねの夜の静寂にすだく虫の音,平成二十三年九月十七日
夕されば人なき野辺にさめざめと白く降りしく萩の雨かな,平成二十三年九月十七日
十六夜の月に漂ふわびしさをひとり寝る夜の枕べに置く,平成二十三年九月十三日
をりをりに絹雲まとふ月影に灯り落として親しむゆふべ,平成二十三年九月十三日
万物をあまねく包む月影に身をさらしては思ひたゆたふ,平成二十三年九月十二日
ぬばたまの月咲まふ夜の片隅にたつた一つの約束を置く,平成二十三年九月十一日
ひとひらの蝶おふ影の如き雄蝶いろなき風に色添ふ如く,平成二十三年九月十一日
日々高く遠のく空に薄れゆく夜ごと語りしやはらかき言,平成二十三年九月十一日
名月を肴にうたをうたはむとさそはれし夜の月の白さよ,平成二十三年九月十一日
憂鬱なゆふべの月の淡きこと二度と戻らぬ穏やかな文字,平成二十三年九月十日
立ち添ふる涼しき星よ君はいま何する人ぞ呼べど届かず,平成二十三年九月八日
わが君は如何詠むかな落日をとけて消えゆく海月の月を,平成二十三年九月八日
青藍のひがしに淡き月ひとつ白露のごとき思ひこぼるる,平成二十三年九月八日
なにとなく君の影さす面立ちに夢現にてふいに名を呼ぶ,平成二十三年九月七日
久方の月かたぶきぬ山ぎはにしづむは深きわが思ひかな,平成二十三年九月六日
名残り惜し硝子の如き黎明にほのかに移る紫檀のにほひ,平成二十三年九月五日
錫いろの空の降りさうな春でした時折浮かぶ不知火の声,平成二十三年九月四日
目に見えぬバリアに心壊れゆく決して届かぬ思いと共に,平成二十三年九月四日
散らかつた欠片を集め文綴りまた悔やんでるちつぽけな夜,平成二十三年九月四日
こんなにも傍にゐるのに触れられぬ今宵の月の瞳やはらか,平成二十三年九月四日
野分立ち夏の名残りの花流れ千々に乱るるわが思ひかな,平成二十三年九月三日
花あはく色を映して夕まぐれ風にひとひら身を解きつつ,平成二十三年九月三日
穏やかな言葉さがして闇の窓こころの澱を溶かすが如く,平成二十三年九月三日
儚げなまた降りだした雨音に立ち去るものの面影を抱く,平成二十三年九月二日
まゆ月の流るる空に月をみて花ちる木末に花みるここち,平成二十三年九月二日
朴訥と語るしらべの愛しさを懐いてねむる野分きの夜に,平成二十三年九月二日
うたた寝の耳元訪ぬる雨音に覚めれば白き秋の蛍火,平成二十三年九月一日
白壁にとどまる秋の透明な陽だまりの如き言葉しみ来ぬ,平成二十三年八月三十日
夜をこめて思ひの丈の言あつめ歌に結べぬ文月更けゆく,平成二十三年八月二十八日
遠き夏ゆき交ひし時の旅人の記憶は淡く霧中に消ゆる,平成二十三年八月二十八日
まだ青き栗の実みつけ語り出す寡黙な人の記憶のひと日,平成二十三年八月二十六日
去る人を見送る人の目に浮かぶ計り知れない涙のふかみ,平成二十三年八月二十六日
雨落ちに天寿全うせし蝉の野辺の送りになづむ夕暮れ,平成二十三年八月二十六日
虫の音と雨音のみのすだく夜に消えゆくものの儚さを知る,平成二十三年八月二十五日
振鈴の闇をさまよひ夢うつつ君がひとみに映るまぼろし,平成二十三年八月二十四日
欠けゆくも再びめぐる明月を偲びてゆかむ秋のきざはし,平成二十三年八月二十三日
夕さればゆるし色染むくりや辺に訪ぬる虫の鈴の音深し,平成二十三年八月二十二日
雨音に埋もるる部屋にただ独り書を紐解くも水泡と消ゆる,平成二十三年八月二十一日
幻のやうなる日々の語らひもわが青き史のエッセンスかな,平成二十三年八月二十一日
鈍いろの空より落つる細き雨さざれ波立つ胸をしづむる,平成二十三年八月二十一日
風かよひ花より落つる朝つゆはよべの雨かなわが涙かな,平成二十三年八月二十日
つゆ草のあを訥々とともる野に佇むやうなゆふべの余韻,平成二十三年八月二十日
まどろみの耳に虫の音ほのかなる白き窓辺に秋やどる朝,平成二十三年八月二十日
しつとりと虫の音のみの降り頻る秋のにほひの漂ふ夕べ,平成二十三年八月十九日
更けゆくもまだ長からぬ秋の夜に結び文をば読みて綴らむ,平成二十三年八月十九日
秋あかね稲の実りを教ふごと風を渡りてしるべとなりぬ,平成二十三年八月十七日
期せずして待ちゐし文の舞ひ来る色なき風のやうなる心,平成二十三年八月十六日
いざよふは月のみに非ずこの秋や空音の如き蟋蟀ひとつ,平成二十三年八月十六日
夕風に線香花火のほのにほふ遠き記憶のいろはあでやか,平成二十三年八月十五日
ふとよぎる不安をふつと消し流す満ちたる月の瞳やはらか,平成二十三年八月十五日
秋めくやひかりの巡る花々もかたぶく月をいだける山も,平成二十三年八月十四日
わが思ひほろり一すぢ零れたる流るる星の行方も知らで,平成二十三年八月十四日
秋あさしはや末枯れの桜葉に斜陽わびしき別れのことば,平成二十三年八月十四日
迎へ火に誘はれ出でし今宵月おぼろたゆたふ秋色をして,平成二十三年八月十三日
捕われし蝉なく声に子らの声それぞれの目にそれぞれの生,平成二十三年八月十三日
ゆふ闇の藍を染めぬく月白しかの聡明なまなこに似たり,平成二十三年八月九日
ゆく夏の背にただよふ切なさをわが哀しみと重ぬる夕べ,平成二十三年八月七日
凪むかへ夕風やがてふつと絶ゆ届かぬ文を待ちたる心地,平成二十三年八月七日
をりをりに雲より見ゆる月影の宿るましろの露涼しかり,平成二十三年八月七日
くれなゐの玻璃に宿りし黄昏は音なく落ちて夏を閉じゆく,平成二十三年八月七日
いかづちのつれ来し雨は草々に約束のごと青き玻璃おく,平成二十三年八月七日
触るるものに添ひて天さす朝顔の性のやうなるわが恋心,平成二十三年八月五日
朝は来る心の闇を切り裂いて強制的な今日のはじまり,平成二十三年八月四日
玉梓をあかき曽呂利の花入にさして待ちたる夕月夜かな,平成二十三年八月三日
夕さればにほふ茜の山の端に淡きみかづき思ひ添ふらむ,平成二十三年八月二日
白花のとをにひとつはあを浮かべ水に涼しきけさの朝顔,平成二十三年八月一日
部屋の隅ため息一つまた一つ風いろ変わる夏の果てかな,平成二十三年八月一日

うたのわ自動和歌集 その3

2013-10-12 12:15:56 | 短歌
墨の香に心ひたしてゆく夏の消し去られたる思ひ紐解く,平成二十三年七月三十一日
おそ夏の雨間を縫ひて舞ひ来る黒蝶のおく言葉ほどかむ,平成二十三年七月三十一日
一人でも歩いてゆけるこの道に君のこぼした種ある限り,平成二十三年七月三十一日
ほの見ゆるか弱き月の呟きを消し去る如くふたたびの雨,平成二十三年七月三十一日
しどけなく迎ふる朝の風いろを白く染めぬく木槿ひと花,平成二十三年七月三十日
風あをきかのはつ夏の眼差しは遥けし空を指して帰らず,平成二十三年七月二十六日
あふれくる思ひのごとき涙雨けさ遠州のそらをつつみて,平成二十三年七月二十六日
つゆ草の滴るあをき悲しみに来し方おもふ晩夏のゆふべ,平成二十三年七月二十五日
木漏れ日に空蝉ひとつ翳し見つ君と語りし幾夜かぞへむ,平成二十三年七月二十五日
遠ざかる心はいづこ夏空に問ふてみやうか一縷のなみだ,平成二十三年七月二十五日
まぼろしの白き玉梓夜をしのび吐息纏ひて誰をいざなふ,平成二十三年七月二十四日
秘めやかな遣らずの雨に忍ぶれば彩なす風に巡る思ひぞ,平成二十三年七月二十四日
たのしみはそぞろつぶやく一言に遠音ふたたび蘇るとき,平成二十三年七月二十四日
何ものもなき蒼穹に掌を翳しわが心にはや立つ秋ぞ知る,平成二十三年七月二十四日
とき鼠のゆふべの雲にさみしさを重ね見ゆれば秋の風韻,平成二十三年七月二十三日
思へども伝ふる術は断ち切れてはしき玉梓夢にだに見ぬ,平成二十三年七月二十三日
大暑とは名ばかり花と見紛へる蝶のみをびく風は涼やか,平成二十三年七月二十三日
遠つ沖野分は夏を連れ去りて五感に涼をしたため消ゆる,平成二十三年七月二十三日
東雲に狭霧消えゆきいづくより揚羽ひとひら歌もて来り,平成二十三年七月二十三日
糸とんぼまぼろしの如秋つれて青田の波をゆき通ふらむ,平成二十三年七月二十一日
遠つ君待つ宵草のともし火の寄る辺は白き月ばかりなり,平成二十三年七月二十一日
傷ついた森の木霊と聞きまがふ青鈍いろのひぐらしの声,平成二十三年七月二十一日
野分すぎ雲間ぬけくる時あかり紅むらさきの淡き夕暮れ,平成二十三年七月二十日
君結ひし歌ひとひらを掌に受けて何と名づけむ嵐の夜に,平成二十三年七月二十日
今いづこ何する人ぞ見えわかぬまだうらあをき風来の君,平成二十三年七月十九日
雨風にさゆらぎてなほ華やげり青き夏夜に溶くる淡紅色,平成二十三年七月十九日
さらぬだにいざよふ月ぞ立待のわが心知らずいとど隠るる,平成二十三年七月十八日
芸術と魅入る夏雲まばゆくて短期記憶をうしなつた午後,平成二十三年七月十七日
さくら木は溢るるほどの青湛へ木下に深き闇をいだける,平成二十三年七月十七日
待ち侘びる君なき深き闇の夜に宛なき文は月といざよふ,平成二十三年七月十七日
白むくげ夏の一日に涼こぼしふいの白雨に抱かれて眠る,平成二十三年七月十七日
ほの青き天目に似てけさ開く蔓のゆくへを灯すあさがほ,平成二十三年七月十六日
後朝のつかひの如く遣るせなき折々みゆる月のかんばせ,平成二十三年七月十六日
東雲を迎へてもなほ衣ぎぬの刻を厭ふはわればかりなり,平成二十三年七月十六日
やはらぎの夕べにうるむ月の白心を占める君をほの知る,平成二十三年七月十四日
薄暮れの瀬音にほのり紅そへて香を結びたる夕化粧かな,平成二十三年七月十四日
寝ねがてに傾き去ぬる月みれば胸にいだきし焔しづもる,平成二十三年七月十二日
ほろほろと凌霄花は身をやつし心のあだを昇華させをり,平成二十三年七月十一日
ぬばたまの夜も深まりて洗ひ髪解く指先を思ひいざよふ,平成二十三年七月十日
懐かしき約束といふ二文字をひも解き見えぬ星に結ばむ,平成二十三年七月十日
君と来て戻るすべなきまほろばのまだ稚き月にやすらふ,平成二十三年七月九日
白日のもとにありては花の色風の色みなけざやかなりて,平成二十三年七月九日
白々とほのかに明くる夏の朝指より零るるゆふべの余韻,平成二十三年七月九日
君恋ふる夜には星を眺めつつ朝には鳥を聞いて満たさむ,平成二十三年七月九日
うたた寝の雨音さへも愛おしく我が眼うらに淡く彩へる,平成二十三年七月八日
やすらぎの寝屋にせつなの語らいも星と流れて一縷の涙,平成二十三年七月七日
風鈴の銀の音いろに咲く花のいだけるつゆの青に涼あり,平成二十三年七月七日
頑なな心のままに迎ふ夜のただ降りしきる雨にほどける,平成二十三年七月五日
指先にふたたび触るるものはなく星ひと粒を涙に変えて,平成二十三年七月四日
静寂の蒼き闇夜に浮かびくるこころのままの歌の置場所,平成二十三年七月四日
夏なかば名残の雪と見まがふるこころも白き半夏生かな,平成二十三年七月四日
開け放つ寝屋の窓より鉄橋の遠音聞こゆるかなしき夕べ,平成二十三年七月三日

夢に追へどなほもの遠き君が影月なき闇の深さにも似て,平成二十三年六月二十九日
実をなさぬ花は一つもなしと説く土にまみれた父の横顔,平成二十三年六月二十九日
切なさに愛しき人の名を呼べど届く宛なく闇に消え入る,平成二十三年六月二十七日
降りそむる白雨に思ひこぼれ咲く朱夏にいろ添ふ凌霄花,平成二十三年六月二十六日
蛍火の切なさに似て薄暮れの野辺に灯れる宵待ちひとつ,平成二十三年六月二十六日
人知れずそそと落ち初む銀のこぬかの雨に袖も濡れつつ,平成二十三年六月二十六日
君影をひがないち日恋ひうたふ雲も色めく夏のゆふぐれ,平成二十三年六月二十五日
ひとり居の心恋しや君がうた夕暮れいろの部屋の片すみ,平成二十三年六月二十五日
東雲の窓べに月の香を焚き気だるき夢をとぶらふあした,平成二十三年六月二十五日
哀しみの色を浮かべて月淡くただ一言を待ちぬるゆふべ,平成二十三年六月二十五日
闇の世を花道に変えた一枚の内定通知はモノクロでした,平成二十三年六月二十三日
君が目に映りて歌となる風はわがまなうらの景色とならむ,平成二十三年六月二十三日
むら雲にかくるる月の白うつしそぞろ君恋ふ半夏生かな,平成二十三年六月二十三日
むらさめのしづくに似たる花房の泰山木の白きこころに,平成二十三年六月十九日
掌の中の蛍をやみにはなつごと恋歌うたふ君をみつめむ,平成二十三年六月十九日
かたくなな心ほどけて笑むごとく泰山木の花はほころぶ,平成二十三年六月十七日
月流れ寂しさ募るしづか夜はささめく雨に花こぼれ散る,平成二十三年六月十六日
真夜中に君が溢した七文字の忘れかけてた月のつぶやき,平成二十三年六月十六日
銀の月影ほのか揺らめいて寝屋に散り敷くため息つつむ,平成二十三年六月十四日
枕べに散らばる思ひふたつみつ歌にはできぬ瓦礫の言葉,平成二十三年六月十二日
六月の風にいろそふ花の香に言づてのせて君にささげむ,平成二十三年六月十二日
なが雨に青ふかみゆく田にひとり白ゆりのごと鷺の佇む,平成二十三年六月十二日
降り初むる雨に重なり滾る血の記憶となりし二胡の声色,平成二十三年六月十一日
和紙の隅とけ残りたる樟脳は昇華しきらぬわが思ひかな,平成二十三年六月九日
やすらぎの面差しをした梔子にしたたる雨は花より白し,平成二十三年六月九日
満たされぬわが心とは裏はらに日々麗しく満ちみちる月,平成二十三年六月九日
つぶやきにわが来し方を懐かしみ歌ひも解けば心若き風,平成二十三年六月七日
こぼれ咲く白きうつぎの花の如もの思ひする夜の静寂に,平成二十三年六月七日
さまざまの憂ひをベールのうちに秘め白き光の扉を放つ,平成二十三年六月五日
君こひし光さす日も雨の夜も湯に沈みても夢の途にても,平成二十三年六月五日
筆とれば思ひの川の堰は切れ流るる文になみだ雨降る,平成二十三年六月五日
思ひ火をほのかに灯しほの消ゆる涙の川の初ほたるかな,平成二十三年六月四日
薄暮れの空を案じて雪と云ふそのこころねを深きに思ふ,平成二十三年六月一日
一夜あけ戻らぬ人と知る朝のまだ描きかけの絵葉書の青,平成二十三年六月一日
悲しみにしづむ心をうかがへば鈍ひと色のわだつみの君,平成二十三年六月一日
つゆ抱く青きポプラに灯る花まぶしく見上ぐ術後の父は,平成二十三年六月一日
雨音と鳥の遠音とかの歌となどか溶け合ふまどろみの朝,平成二十三年五月三十一日
この刹那いと狂ほしき夜に浮かぶ月なき窓の月を眺むる,平成二十三年五月三十一日
あぢさゐの色をたづねて雨の中君のこころに染むる爪先,平成二十三年五月二十九日
何もかも消し去るほどに潔くただ降る雨の心さぐりて,平成二十三年五月二十九日
哀しみは昨夜ふる雨がつれゆけど遥けし君に託せぬ思ひ,平成二十三年五月二十九日
雨の朝とけ入りさうな空のいろ海のいろとのあはひの心,平成二十三年五月二十九日
傍らに添ふる刹那の安らぎもはや五月雨に儚く消ゆる,平成二十三年五月二十五日
消え残る夢ひとひらを火にくべて一夜一夜の思ひ鎮むる,平成二十三年五月二十四日
更待ちの月のしづくに手さぐりの指さき触るる君が面影,平成二十三年五月二十三日
ほど遠き心とぞ知る海の辺になみだ雨ふる白きたそがれ,平成二十三年五月二十二日
寂しさに月も日ごとに翳りゆきやがて迎ふるふたたびの闇,平成二十三年五月二十二日
胸の中押し込みすぎた言葉たち花束にして川に流そう,平成二十三年五月二十二日
寝ねがてに枕べに置くひとり言雲に隠れし月を寄る辺に,平成二十三年五月二十二日
文ひとつ解けば光る言葉あり心にあをき風の生まれる,平成二十三年五月二十二日
夏淡くまだまどろみの頬なでて麻ぎぬ透けるやはらかき風,平成二十三年五月二十一日
東雲のほがら明けゆく色に添ふ声はしなやか時鳥かな,平成二十三年五月二十一日
一点を空の如くにみて恋ふる真夏のわれに打ち水をせむ,平成二十三年五月二十日
真夜中につぶやく文字を解いたらどんな囁き聞こえるだろう,平成二十三年五月二十日
君訪ねふたたび巡る月みればこころにちさき卯波立ちぬる,平成二十三年五月二十日
ワタクシは名もなき野辺のひとつ花きみなる空に恋ひ焦がれ咲く,平成二十三年五月十九日
この胸にじんわり染みるこの月がかの顔を照らすのはいつ,平成二十三年五月十八日
ワタクシの心は見たもの聞いたこと感じたままで出来上がってる,平成二十三年五月十八日
寝ねがてに閨の灯りを落としみればわが枕辺に月は灯れり,平成二十三年五月十八日
幾重にも重なる雲に隠れたる月にあなたのこころ重ねて,平成二十三年五月十八日
夜もすがら雲居隠れの月待てど姿ばかりか彩さへもなく,平成二十三年五月十八日
己がじし心の色は愛しきやし君にはきみのまなざしの歌,平成二十三年五月十七日
青白き山はシフォンに抱かれてうつらうつらの朝ぼらけかな,平成二十三年五月十七日
にほやかな風なる文は幻かあくれば消ゆる夢の如くに,平成二十三年五月十七日
一条の夕日は淡きはつ夏の宵待ち草の花いろとなる,平成二十三年五月十七日
銀鼠の空をただよふ朧げな海月の如き月のため息,平成二十三年五月十五日
忍び音に耳そばだてて似て非なる蛙の声やこれも一興,平成二十三年五月十五日
何みても嬉しかりけりなかんづく闇夜にともる細長き窓,平成二十三年五月十五日
久方の月はめぐりて相歌ふ花たちばなの白のさやけさ,平成二十三年五月十四日
八重桜ただ透きとほる蒼穹にゑまひ謳へり北国は春,平成二十三年五月十四日
ワタクシがこの世に生まれてきた理由は桜の花を愛でるためだと,平成二十三年五月十三日
香を焚けば記憶の糸はほつれゆき遠きあの日の思いくゆらす,平成二十三年五月十三日
はつ夏の鳥と雨とに包まれて行きつ戻りつ微睡める朝,平成二十三年五月十二日
流れくる黄砂洗はれ地にほふ五感うるほす走り梅雨かな,平成二十三年五月十一日
弓月は思ひの丈を一条の光にかへて花に詠へり,平成二十三年五月十日
待ちわびし花の眺めを眼うらにさまざま思ふ春の陸奥,平成二十三年五月九日
はつ夏の白ぎぬ纏ひおほらかに天空わたる月ぞ涼しき,平成二十三年五月八日
さみどりの野に一服の雨落ちて朱夏にもえ立つ思ひ鎮むる,平成二十三年五月七日
名も知らぬ花に命の脈絡を思ひてけさのまつすぐな道,平成二十三年五月七日
名残り花月影の下はかなくも清らに散らふぬばたまの夜,平成二十三年五月七日
とほ白き山影淡くあけぬるは卯の花曇りのけさの夏かな,平成二十三年五月六日
白鷺のこころ映して水鏡けさひと際に澄みわたりけり,平成二十三年五月六日
しづか夜の春の湊に残された歌になれないことば漂ふ,平成二十三年五月五日
茉莉花は深き思ひを香に含め五月の風に託すのだらう,平成二十三年五月三日
儚くも名のみ重なるものと知り夜はつれづれに遠き夢みし,平成二十三年五月二日
おぼろげな夏のほとりに佇みてふとふり返る惜春のみち,平成二十三年五月一日
花散らす如く黒髪切り落とし名残の春に別れを告げる,平成二十三年五月一日
しづか夜の枕辺に置く雨音はいつかの君の囁きに似て,平成二十三年五月一日
花びらに真珠の雨の落ち初めて春の思ひをさとる夕暮れ,平成二十三年四月三十日
八重桜けさ一陣の風に舞ひ去りゆく春の涙のごとし,平成二十三年四月三十日
いたづらに翌なき春に月はなく庭一隅にともる山吹,平成二十三年四月三十日
呟きをそつと掬へば零れゆく花の香のごと君のことだま,平成二十三年四月二十九日
おぼろげな心のゆくへ見失ふうす衣まとふ春の泊に,平成二十三年四月二十九日
春の灯のしたたる窓にたをやかな雨は一途に白糸をなす,平成二十三年四月二十八日
しづかなる鼓動のごとき雨だれにふとよみがへる春の忘却,平成二十三年四月二十八日
朝まだきそぼ降る雨の狭庭にて鳥の音の如き蛙鳴くなる,平成二十三年四月二十七日
東雲のほがら移ろふ空かけて夏寄するごと不如帰啼く,平成二十三年四月二十七日
心なき言のなぐさも胸ふかく抱けばぬくし春のかたみに,平成二十三年四月二十七日
わが思ひ重ねし夜のもらひ泣き下弦の月の蒼きなみだに,平成二十三年四月二十六日
一初のむらさき淡き思ひ出の五月の空に羽ひろげゐる,平成二十三年四月二十六日
梢よりほどけ舞ひ散る花びらはふたたび枝に戻ることなし,平成二十三年四月二十四日
春の日の花もやがては移ろへどかの眼差しの変はることなし,平成二十三年四月二十四日
ほつれ髪ほどいて深きため息の寝待ちの月の影を慕ひて,平成二十三年四月二十三日
こぬか雨去りゆく春の涙とも遥けき冬の未練とも見ゆる,平成二十三年四月二十三日
雨をいたみけさ咲く花の切なさをしばし心の隅にとどめむ,平成二十三年四月二十三日
さみどりの葉影日ごとに深まりて花にもの思ふ春ぞ隔たる,平成二十三年四月二十一日
みちのくの夜を彩りて咲く花につらき試練の白雪ぞ降る,平成二十三年四月二十日
さかづきの温め酒ほどやはらかき薄墨の夜に浮かぶ立待,平成二十三年四月十九日
折からの雨におぼろの月流れ名残の花もしづと果てたる,平成二十三年四月十八日
時ながれ朽ちて落ちたる花ひとつ拾ひて咲まふ君ぞ麗し,平成二十三年四月十七日
上達も恋もすてたのただ今は立ってるだけで上等なのだ,平成二十三年四月十七日
光陰は矢の如すぎしひと歳の学成り難きをしみじみ思ふ,平成二十三年四月十七日
ゆく春の姿をうつす水鏡さざめき立ちて夏隣りかな,平成二十三年四月十七日
ゆく春ときたる夏との境目を切り裂き飛べる一羽の燕,平成二十三年四月十七日
ひとひらの花いづくより流れきし光に消ゆる春のゆくすゑ,平成二十三年四月十六日
ふたたびの風訪ひくれば花惜しみ掌に受く春の形見に,平成二十三年四月十六日
手をとりて桜の下をゆきませう舞ふ花びらも春陽に咲ふ,平成二十三年四月十四日
花時を過ぎし桜は風かりてそれぞれ終のすみか訪ぬる,平成二十三年四月十四日
花房に面影かさね涙ぐむとき待たずして逝く友偲び,平成二十三年四月十三日
漆黒の心のやみも憂き世にも色添ふるごと花明りかな,平成二十三年四月九日
春の月おぼろに浮かぶ花影ににじむ思ひを重ねるゆふべ,平成二十三年四月九日
陽光の抱ける朝も月影の落ちるゆふべも花は一途に,平成二十三年四月九日
遠近の花の名教ふ人ありて深き思ひをむなそこに秘め,平成二十三年四月八日
墨染のうす衣まとふ春の夜を黙し語らずわたる細月,平成二十三年四月七日
春の夜半凍る痛みに堪へかねて永久の眠りを望むひとり寝,平成二十三年四月七日
青柳は桜の引き立て役じゃない柳はやなぎ桜はさくら,平成二十三年四月六日
花冷えの花はほのりと寄り添ひて睦がたりする朝な夕なに,平成二十三年四月四日
桜木のうすくれなゐに心染めあしもと灯す春を忘るな,平成二十三年四月二日
君恋ふるひと現れし夢になき枕は海となりゆく夕べ,平成二十三年四月二日
花さそふ風のひとたび訪ひくれば春になごりの雪の如くに,平成二十三年四月二日
思ひ出の言葉のやうに降り注ぐ枝垂れ桜の木の下にゐて,平成二十三年四月二日
春うらら桜木もとに「花」うたふ歌詞おぼろげや四月朔日,平成二十三年四月二日
何ものに喩ふるべきやこの空を星ひとつ咲く春の夕暮れ,平成二十三年四月一日
花のいろ春のひざしに日々映えて覚束なきはわが心のみ,平成二十三年四月一日
春がすみ遠嶺は白く儚かり去年に抱きし夢の如くに,平成二十三年四月一日
閉ざしたる心をほどく花ありて憂きこと忘るる春のやはらぎ,平成二十三年三月三十一日
時を知り花それぞれの色で咲くそのあしもとにも人は及ばぬ,平成二十三年三月三十日
春の陽にいのち溢るる如く咲く庭の一隅照らす連翹,平成二十三年三月三十日
陣立てて来る痛みを逃さむと春爛漫の花道をゆく,平成二十三年三月三十日
川の辺の春のほとりに一厘の桜あそべる午後の陽だまり,平成二十三年三月三十日
まだ眠るつぼみに今が花時と教ふるごとき一陣の風,平成二十三年三月二十八日
闇の夜にふいに滴り落ちて来し句を手にうけてひと夜暖む,平成二十三年三月二十八日
この星を舟の灯りにたとふれば海の底めくしづかなる部屋,平成二十三年三月二十八日
水の辺に山ふところにひそり咲く花にあまねく春の雨かな,平成二十三年三月二十八日
春の夜のいとやすらかな月ほどにひと歌ほのり君に詠はむ,平成二十三年三月二十七日
書いて消し消してまた書き読み返し原形失くすワタクシの歌,平成二十三年三月二十七日
ラの音をくわえてみてはどうかしら?これじゃ希望が見えて来なくて,平成二十三年三月二十七日
「また雨が降り出したね・・」と云ふメール。点々に棲む思ひを覗く,平成二十三年三月二十七日
くれなゐの椿に降れる淡雪は思ひ染められ春に愁ふる,平成二十三年三月二十七日
春の川語らふ鴨の水脈にさへ逢へぬあなたの面影を追ふ,平成二十三年三月二十六日
東雲に流るる川のせせらぎに色めき立ちて春はにほへる,平成二十三年三月二十六日
名も知らぬ人詠む歌が本日のワタクシのゆく道を照らすよ,平成二十三年三月二十五日
春めぐる縁側ひとりしみじみとゆく雲ながめ猫と戯る,平成二十三年三月二十五日
懐かしき花に出会ひて君が歌ふとくちずさむ寄る辺なき道,平成二十三年三月二十五日
誰ひとり気づかぬ春のひとりごとそんな風情のひともと桜,平成二十三年三月二十五日
おぼろなる寝待ちの月は何思ひわれさし覗く愛しき夕べ,平成二十三年三月二十五日
春の夜をただやすらかに月渡る心地こそする君がひと言,平成二十三年三月二十四日
あくがれか名残か白き雪やなぎ春の半ばのこころを映し,平成二十三年三月二十四日
今はただ着の身着のまま詠おうか時と云ふ名の風に吹かれて,平成二十三年三月二十三日
さざ波のかがよふ紋に春いろを浮かべ流るる春の小川は,平成二十三年三月二十三日
彷徨へる心いづこへ向かふべき水面たゆたふ花に言問ふ,平成二十三年三月二十三日
春ごろも裾に纏ひて里山は淡きいのちを懐に抱く,平成二十三年三月二十三日
くれなゐの雨ひと粒にひとつずつ思ひのありて春は闌けゆく,平成二十三年三月二十二日
春分けて哀しみ流し降れる雨まだ見ぬ明日を眺むるゆふべ,平成二十三年三月二十一日
雨ごろも纏ひて白き木蓮は百度参りの合掌のごと,平成二十三年三月二十一日
満ちてゆく今宵の月に重ねみる途切れたままの白き面影,平成二十三年三月十七日
日常に流れてゆく哀しみをこころに留める木蓮の白,平成二十三年三月十六日
最新の通信機能も無用にて弓張月よ祈り届けて,平成二十三年三月十二日
花ひとつ綻ぶけさの枝垂れ梅蒼き祈りのくちびるに似て,平成二十三年三月十二日
さあ寝よう髪乾かして月さがし晶子のうたを読み耽ったら,平成二十三年三月八日
間の悪い私だけれどこの歌は見えないほどの花の種かも,平成二十三年三月八日
万が一沈んだ君が笑ったら手を繋いでもいいんだろうか,平成二十三年三月八日
格子戸の隙間のむこうを行き過ぎる人みるほどに不明なる君,平成二十三年三月八日
久方の雲ひとつなき蒼穹にたち添ふけさの木蓮の白,平成二十三年三月八日
わが涙月のしづくや花の露あまねく抱け春のさかづき,平成二十三年三月七日
あしたには霞に隠れ夜は闇いづこにおはす春の狂乱,平成二十三年三月七日
君恋し今宵も行方知らずにてひと歌のみの春のともしび,平成二十三年三月七日
雨風を耳そばだてて聞き分ける闇ににほふは春の静寂,平成二十三年三月七日
啓蟄の田打ちの里に訪れしけり鳴き初むる春のにぎわひ,平成二十三年三月六日
木蓮の落ち花の如ちらかって確定申告春の憂鬱,平成二十三年三月六日
三つの季をともに過ごせし雨蛙春ふたたびの外界を知る,平成二十三年三月六日
紅の思ひこぼれし香となりて君ひき寄せむ春のいざなひ,平成二十三年三月六日
紅の思ひほどけて花ぶさはまろびて白し春のひだまり,平成二十三年三月六日
さみしいな今夜も君は来なくってどの空みても月はなくって,平成二十三年三月五日
名のみ春こほりの上に六花落ちゆきて戻れる如月の寒,平成二十三年三月五日
ひと歳で君は何処ゆくエスケープ・赤点・補導・謹慎処分,平成二十三年三月五日
うな垂れる花にかかりし昨夜の雨桃紅の涙とも見ゆる,平成二十三年三月四日
麗しき花ひとひらの舞ひ教ふ紅一文にこころ染まるる,平成二十三年三月四日
さ柳の浅みどりした影映し春の障子はあてやかなるや,平成二十三年三月四日
鶯の初音にほつ枝仰ぎ見るけさの景色のひと色として,平成二十三年三月四日
枕べのうすくれなゐの囁きに似たまたたきの春の宵星,平成二十三年三月四日
漆黒の空にゆらめく星ひとつとつてくれそな深き懐,平成二十三年三月三日
ひともとに椿ふた色咲く朝に木霊の淡きはつ恋を知る,平成二十三年三月二日
闇深く記憶の糸をたぐり寄せいま不確かな夜の君の存在,平成二十三年三月二日
遥かなる菜の花いろの思い出は心の隅の春の領域,平成二十三年三月二日
ふところに雲低く抱く山並みの寒き三月朔日の朝,平成二十三年三月一日
一歩ずつ春踏みしめてゆく道のかかとに滲む冬の残骸,平成二十三年三月一日
哀しみと儚き夢がこもごものひと歳過ぎし三月の夜半,平成二十三年三月一日
類ひなく紅ふかし花椿そは誰がためか解くすべ知らず,平成二十三年三月一日
水墨の里にたたずむ白鷺の白にめざめし朝ぼらけかな,平成二十三年三月一日
目を凝らしやつと見えたるゴシックの文字に聞こゆる懐かしき声,平成二十三年二月二十八日
あかなくにつれなき君の後ろ影残り香たぐる春の夜の夢,平成二十三年二月二十八日
たそがれに淡くほのめく花の名を風に尋ねて物思ひする,平成二十三年二月二十八日
ほとりほとり紅の涙は海となりふところ深く君を抱ける,平成二十三年二月二十八日
幻であればと願ふひとつごと雨落ち初むる空に星なく,平成二十三年二月二十八日
潮騒の海辺に凪があるように想ひしづむる夜もあるのね,平成二十三年二月二十七日
春灯のほのかに点る心地して君とおやすみ交す夜辺には,平成二十三年二月二十七日
賜りし御歌に添ふる返し歌その片言も生み出せはせず,平成二十三年二月二十七日
しとやかに薄衣纏ひゆふるりと月はのぼれる夜半の春かな,平成二十三年二月二十七日
しろがねの雲わけ出でて一条の光はおこすやはらかき風,平成二十三年二月二十七日
わが胸にぽつかり穴を開けたまま忘れ去られた春の約束,平成二十三年二月二十六日
薄氷の融けゆく如くわだかまり解かしてくれる春の陽の君,平成二十三年二月二十六日
金曜の夜はほのかに君思うあたかも朧な月のごとくに,平成二十三年二月二十六日
車椅子押す手をとめて土筆取るその手引かれて春を留める,平成二十三年二月二十六日
切なげな遣らずの雨よりやるせなき待てど暮らせどこぬか雨降る,平成二十三年二月二十四日
雨の香に心ほどいて春の夜は君恋ひ初めしころの歌よむ,平成二十三年二月二十四日
春雷にふるへる窓にひと頻り心なだむる雨の糸かな,平成二十三年二月二十三日
ワタクシは日々精進の歌でなく呼吸としての歌を詠みたい,平成二十三年二月二十一日
おやすみと君がささやく夜だから心がやたら騒がしいのだ,平成二十三年二月二十一日
夜は更けて折々のぞく月影に雲ゐにまがふ深きため息,平成二十三年二月二十一日
この海の浄化作用ということで消えて失くなる時がくるのだ,平成二十三年二月二十一日
遠つ君ゆめぢに追へど見失ひ名をば呼べども届くことなし,平成二十三年二月二十一日
おぼろ夜は君と一如の心にて居待ちの月に想ひ刻まむ,平成二十三年二月二十日
湯たんぽに注ぐ分だけお湯沸かすキミの言葉を温めながら,平成二十三年二月二十日
アタシには棲めないとこに棲んでいる絶滅危惧種の君が好きだよ,平成二十三年二月二十日
胸の奥吐き出す海に沈んでるテトラポッドの哀しみを見た,平成二十三年二月二十日
歌ひとつ介護の初心に立ち返る人を介して人を護ると,平成二十三年二月十九日
人けなき城址の道にほとり落ついにしへの声紅つばきかな,平成二十三年二月十九日
儚くもけふを限りの命とし地ともしゐる紅椿かな,平成二十三年二月十九日
うたのわを窓とし君がPCの向こふにゐると思ふしあわせ,平成二十三年二月十九日
この空に今宵この月なかりせば君の名を呼ぶこともあらざり,平成二十三年二月十九日
春満月ひとひら浮かべほろ酔ひの君が傍らおぼろに添ひぬ,平成二十三年二月十八日
解き衣の思ひ乱れて月のもと薄紅いろの花びらほどけ,平成二十三年二月十七日
そぞろ言こぼす今宵の月灯り耳そば立てて春はしみじみ,平成二十三年二月十七日
杖のさき教ふる方を眺むればけさ咲き初めしふくら梅かな,平成二十三年二月十六日
しんしんと夜は深きに静まりてすべてのものを赦すのだろう,平成二十三年二月十六日
詠まぬ夜も詠めぬ夜もあり夢現君がひと歌ひもといてみる,平成二十三年二月十六日
モノクロの君が心に降る雪はやがて色めくつぼみの如し,平成二十三年二月十五日
便乗しチョコ食べすぎて歌詠んだ攻撃的な夜は更けゆく,平成二十三年二月十四日
切り分ける横からすべて食べ尽くす餓鬼の如くに今夜奪って,平成二十三年二月十四日
あをによし奈良の都の白雪は君恋ふる夜のみちを教へむ,平成二十三年二月十四日
満ち足りた心のような今宵月道ならぬ恋に身をやつすなと,平成二十三年二月十四日
さりげなき風花のごと華箋ありわが掌の中にひとひらの春,平成二十三年二月十三日
平らかな二月の海は鉛いろやがて訪ひくる哀しみ抱き,平成二十三年二月十三日
曖昧なことばを選ぶ君だから心を探るようにくちづけ,平成二十三年二月十三日
寡黙なる君がごとくにふたつみつ咲きて散りゆく白梅の花,平成二十三年二月十三日
墨の香のただよふ闇を貫きて雪解に浮かぶ弓張の月,平成二十三年二月十三日
散り急ぐ白梅の花ひとひらと見まがふ夜半のやはらかき雪,平成二十三年二月十日
まだ淡き陽炎の如あくがれは遥けし心に霞みて消ゆる,平成二十三年二月十日
おぼろげな月隠したる雪雲は冬の名残か春恋ふこころ,平成二十三年二月十日
老梅は流るるごとく咲きこぼれ月にたなびく春霞かな,平成二十三年二月九日
夕さればふたたび降れる涙雨花びらひとつ誘ひて散りぬ,平成二十三年二月八日
睦月とはあやに哀しき月の名や吾子十六の早春は逝く,平成二十三年二月七日
淡き春きみ恋ひ初めし心とも別るる夜の涙とも見ゆる,平成二十三年二月六日
遠山ははるか霞みて消え入りぬやがて落ち初む春の雨かな,平成二十三年二月六日
枕べの面影さぐる指先に触るるものなし春の憂うつ,平成二十三年二月六日
やぶ椿夜半にひとひら身を分かち薄ら氷の下くれなゐ灯し,平成二十三年二月六日
春いろの三日月浮かぶ夕まぐれ白梅かすむ安住の里,平成二十三年二月六日
春立ちぬ青きガラスのペン先で道なき道を描いてゆかむ,平成二十三年二月四日
木蓮のつぼみは春を抱きゐてほつこりふくふく明日の風よむ,平成二十三年二月三日
鶯の初音待ちゐし梅が枝にたづぬるはただ雪のひとひら,平成二十三年二月二日
寒桜ほのかに透けし薄ら日に諸手ひろげて春を待つ蕊,平成二十三年一月三十一日
しろがねの夜に届きし文ひとつ散らかる想ひをあまねく包む,平成二十三年一月三十一日
ふたたびの夜半に舞ひ初む淡雪よ消しておくれよ燃ゆる想ひを,平成二十三年一月三十一日
いく歳をただひと度も触れもせでしづもるばかり燻る想ひは,平成二十三年一月三十一日
モノクロのゆふべ彩る六つの花塞ぐこころを覗くがごとく,平成二十三年一月三十一日
蝋梅の香に寄り添ひて口ずさむ道真のうた君な忘れそ,平成二十三年一月二十八日
東雲の明くれば淡き残月の涙のごときささめ雪降る,平成二十三年一月二十七日
いにしへの香に融けゆくは限りなく凍てつく夜の哀しみひとつ,平成二十三年一月二十二日
久方の光は心撃ち抜いてリフレインと云ふ嵐となりぬ,平成二十三年一月二十二日
冴えざえと破れ障子の形して立待月は閨に灯れり,平成二十三年一月二十二日
山茶花も見納めだなと呟いてまた歩き出すまあるい背中,平成二十三年一月二十二日
あらけふは土筆が顔を出しさうねトミさん笑ふ大寒の午後,平成二十三年一月二十二日
ほの白き閨の窓辺は雪もよひ月明かりのみ降れるこの夜,平成二十三年一月十八日
寂し夜の二胡の音いろは深々と光とどかぬ心を照らす,平成二十三年一月十六日
ふたたびの雪訪れるわが袖にわがふところに心のひだに,平成二十三年一月十六日
野辺淡く残れる雪のはかなさはかの人想ふ吐息のごとし,平成二十三年一月十六日
暗闇にかすかに見ゆる淡雪の白さにも似た募らぬ思ひ,平成二十三年一月十六日
奥山の五百羅漢にそぼ降るはいつしか雪と変はりてしづか,平成二十三年一月十五日
回廊のたもとに落ちし彩れるいろは楓のくれなゐ深し,平成二十三年一月十五日
舞ひ初むる雪うけ止めし指先に儚く消ゆる夢みしここち,平成二十三年一月十一日
初春の風に香をきく梅いちりん新しき陽をつつみて白し,平成二十三年一月九日
群青の空に刺さった月ひとつふとよみがえる平穏な日々,平成二十三年一月八日
遥かなる遠嶺は雪に抱かれてたなびく雲を纒ひて眠る,平成二十三年一月七日
空っ風はこべよ運べ六つの花淡き想いに似た風花よ,平成二十三年一月六日
花のいろ鳥の音ほのか言祝ぎて心さやかに春を迎ふる,平成二十三年一月三日
花ちりぬ月影したひ春一夜るりの風いろにほふ浦潮,平成二十三年一月三日
初明り受けて耀ふ万両の紅はしづかに道を教へむ,平成二十三年一月三日
若水を硯にとりて墨の香にあらたな思ひふくめおくらむ,平成二十三年一月二日
風花の訪ひきてやがて消えゆきぬ命に重ねしばし眺めむ,平成二十二年十二月三十一日
はつ雪のたよりのみ聞く星空に涙のほかに降るものはなし,平成二十二年十二月三十一日
枕べにさしたる月の白々と寄る辺なき身をともに哀しぶ,平成二十二年十二月三十一日
くちづけの余韻せつなき別れ際ほどける指にふたたびのキス,平成二十二年十二月三十一日
つぶやきの余韻としての歌ひとつ君の心の片隅に置く,平成二十二年十二月三十一日
恋ひそめし白き雨ふるはつ夏の遥けき夜の淡き面影,平成二十二年十二月三十一日
祈る手をほどくが如く咲く花のこぼるる香こそ花ことばかな,平成二十二年十二月十五日
月しづみ流るる星の白き糸結びてゆかむかの空のもと,平成二十二年十二月十五日
消えかかる灯そっと胸に抱くこの冬枯れのターミナルにて,平成二十二年十二月十五日
来年を語れば鬼に笑われる私は私のままで生き抜く,平成二十二年十二月十五日
枯れ色の荒ぶ心にひとつ咲く小春色した花の余韻に,平成二十二年十二月十四日
歳時記の冬のページに残る秋ひとつこぼれて笑ふもみぢ葉,平成二十二年十二月十四日
雨音に聞き入りてなほ月想ふ今宵の姿胸に描いて,平成二十二年十二月十四日
肩もとに舞ひくる紅き山茶花をひとひら取つて君に見せよう,平成二十二年十二月十四日
呟きのように降り頻く夜の雨ひとりの胸にしんと沁みゆく,平成二十二年十二月十三日
この胸に抱くちひさき灯を自ら消さむ世をば儚み,平成二十二年十二月九日
祝ふやうに風花の舞ふ白き日に花かんざしの蕾ほどけぬ,平成二十二年十二月九日
小夜ふけて時雨降り初む紫の吐息ににじむ君がゐた冬,平成二十二年十二月七日
幻想の白きつゆ霜きえのこるひと粒ごとに虹を宿して,平成二十二年十二月六日
暮れ果てて水底のごとあをしづか闇へとしづむ片時を恋ふ,平成二十二年十二月六日
千万の星に想ひのある如く瞬けるもの消え落つるもの,平成二十二年十二月六日
冬ざれの月なき夜は星日和 涙でつなぐスター・トレイル,平成二十二年十二月六日
しろがねの風に声きく心地して色なき空に面影さがす,平成二十二年十二月五日
小春日に野辺ゆく白きまぼろしの雪とみまがふ心の澱か,平成二十二年十二月五日
音立てて残る葉さらふ風の日はただ墨の香に心ひたして,平成二十二年十二月四日
吾の名前覚えぬ人の教ふ道時の花咲き子らあそぶ道,平成二十二年十二月四日
歌うたふ一字一句もたがはずに認知症とは奥深きもの,平成二十二年十二月四日
ひと言の重みに今宵堪えかねて闇の淵にぞ身を沈めたし,平成二十二年十一月二十九日
しつぽりと頬に紅さす湯の名残り冬ともしびのもとにあだめく,平成二十二年十一月二十九日
かな文字で絶詠ひとつ遺すごと風にいのちを託すもみぢ葉,平成二十二年十一月二十八日
それぞれの想ひを秘めてゐるやうに終の棲み家をめざすもみぢ葉,平成二十二年十一月二十八日
みな底に道の辺にまたわが肩に身の置き方をもみぢ選り落つ,平成二十二年十一月二十八日
霜ごろも纏ひて堪へぬ冬草は薄日をいだき露もこぼさず,平成二十二年十一月二十七日
沈默の夜はひらけゆく東雲に殘れる月とうたふ鳥の音,平成二十二年十一月二十六日
焔立つ銀杏黄金のあかるさでこの哀しみを昇華させやう,平成二十二年十一月二十五日
不器用な一語一語を追ふ如くこころ降り敷く終のもみぢ葉,平成二十二年十一月二十五日
淡々と溶けゆくけふの月影にぽうつと灯る花八つ手かな,平成二十二年十一月二十四日
初霜に耐え忍び咲く茶の花の慎ましやかな白は艶やか,平成二十二年十一月二十四日
小夜しぐれ末枯れ残る葉を落とし何を思ふて降り募るやら,平成二十二年十一月二十二日
月明かりわが黒髪をすり抜けて君がみ胸にゆれ降り注ぐ,平成二十二年十一月二十二日
肩ごしのくちづけせがむ月の下ほころび初むるつぼみの如く,平成二十二年十一月二十二日
美しきこの満月を言い訳に「逢いたい」なんて駄々こねてみる,平成二十二年十一月二十一日
小春日の結びの刻にふさはしく睫毛に踊るやはらかき月,平成二十二年十一月二十一日
白菊は涙のごとき露だいて朝な夕なにたれを想ふや,平成二十二年十一月二十一日
あを暗き暮るるゆふべにほの白く咲く一輪の花の名は「月」,平成二十二年十一月二十一日
うす紅をさしたる白き手をのべて紫紺の花は月に憧る,平成二十二年十一月二十日
あてもなく着信の文字待ちあぐね闇の窓には月のみ灯る,平成二十二年十一月十九日
立ちのぼる命はかなき初霜の夢幻のごとき透明な白,平成二十二年十一月十九日
初雪と見紛ふばかり山茶花のひとひらごとの想ひ降り積む,平成二十二年十一月十九日
物音の何ひとつない宵闇にただ降りそそぐ静寂の月,平成二十二年十一月十九日
途切れれば二度と戻らぬ心地して一行だけの返信をする,平成二十二年十一月十九日
寝ねがてに黒髪とかす指先をほのかに包む閨の月かな,平成二十二年十一月十八日
愛しきは逢えぬと知るも指先の探し求めるたしかな余韻,平成二十二年十一月十八日
繰り返す単一色の日常を捨てて錦に身をば置きたし,平成二十二年十一月十七日
ワタクシの心の中に身の内にかの人懐く蕊つつむごと,平成二十二年十一月十六日
ふつつかな雨に打たれし残る蝶ゆくへ失くして闇に彷徨ふ,平成二十二年十一月十六日
ひたすらに君が一言待つ夜は臥し待ち月のわびしさに似て,平成二十二年十一月十五日
ひさかたの雨降り初むる宵やみに音なく散りぬ白き山茶花,平成二十二年十一月十五日
はつ冬の月影さやか白菊を夜道に灯しあしもと明し,平成二十二年十一月十五日
眠れずに膝立てて飲むジャスミン茶 月の雫をそっと溶かして,平成二十二年十一月十四日
薄絹に涙かくしておぼろなる片恋ひ月のため息聞こゆ,平成二十二年十一月十四日
唐衣を纏ひて楚楚と神の子はちひさき恋の色香にほへる,平成二十二年十一月十四日
白菊の花ひとひらのほどけゆく音ぞ聞こゆる朝ぼらけかな,平成二十二年十一月十四日
指ひらき風に願ひをはなつごと香をこぼしゐる白菊の花,平成二十二年十一月十四日
ほのかなる墨の香わたる冬の日にかすれる筆の跡はわびしき,平成二十二年十一月十三日
月にじみやがて降り初む小夜時雨残れる花を手折りてかなし,平成二十二年十一月十三日
ゆふ暮れて浅葱のきぬを纏ふ街ぽつりぽつりと灯火にじむ,平成二十二年十一月十三日
ぬくもりを幸せとよぶ冬の日に君かたはらに添ふる幻覚,平成二十二年十一月十三日
小春日も暮るれば冴ゆる月浮かぶいとしづかなる冬景色かな,平成二十二年十一月十三日
落ち初むる時雨に心しづませてとほく離れし友に涙す,平成二十二年十一月八日
冬立ちて誰を待ちたる白菊やけさの冷たき露もこぼさず,平成二十二年十一月七日
月灯るごとく儚き一輪の椿の白に浮かぶくれなゐ,平成二十二年十一月七日
忘れじの白八重椿灯る夜は君が面影いだいて眠る,平成二十二年十一月七日
野の花を摘みて辿りし墓前にて花さすゆびに負ふ傷ふかし,平成二十二年十一月七日
吾が子さへ吾が儘ならず鳳仙花人こそ知らね弾けむばかり,平成二十二年十一月三日
いつよりかひびもてる碗この朝に音なく崩れ天寿全う,平成二十二年十一月三日
うたの世のあらしの闇にいたづらに灯るもかなし枯松葉かな,平成二十二年十一月三日
晩秋と云ふ括りの中の一日や十一月はしづかに来り,平成二十二年十一月一日
わだかまり僅かに芯に抱きゐて道ならぬ恋はアルデンテかな,平成二十二年十一月一日
一言の真実が欲しつゆ草の青のみ青き暮れの秋かな,平成二十二年十一月一日
散り敷きて陽を抱く落葉かさこそと塾に吸はれてゆく子らを呼ぶ,平成二十二年十一月一日
宵闇に雨風さわぐ音きけば閨にひとりと思ひ知らさる,平成二十二年十一月一日
遅々と読む日本文学全集に目をしばしばとページをめくる,平成二十二年十月三十一日
ここ三月厨に棲まふアマガエル厨色してゆく秋おもふ,平成二十二年十月三十一日
流れくる反日感情よそに煮る大根の白こと無き厨,平成二十二年十月三十一日
何処にか別れのあらむ逢ふもまた生温かき夜霧流るる,平成二十二年十月三十一日
殊更にあしおと立ててこの夜の闇に吸はれて秋ひとつ消ゆ,平成二十二年十月三十一日
欲しきものなき人の手は妻の手をぎゅっと握りて笑みを浮かべる,平成二十二年十月三十日
「また来た」と訪ひ来ぬ人の帰る時これが名残りと掌をとり見つむ,平成二十二年十月三十日
花ひとつ薄くれなゐの切なさをけさの寒露に浮かべてこぼし,平成二十二年十月三十日
殊更にひと肌恋しき雨の夜の窓に名を書く冷えた指先,平成二十二年十月三十日
ぬばたまのゆふべの窓に折々の君訪ふ風と絹の雨かな,平成二十二年十月三十日
秋暮れて淡き色染む風ふけば末枯れゆきぬひともと紅葉,平成二十二年十月二十七日
雁わたるゆふべの空に横たふる淡き茜の雲も去りゆく,平成二十二年十月二十七日
初雪の北の便りを聞きし夜は風立ち初むるぬくき遠州,平成二十二年十月二十六日
閨の窓月影さやかほの見ゆる君がはたての吐息の如く,平成二十二年十月二十六日
戸惑ひの恋文ひとつ懷に秘めれば胸に灯るくれなゐ,平成二十二年十月二十六日
満ちたればあとは欠けゆくとばかりを憂ふる我に月の微笑み,平成二十二年十月二十五日
彷徨ひて街は眼下にひらけゆく時は錦秋絵画の如し,平成二十二年十月二十五日
白露を抱き山茶花こぼれ咲き散ってまた咲く人の世の如,平成二十二年十月二十五日
しづか夜に届きし文を読み返しほどける闇に月はほの見ゆ,平成二十二年十月二十五日
時折の雨音きこえうら寂し沈黙のまま夜は更けゆく,平成二十二年十月二十四日
かりそめの縁と知るや白菊にとどまる雨は雫となりぬ,平成二十二年十月二十四日
秋更けて白さ褪せゆく蕎麦の花うす桃いろの面影さして,平成二十二年十月二十四日
木に纏ふ蔦の想ひのやるせなさあの月の夜の甘きくちびる,平成二十二年十月二十四日
待ちぬれど叶はぬ想ひ喩ふればいざよふ月や人の世の夢,平成二十二年十月二十四日
あぁ君と離れ離れになる空に心を映す潤む月あり,平成二十二年十月二十三日
堪え忍ぶ想ひを胸に押し込めば心にひとつ嘘を重ぬる,平成二十二年十月二十三日
この夜は忙しき日々のため息に流す想ひをそっとひもとく,平成二十二年十月二十三日
ゆうるりとさすらふ旅路あてもなく風に流るる綿毛の如く,平成二十二年十月二十三日
月冴えて夜ごと侘しさまさりける草陰しのぶ秋の残り音,平成二十二年十月二十二日
ひとひらの花がその身を散らすごと夢に落ちたきひとり寝の夜半,平成二十二年十月二十一日
寝ねがての雨に流れし十三夜こころならずも片月見かな,平成二十二年十月二十一日
翳りゆく日々の歩みに望み果て死に急ぎたしとこぼすひと言,平成二十二年十月二十日
閨ひとり月を眺めて夜もすがら涙の袖のかわく間もなし,平成二十二年十月十九日
寂しさにおぼろ滲みて秋月は墨染めの夜の錦なりける,平成二十二年十月十八日
リハビリに希望の光見出してまなじり決し踏み出す一歩,平成二十二年十月十八日
引いた手を握り返してサキさんは「あぁしあわせ」と満面の笑み,平成二十二年十月十八日
野辺ゆけば寒露むすびてほの白くやがて霜降るころを迎へり,平成二十二年十月十八日
秋ふけて虫の音夜ごと消えゆけば涙の如く星はながるる,平成二十二年十月十七日
月白く闇に灯りてそぞろ寒あのひと肌のぬくもり恋し,平成二十二年十月十七日
白鷺の羽を茜に染めぬいて心もしづむ秋の夕暮れ,平成二十二年十月十七日
白菊の花びら浮かべ酌み交はす酒にゆらめく上弦の月,平成二十二年十月十六日
待ちぬれどふたたび見えぬ月影にしづ心なく寂しみの宵,平成二十二年十月十六日
生きるとは限りなきこと飽きぬこと私ごとの欲のなきこと,平成二十二年十月十六日
もみぢ葉を天に透かして見あぐれば血潮のごとき命のあかし,平成二十二年十月十六日


うたのわ自動和歌集 その4

2013-10-12 12:15:36 | 短歌
秋深みほころび初むる菊の花寒さかさねて更に香らむ,平成二十二年十月十五日
ひと群れの雲に隠るる弓月にふいに射ぬかれ心くぎづけ,平成二十二年十月十五日
肩こりの薬ばかりを模索してケータイ、PC何故捨てられぬ,平成二十二年十月十四日
真夜中にふと目を覚まし手探りで欠片あつめてうたの形に,平成二十二年十月十四日
多忙にて秋のひと日は流れゆく移ろふ空も花も見ずして,平成二十二年十月十四日
虫の音の狭庭に今宵身をおけば己の小さき悩みをわらふ,平成二十二年十月十三日
野をおほふ淡雪のごと蕎麦の花秋深まればやがて消えゆく,平成二十二年十月十三日
独り夜の閨にさしこむ月影にあはき想ひのかよふ心地す,平成二十二年十月十二日
手を取りて「何を歌おう秋風に」これが仕事だなんて素敵だ,平成二十二年十月十二日
車窓から信号待ちに撮った月添えて送ろうたった3文字,平成二十二年十月十二日
タミさんはモノクロームの思ひ出をセピア色した声で語るよ,平成二十二年十月十二日
秋ゆふべ波間に遊ぶ月とけて欠片となりし砂の白さよ,平成二十二年十月十一日
泡花の年ふるごとに消えゆきて儚き恋のゆくへのごとき,平成二十二年十月十一日
「三日月」を呟くように歌う夜ワタシは何で充電されるの,平成二十二年十月十一日
囁きのような貴方のくちづけに耳を澄ませるひとつぶの星,平成二十二年十月十一日
さみしさの夜はあなたに添いたくて待てど暮らせどみえぬあなたに,平成二十二年十月十一日
祭りの夜いく年ぶりか川の字で父母に添ふ寝息やさしき,平成二十二年十月十日
栗の実を茹でてつぶして甘くして茶きん絞りをこしらふ佳き日,平成二十二年十月十日
祭り終へまたしづかなる虫の音に時折過ぎる雪駄さびしき,平成二十二年十月十日
米を研ぐ祈るようにと教え受け日々無心にてただひたすらに,平成二十二年十月十日
寝ねがてに窓を伝ふる雨粒を指でたどればもらひ泣きかな,平成二十二年十月十日
さまざまのこと思い出す秋の夜の降り頻く雨にながすかなしみ,平成二十二年十月九日
川べりの桜並木に狂ひ咲く花いちりんの秋の寒さや,平成二十二年十月九日
縛られた日常からの脱出法その1ブラのホックを外す,平成二十二年十月九日
裏庭にひそと鳴きゐしカネタタキ一音ごとに深む秋かな,平成二十二年十月八日
粒ごとに虹をおびたる朝露に出会ふ刹那の有り難きかな,平成二十二年十月八日
芙蓉かな?いや木槿だよと散歩道ただ秋の日の風はやわらか,平成二十二年十月六日
あゆみ止め「雨風だな」と呟いてまた歩き出す背の丸さや,平成二十二年十月六日
手を引いて庭すみに今朝咲く花をいの一番にみせるトキさん,平成二十二年十月六日
緋のこころひた隠しをり花びらに金秋うつす曼珠沙華かな,平成二十二年十月四日
夏空の余韻のごときつゆ草の青をおさめる秋のゆふ雨,平成二十二年十月三日
いと深きシャガール色の黄昏に影となりゆく君のよこがほ,平成二十二年十月三日
アトリエの窓べに遊ぶ秋の陽のすべてを包むまろやかな白,平成二十二年十月三日
白茶ける我がゆく道に色添ふるうすべにいろの君の存在,平成二十二年十月三日
ぬばたまの髪に椿の香を籠めて君に解かるる月白のころ,平成二十二年十月二日
君待ちの想いひとひら火にくべて化身となりし蝶の舞う夜,平成二十二年十月一日
頬寄せて寝息数へむ君が背に遥か夢路を追ひもとめゆく,平成二十二年十月一日
ささやかな温もりほしき秋冷やふとくちびるに触れし指先,平成二十二年十月一日
月見えぬそぞろ寂しきこの夜はなほ麗しき虫の音に沁む,平成二十二年九月三十日
しほらしき雨の中なる萩の花去りゆく九月に白こぼれ落つ,平成二十二年九月三十日
降り止まぬ雨に心を沈ませて恋に溺るるやうに浸らむ,平成二十二年九月三十日
秋雨に日ごと更けゆく曼珠沙華白みて淡き露となりけり,平成二十二年九月三十日
眺むれば君こぬ東おもむろに月も寝待ちの憂き夜となりぬ,平成二十二年九月二十八日
墨染めの夜に悲しみを誘ふごとただひたすらに落ちる雨かな,平成二十二年九月二十七日
きらめきて波さんざめくのあの夏の海はまぼろしやすらぎの午後,平成二十二年九月二十七日
降り初むるまだ不揃ひな雨音にまどろむ耳を傾ける夜半,平成二十二年九月二十六日
白壁の白きはだてる秋の陽に花陰かよふ風なほ透くる,平成二十二年九月二十六日
東雲のほがらに見ゆる横顔の君にほんのり抱かれたい朝,平成二十二年九月二十六日
枕辺に詠めぬ歌などしたためてぬくもり懐く夢うつつかな,平成二十二年九月二十六日
一葉は木々を縫ひくる夕照に有終の美をかざるごと逝く,平成二十二年九月二十六日
曼珠沙華紅ひと色に秋ともし居待月夜にしづかに燃ゆる,平成二十二年九月二十五日
ためいきの朝な夕なに君おもひ紅さす指におとづれる秋,平成二十二年九月二十五日
秋の日の風は冷やか哀しかり君はゼロではいられないのか,平成二十二年九月二十五日
万物は人や愚かと笑ひゐて極彩色をしづかにはなつ,平成二十二年九月二十五日
ひっそりと更けゆく秋に独りゐてふとくち遊む「里の秋」かな,平成二十二年九月二十五日
悲しみは永久に逢えぬと知りながら選ぶルージュの淡き紅,平成二十二年九月二十四日
いざよひの月は流れて闇の夜を白むるはただ遠きいかづち,平成二十二年九月二十三日
F5キー連打し見つむひたすらにこの十五夜の月をしりめに,平成二十二年九月二十三日
月浮かべひとり手酌の月見酒いまふたたびの君に乾杯,平成二十二年九月二十二日
雲隠る今宵名月きりとりて三十一文字にいかにおさめむ,平成二十二年九月二十二日
あしばやな雲間にみゆる月遥か決して届かぬ逢ひたき想ひ,平成二十二年九月二十二日
薄衣をまとひて滲む今宵月かの面影に浮かぶなみだか,平成二十二年九月二十一日
あの人も見てるだろうかこの月をやがて朧に滲みゆく月,平成二十二年九月二十一日
ぬばたまの黒き稜線ひきたつる茜にほへる秋のゆふぐれ,平成二十二年九月二十日
草かげにいよよ艶めく虫の音を聴きふくむ如ふくよかな月,平成二十二年九月十九日
日々高くなりゆく空の愛しさに思い出浮かべ訥とつぶやく,平成二十二年九月十九日
秋の日の光と影のやはらかさすべてのものを透過してゆく,平成二十二年九月十九日
みな底に眠れるうたを呼び覚ます月影のごとき一筋のこえ,平成二十二年九月十九日
秋風に縒れて揺れたるひと弦の想ひにふれてもらひ泣きかな,平成二十二年九月十八日
なにゆゑにかくも羞ぢらふ乙女子のやうなる月のすきとほる白,平成二十二年九月十八日
雨のこる墨染めの空わけ出でし寂光と云ふ名の今宵月,平成二十二年九月十六日
ひと雨にあらわれ渡る万物のいろ鮮やかに冴ゆる秋かな,平成二十二年九月十六日
暮れ六つのしとど降り頻く秋の雨見ゆるものみな真白に染めて,平成二十二年九月十六日
逢えなくて眠れぬ夜の切なさも窓辺の色なき風にとけゆく,平成二十二年九月十五日
桜木のこもとに落つる黄葉の降り積むごとに秋深まれり,平成二十二年九月十五日
やうやくに秋と呼びうる日は来り雨のにほひに親しむゆふべ,平成二十二年九月十五日
濃く淡く蒼かさなりし遠山のあをよりあをき逢へぬ想ひは,平成二十二年九月十四日
森かげに折々見ゆる眉月のいろやはらかく潤む秋の夜,平成二十二年九月十三日
切れ長のこの三日月の満ちる夜君と詠みたし十五夜の歌,平成二十二年九月十二日
ぬばたまの夜にほどける結ひ髪の香にほの見ゆる君の移り香,平成二十二年九月十二日
弔ひのやうに残暑を見送ればゼフィランサスの咲く頃となり,平成二十二年九月十二日
花にらの白にあこがれ訪ねくるあまたの蝶はけふも秋いろ,平成二十二年九月十二日
傷あとにこのひととせの激動を振り返りまたゆく道はるか,平成二十二年九月十二日
朝霧の未練のごとき露むすび薄くれなゐに萩こぼれ咲く,平成二十二年九月十一日
一枚の絵に佇みて懐かしくいつかの夢との再会のごと,平成二十二年九月十一日
白壁の白きはまりて涼やかなただ透きとほる秋の木漏れ日,平成二十二年九月十一日
萩こぼれ心に時雨ふる夜は色めく歌のいとたふとかり,平成二十二年九月九日
やはらかき声色が好きと囁かれけふを佳き日とおもふ午後二時,平成二十二年九月八日
何事もかなぐり捨ててただ見つむ刻一刻とうつる夕景,平成二十二年九月八日
野分去り秋深まるを待ちぬれどまだ夏の緒のながく引きたる,平成二十二年九月八日
野分立ち雨か露かと草に問ふどこ吹く風や白露の朝に,平成二十二年九月八日
透きとほる風に溶けゆく悲しみに苦笑ひする夕やみのころ,平成二十二年九月七日
余波のごと心に残る切なさは錦あやなす歌でながさむ,平成二十二年九月七日
それぞれの確かな一歩見習ひて日々重ねゐるかく在りたしと,平成二十二年九月七日
月ひとつ心に灯しみづからを見うしなはぬと闇に誓はむ,平成二十二年九月七日
もしけふが地球最期の日とあらば線路づたひにきみを訪ぬる,平成二十二年九月五日
できるなら君の苦痛を拭ひ去りかたへに添ふる風になりたい,平成二十二年九月五日
願はくは揺らぎの如く耳元で歌つてみたい愛しきうたを,平成二十二年九月五日
秋の朝色なき雨よひと頻りただまつすぐに大地を抱け,平成二十二年九月五日
愛だけが満ち満ちてゐるわが胸に淀めるものは何も要らない,平成二十二年九月二日
文字みれば声聞こえくる声きけば笑顔見ゆるや愛しきあなた,平成二十二年九月二日
さりげなき一言などに酔ひしれて今宵も夢に逢はんとぞ思ふ,平成二十二年九月二日
君がほら指さすかたを眺むればこがねの星がたったひと粒,平成二十二年九月一日
別れぎは君の残り香ふところにそっと隠してぎゅっと抱きしめ,平成二十二年九月一日
高き空わたる色なき風ひとつ時を見ずして何を語るや,平成二十二年九月一日
震災の恐怖を語るゑいさんのまなざしはまたその日に戻る,平成二十二年九月一日
水ぎはに光の子らの声はなく夏のかけらの麦わら帽子,平成二十二年八月三十一日
碧ふかき静寂もどる海べには思ひ出と云ふ名の脱け殻ひとつ,平成二十二年八月三十一日
秋めくはこのまっさらな白き日や夕闇せまる山影の中,平成二十二年八月三十日
新涼のやはらかき藍にやすらへる微睡みのごと有明の月,平成二十二年八月三十日
新しき風と云はれるワタクシはみなに諭され人になりゆく,平成二十二年八月三十日
山の端に深き茜の雲のすじひと刷けおきて秋は夕暮れ,平成二十二年八月二十九日
なにもかも流れてゆくねこの空をゆく雲ひとつ心にとめて,平成二十二年八月二十九日
天たかく陽はいと白し溶暗のゆく八月に吹きわたる風,平成二十二年八月二十九日
月しろの山の辺さとき心ともあはき恋とも見ゆる白秋,平成二十二年八月二十八日
枕べにいつの間にやら訪れて見守る月のひとみやはらか,平成二十二年八月二十六日
いとをかし君が心の中にゐて色なき風もほのめくゆふべ,平成二十二年八月二十五日
今宵またこの理不尽な風うけて眠れぬ夜の月に抱かれる,平成二十二年八月二十四日
墨染めのゆふべに浮かぶ一粒の満ちてしたたる月の煌めき,平成二十二年八月二十四日
嗚呼君もみてるだろうかこの月を熱きおもひのうつろふ月を,平成二十二年八月二十二日
秋にほふ月はさやかに野辺灯し応ふるごとく虫の音涼し,平成二十二年八月二十二日
人の世の憂さなど知らず野の花は自らの色で今朝もほころぶ,平成二十二年八月二十一日
しどけなく木下落ちゆく花の如道とげるひとうつくしきかな,平成二十二年八月二十一日
なにとなく居残る夏にみる秋のけだるいほどの切なさに酔ふ,平成二十二年八月二十一日
たそがれに切なき胸を重ねみて雲のいろさへいとしきゆふべ,平成二十二年八月十九日
陽にあふれ紅こぼれ咲く百日紅わが想ひぞと君に見せたし,平成二十二年八月十八日
弓張りの月のみ涼しこの夜はため息ばかり片恋ひながら,平成二十二年八月十八日
墨染めのゆふべの月ぞ懷かしき君がひとみの如くうるはし,平成二十二年八月十六日
湯浴みして白き乳房に銀の月今宵あなたのもとへかよふよ,平成二十二年八月十六日
はつ秋の花にしたたる銀の雨蕾ほころびくれなゐ匂ふ,平成二十二年八月十四日
白妙の雲居たゆたふことなきを今更に知りしのぶ忘れ音,平成二十二年八月十四日
さらば夏君の面影浮かべてはわずかに残る忘れ潮かな,平成二十二年八月十四日
友はみな別れ難きかさみしさか昼夜を問はずメール攻撃,平成二十二年八月十四日
全うし何を掴んで地に降るや初秋いろどるうす紅芙蓉,平成二十二年八月十四日
学び舎を去りゆく友の笑い声ふたたび会える日までのパワー,平成二十二年八月十三日
秋告ぐるこほろぎひとつ裏庭で銀の鈴をばころがしゐるか,平成二十二年八月九日
久方の雨の夜にはもの思ふ海の底めく揺らぎの中で,平成二十二年八月九日
KYと云はれてもなほ友とゐてけふ原爆の語り部となる,平成二十二年八月九日
時間とかその時々の想いとか愛するもののように抱きしむ,平成二十二年八月九日
哀しみの秋めく朝の雨のいろ記憶をたどるしづか語りべ,平成二十二年八月九日
百日紅去り逝く夏の花道にくれなゐこぼし拍手喝采,平成二十二年八月八日
夕されば蜻蛉つれくる秋の風懐かしきあの思い出と共に,平成二十二年八月八日
新しき陽に包まれて微睡めばふたたびの秋に君は微笑む,平成二十二年八月七日
この風は例えば君が傍にいて産毛がふわり触れるみたいだ,平成二十二年八月七日
小夜ふけて虫の音ひとつまたひとつちさき庭にも秋は来にけり,平成二十二年八月七日
月もなく物音ひとつなき夜に君の心の在り処をたづぬ,平成二十二年八月七日
ゆく夏の夜風にそっと寄り添えば時があの日に戻る気がする,平成二十二年八月七日
透明な晩夏の朝にとけこんだ裏切りの無き蜩のこゑ,平成二十二年八月五日
君のその結ひ髪ほどく指先を鏡の中でじっと見つめる,平成二十二年八月五日
くちびるに躊躇ふやうに触れる指そのひと時の切なさが好き,平成二十二年八月五日
色淡くさみしき夏のゆふぐれに愁ふる雨のごときひぐらし,平成二十二年八月五日
君が読む太宰治に目を通しため息の意味さぐるひと時,平成二十二年八月四日
ひと筆に想ひつらねてしたたむるいと懐かしき晩夏のゆふべ,平成二十二年八月四日
わが胸にしづかに想ひの火は灯り闇の夜にも君へとわたる,平成二十二年八月四日
まどろめば浅き夢みし夏の夜はしばし現と夢とを彷徨ふ,平成二十二年八月三日
窓に立つほのかに香る秋風にふと君の名をのせてみやうか,平成二十二年八月三日
寝ねがてに君が寝息をかぞへては愛しき背に頬よせてみる,平成二十二年八月三日
小夜ふけて月影さがす窓辺にはただ寂しげな虫の音ばかり,平成二十二年八月三日
風死して酷暑に耐ふる花々の声なき声に耳をかたむけ,平成二十二年八月二日
艶めいた言葉ばかりが浮かぶ夜は日ごと欠けゆく月に逢いたい,平成二十二年八月二日
寝乱れてやがて迎ふる東雲の残れる月に君かさねつつ,平成二十二年八月二日
お茶の間で音のみ聞きぬ遠花火けふは何処と語る幸せ,平成二十二年八月一日
夕日みて息子とふたり明日の日が晴れか雨かを語る幸せ,平成二十二年八月一日
この恋は秘め事と云ふものでありあの人にさへ内緒の想ひ,平成二十二年八月一日
期せずして出会い過ごせし三か月別れではなく始まりの時,平成二十二年八月一日
七月のカレンダーめくる躊躇いに友との煌めく日々のみ思う,平成二十二年八月一日
夕されば蜩いよよ侘びなきぬゆく七月に我が身重ねて,平成二十二年七月三十一日
忘られぬ千々に揺らめく月の海あの肩越しの君のくちづけ,平成二十二年七月三十一日
忘られぬあの夏の日の潮騒と胸で歌ったあのうたのこと,平成二十二年七月三十一日
引き潮に足をとられてよろめくは夏のゆふべのけだるさに似て,平成二十二年七月三十一日
日の入りの日ごとに早し夏の暮れ高き青田にたぬき隠るる,平成二十二年七月三十日
東雲に雨降り止むを待ちわびて蜩しんと鳴き初むるかな,平成二十二年七月三十日
すだれ越し落ちゆく終の夏の陽はやがて薄れる淡きおもひで,平成二十二年七月三十日
雷鳴に目覚めし朝の清涼は去りゆく夏の置き土産かな,平成二十二年七月三十日
久方の雨に授業を中断し残る日惜しみ友と眺むる,平成二十二年七月二十九日
解け残る氷は音を立てながら泣きくづほれて過去を夢みる,平成二十二年七月二十八日
降り初むる秋めく雨に濡れながらふと君の名をつぶやいてみる,平成二十二年七月二十八日
二杯めのカルーアミルク飲み干して雨降り出した庭で鼻歌,平成二十二年七月二十八日
逝く夏の愁ひの如くさみしげなほろ酔ひなづむくれなゐの月,平成二十二年七月二十八日
蜩に夕げの支度の手を止めて去りゆく夏をともに惜しまむ,平成二十二年七月二十八日
こぼれくる月の雫を掌にうけて風にはなてば銀の花咲く,平成二十二年七月二十七日
おやすみのひとことさえも愛おしい月の瞳のようなやさしさ,平成二十二年七月二十七日
今愛でるやがて欠けゆく月なれどバイオリズムの波間に揺れて,平成二十二年七月二十七日
そのビール一口ばかりくださいな今宵満月乾杯しましょ,平成二十二年七月二十六日
つまずいて草原の中倒れこむ仰向けば空われはちっぽけ,平成二十二年七月二十六日
風変はり花移ろへどこの道は揺らぐことなきまっすぐな道,平成二十二年七月二十六日
国産は高いし安けりゃ中国産うなぎ諦めさんまの蒲焼,平成二十二年七月二十六日
枕辺にかの面影と月あかりそっと重ねて瞳を閉じる,平成二十二年七月二十五日
群青の海にさしたる月影に心はほのかうすくれなゐに,平成二十二年七月二十五日
寝ねがてに閨にまはりし月みればいとど流るる涙ににじむ,平成二十二年七月二十五日
泣きぬれていつしかわれは海の底ここを棲み処と決めてただよふ,平成二十二年七月二十五日
もう二度と開けてはならぬこの箱に毎日みたいことばもつめる,平成二十二年七月二十五日
何もかもかなぐり捨ててふて寝する悪あがきなどに苦笑いして,平成二十二年七月二十四日
群青の空に真珠の月涼し雲に時のま隠れては見ゆ,平成二十二年七月二十四日
真夏日の午後と云へども風に聞くまだ透き通る秋のにほひを,平成二十二年七月二十四日
にほやかに詠へるひとの目に映る真夏の花も月もうるはし,平成二十二年七月二十四日
時折の風訪れる居間にゐて森鴎外を読みふける君,平成二十二年七月二十四日
西山の哀しみのごと遠花火音なく流れ真白に消ゆる,平成二十二年七月二十三日
君に逢ふ唯ひとときの夢なれど胸にしまひて時にほのめく,平成二十二年七月二十三日
君とほく唯ひと色の切なさにけふも暮れゆく涙とともに,平成二十二年七月二十三日
遠き野に立つ風窓に低くきて五感くすぐる夜の秋かな,平成二十二年七月二十三日
夕映えの雲色あせて月高くいとやはらかきあかね映して,平成二十二年七月二十三日
カーテンの襞の奥にも射し込むる夏の愁ひと云ふべきあかね,平成二十二年七月二十二日
灼熱の道のゆくへを誰が知る我がこころねのひと筋の道,平成二十二年七月二十二日
何もかもうす紫にほの見ゆる虫の音しづか晩夏の庭,平成二十二年七月二十二日
歌ひとつ君が心に灯る夜は残るほたるの訪ふ心地して,平成二十二年七月二十一日
月星のとほく語らふ愛しさに物思ひする夏のゆふべは,平成二十二年七月二十一日
訥々とつぶやくやうに弾くピアノ黒鍵の影ながきゆふぐれ,平成二十二年七月二十一日
家々の色とも見ゆる花芙蓉日ごとにほどけ恋しかりけれ,平成二十二年七月二十一日
月わたる海に真珠をちりばめてとほき島べはやはらかき闇,平成二十二年七月二十一日
さざ波に月影落ちて夜の海とほき小舟と呼び応へゐて,平成二十二年七月二十日
夜は白み訪ふ虫の音や涼風に秋のにほひを聞き入りてをり,平成二十二年七月二十日
紅に燃ゆるゆふべの残り香に身を包まれて寝明かしの朝,平成二十二年七月十九日
ゆふやみの川辺ににほふ夕化粧たれ待ちゐるや紅さしながら,平成二十二年七月十九日
歌うより食べることより眠ること身体が切にのぞむ夏の日,平成二十二年七月十九日
枕辺に夏鳥の歌ききながら浅き夢路を行きつもどりつ,平成二十二年七月十九日
東雲のあかねの窓の移ろひに心とけゆく微睡みの中,平成二十二年七月十九日
輝ける月墨染めのたそがれに想ふは遠きひとつ星かな,平成二十二年七月十八日
ほろ酔ひの瞳に浮かぶおぼろ月君はいづこでこの月見てる,平成二十二年七月十八日
月眺め酔ひさましゐる夕端居背戸の会話に耳そば立てて,平成二十二年七月十八日
帰省せし微笑む吾子のくちもとに似かよふ薄暮の月の愛しさ,平成二十二年七月十八日
いと白き陽に目は眩み木下闇一陣の風憩ふ午後の日,平成二十二年七月十八日
名を呼べど届かぬと知りされど呼ぶあの夏鳥のごと高らかに,平成二十二年七月十七日
つゆあけを讃ふる如き蝉時雨地をふるわせて秋の虫鳴く,平成二十二年七月十七日
遠州の祇園祭の空焦がす昔ながらの花火ほの聞く,平成二十二年七月十七日
疲れ果てほのめく月に抱かれてただ昏昏と眠りに落ちる,平成二十二年七月十七日
朝つゆに陽は宿りゐて虹いろの瞬きみせる夏くさの道,平成二十二年七月十七日
いづこより来たりてねぐらと定めしか吾の目の前に蛙一匹,平成二十二年七月十二日
白き雨うす桃色の花影をうつし流るる憂き世のごとく,平成二十二年七月十二日
白糸の雨縷々として心憂しながめの空にわが身解けぬ,平成二十二年七月十二日
「け」だでも数種の読みを持っている難しすぎる韓国語です,平成二十二年七月十二日
夢うつつその境目もわかぬまにぬくもり抱く朝ぼらけかな,平成二十二年七月十一日
虫の音に風ひとすぢに忍びゐる秋の気配をとらふるゆふべ,平成二十二年七月十一日
明けぬれば惜しむ別れの手枕に涙のこして身は離りゆく,平成二十二年七月十日
徒然に君待つ野辺に身をしづめさ乱るる月うつす花摘む,平成二十二年七月十日
手をのべて届かぬ闇に訊ぬれど心はいづこなみだ雨降る,平成二十二年七月九日
見えぬ灯をひとり待つ夜の侘しさに残る蛍火やみに探さむ,平成二十二年七月九日
雨は止みひとり寝る夜の静寂に堪へかね君の空音きこゆる,平成二十二年七月九日
もう二度と訪ふことのなき君が影いまだ待ちわび虎が雨かな,平成二十二年七月九日
たんぽぽの綿毛はそっと舞ひ戻り君のひと色添ふるうたのわ,平成二十二年七月九日
朝霧に白き芙蓉の咲き初むる夢まぼろしのごとき静寂,平成二十二年七月八日
君を待つ深き想ひにどことなく似通ふけさのつゆ草の青,平成二十二年七月八日
紫陽花はそぼ降る雨に朽ち果ててやがて地に染む終のひと色,平成二十二年七月八日
ひとむらの五月雨あがり天駈けるひとつの命送るかなしみ,平成二十二年七月八日
やはらかき雨に濡れ咲く沙羅の花真白きひだに想ひを秘めて,平成二十二年七月八日
けふの空見上げて歌ふすゑさんと七夕のうた歌詞鮮明に,平成二十二年七月七日
やはらかき眠りに誘ふ雨音はかの耳元にもささやくだらう,平成二十二年七月七日
くちづけの余韻を抱きため息にうもれるように夢へと落ちる,平成二十二年七月五日
暗闇に目を凝らすように一心にかすかな光さぐりつつゆく,平成二十二年七月五日
しづか夜にぽつりぽつりとメール打つ送信前に全文削除,平成二十二年七月五日
ぬばたまの黒髪に君ゆび絡め唇うばふ疾風の如く,平成二十二年七月四日
久方の雨に心を冷ます如ふと庭先にたたずむゆふべ,平成二十二年七月四日
月のやうにいつの間にやら見守られ風の如くに奪い去る君,平成二十二年七月四日
ままままま変換すればママ間々侭自由奔放わが道をゆく,平成二十二年七月一日
むらさきの匂へるけさの庭先に流るる星の桔梗いちりん,平成二十二年七月一日
敷妙の枕にのこる君が香をたぐりていだく余韻ほのかに,平成二十二年七月一日
時を知り風なき道にひとひらの涙のごとく落ちる花びら,平成二十二年七月一日
黄昏の君がそびらに負ふ影も遠き眼もうつくしきかな,平成二十二年六月三十日
月影の白くさしこむ枕辺に青き想ひはあふれてにじむ,平成二十二年六月二十九日
月ひとつ墨たれこめる空めぐるおぼろに潤む瞳のごとく,平成二十二年六月二十八日
摩天楼あまつ乙女の舞衣まとひて夜の街にとけゆく,平成二十二年六月二十七日
宵待ちの月はにじみて残る雨恋の闇路をさまよひてをり,平成二十二年六月二十七日
訪ぬれど人影なきや地の果ての匂ひ愛しき花葵たつ,平成二十二年六月二十七日
あはがみの真白き肌にひと筆を滑らせ書くは君恋ふる歌,平成二十二年六月二十六日
結ひ髪に香をしのばせて月の夜に君待つ風の色ぞゆかしき,平成二十二年六月二十六日
蓮浮葉風のまにまに流されて雨のまにまに打たれ漂ふ,平成二十二年六月二十六日
遠き嶺青田の波もうっすらとただ白く降る雨の向かふに,平成二十二年六月二十六日
咲き初めて朱夏にこぼるる凌霄花この花道を君と歩かむ,平成二十二年六月二十五日
諭すごと戒めるごとく降る雨に心うなだれ聞き入るゆふべ,平成二十二年六月二十三日
眠たさに閉じゆく瞼に重なるはいとあたたかき君の唇,平成二十二年六月二十三日
燦然と輝く星のきらめきに涙ひと粒そっと添えたい,平成二十二年六月二十三日
いさぎよく我も心を封印すごめんねきっと三日坊主よ,平成二十二年六月二十二日
久方の月はいざなふ川の辺に残るほたるを惜しむが如く,平成二十二年六月二十二日
身に余る言葉の雨が降り注ぎわが人生のうるほひのとき,平成二十二年六月二十二日
残る雨たたへて深き風の杜いのちの鼓動ひそと聞こゆる,平成二十二年六月二十二日
全開の窓の向こうの暗闇に蛍のあかりほどの望みが,平成二十二年六月二十一日
身の程を知らず待ち侘ぶ隠れ宿君恋ひながら夜ぞ更けにける,平成二十二年六月二十一日
泣き濡れてつれなき夜の涙雨かを待ち侘びてはや夏半ば,平成二十二年六月二十一日
訥々と初見の楽譜弾くごとくまた落ち初むる雨音しづか,平成二十二年六月二十日
ゆだち訪ふ心の澱を流すやうにただ真っ白にまっすぐに降る,平成二十二年六月十九日
心根を推し量りゐるあれこれと吾の一言を後悔しつつ,平成二十二年六月十九日
一条の光さしたる野辺の花珠玉のごとき昨夜の雨かな,平成二十二年六月十九日
洗脳と知りつつ歩むこの道は我も途にある介護への道,平成二十二年六月十九日
いつの日か現にせむと夢描き夢から覚めて夢のまた夢,平成二十二年六月十七日
白絹の所作美しきゆりの花けだかき色香ただよふ夕べ,平成二十二年六月十七日
来ぬ人を待つ乙女子のため息に似かよふけふの茜雲かな,平成二十二年六月十七日
ふたたびのいとしき夢は露と消え幻の君いかにおはすや,平成二十二年六月十七日
さつきやみ手探りの指ほのめいて彷徨ふ想ひいづこ漂ふ,平成二十二年六月十七日
時折の夏の夜風は心地よく今宵もそろりうたた寝のころ,平成二十二年六月十六日
西日さす燃ゆる厨にたたずめば士気奪はれて融けゆく私,平成二十二年六月十六日
雨落ちに濡るる紫陽花ながむれば物憂ひ日々に一服の涼,平成二十二年六月十六日
雨落ちの雫かぞへてふと思ふいづこ隠るる恋ほたるかな,平成二十二年六月十五日
終夜そぞろ降り頻く雨の糸たどりて雲居の君に逢ひたし,平成二十二年六月十五日
闇のもり愛を詠へる不如帰耳そばだててそを聴きをりぬ,平成二十二年六月十五日
夜も更けてなだめるごとく雨募り心の起伏いと緩らかや,平成二十二年六月十三日
越されぬとかつて云はれし大井川おそらく鼠も悠々わたる,平成二十二年六月十三日
雨もよひ花いろ深む紫陽花の思ひ裏はら待てど来たらず,平成二十二年六月十三日
降り初むる雨に打たれてつゆ草の青くしたたる涙ひと粒,平成二十二年六月十三日
やはらかき雨音のごと友のふみ心ふかきに沁みる言の葉,平成二十二年六月十三日
もれいづる月影ほのか君が胸とき止むるのみを願ふ短夜,平成二十二年六月十三日
文机を窓べに置きて書に入れば筆なめらかや夏風のごと,平成二十二年六月十二日
枕べにほろり涙とため息とはかなき夢をたたんで眠る,平成二十二年六月十二日
蔭に生ふはかなき色と露のこる夏の辺にまた消ゆる夕顔,平成二十二年六月十二日
闇深くほの燃え消ゆる蛍火はひとり寝る夜の切なさに似て,平成二十二年六月十二日
緑さすぬれ縁にふと足止めて眺めいりたる田の人の背に,平成二十二年六月十一日
あかねさす日に包まれし東窓ものの影みな整然として,平成二十二年六月十一日
東雲や鳥の音のみの聞こえくるまどろむ眼には紫の雲,平成二十二年六月十一日
父母の思いの如く咲き初むるいとやはらかき百合の花かな,平成二十二年六月九日
夜すすぎの雲間に見ゆる星々のきらめきに似てけふの命よ,平成二十二年六月九日
見たままや心のままを包みなく歌に綴るは吾もまた同じ,平成二十二年六月八日
十薬の香を立て降りぬ五月雨にとほき幼きころの母みむ,平成二十二年六月八日
あぢさゐに白き雨ふるゆふぐれは淡紅いろに滲む風立ち,平成二十二年六月八日
逢ひ初めのひととせ前の五月には今宵の月の切なさはなし,平成二十二年六月八日
風のごと月の如くに歌詠めばさらりと心届くだろうか,平成二十二年六月七日
さつきやみ星ひとつなき侘し夜に彩り灯す恋ほたるかな,平成二十二年六月七日
枕辺に聞くは愛しき君が声あるいはあの日の君の残り香,平成二十二年六月七日
久方の雨落ち初むるこの夕べしめやかなるや深き思ひも,平成二十二年六月七日
水底に揺らめきながら沈みこむ淘汰されゆくほのかな思い,平成二十二年六月六日
人けなき路傍を灯す姫あおい五月雨にただ咲き誇るらん,平成二十二年六月六日
くちづけの余韻にも似て窓の月妖しく白き魔性のひかり,平成二十二年六月六日
やはらかき月かげうつる水かがみしづかに語る君が面影,平成二十二年六月六日
かはづ鳴きそぞろ夜風の入り来る心しづかに夢路をたどり,平成二十二年六月六日
かれ果てた花を嘆いてつちがえる涙ひと粒くれなゐの雨,平成二十二年六月五日
夏の日は大樹のもとに影おとし心の闇をたれにか伝へん,平成二十二年六月五日
行く舟は思ひの如く水脈のこしわれは心の欠片をひらふ,平成二十二年六月五日
目を閉ぢて君がみ胸に言問へば闇に真白き花ひらくごと,平成二十二年六月五日
月待てどつれなき雲におほはれし東の森に不如帰なく,平成二十二年六月四日
あかねさす紫雲たなびく夏空にこがねの星の色を添へをり,平成二十二年六月四日
寝ねがてに出でし月みて君想ふせめて夢路に姿おひたし,平成二十二年六月四日
五月闇おぼろ浮かびて初ほたるたれを慕ひて命灯すや,平成二十二年六月四日
あぢさゐの花瓣あはき涙いろ祕めゐる想ひほの映りをり,平成二十二年六月二日
整然と六月の風ふきわたりこころのままに筆は走りて,平成二十二年六月二日
夏は夜月のあかりもほたる火も心ほのかに灯りてすずし,平成二十二年六月二日
朝焼けの窓に置きたるグラスには虹の精など棲むかとぞ思ふ,平成二十二年六月二日
茜さす君が産毛のいとしさにただ溺れゆくまどろみの中,平成二十二年六月二日
東雲にまどろみながら夢うつつ森の深きに不如帰なく,平成二十二年六月一日
風待月と名乗りて歌うたふそもまたわれと苦笑ひせむ,平成二十二年五月三十一日
まくらべに君よむ歌をひとつ置き涙でむかふ五月尽かな,平成二十二年五月三十一日
現実は静かにわれを諭しゐる夢はうつつにならざるものと,平成二十二年五月三十日
再びの欠けゆく月にわが想ひ満ち満ちてゆくしづか寂し夜,平成二十二年五月三十日
一瞬にすべてをかけて求むれば姿みえねどこころ重なる,平成二十二年五月三十日
長雨にみなぎる流れ滔々と涸るることなき波状のなみだ,平成二十二年五月三十日
泣き濡れて身を焦がしつつ誰をまつ淡き蛍火めぐりて消ゆる,平成二十二年五月三十日
白玉のなみだ雨ふる花影にしのぶ想ひを永遠にうづむる,平成二十二年五月二十九日
訪ひて目にはさやかに見えねども確かなものは眼心にあり,平成二十二年五月二十九日
ここにいる我は確かなものとして駆け抜けてゆく疾風の中で,平成二十二年五月二十九日
男道七つの苦難まつと云ふつらき旅路に切り火打たなむ,平成二十二年五月二十九日
かの君にまさるお方の見当たらず今宵も夢に面影をみむ,平成二十二年五月二十九日
青白き月に面影浮かべては立ち向かう背をそっと見送る,平成二十二年五月二十八日
この月に心をひとつ打ち明けてにじんで消える涙雨かな,平成二十二年五月二十八日
芳醇な琥珀の空にうかぶ月ふくよかなりて真珠の如し,平成二十二年五月二十六日
憂き夜にも卯の花腐し降り止まずひとり負ふ荷のいと重からう,平成二十二年五月二十六日
月恋へど君が心の如くにてはるか雲居のいづこにおはす,平成二十二年五月二十六日
堀ばたに鴨は遊びて遊ぶやうに乙女歌ひて愛しき学び舎,平成二十二年五月二十五日
意味もなく指先みつめ頬にあて雨をかぞへてため息ひとつ,平成二十二年五月二十四日
うつくしき君のこころに映るもの君の両手で掬ってごらん,平成二十二年五月二十三日
わが想ひ鎮むるけさの小糠雨花びらみつめもらひ泣きかな,平成二十二年五月二十三日
この闇にかすかな光も見出だせず心は折れて砕けて消える,平成二十二年五月二十三日
風そよぐもの思ふ頃は黒髪の濡れにぞ濡れし一人かも寝む,平成二十二年五月二十二日
君想ひふりさけ見れば真白なる恋しかるべき夜半の月かな,平成二十二年五月二十二日
あちこちのサイト開いてF5キー連打今宵も人恋しくて,平成二十二年五月二十二日
迎へ酒きのうの記憶のみ込んで洗ひ流さん記憶とぶまで,平成二十二年五月二十二日
蒼穹にひとさし指で文字書けば風が連れ去るせつなき思い,平成二十二年五月二十二日
けふの日を花金と呼ぶ友のゐてされど互ひに家路をいそぐ,平成二十二年五月二十一日
村雨にきはだつ麦の針のさき珠を結びてけさの陽を抱く,平成二十二年五月二十一日
忍び音をひとつこぼして不如帰やみに想ひをしづむる如く,平成二十二年五月二十日
さだめとも思へどかなしき別れあり花をくたすは雨か涙か,平成二十二年五月二十日
白うつぎ時うつろひてくれなゐのはやる心に白き雨ふる,平成二十二年五月十九日
さざ波にたゆたふ月を見上ぐれば淡き香をひく涙ひとすじ,平成二十二年五月十八日
庭かげの真白き小さき毬の花みつめる月の剣先まろし,平成二十二年五月十七日
墨の香のただよふ如きこの夕べ細き弓月に立ち添ふる星,平成二十二年五月十六日
寄る辺なき身にも依る方この夜にいかで選るべく手立て探らん,平成二十二年五月十六日
不快なく可もなく不可もなき君と夜は深々根深ほるかな,平成二十二年五月十六日
葉隠れのまろき蕾はほころびて薄くれなゐの想ひ溢るる,平成二十二年五月十六日
片恋の君への想ひつらぬけば果てなき夢の旅に悔いなし,平成二十二年五月十五日
卯の花の白より白しわがこころ師や友の言まっすぐ届く,平成二十二年五月十五日
一人きて石楠花色のたそがれにつつまれ溢す君の名前を,平成二十二年五月十五日
たくさんの教えを背に漂わせいつも未来に立ち向かう父,平成二十二年五月十五日
居どころ寝厠にねむり湯舟漕ぎ包丁さばきの腕さえ眠る,平成二十二年五月十五日
声たかく朝どり誘ふ東雲はやがてまどろむ瞼に白し,平成二十二年五月十五日
風をうけさみどりの香を燻らせて瑠璃鳥は来ぬ真白き花に,平成二十二年五月十三日
学び舎を友と抜け出し風の中あらたな花に出会う嬉しさ,平成二十二年五月十三日
うたた寝のつま先の冷えに目覚ては五月の雪を疑ひもせず,平成二十二年五月十三日
濃むらさきやがて色褪せ空映しにび色垂るる熊野の長藤,平成二十二年五月十二日
煙雨ふるなほたをやかな花の上しづく落ちればひとつ頷く,平成二十二年五月十一日
夜もすがらめぐらす思ひふたつみつ心に白き卯波立ちぬる,平成二十二年五月十一日
ほの見ゆる時あかりの窓鳥うたふ昨夜の涙を裾にぬぐはん,平成二十二年五月十日
残月はゆふべの爪あと水に置き心しづかに流さんとして,平成二十二年五月十日
黄の花は真白き花にあこがれて身を綿と化し凛とたたずむ,平成二十二年五月十日
あめつちの万物かたどる君がうた絵画のごとく眼心にあり,平成二十二年五月十日
風訪ひき心のとばり消え去りぬさやか月影ふかく染み入る,平成二十二年五月十日
はつ夏の細き弓月やはらかや白つめ草の花のひとひら,平成二十二年五月九日
刈り草の青匂ひ立つ野をゆけば恋ひ初めし日のかの歌思ふ,平成二十二年五月九日
しづくするやはき花にも暮の雨やまは煙りてくゆれる思ひ,平成二十二年五月九日
花抱え喜ぶ顔を見たくってけっきょく野菜を抱えて帰る,平成二十二年五月九日
粉ジュース水に溶かさず舌の上シュワシュワ刺激がちょびっと大人,平成二十二年五月九日
早苗田はそら深々と水鏡わがこころにも水を張りたし,平成二十二年五月九日
東雲に残れる月も良いけれど薄暮に浮かぶ星も楽しき,平成二十二年五月八日
ひと歌に頽るるやうな心地してすべてを閉じて闇に眠らん,平成二十二年五月八日
薄れゆく思ひあつめて忘れ潮おとなふものはただ風ばかり,平成二十二年五月八日
遠目にもなほ丈高きかぐはしき風はむらさき桐の花かな,平成二十二年五月八日
青々とゆふべの雨を身に纏ひ早苗のびゆく明日へ明日へと,平成二十二年五月八日
漆黒のやみに光をかさぬれば色無きごとく白をきはむる,平成二十二年五月七日
楽しみはしとど降る雨湯に聞ひて落つるリズムに転寝の時,平成二十二年五月七日
胸の奥がんじがらめにした君を五月の空に解き放ちましょ,平成二十二年五月七日
はつ夏の雨はけぶりてまぼろしの君の面影みゆるここちす,平成二十二年五月七日
何故に君われの傍らただ寄りて円らな瞳で見つめをるのか,平成二十二年五月七日
蛙の音のみの聞こゆる居間に来て吾子は悩める人となりぬる,平成二十二年五月六日
手枕の假寢の君の懷に息をひそめし潛る月の夜,平成二十二年五月六日
沈黙のあとにぽつりと語り出す母には母の深き思いが,平成二十二年五月六日
なごり花月夜にひとつはらはらと君が腕に濡れ落つるかな,平成二十二年五月六日
泣き濡れて月みあぐればはかなくてきぬ衣の刻ぬぐふ涙よ,平成二十二年五月六日
愛しきはしづとうつむく花のいろ艶やかなるは心にあらず,平成二十二年五月六日
夏引きのいとまに見せし君が笑み手をとり行かん白き砂浜,平成二十二年五月五日
馴れ初めの月見草咲く花の辺はきぬぎぬなりし濡れ袖の道,平成二十二年五月五日
香をこめて花ほころびて徒然に夏来たりなばくれなゐの風,平成二十二年五月五日
枕辺にため息ひとつまたひとつ闇にまぎれし涙に代へて,平成二十二年五月五日
奈良の空遠州の空なに変はろ誰(た)が教へしや雲雀に歌を,平成二十二年五月四日
若葉風きよらに匂ふけさの窓桃のさ枝は手をさしのべて,平成二十二年五月四日
衣かさね窓辺に月を眺むれば涙かつゆか知らねど滲む,平成二十二年五月四日
青丹よし奈良の都に咲ける花ひとつ歌にし土産にしやう,平成二十二年五月四日
狭庭べのまろぶみかんの花蕾 解けぬ今朝に香はまだ聞けず,平成二十二年五月四日
娘舞ひ野の花ひとつ手にとりて蜜をついばみ蝶を羨む,平成二十二年五月三日
東雲の明くる窓辺にほの見ゆる眠れぬ夜の切なき余韻,平成二十二年五月三日
深き夜の静寂のなかに浮かびくる月は秘かに夜話に傾く,平成二十二年五月三日
憂鬱な九春などは受けながし皐月の空へ夢はためかせ,平成二十二年五月三日
行く春は空の裾へと垂れ込めて初夏めいた海に溶け入る,平成二十二年五月二日
荷づくりに昔話をひもといて旅立つ明日に涙のこさず,平成二十二年五月二日
一心に若茶葉つみしもみじの手声たからかや八十八夜,平成二十二年五月二日
それぞれの色で艶めくまろき石つひのすみかは広き海の辺,平成二十二年五月一日
山ぎはに焔の月の立ちのぼる眠れる里に灯をともす如,平成二十二年五月一日
打ち寄する波ふたたびの時はこび抱き込む如くうめる空白,平成二十二年五月一日
街路樹の影もたわわに早緑の風吹きぬけるわが心にも,平成二十二年四月三十日
今朝の雨水晶玉のやうに抱き葉のうら影は夏の色めく,平成二十二年四月三十日
久方の光さしたるつま先は一歩ふみだす学び舎の道,平成二十二年四月三十日
いざよふと云はるる今宵この月は凛としづかに春つれ去らん,平成二十二年四月三十日
願はくは月の下にて秋死なんその長月の白菊のころ,平成二十二年四月二十九日
くれなゐの浅き夢みし春の章白のページに青き風吹く,平成二十二年四月二十九日
おぼろ夜の月の瞳にふたたびの巡れる春を祈りておくる,平成二十二年四月二十九日
行く春を日がな一日君追ひてたとへば画面もすり抜けてゆく,平成二十二年四月二十九日
朧月すずりに浮かべ書にむかふ白をうめゆくほのかな静寂,平成二十二年四月二十八日
昨夜の雨やへに残れる窓辺にてけふ九重に墨の香をきく,平成二十二年四月二十八日
人はいさ心も知らずわれはただ蝶よ花よと歌を紡がむ,平成二十二年四月二十八日
この道はいつか来たみち野の小みち宝石の如き流星ぞ降る,平成二十二年四月二十八日
久方の雨にしたしみ筆とるも滲みかすれし千々なる心,平成二十二年四月二十七日
泣きなさい吐き出しなさい零しなさいすべては雪が隠してくれる,平成二十二年四月二十七日
雨だれは一語一語の如くにていたらぬわれの心に沁みる,平成二十二年四月二十七日
若き日の滾る血潮の如くにて田に注ぎ込む命なる水,平成二十二年四月二十七日
夏隣こころも空にはためかせ泳いでゆこう君の海まで,平成二十二年四月二十七日
春の夜月のゆくへを眺むるかつまに酌させ飲み明かさうか,平成二十二年四月二十六日
折々の花のおしやべり風のいろそつと掬つて君にみせやう,平成二十二年四月二十六日
花をきき風をみるたび生まれくる歌はこころの誕生日かな,平成二十二年四月二十六日
花の道ゆけどゆけども人けなくふと見上ぐれば月の仄めく,平成二十二年四月二十五日
花ひらき懐かしき香に身をゆだねつれづれ眺む君待ちながら,平成二十二年四月二十五日
泣き濡れて月を眺めて誓ひてしかりそめの恋の終止符を打ち,平成二十二年四月二十五日
名も知らぬ月夜にひそと散る花にかたぶく心しとど涙す,平成二十二年四月二十五日
花ひとつ瑠璃のうつはに乙女子はしづと浮かべて紫の風,平成二十二年四月二十四日
みづぎはの遠つ島べの流木にものの芽出でて夢の花咲く,平成二十二年四月二十四日
この海の漣の日も凪の日もおもむきありてわれは人の子,平成二十二年四月二十四日
きのうをば知れども心知るなればけふ咲く花のあたたかさかな,平成二十二年四月二十四日
花陰に想ひ隠して夜をわたる月の瞳に見透かされつつ,平成二十二年四月二十四日
雨だれの若葉打ちゐるリズムにてけふの一歩を踏み出さんとす,平成二十二年四月二十三日
ゆくりなく水面落ちくるひと滴さざ波立ちてしづけさを知る,平成二十二年四月二十二日
青鷺のぽつりと立てる水鏡この行く春の景色ゆかしき,平成二十二年四月二十二日
憂鬱を連れくる雨に身をゆだね過ぎゆく日々の想ひを鎮む,平成二十二年四月二十二日
ゆふべには弓張月のやんわりと窓辺に浮かぶ春の輪郭,平成二十二年四月二十一日
寝ねがての闇夜に白き窓灯し昼に舟こぐ青き春かな,平成二十二年四月二十一日
釘をもて怒りの数だけ打ち込めば抜けども壁の穴は残りて,平成二十二年四月二十一日
春闌けて薄れゆく陽のその中で心のテーマ青は永遠,平成二十二年四月二十一日
オレンジのポールピンチに手を止めて青の在り処を雲に訊ねる,平成二十二年四月二十一日
春日中なよらに揺るる水草や待つ時こそを喜びとして,平成二十二年四月十八日
去りみての後の虚無感思ふれば今あることの足るを知りけり,平成二十二年四月十八日
小雨降り日ごと色めく藤の花あはき乙女の恋ごころかな,平成二十二年四月十七日
ぬばたまの闇夜に細き春の月愁ふる人の微笑みのごと,平成二十二年四月十七日
春うらら花に遊べる虻ひとつ雀おまへもともに遊ばん,平成二十二年四月十七日
小夜の雨ぽとと落つれば蛙なき相呼び応ふるあたたかき庭,平成二十二年四月十六日
桃紅の名を携へて雛の日にいざ返らんとけふを待ちにし,平成二十二年四月十六日
うす紅の桃一輪をかんざしに心ひとひら歌にしたたむ,平成二十二年四月十六日
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PROCESS COMPLETED FOR KAJIN ID 957 (桃紅)
TOTAL 1578 PIECES
__________ END OF DOCUMENT

以上、芳立さま作成
「うたのわ自動和歌集」
http://www.magadha.net/cgi-bin/utanowa/
にて平成23年4月16日~25年10月11日までの1578首をコピペ

君思ひふてくされたるこの心波の如くにゆき戻りする  恭子

2012-07-06 23:49:46 | 短歌

青海波/与謝野晶子

2011-06-09 23:52:02 | 短歌
美くしく黄金を塗れる塔に居て十とせさめざる夢の人われ

紅き絹二つに切りて分つとき恋のやうにもものの悲しき

山の鳥掛巣が啼けば天竺の破羅門の顔おもほゆるかな

よしあしは後の岸の人にとへわれは颶風にのりて遊べり

ひたひたと身を投げかけて思ふらく蛇の心のわれにあらはる

六枚の障子の破目あちこちに人の覗ける山ざくら花

黄なる蝶我をめぐりてつと去りぬものゝみ書くをうしと見にけん

菊の助きくの模様のふり袖の肩脱がぬまに幕となれかし

あさましき素肌の少女見るごとき貝のからかなましろけれども

うとましや紛るることの日に多く恋も妬みも姿きまらず

この年の春より夏へかはる時病ののちのおち髪ぞする

わり竹に紅紙はれる舞あふぎ猿の振る日も涙こぼれぬ

水無月の青き空よりこぼれたる日の種に咲く日まはりの花

わが逢はむ男の数を語れよとたはぶれつれば相人は逃ぐ

またよそに目うつるまじとたのみしも神代のこととなりにけるかな

にほはしさおよそ少女の心ほどみたせる玻璃の花瓶もて来

梢より音して落つる朴の花白く夜明くるこゝちこそすれ

二十をば七八つこせし放埒の弟が穿くひだなき袴

過去未来云ひもて行けば虚無ながら念をし掛くれこの君のため

君が門まへになしたる青き道わが歩むとき秋の風吹く

十年前まだすなほなる風俗のわが里に来し獅子の息子よ

くれなゐの海髪の房するすると指をすべりぬ春の夜の月

初夏の楓の枝に藤ちれば花笠に似てなまめかしけれ

水いろの麻のしとねにあけがたのいたづら臥の手も指も冷ゆ

かたはらへやはらかに倚りもの思ふこのおもむきの中に死ぬべき

わが宿世浮木に身をばくくられて捨てられにけん流れ来にけん

秋の朝黍の木などの白き根を出すここちに寒き爪先

兎の絵魚の絵描きて永き日を子に見することややあぢきなし

ふるさとの幼なじみを思ひ出し泣くもよかろと来る来るとんぼ

やはらかに心の濡るる三月の雪解の日より紫を着る

西大寺など云ふ寺の大門に今立つ如しよき入日かな

こゝちよく橄欖色の透きとほり身に流れ入るすゞらんの花

恋もせじ人の恨みは負はじなど唯事として思ひし昔

夕立のしぶき吹きこむ歌舞伎座の廊下に語る杵屋のおろく

紅き点金の点をば日をおきて打ちに行くなりしろき心に

千葉の海干潟の砂につばくらの影して遠き山のはれゆく

(以下十二首上総下総に遊びて)

藁積みて新造船の腹を焼く街のうしろのほのぐらき川

中空に人のましろき背に似たる燈台見えし松原の道

岩鼻の燈台を見る何となく今死の苦よりのがれし如く

岩のくぼ浜豌豆の花咲きぬ久方の雲おちちれるごと

芍薬の花より艶にあかばみぬ雨のはれ行く刀根の川口

黒き家灯のともる時旅人は涙こぼしぬ川のこなたに

刀根の川さゝ濁りして初夏の日のくれ行けば船の笛鳴る

川口の初夏の雨はなやぎぬ対岸の灯と恋をするごと

真菰伏すかぜにまじりてはしきやし香取の宮の大神はある

たはぶれに青き真菰の葉を組める指ちかく来る川あきつかな

かきつばた香取の神の津の宮の宿屋に上る板の仮橋

無くもがな世の亡ぶ日も気のふれし母をわが子の目に映す日も

何となくよりどころなく思ふ日の三日四日ありて衰へしかな

絶間なくそのかみの夢見ることを何にもまして哀れがりける

みなぐさめ三たびきけども知らぬごと涙ながすは死ぬべき性ぞ

青き蘆人をおほひて伸びたりと蚊帳を眺むる明方のわれ

椿踏む思へるところある如く大き音たておつる憎さに

消息の往来やがてふつと絶ゆ人間の子は知らずその外

初秋は王の画廊に立つごとし木にも花にも金粉を塗る

かたはらに源氏の君のそひぶしてあるを親見しいつぞやのこと

大いなる欝金のひと葉日に透きて散る時われも舞はまほしけれ

竹杖を地に横たへて額づける乞食を隔て砂風ぞ吹く

たやすげに死なんと誓ふ若人もありのすさびに哀れとぞ思ふ

七つの子かたはらに来てわが歌をすこしづつ読む春の夕ぐれ

水色に塗りたる如き大ぞらと白き野菊のつづく路かな

ことごとく因縁和合なしつると思へる家もときに寂しき

誰が見ても恋しくなれと云ふやうに若衆かづらを君被く時

振袖の従妹と伯母とにぎはしく送られて来て序の幕あきぬ

わが恋のめでたきことを思ふ時おつる涙の焔のしづく

恋人を遠きにやるはうけれどももの思ひをばならはんわれも

男行くわれ捨てゝ行く巴里へ行く悲しむ如くかなしまぬ如く

海こえて君さびしくも遊ぶらん逐はるる如く逃るる如く

秋の草みなしろがねの竹に似ぬ野分の通るむさし野の原

初恋の日よりつづきてめざましき心の如き紅蜀葵かな

はかなしや天女の髪も秋くれば落つと云ふなりわがひとり言

うすぐもり青き八つ手の濡れたるがここちわろき日三日四日となる

たをやかに笑ふ女の糸切歯しろく尖りて凉しさの湧く

雨を吹く隙間の風にあぢきなく濡れて戦げる蚊帳の裾かな

見て足らず取れども足らずわが恋は失ひて後思ひ知るらん

きちがひか継子ごころか情てふものにことごとうらかくごとし

わが取れる紗の燈籠に草いろの袖をひろげて来る蟷螂

七八とせ京大阪を見ずなりぬ遠き島にも住まなくにわれ

猪と鼠立ちて歩める絵の状に春が伴れくる田舎人かな

さくら散るわが来し方と共に散る涙とともに雨まじり散る

花引きて一たび嗅げばおとろへぬ少女ごころの月見草かな

ものの列来るを見れば横ぎりぬそのことをいと派手に思ひて

東京に雪雲くれば遠方をふたがるるごと急ぎ文かく

わが太郎色鉛筆の短きを二つ三つ持ち雪を見るかな

光明を恐れてすなるすさびとも眠れる人を思ふなるらん

あめつちの中にただよふ悲しみをわがものとして親しむ夕

君と居て百とせなほも憂へずとささやくは誰石の湯槽に

眉引かず香油を塗らぬ素肌をばめでたく映す掛鏡かな

湯槽にてわが枕する腕は望の月夜も及ばぬものを

夢いまだ多きが如し春の湯にうつりて匂ふ我のまなざし

われは猶博士の庫の書よりも己を愛でゝ黒髪を梳く

たそがれの光もわれの身に添へば悲しきばかりめでたかりけれ

みづからを愛でんと我は白鳥に身をば仮れるや春の湯の海

しら鳥の背を隠さんと水色の帳を引けば青空に似る

この白き胸を自ら刺し通す狂乱の日のありやあらずや

山川に踵をひたす夏のごと石だたみをば水のながるる

たはぶれに眉をひそめぬ自らの素肌を抱く寒き女と

夜の色ともしびの色湯の靄によき襞つくる愁をつくる

悔むべき恋もなき身に何事ぞ湯槽にかくれ涙あらふは

粉黛のこちたきことを厭ふ人泉の如く湯を好むわれ

木の下に落ちて青める白椿われの湯浴に耳をかたぶく

湯槽をば水晶宮になぞらへぬありて耻なき身の清らさに

かたはらに睡蓮咲くと誰云ふや湯槽に浮ぶわれの円肩

森に似る青き板壁つや好くも静かにうつす燭と素肌と

ふくよかに身の若きこそめでたけれ薔薇をもつまじ棘の傷めん

湯を出し真白き魚の嗅ぎよりぬ玻璃の器の金蓮の花

ほのじろき靄の中なるうまごやし人踏むころのあけがたの夢

三尺の柳を折れば大馬に春は女ものらまほしけれ

白き墓いつにてもあれ安らかに寝に行くを得る床とおもひぬ

大いなる支那の地図をば拡げ見る男の傍に白蝋を焚く

舞姫のおしろいするも寒からん京の秋かぜ川よりぞ吹く

少女の日あたり近くもよせざりしそのあやかしの友となりにき

色白のおしゆんが刈れる萱の葉の光るも凉し馬の背より

生来の二重の心二やうに事を分くるがここちよきかな

何ごとか病める蚕の冷たさに胸薄じろくくもる夕ぐれ

わかき友さかづきを見て何泣ける破れし恋と酒と似たるや

つれなくも物思ふ間にたけのびて悪しき匂ひを立つる雑草

左右より胡蝶の羽を背に負へる子役のいでて笛ひゆうと鳴る

雪積もる深夜の街の道具立よこにまはりて君ちらと見ゆ

いづこへか逃れんとして逃れ得ぬ重きここちに大ぞらを見る

悲しとは足らへる際に云ふことぞ与り知らず目の外の人

彼の人を暫くわれの憎みしは暫くわれや恋したりけん

短命はすでに知りたる人と云ふおのれともなくめでぬ鏡を

薔薇咲くしろくはた黄にうす紅に刑の重きは墨色に咲く

影の国黒き氷を出できたりわれをば掩ふ蝙蝠の翅

門に干す刈草の葉にまじりたる釣鐘草もかなしかりけれ

刈草の青白きをば嗅ぐ如くわれを思ふや三十路してのち

水盤に紅おとすよりあてやかに早くひるごる星月夜かな

甘き味ほのかに残り憎からぬわれの酔ひざめ君の酔ひざめ

やうやくに思ひあたれる事ありや斯くものをとふ秋の夕風

玻璃を滴る花ゑんどうの柔かき緑のしづく臙脂のしづく

黴にほふ衣桁の衣を被くとき雨を憎みぬ継母の如

われすでにあたはずと云ひ人々に一尺すさりものをこそ思へ

砂に居る鴨の如くに額たれて人言のみを聞くははかなし

皐月来ぬうす黄の棕梠の花落ちて池の濁れる旅の宿かな

秋来ぬと白き障子のたてられぬ太皷うつ子の部屋も書斎も

見るところ世を楽むに似たれども悲しきことを背後にぞする

この君かさも類なくききたりし人はと云ひて知らぬ子の泣く

霰より早く羽より軽やかに心をわたる淡きかなしみ

なほさめぬ夢の女とささめきてわれを見返るこのも彼のもに

あらましは君に染まりぬわが心うらなつかしきものとしる頃

人ごみのうしろに低く爪だてて若き俳優に花なぐるかな

近き家いと悲しげにこちたくも香焚く日なりうぐひすの声

びろうどの薄青色の机かけわが目のみ見る春のひるがた

南かぜ塵を上ぐればいみじかる初夏の日も灰色となる

たなばたの星も女ぞ汝をおきて頼む男はなしと待つらん

三十路しぬ妄想邪見ややふかくなるとも知らずたのまる君に

よき事に何をえらぶぞ君を見てあらむ命のつづくをえらぶ

きさらぎの雨となるともきさらぎの雪となるとも寝てあり給へ

少女子の遣羽子の音久方の照日の神も佐保姫もきく

いまはしく指のきたなき彼の座頭変化のごとし曲弾をする

京の子の小肩をこえてちる時に板屋紅葉は匂やかに見ゆ

彼の人にいたはられましこの人に小鳥の如く養はれまし

鉢のもと一尺ばかり紅く這ふ花ゑんどうの薄あかりかな

あら磯の犬吠岬のしぶきをば肩より浴びてぬれしかたびら

いにしへのさびしき人もかくしけん蓬生に居て大空を見る

わが脛に知らぬ男の足触れし驚きをして泥を憎みぬ

くるくると器械まはれば黄なる埴鉢のかたちすあぢきなきかな

春くれば古きすだれも夕雲のにほへるまへにそよぎこそすれ

近き日に何の来るをゆめみけん十とせのまへのうつしゑの人

むらさきの帳を背にして独居ぬ飽くなき心すこし鎮まれ

たそがれの硝子障子に映りたる濡れし欝金のひともと銀杏

螻蛄の音よ平野次郎が獄屋にて弾きたる紙の琴に似るかな

生れ来て一万日の日を見つつなほ自らをたのみかねつも

大いなるツアラツストラの蔑みし女の中にわれもあるかな

驚きて黒き瞳をわれ見はるツアラストラに耳を貸しつつ

金の蛇ここちよきかな身を咬みぬツアラツストラの杖を離れて

板屋根を野分の風の剥ぎしより空の覗けるあぢきなき家

きのふけふ塵に染みたる糸くづと見るまで萩のあはれになりね

すすきより萩の花より何よりもわがまづぬるる秋の露かな

あらむこと残り少なきここちしぬ日のあかき昼月しろき夜

沖つ風吹けばまたたく蝋の火にしづく散るなり江の島の洞

鵠の鳥かき消す如く立ち去れば小波もなき黄昏の海

病むわれのたよりなげにも歎く時かたへに慄ふ桜草かな

十界に百界にまだ知らぬこと一つあるごとし身ごもりしより

不可思議は天に二日のあるよりもわが体に鳴る三つの心臓

この度は命あやふし母を焼く迦具土ふたりわが胎に居る

生きてまた帰らじとするわが車刑場に似る病院の門

己が身をあとなく子等に食はれ去る虫にひとしき終ちかづく

男をば罵る彼等子を生まず命を賭けず暇あるかな

大雪に枕するごと生きながら岩に入るごと白き病室

悪龍となりて苦み猪となりて啼かずば人の生み難きかな

親と子の戦ふはじめ悲しくも新しき世の生るるはじめ

蛇の子に胎を裂かるゝ蛇の母そを冷たくも時の見つむる

胎の児は母を噛むなり影のごと無言の鬼の手をば振るたび

その母の骨ことごとく砕かるる苛責の中に健き子の啼く

あはれなる半死の母と息せざる児と横たはる薄暗き床

虚無を生む死を生むかかる大事をも夢とうつつの境にて聞く

死の海の黒める水へさかしまに落つるわが児の白きまぼろし

よわき児は力およばず胎に死ぬ母と戦ひ姉とたたかひ

あはれにも母の命に代る児を器の如く木の箱に入る

産のあと頭つめたく血の失せて氷の中の魚となりゆく

産屋なるわが枕辺に白く立つ大逆囚の十二の柩

血に染める小き双手に死にし児がねむたき母の目の皮を剥ぐ

間を置きて荒く皷弓を擦る如くうつろの胎の更に痛みぬ

みづからを苦むるをば恥とせし我も苦む母の習ひに

いでわが児幸あれと先づ洗ふ母が身を裂く新しき血に

母として女人の身をば裂ける血に清まらぬ世はあらじとぞ思ふ

流れつゝ蘆の根などに寄る如く産屋に冷えて衰へしわれ

打つ笞に血の走るまで糺されて悔いざりし如蘇りきぬ

うばたまのわが洗ひ髪ちらし髪金の襖子にふるる初夏

開山の法師よりけにたふとばれ恋の話をきく人となる

秋のかぜ口を窄めて噴水盤のうす紫の水を吹くらん

たをやめの胡蝶の舞を見さしきて白き露台の雨を手に受く

をりをりに黄なる粉ちらす藪椿彼も泣くらん醜き椿

水色の秋のあけぼの大海の真白く塗れる船に有らまし

澄みとほるあまき涙を海として黒髪をひく白き魚われ

秋来りものに抗ふ心さへ薄紙の如濡れにけるかな

われ昔さびしき事を恋と云ひ楽しき事を死ぞと思ひし

かきつばたわれのやうなる気随者眉ひそめつつ人見るに似る

何の木か小枝がちなる影おとす寒き月夜の街の敷石

雲流るおほくの人に覗かれてはや書をする文の如くに

八月の雨ならばいとよからまし瀬の音なれば人のしのばゆ

ここちよく高く風鳴る一もとの檜のもとを歩むあかつき

おのれをば守る力のなきやから黒がねをもてよろへるやから

めづらかに怖しく将た嬉しかる男の息のひなげしの花

大きなる百合の落つるは艶めかし我のわかさの去るにくらべて

あながちに忍びて書きしあと見ればわが文ながら涙こぼるる

あかつきの竹にとまりて蝉なきぬわが鏡より出でし心地に

ひなげしの赤きと粗き矢がすりの御納戸うつる花皿の水

飾らざるわがまごころの素直さをあらはに人の覗くさびしさ

思へるは片恋ながら自らは塵もすゑじとなす人はよし

この内にメヅザの楯を入れおくと傍の櫃を指さしぬわれ

わかみどり柳に隠れ手を拍てば男の覗く紺納簾かな

床几より足を垂れたる舞姫の前に絹ひく加茂川の水

寛弘の女房達に値すとしばしば聞けばそれもうとまし

薇薔咲きぬかつて夢寐にも知らざりし思ひごとする人のほとりに

ゆかしけれものの哀れを知る群に入れ余されて過ぎし年頃

めでたきもいみじきことも知りながら君とあらむと思ふ欲勝つ

春風も冷く吹くは白蘭の花のあたりに黄なる香焚く

吾妹子がくるぶし痛む病ひして柱によればつばくらめ飛ぶ

わが前に人らひろげぬなつかしき茜もめんの大阪なまり

わが世をばよろこぶなりと風吹けば髪も柳もおなじこと云ふ

あけくれの鶯の声きさらぎの春の面にうきぼりをする

旅にある君かへるよりまさること未だ知らざる身を祝ふかな

青き木よいつまで立つぞ青き木は枯れし木よりも傷ましきかな

常磐津の連中ほむる姉たちの知らぬ文書くふところ紙に

男衆にふところ手してもの云へるうき人に逢ふ初日の楽屋

木戸へ行く茶屋の草履にうち水のしぶきのかかる夕月夜かな

一しきり花豌豆の風おくる凉風ふきて廊のくれゆく

何ごとに思ひ入りたる白露ぞ高き枝よりわななきてちる

あるかぎりことをこのめる中に居てひとりすなほに恋もつくりぬ

時にふと思ひせまりて息つくも十とせに余るわれのならはし

若き日は尽きんとぞする平らなる野のにはかにも海に入るごと

契らねど衰へは来ぬ何となきうらはかなきをわれに知らせて

吉原の火事のあかりを人あまた見る夜のまちの青柳の枝

蝶ひとつ土ぼこりより現はれて前に舞ふ時君をおもひぬ

水草に風の吹く時緋目高は焼けたる釘のここちして散る

棕梠の葉のみづから高き悲しさよ小草の知らぬ風にはためく

草もなき赤土原の干割れしを越えて簾に上る夏の目

棕梠の葉も蓬の茎もをちかたに雷鳴れば砂をこぼしぬ

辻ごとに黒き服着る旗振が電車に載せて夏を撒くらん

鱶などの暑き干潟にのこされて死を待つばかり寝ぐるしき床

かずかずの心の難に勝ちし身も疲せて細りぬ夏の来れば

わが知らぬ砂漠の風の身を吹くと夏を歎ちぬ草のいきれに

日のささぬ蔭にわが子を寝さすれば足の方より昼も蚊の鳴く

射干の赤き花より油ぎる蜥蝪の背より夏のひろがる

齒ぎしりをする子の如く夜の樹にぎと短くも啼きて止む蝉

わが嫌ふ男ならねど夏こそは深くあくどくいと苦しけれ

小き文肱におさへて云ふことのよし悪心のこのうつはもの

わがつねに心に覗く洞穴を出しが如き黒き蝶かな

こほろぎは床下に来て啼く時にちちこひしなどおどけごと云ふ

枝などを髪の如くにうち乱し流るる木あり大河の雨

人並に父母を持つ身のやうにわがふるさとをとひ給ふかな

自らを淡き黄色にかはりゆく秋の草とも思ひなすかな

かしこさよ御裳裾川の板橋をわが踏む音のこだまする朝

(以下八首伊勢志摩に遊びて)

天てらす神の御馬にわが子等が豆を食まする朝霧の中

夕月のひかりの如くめでたきは木立の中の月読の宮

祈らくは豊宇気の神貧しかる我等が子にも糧を足らしめ

曇りたる沖をながめて涙おつ心さびしや伊勢の海辺に

ものふりし鏡ならねで静かにも二見の浦は雨に曇りぬ

少女子の櫛笥の中を見るごとく小船のならぶ鳥羽の川かな

出で行くや港に入るや知りがたし島づたひする阿虞人の船

かりそめの物語より涙おつ病めども心をどる人かな

をりをりに心の夢をくらくする雲の陰影あり秋の日の如

荒縄のたすきをしたる門ばしら撫でてくぐれば雨がへる鳴く

こすもすと紅きだりあと雨に濡るみだれしままに刈らぬ草むら

幾とせも仰がでありし心地しぬ翡翠の色の初秋の空

毛氈のはねず色をば木の下の床几に敷けば蜩の啼く

あたたかき砂を手に戴せうつつなく語れる人に馴れてよる鵠

簑を着て図書館まへの大河を船人のぼる水無月の雨

恋をしぬ日毎忘れず泣きうべき身にしむことを君に聞かむと

流俗とたたかひ番ふ日とならばこの超人とともに勝たまし

春過ぎて木蔭に小く咲きいでぬ末の子に似る山吹の花

二月の朝鴉啼くみやしろの青き瓦にあられふるとき

わが閨の朝日に似たる紅硝子窓にはりたる山の馬車かな

黒き雲愛宕の山の上にいで人おびやかす秋のゆふぐれ

世につかず人を頼まずありてさへわれあさましと見る日もありぬ

一切をやや明かに見透す日われに来りて物足らぬかな

蜘蛛の巣にしら露おきぬ二三本竹のなびくも藪ごこちする

秋の風かの来るとき恋ざめのくらき冷き顔見ゆる風

かなしくもわが子の指にはさみたる蝶の羽より白き粉のちる

腹立ちて炭まきちらす三つの子をなすにまかせてうぐひすを聞く

若き人年を知れるとややたけて年忘るるといづれもよろし

もの書きぬうす手の玻璃に萎れたる黒きだりあをかたはらにして

そぞろなる夜の心にうかび来るだりあの花はわりなかりけれ

なほいまだ若きよはひを惜しとしぬ恋することもこの心のみ

風吹けど花みじろがぬうす紅の椿はかなしわが墓のごと

今ひとたびわれを忘るる日はなきや親のいさめし恋の如くに

君たちの知らぬ国よりわれ来ぬと云ふべきことを今は言はまし

秋が着る素足のすその裏葉色清らにつづく廊を行く

初秋のあらしの中にうなづきぬ孟宗竹の黄なる末など

かぶと虫玉虫などを子等が捕る楠の木立の初秋の風

ひんがしの国のならひに死ぬこと誉むるは悲し誉めざれば悪し

(以下輓歌十三首)

勇しき佐久間大尉とその部下は海国の子にたがはずて死ぬ

瓦斯に酔ひ息ぐるしとも記しおく沈みし艇の司令塔にて

大君の潜航艇をかなしみぬ十尋の底の臨終にも猶

武夫のこころ放たず海底の船にありても事とりて死ぬ

海底の水の明りに認めし永き別れのますら男の文

水漬きつつ電燈きえぬ真黒なる十尋の底の海の冷たさ

海底に死は今せまる夜の零時船の武夫ころも湿ふ

大君の御名は呼べどもあな苦し沈みし船に悪しき瓦斯吸ふ

いたましき艇長の文ますら男のむくろ載せたる船あがろきぬ

やごとなき大和だましひある人は夜の海底に書置を書く

海に入り帰りこぬ人十四人いまも悲しき武夫の道

髪白き生田小金次先生は佐久間を語り春の日も泣く

いつしかと若き心にまかせたる身は三十になりぬあさまし

うらさびし円覚寺にて摘みし花かざせしままに君と歩めば

錫となり銀となりうす赤きあかざの原を水のながるる

羽負ひて登天の日のここちする小雨まじりの初夏の風

初夏のあかるき緑やはらかにわが病む床のしら布を吹く

ほのかなる紅絹の色かな夜に祈るギリシヤ教の寺の灯の如

切岸を雨にすべりて洲に立てる秋の雑木もあはれなるかな

衰へと云ふこの報ひうくるより苦しきはなし恋の終りに

新しきわが生涯をきづくとて心にたてし円ばしらかな

ふきあげの盤よりなびく水の音静なるこそ悲しかりけれ

幽霊はまだ消えずやとうつぶしの稚児輪が云ひぬ島田の膝に

悲しさをまぎらはさんとくだものの皮むく土間の白き指かな

うつむきて六二の桝にもの書けばかのさじきより人のどよめく

秋の夜の灯かげに一人もの縫へば小き虫のここちこそすれ

馬上より垣の柳を人摘みぬ駿馬の骨を摘めと云はまし

木蓮のしろき花びら物とせず憎げに散す瑠璃色の蜂

何にてもえらばで其れに縋るべき弱き心を十年鞭うつ

わが生みし第一の子は病みがちに清く細りぬ天の身ならん

かき抱きともに玉とも変るべき不思議は無きか此子死なさじ

病むを見て子に謙る親ごころ懴悔の如き涙ながるる

代れるか親の受くべき禍に我児は病みて清く痩せゆく

清らにも我児の病める悲しさよ水の底なる月のここちに

さし覗きこの児死なんと咽びけり病みてあはれに痩せし寝姿

手にとれば青玉をもて刻まれし虫のここちに青きすいつちよ

鎌の刃のしろく光ればきりぎりす茅萱を去りて蓬生に啼く

大世界あをき空より来るごと蕾をつけぬ春の木蓮

秋の島奥の方より水はこぶ白き桶などここちよきかな

秋の日の夕となればわがうれひ君がこころにまつはりて這ふ

魚市のかがりの煙更けし夜の港になびき白き露ふる

天王寺田舎の人の一つ撞く鐘の下より凉かぜの吹く

狂乱に近づくわれを恐るるや蝶もとび去る髪をかすめて

なでしこの花咲く頃となりぬれば人目をしのび文書くわれは

二つ三つ忘られぬこと書きこして心の上を走り行く人

渚なる廃れし船に水みちて白くうつれる初秋の空

指をもて濶き空にや書きすてんこの国の人忌むと云ふなり

冬の手に裂かれて落つる金の箔ひと葉ちるなり二葉ちるなり

東大寺二王の門を静かなるうす墨色にぬらす秋雨

人のする初恋なども耳とまり秋はものみな哀れなるかな

生きながら身の棄てらるる心地しぬ岩代山の雪よけの底

(以下三十三首岩代に遊びて)

雪よけの板屋くづれて草の葉の裏ひるがへり山の雨ふる

磐梯の山をとどろと鳴し来てみづうみに入る白き横雨

山潟の駅にわが見るみづうみは譬へば白き肘の片はし

岩こえて三筋に裂くる白き瀑とどろと鳴りて山に霧ふる

ひと時も千とせもなしと教へ居る琅●(オウヘン+「干」)洞の水の音かな

湯上川ここに日を経ば衰へて身を隠すとや人の云はまし

人言はさもあらばあれ湯を愛でてさもあらばあれ山に日を経る

初秋の湯上の山の朝風に水を過りて雲のふかるる

わが背子と夏の旅路にやつれ来て今日みそぎする岩代の山

みづからを山の湯ぶねに朝くだる白き雲かと驚きぬわれ

美くしや会津の山の湯上川ちさき板橋ちさき舞姫

みやびをとたわやめのみの渡る橋宿屋の門にひとつある橋

湯上川たかき欄を背にしてつづみの紐をむすぶ舞姫

山あひに管玉などを置くと見る湯上の川の瑠璃色の底

湯あみしてやがて出じとわが思ふ会津の庄のひがし山かな

半身を湯より出して見まもりぬ白沫たてる山あひの川

自らを清しとすれど猶あかず会津の山の湯を愛でて浴ぶ

川底のろくしやう色の板岩に白き裳引きて躍る水かな

谷底の湯槽に近く鳴る水を遊べる魚のここちして聴く

ましろなるわが身をめぐり湯の湧けばいかづち伏せてあるここちする

憎くげなし湯槽にとなるあなぐらに似る小座敷の三味線の音

あけがたの山の巌間の湯にあれば近き雲より小雨そぼふる

渓川の岩のくぼみの水だまり星座のごとく見ゆる朝かな

山の雨ころもを濡し葛の花人にまとひぬあかつきの谷

花かざし今水姫があそびごとする灯の川となりにけるかな

山黒く暮るれば谷の二側に白き流れをてらすともし灯

湯上川わが今日おとす美くしき涙もまじる水の音かな

飯坂のはりがね橋にしづくしる吾妻の山の水いろの風

吾妻山うすく煙りて水色す摺上川の白きあなたに

わが浸る寒水石の湯槽にも月のさし入る飯阪の里

山の湯にわが円肩のうつれるをしろき月夜と思ひけるかな

山の湯に浸りて何を思へるやなほ美くしき恋を思へる

煤びたる太き柱に吊りわたす蚊帳に入りくる水の音かな

見つつなほもの哀れなる日もありぬ逢はで気あがる日もありぬわれ

元朝やわか水つかふ戸に近き柳の花に淡雪ぞふる

おさへ居し手のひらぬけて五つ六つ目の前に舞ふかなしみの蝶

草の庭まへに見ながら飯を食ふ男おもひぬ逢ひにこぬ時

世に知らぬ千年の寒さ身を噛みぬわが肱まげてひとり寝る床

麦の穗の黄ばめる上にものの葉の裏見るごとき海の色かな

いづ辺へか行き隠れんと思ふこと瘧病のごとくなほする

たのしみのまた来る日をあたへよと訴へぬ子は衰へにけん

夏となり銀のとんぼの飛びくれば忘るる日なしかの人のこと

あな凉し大雨の中の木立をばわれの心のはしり行く音

折ふしに悪をほどこす心などわが末の世にをかしからまし

芝居よりかへれば君が文つきぬわが世もたのしかくの如くば

水無月の夜にして早も啼く虫のやさしき声のうすみどり色

藤の花わが手にひけばこぼれたりたよりなき身の二人ある如

自らを先ず驚かすことするとこの衰へをつくるならねど

足らぬこと無しと知れども涙おつうらはかなさや病ならまし

剥がれたる木の皮などの泣く音かと木立の蝉をかなしめるかな

小蒸汽が橋の下にて笛吹くも物のはずみに泣かまほしけれ

棕梠の花魚の卵の如きをばうす黄にちらし五月雨ぞふる

わが背子が行く日近づく海こえて若しかへらずばかなしからまし

海こえて所さだめずわが背子と流れて遊ぶ身ともならまし

百舌鳥啼けば火のつく如く過失をせむる男のこはき顔見ゆ

心臓にわが顔つけて吸ふは血か魔薬の液か熱しくるほし

金屋に人なき時は春の日も秋にとなれる思ひこそすれ

かちわたり波かしきたり足もじる危ききはに夕風ぞ吹く

うき草の中より魚のいづるごと夏木立をば上りくる月

烏瓜たよりなげなる青き実の一つかかるもさびしきものを

せはしげに金のとんぼのとびかへる空ひややかに日のくれて行く

黒馬のながく伸せる首すぢのつやつやとして萱の露ちる

大和川砂にわたせる板橋を遠くおもへと月見草咲く

われ早く重きいかりを身におひぬ楽しき恋の底にしづめと

大空にあそぶが如く折折に虚無に羽搏てば健きかなわれ

初秋の一重の衣凉やかに風の通るも恋に似るかな

かの刹那この刹那いとおもしろくいと狂ほしくいと悲しけれ

夜もなほ籠のあたりに灯をおけば金糸雀は啼く旅人のごと

七尺の簾を透きて白百合のそよぐ夕にわたるいなづま

狂ほしき黒髪をもて絡みたる心の巣より紅き鳥啼く

腕をみづから枕きて雪山の流れと聞くもここちよきかな

ものの蔓あかざまじりに枯残る築土の内のたんぽぽの花

光氏が浅草寺の檐したに袂をしぼる水無月の雨

ひと時の盛りと云はむ中にあり世をみな夢と思ふたぐひに

朝夕こころにみたずと思ふこと多くなれるもおとろへしゆゑ

恋人ともの云ふ如く立ちながら手ずさびに引く青柳の糸

店さきに住吉をどり傘の柄を叩く音より夏のひろがる

わが姿いまだ人見ず火の柱のみ見ゆと云ふあさましきかな

ある人もある書も皆華やかに恋をとりなしわれを教へし

さし櫛はおちて後に音たてぬ心に代り高く泣くらん

知恩院の高き屋根よりわが髪に皐月のしづく青やかにちる

街々はうす黄の菊のさびしさに早くも似たり十月の末

自らをもて証さんと思ひ立ち寒き不思議に入りにけるかな

いかばかり光る玉ともわれ知らず人採らば採れ人棄てば棄て

紙を切る細き刃物も何となくすさまじきかな夜を一人居て

恋さへもわがなすさきに飽きたらぬ心の奥の心としりぬ

かの人にかかはりなづむ心をば今知るがごと頬の染まるかな

青玉の涙ながれて川尽きずわれは其処より棹さしてきぬ

雨白く土をあらへば瀬戸かけの藍の模様のひかる夕ぐれ

杏の実うすく赤める木の下に砂を流せるあけがたの雨

ともすれば久しく座して思ふこと青き御空の額に落ちこと

あめつちを生の親とも云はずして夜昼におもふ山のおくつき

君やがて草踏む靴の寒げなる音を憎みてかへりこしかな

明星も白き小石にしかめやと手のひらに置きかたらふ夕

恋をわれ断え易き火とおもはねど抱きつつ吹く身のこぐるまで

うす赤きすゐいとびいの花の呼吸湯気より熱きここちするかな

夕ぐれの夕ぐれのかの笛の声ほどふるままにわりなく恋し

ひと時にわかき命を焼きつくせ斯く呼ばはりて行くにかあらん

高き屋に朝々のぼり遠かたの木蓮の花見る日となりぬ

吹き来り室に入る時秋の風わが面見てあな寒むと云ふ

秋の来てとうしみとんぼ物思ふわが身のごとく細り行くかな

しろき月木立にありぬうらわかき男の顔のぬれし心地に

かば色のつやよく長き頸のべて麒麟の食めるあかしあの花

小き手を横に目にあて泣く時はわが児なれども清しうつくし

あぢきなく石につまづく心地して俄かに切れし三味の絃かな

青磁の器水たたへたりわれ死にて行く国浮ぶここちこそすれ

あなさびしこの辺には人なきか人はあれども未だ夜明けず

飽くをもて恋の終と思ひしに此さびしさも恋のつづきぞ

娘にてこころに得たる病より痩せの癒えざる憂身なるかな

筆とれば涙おちきぬ指痩せてふるるに似たり枯木と枯木

前髪を焔のごとくちぢらせぬ恋にかかはる執着のため

水色の朝顔に似て板敷のつやにうつれるわがたもとかな

この国のはてをさまよふここちすれ旅人おくり京にきつれば

相あるを天変さとし人騒ぎ君は泣く泣く海わたりけん

とく消えぬ人ねたまずや大船に二人乗れりと思ひし夢も

片ときも立ちはなれずてならひしは昨日のわが世こし方のこと

君行きてたのもしげなくなりつると心みづから蔑むはわれ

いと重き病するなりわが心君ありし日におもひくらべて

ねがはくば君かへるまで石としてわれ眠らしめメヅザの神よ

一人行くを深き心のある人と君をたたへぬゆるすべからず

しろがねの小き蛇が夜も昼も追ふべき君が大海の船

逢見ねば黄泉ともおもふ遠方へたからの君をなどやりにけん

わが起居涙がちにてあることも旅なる人の皆しれること

憂ふるやはたよろこぶやわが君にかかはることのいと遥かなる

おのれこそ旅ごこちすれ一人居る昼のはかなさ夜のあぢきなさ

月たたば日へなば妬き話さへもり聞くべしとはかなまれつつ

海こえんいざや心にあらぬ日を送らぬ人とわれならんため

人皆がかしこまりおき居ずなりし彼の船室の一二分ほど

おもひそふ湖北漢朝元年の支那にて書ける君が消息

一人てふならはぬここち今日になるするがかなしさかぎり知られず

あぢきなく弱きかたへと日にすすむ心と知れどとらへかねつも

今すこし人にかへらば子等などもなだめんと思ふいとわろしかし

おなじ世のこととは何のはしにさへ思はれがたき日をも見るかな

ただ一目君見んことをいのちにて日の行くことを急ぐなりけり

恋と云へどあなどりやすき方まじり残されにけん一人行きけん

あぢきなくもの哀れなりわがままに誇りならひし恋のこころも

君こひし寝てもさめてもくろ髪を梳きても筆の柄をながめても

幸の全からざるくやしさを思へる人と云ふにかあらん

わが男ひとへにたのむ哀れさのこの頃となりあからさまなる

こし方は心にふかくしまざりしことならんなど恋のおもはる

その妻をいひがひなしと憎みつつ罵りつつも帰りこよかし

わが前に灰いろの幕ひかれたり除かるる日のありやあらずや

十歳の子と一人の母とたぐひなく頼みかはすも君あらぬため

ありし人面かげ忘れがたきより住む家をさへつらく覚ゆる

うらめしと思ふ心もうちかへし音にぞ泣かるる逢ふすべなさに

心からもてそこなへる身のはてと病めるを悔いぬ逢はで死ぬべき

われ泣くと遠方にある人なればさしてたしかに知るにもあらず

あな恋しうち捨てられし恨みなどものの数にもあらぬものから

はれやかに人目ばかりをもてなしてある人にさへならふすべなし

盗みもて行かまほしげにひと一人思へりつるも憎からぬかな

さびしさも憂きもさすがにさりげなく書く文ながら見ては泣くらん

身も人もいのちの堪へずなりたらば哀れならまし遠く別れて

待つべしとなだらかに云ひ君やりし人ともあらず狂ほしきかな

筆とればまたわが心やるせなく騒ぎそめたり文かかで寝む

ものおもひ絶えぬ身なりやその涙熱きつめたき何方にせよ

子等を率て家うつりすれ君なくてさすらひ人となりにけるかな

はて近き世界の如く空も見ゆわが身につけて思ふなるらし

思へどもわが思へどもとこしへに帰りこずやと心みだるる

われながらあなづらはしく思ふかな巴里の大路を君一人行く

紫の衣など見れば束のまは変れる身とも思はれずして

年ふれどつゆゆるびなきなからひと我も許しつ彼の昨日まで

十余年またなく君のおもへりし我をみづからかたみとぞ見ん

うちそひて巴里のあたり旅人と呼ばれましかばあらめ生がひ

旅をするよろこびなども聞きなましながらへましとかつ思へども

よそものに君をなすとは思はねど唯見がたきがあさましくして

君行きて身内の熱の皆さめしここちも覚えもゆるを覚え

わかれ住むかかる苦しさならはでもあらましものをうつそみの世に

いとかなしうるみ濁れるわが息の籠れる間より見ゆる大ぞら

やすみなく火の心もて恋ふるなるわれにいつしか君飽きぬらむ

また君を見てかたらはん時のいと長きおそれに病するかな

横たはるけものの如く一とせを思へるままに今日か死ぬらん

海こえし旅人の文時をりになげきの家の窓あけに来る

一人居て聞くときさびしうら若き平野万里の支那の話も

わが机死のまぢかにもある如くよれば夜も日も涙ながれぬ

客人達哀れは知らぬにもあらず時をたのめとをしふる如し

悲しくも君と別れし海の波音すれ病めるわが枕上

何ものか心の闇をてらす時またかへりこん君としおもふ

風のごとすと行く君に死ぬべしと慄へて云ひぬ夢のさめぎは

うとましく敵の如く手にとりぬ一人寝の床におつるさし櫛

男をば目はなつまじきものとする卑しきことは思ほへなくに

初夏のまぼろし

2010-05-05 15:26:33 | 短歌
  夜をこめて想ひこぼれしひとことに
      
              夢まぼろしの如く君訪ふ

歌、小移動 その2

2010-04-22 10:07:58 | 日記

「ツンデレ」詠み込み不問

   「別に」って口癖なんです 本当は猫なで声が得意なんです(二席)

 

しりとり歌会「50」

   夫(つま)は五十 煙草は吸わぬが大酒呑み 検診結果に紹介状つき

 

連歌会「観覧車から溢れそうです」の上の句付け句。  

   春の夢綿毛みたいにふわふわり観覧車から溢れそうです(二席)

 

夕べ初めての歌会のお題を出題させてもらった。

ちょっとワクワク♪


歌、小移動♪

2010-04-19 12:57:50 | 日記

モバイル短歌というサイトで詠んだ歌をこちらへひとまとめ。

なぜかといえば、基本的にケータイサイトなので

自分の歌といえども一覧できないため、歌の一覧として。

 

「セクシー短歌」

   風に身を委ねるがごと舞ふ花のやは肌秘めし熱き血潮ぞ 

 

「新たなる」

   新たなる道歩き出す子ら送りわれも踏み出すこの歌の道

 

しりとり歌会「牛」

   食後すぐ横たわってはあの言葉何度も何度も反芻するよ

 

連歌会「受信トレイの保護済みメール」

   春うらら暗唱すれど読み返す受信トレイの保護済みメール

 

「めだか」

   息ころし子ら覗き込む春の川命さらさらきらめき逃げる(三席)

 

「すずめ」

   きらめいて田の水揺れてすずめの子実りの秋を夢見て歌う(二席)

 

「カレー」

   潮の香のただよふカレー渡り蟹よこたふ春の陽ざしやはらか(三席)

 

「制服」

   出会うものみな新しく胸躍る折り目正しき春光の君(三席)

 

「モバイル短歌」

   天地人選歌さるるもするもよしお題つぎつぎモバイル短歌

 

「夕飯」

   「夕飯はいらない(笑顔)」というメール十五の春の絵文字、コノヤロ

 

しりとり歌会「椎名林檎」

   コスプレし毒入り林檎かじる君魂うたふ血を吐く如く

 

「飛行機」

   雲の海滑るが如きゆくつばさ見上げる我は小さな魚(首席)

 

連歌会「丁寧に閉じ込めておくいとおしさ」

   丁寧に閉じ込めておくいとおしさ重ね重ねてミルフィユ仕立て(三席)

 

それぞれのお題が出されてはじめて歌を詠める場で

会員であればお題を出すのは誰でも自由らしい。

ただルールがあって連歌会、しりとり歌会だけは首席をとった人だけが

次の歌会を開催することが許されているとのこと。

投稿のあった歌の数にかかわらず選歌は天、地、人の3つ。

この選び方は実家の両親が川柳をしていて私もよく選んでみろ

といわれるので知ってはいたけど、いざ自分が選者になったり

名前を知らないままに選ばれたりすることが嬉しい。

雨晴れではないけども、やはり天が気になるところ(ヘタっぴなシャレ)

あと3つの歌を投稿してある。

またまとめて移動しよう~♪


桃紅

2010-04-16 09:51:59 | 日記

ふたたびの道けわしくも前見据え桃紅の名を携え歩む

 

私ひとりの力ではとても戻ることのできない場所。

感謝の思いを忘れることなく、

何事にも動じることなく、

ふたたびの道をゆく。