電脳筆写『 心超臨界 』

人生の逆境は、人の個性から最善を
引き出すために欠かせないものである
( アレクシス・カレル )

グローバル化が、国家の間の壁、冷戦構造の壁を吹き飛ばし、世界は一つの平原に変わった――高山博さん

2009-10-16 | 04-歴史・文化・社会
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「歴史から見る現代」
東京大学教授・高山博

  [1] なぜ歴史を学ぶのか
  [2] グローバル化が分水嶺
  [3] 過去とは未知の世界
  [4] 偏り除き事実に迫る
  [5] 資料から過去を復元
  [6] 欧州近代歴史観の限界
  [7] 揺らぐ国民国家
  [8] 冷戦後の世界
  [9] 単線史から全体史へ
  [10] 持続する知の重要性
  [11] 未来見通す光に


「歴史から見る現代」――[8] 冷戦後の世界
【 やさしい経済学 09.10.15日経新聞(朝刊)】

現代世界をどのように認識するかは、歴史学の最重要課題だが、冷戦崩壊後の世界秩序をめぐっては、歴史家からではなく、政治学者とジャーナリストから対照的な見解が提示されている。

一つは、よく知られているサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」論である。彼は現代世界を「文明」で区分けしてその文明間の対立を国際政治の基調とする考え方を提示し、冷戦後の世界はイデオロギーではなく、文明の衝突が国際関係を動かすと主張した。

彼は「文明」という言葉を「歴史の中で固有の文化と価値体系を作り上げてきた集団」という意味あいで用い、冷戦後の世界では異なる価値体系をもつ巨大な文明集団が衝突すると理解している。

分かりやすい議論だが、彼が議論の枠組みとした「文明」は、現代世界の現実の事象を分析するための分析概念としては適切ではない。「文明」という言葉がもつあいまい性が、「文明集団」の恣意(しい)的な選択と極端な単純化をもたらすからである。また、グローバル化の進展が、この「文明」という枠組みが機能しない状況を生み出している。

冷戦崩壊後の世界をめぐって提示されたもう一つの興味深い見解は、アメリカのジャーナリスト、トーマス・フリードマンのものである。彼は、グローバル化が、国家の間の壁、冷戦構造の壁を吹き飛ばし、世界を「冷戦システム」から「グローバル化システム」へ移行させたと考えている。

彼によれば、冷戦時代の世界は、広大な平野がフェンスや壁や溝で仕切られ、方々に袋小路があるような状態だった。そこには、ベルリンの壁や保護関税などの障壁があり、その障壁の内側で、人々は独自の生活形態、政治形態、経済状態を維持していた。その障壁のおかげで性質の大きく異なる経済体制、政治システムを共存させることができた。

しかし、冷戦の崩壊によって、これらの壁は崩壊し、世界は一つの平原に変わった。そして、この平原は、今、さらに多くの壁が吹が吹き倒され、より広くより開かれた空間に変貌(へんぼう)しつつあるという。

この見取り図は明解で、グローバル化の本質をわかりやすく説明してくれる。しかし、実際に現実の世界から壁が消えてしまたわけではない。国家という政治的な壁は厳然としてそびえ、国家の間には多くの制度的障壁が存在し、ナショナリズムは強い生命力を保持しながら新しい壁を作ろうとしている。

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