電脳筆写『 心超臨界 』

知識の泉の水を飲む者もいれば、ただうがいする者もいる
( ロバート・アンソニー )

佐伯祐三は、しっくい壁の材料である白亜を絵の具に混ぜていた――吉村絵美留さん

2007-11-14 | 05-真相・背景・経緯
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「発見された技 十選」
 ▽1 ルノワール「足を拭う水浴の女」
 ▽2 コロー「道」
 ▽3 ロートレック「ムーラン・ルージュにて」
 ▽4 ユトリロ「ラパン・アジル」
 ▽5 クールベ「波」
 ▽6 ローランサン「ヴァランティーヌ・テシエの肖像」
 ▽7 佐伯祐三「ガス灯と広告」
 ▽8 藤田嗣治「五人の裸婦」
 ▽9 東郷青児「婦人象」
 ▽10 岡本太郎「赤のイコン」


【「発見された技 十選」07.11.13日経新聞(朝刊)】
▽7 佐伯祐三「ガス灯と広告」――絵画修復家・吉村絵美留
イメージ → http://search.artmuseums.go.jp/gazou.php?id=5056&edaban=3

滞仏中に三十歳の若さで客死した佐伯祐三は、激しい筆触を特徴とするフォービズムの巨匠、ヴラマンクに自分の作品を「アカデミックだ」とののしられて作風の転換を迫られる経験をしたかと思えば、ある時にはユトリロが描いたパリの風景の詩情に心を大きく揺らされたという。晩年の「ガス灯と広告」のように激しさと美しさを同居させた独自の画風を開拓したゆえんだろう。パリを描いたこの時期の作品を間近にみて特に感じるのは、丁寧に書き込んでいるように見えて実は筆の運びがとても早く、画面がただならぬ切迫感に支配されていることだ。

佐伯の作品を修復したときに、その切迫感を支える技術があることが分かった。しっくい壁の材料である白亜を絵の具に混ぜていたのだ。

壁を描くのに本物の壁の材料を使う点は、絵の具に炭酸カルシウムを混ぜたユトリロのアイデアにも通じる。だが、佐伯にとって白亜が重要だったのは、絵の具の乾燥を促す性質を持っていることにもあったのではないか。時間を空けずに重ね塗りができ、一気に描き上げるのにふさわしい材料だった。しかし私には、そんな佐伯が人生の歩みをも急ぎすぎたように思えてならない。

(1927年、油彩・カンバス、65.5×100センチ、東京国立近代美術館蔵)

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