電脳筆写『 心超臨界 』

人生の逆境は、人の個性から最善を
引き出すために欠かせないものである
( アレクシス・カレル )

指導的な地位に立つ人材を養成するためにも、教養教育は極めて重要である――高山博さん

2009-10-21 | 04-歴史・文化・社会
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「歴史から見る現代」
東京大学教授・高山博

  [1] なぜ歴史を学ぶのか
  [2] グローバル化が分水嶺
  [3] 過去とは未知の世界
  [4] 偏り除き事実に迫る
  [5] 資料から過去を復元
  [6] 欧州近代歴史観の限界
  [7] 揺らぐ国民国家
  [8] 冷戦後の世界
  [9] 単線史から全体史へ
  [10] 持続する知の重要性
  [11] 未来見通す光に


「歴史から見る現代」――[10] 持続する知の重要性
【 やさしい経済学 09.10.20日経新聞(朝刊)】

多くの人たちは、歴史学を含む人文学などを役に立たない趣味の学問だと考えているようだが、人間や人間集団、社会を研究対象とする学問であり、人間が生きていく上で非常に有用な知や洞察力を与えてくれる。それらは、短期間に改良されていく技術や短期間しか使えない知と違い、長期にわたって有効性が持続する知である。虚学どころか、私たち一人ひとりが人生を生きる上で重要な、きわめて実践的な学問だということができる。歴史学などが、大学の教育の核として存在してきたのは当然だろう。

近年日本では、大学での教養教育が縮小される傾向にあるが、時代遅れになることのない教養教育の重要性はいくら強調しても強調しすぎることはない。技術や知は専門的であればあるほど、早く新しいものと置き換えられる傾向にあるが、教養は専門知ほどに早くすたれることはないからだ。指導的な地位に立つ人材を養成するためにも、教養教育は極めて重要である。日本や国際社会で政治・経済・文化をリードをしていくリーダーたるべき人材を養成するために、教養教育を重視するというのは大学がとりうる重要な選択肢のはずである。

ハーバード大やエール大、オックスフォード大、ケンブリッジ大など、欧米の主要な大学では、人文学は重要な位置を占め続けている。また、ドイツやフランスのように、国家が強力にサポートしているところもある。これは、欧米の大学の国の意思決定者が、人文学の重要性を強く意識しているからである。

例えば、哲学であれば、様々な人間の思想や考え方を知るだけではなく、人間の考え方の基本的なフレームワークを提供してくれる。歴史であれば、歴史上の人物に共感したり、過去の社会のありように驚いたりするだけではなく、歴史の流れを身につけることによって、現在の自分と自分の生きる社会の位置づけを容易にしてくれる。

私がエール大大学院に在籍していた時出会った学部の学生たちは、歴史や哲学の面白さを在学中から実感していた。授業では、断片的な知識ではなく、歴史や哲学の大きな枠組みが体系的に教えられていた。そして、そこで得た知見は、歴史や哲学という学問に限らず、人間の営み全体に普遍的に役に立つものであるという認識を、教える側も学生ももっていた。政治の世界でもビジネスの世界でも、欧米のリーダーたちは、そのような教養の基盤を共有しているのである。

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