鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその836~原色少年植物図鑑

2013-12-11 12:22:05 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、「原色少年植物図鑑」です。

この数年、古い図鑑が好きになり、気になる図鑑を見つけては鑑賞してきました。
はじめは古い図鑑に描かれた博物図版の美しさに魅せられて好きになったのですが、ある図鑑では解説文の美しさにも魅せられました。
その図鑑とは横山光夫著「原色日本蝶類図鑑」(1954年版)。
詩情溢れる解説文は読む者を美しい蝶が飛び交う花園に誘います。(詳しくは以前ここで書いたので省略します)

ただその図鑑のように魅力的な解説文はそうそうあるものではありません。
図鑑って科学的に正確な解説文が求められるのですから当然ですが・・・。

そこで目を付けたのは少年向け図鑑。
少年の頃に好きになり、そのまま学者になったという研究者は、次世代の子どもたちにもその面白さやロマンを伝えたいと思うはず。
そう考えて読んだのが江崎悌三・河田党共著「原色少年昆虫図鑑」(1953年版)です。
その解説文は、次代を担う子どもたちのために平易で温かい文章に徹していました。
ただ「原色日本蝶類図鑑」のように夢とロマンを感じさせるのではなく、生活の中で子どもたちに害をもたらす昆虫とか栄養価の高い昆虫など、戦後を引きずる当時の時代を反映した現実的な解説文が目立っていました。
さらに昆虫図版を描いた画家たちの技量に大きな個人差があったことはとても残念でした。

さて前置きはこれくらいにして、今回ご紹介する「原色少年植物図鑑」のお話に移ります。
本書は「原色少年昆虫図鑑」と同じシリーズの植物図鑑です。
出版されたのも同じ1953年。
著者は、植物図鑑と言えばこの人!といえる牧野富太郎です。
牧野は当時91歳。
名前だけ貸して誰か若い者に書かせたのだろうと勘ぐっていましたが、表紙をめくって驚きました。
牧野の近影が掲載され、そこには自宅書斎で本書の原図に着色しているところ、と但し書きがあります。
解説文から植物図版の着色に至るまですべて自分が行ったと訴えているようです。
さらに「序」と「本書について」にも近影同様、牧野の意志を感じましたのでご紹介します。

=====

「序」(全文引用)
91歳になって、孫やひ孫を見ると、これら少年少女にごく手近なわかりやすい植物図鑑をあたえて、少年のうちから植物に親しみを持たせたいものだと思います。
学生には学生版植物図鑑、植物をくわしく調べたい人には牧野日本植物図鑑がある。
少年少女には、着色をして図を見ただけでもわかるようにしたのがこの図鑑である。
これで3段階の植物図鑑がそろったわけである。

「本書について」(一部引用)
ふだん見かける普通植物320種をえらびました。
本文は少年少女にわかりやすいようにやさしくおもしろく解説しました。
その植物の花の咲く季節、場所、由来、植物と人間との関係、和名の意味と学名の解説を付しました。

=====

子どもたちに植物に親しみを持って欲しいという願いから、牧野自身の手で、解説文や図版が仕上げられたことがうかがえます。

本文のページは、1ページの3分の2を原色図版にし、残りのスペースにわずか10~12行の解説文を入れています。
その植物についての膨大なデータの中から、子どもたちに興味をもってもらえそうな部分をピックアップするのは大変な作業だったと思います。
それでもそんな限られたスペースに和名や学名の解説、特にラテン語の学名の属名と種名の意味をそれぞれ解説する念の入れようは、さすが牧野博士です。

本書の解説文は、牧野図鑑の中でおそらく一番やわらかい文章だと思います。
私が求めている「詩情溢れる解説文」ではありませんが、91歳の牧野が、次代を担う子どもたちのために「やさしくおもしろい解説」にしようと考えながら書き、自身が描いた図版に丹精込めて着色したことを考えると、この小さくて薄い図鑑が宝物のように感じられます。
特に94歳の生涯の最後の2年は病気のため満足に仕事ができなかったことを考えると、この図鑑が牧野の手がけた最後の図鑑だったのではないかと考えます。
自身を「植物の精」と呼び、生涯を植物研究にささげた牧野が、序文で「原色少年植物図鑑」「学生版植物図鑑」「牧野日本植物図鑑」の3冊で全世代向けの図鑑が完成したと述べているのですから、この3冊が牧野の集大成の3部作といえると思います。
本書は牧野の略歴等に滅多に出てこないマイナーな図鑑ですが、それでも彼の願いを感じる1冊です。

最後に本書の解説文の中から、子どもたちに親しみを持ってもらうために少ない文字数の中にあえて入れたと思われる文章をいくつかご紹介します。

「すずらん」
日本では5月頃に北海道のすずらんを東京に飛行機で運んできて、銀座の花売り娘がすすめたりする。

「むらさきつゆくさ」
おしべの元に紫色の毛があって、顕微鏡で見ると美しい。1列の細胞からなっていて、顕微鏡で調べるのによい材料である。

「もうそうちく」
同じ属の「まだけ」は大きい種類で、計算尺の材料にされ、尺八、ものさし、おうぎの骨などにつかわれる。

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