西園寺由利の長唄って何だ!

長唄を知識として楽しんでもらいたい。
軽いエッセイを綴ります。

鏡獅子―36

2009-05-31 | 曲目 (c)yuri saionji
英執着獅子―4


次も同じく「夫妻獅子」からの引用。
(括弧内は、原文)

『短夜の(に)
 夢はあやなし その移り香の(を)
 憎て手折か 主なき花を
 何のさらさら さらさらに
 さらに恋は曲者
 
 露東雲の 草葉に靡く青柳の
 いとしおらしく
 二つの獅子の身を撫でて
 頭をうなだれ 耳を伏せ
 花に宿かる 浮き世の嵐
 あなたへさそい こなたへよりつ
 園の胡蝶に戯れ遊ぶ
 己が友よぶ 獅子の駒』 

そしてオリジナルの歌詞を加えた。

『花に移ろう
 恋の胡蝶の舞の袖

 恋すちょう
 比翼連理の可愛いらし』

(意訳)
「夏の夜は空しく明け、
 あの人は帰る
 まさか私を捨てたりはしないわよね
 ああ、いやだ
 何て恋は不思議なの

 夜露を含んだ草葉になびく、青柳の可憐なこと
 花の下で、二人はじっと身を寄せ合い、
 恋の辛さに耐えている
 ひらひらと飛ぶ胡蝶と戯れ、
 互いを呼び合う つがいの獅子」

「花から花へ、蝶が舞う
 恋という、比翼の鳥、連理の枝の愛らしさ」


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鏡獅子―35

2009-05-30 | 曲目 (c)yuri saionji
英執着獅子―3


次も「夫妻獅子」と同じ。


『心尽くしのな
 この年月をえ
 いつか思いの晴るるやと 
 心一つにあきらめん
 よしや世の中』

「夫妻獅子」の『心一つにあきらめて』
を『あきらめん』と置き換えた。
『ん』とすることで、意志の強さが際立つか。

(意訳)
「どうしていいのか分からない
 悩みに悩んだ、この年月よ
 いつかは心の晴れる日が来るさ
 たかが恋 されど恋」


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鏡獅子―34

2009-05-29 | 曲目 (c)yuri saionji
英執着獅子―2

「英執着獅子」とはもちろん、
菊之丞の「英獅子乱曲」(枕獅子)を意識してつけた題名だろう。
”執着”には、恋の執着に迷う遊女の意味もあるが、
その裏には、菊之丞の「石橋」に対する執着心、
というものも隠されているのではないかと思う。

始めは、「夫妻獅子」をほぼそっくり拝借。

『花飛び 蝶驚けども人知らず
 我も迷うや 様々に
 四季折々の戯れは
 蝶よ胡蝶よ せめて暫しは手に止まれ
 見返れば 花の木陰に
 見えつ隠れつ羽を休め
 姿優しき夏木立』

『夫妻獅子』では「四季折々の戯れに』
となってる。
『に』を『は』に変えたのは「相生獅子」に倣った。

(意訳)
「花が散り、蝶が目覚めても
 人は気づかず、時は行く
 私の心は千々に乱れ、
 時は空しく過ぎてゆく
 蝶よ胡蝶よ、せめてしばらくは手に止まっていておくれ
 花の陰に見えつ隠れつ、羽を休める蝶
 何とも趣きのある景色だことよ」


ちなみに「相生獅子」だとこうなる。

『花飛び 蝶驚けども人知らず
 我も迷うや 様々に
 四季折々の戯れは
 その物事に 哀れなり

 蝶や胡蝶の せめて暫しは手に止まれ
 見返れば 花に紛れて
 見えつ隠れつ色々の
 姿優しき夏木立』


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鏡獅子―33

2009-05-28 | 曲目 (c)yuri saionji
英執着獅子―1


この後、菊之丞は「百千鳥娘道成寺」を出し、
作十郎と、兵四郎が活躍。
しかし、この後「歌舞伎はあって無きが如し」の丸本物(人形浄瑠璃)ブームに突入。
菊之丞はストレスが高じて寝込んでしまった。
そして、一進一退の後、57才の生涯を閉じる(1749年)。
 
その年、富十郎は皮肉にも、”極上上大吉”の位に上った。
父あやめ、菊之丞ですら”極上上吉”にしか上れなかったのに、
31才の若さでそれを凌いだ。

富十郎が京で「京鹿子娘道成寺」を踊ったのは
その年(1752年)のことである。
「京鹿子娘道成寺」のロングランで自信をつけた富十郎は
 翌年(1753)江戸に下り、「京鹿子…」を再演。

そして翌年、中村座の弥生狂言に「英執着獅子」を出す。


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鏡獅子―32

2009-05-27 | 曲目 (c)yuri saionji
枕獅子―11

そして終盤は、本行の歌詞、”シシトラ”で決める。
「石橋」→「相生獅子」→「夫妻獅子」→「枕獅子」
と、菊之丞は必ず、”狂い”→”シシトラ”→”段切れ”
という順で曲を〆てきた。

さすがに4曲もその手順を踏まれると、
後に続く者もそれを踏襲しないではいられなくなる。
かくして”獅子物”に”狂い”、”シシトラ”は不可欠の段落となる。


『獅子団乱旋の 舞楽のみきん
 牡丹の花房 におい満ち満ち
 大巾裏巾の 獅子頭
 打てや囃せや 牡丹芳 牡丹芳
 黄金の蕊 顕われて
 花に戯れ 枝に臥し転び
 実にも上なき 獅子王の勢い
 靡かぬ草木も なき時なれや
 万歳千秋と舞い納め
 万歳千秋と舞い納め
 獅子の座にこそ 直りけれ』

(意訳は4月23日に記載あり)

この曲は杵屋喜三郎(7代目)の作曲とされているが、
喜三郎は中村座の囃子頭なので、
市村座に出座している菊之丞のために作曲するとは考えられない。
恐らくは、坂田兵四郎と、上村作十郎が
市村座のタテ三味線、杵屋新右衛門と三者協議をしながら作ったのだろう。

この後、作十郎は喜三郎門下となり、杵屋作十郎と改正するので、
あるいは、長唄界の元締め的存在の喜三郎に、
敬意を払って、喜三郎作曲としたのかもしれない。


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