音楽の誇り

 
 帰国当日のヘルシンキでのこと。
 ヘルシンキには宿泊しただけで、ほとんど観光しなかった私たち。夕方の便に乗るので、昼間にちょっと時間があった。

 二週間前はまだ寒く、冬のような格好をしていたヘルシンキの人々は、今ではもう夏の格好。この日は快晴だったので、人々はみな肌をさらし、サングラスをかけて街を闊歩している。北欧では夏至から一ヶ月のあいだが短い夏で、この間、人々は太陽を貪婪に謳歌するのだという。
 ヘルシンキにはハトの代わりにカモメが飛んでいる。カモメは都会の空を軽やかに滑空し、外灯やらモニュメントやらブロンズ像やらのてっぺんに、一羽、孤高にちょこりと止まって、澄ました様子で辺りを見下ろす。パン屑でも落ちていれば、ハトやらカモやらスズメやらと一緒になって、それを突っつく。

 いつもオリンピックスタジアムに泊まったので、途中のヘスペリア公園には何度も足を運んだ。ヘルシンキには街じゅうになだらかな巨岩がある。この公園にも随所にぼこぼこと大岩が突き出ている。
 芝生の上では人々が水着を着て寝転がり、日光浴をしている。湾岸にはカモたちの一群が日光浴。
 ヘルシンキの水鳥たちは、あまり人間を怖がらない。すぐそばまで近づいても、警戒はするが、なかなか逃げようとしない。

 どこへ向かうのか、ガンの一群が芝草を突っつきながら、あちらからこちらへと練り歩いている。オムツをした赤ちゃんのように、ふっくらしたお尻をフリフリ振りながら、水掻きのついた蟹股の短い足で、のこのこと間抜けに歩く。
 どこへ行くんだい? 私ものこのことくっついて歩くのを、相棒は文句も言わずに待っている。

 湾のそばの木陰には、さっきと同じガンの、子連れの家族たちが、家族ごとに固まって座っている。ちゃんと一夫一婦になって、群れから外れて、ふわふわ、ほわほわのヒナのそばにいる。
 私が近づくと、俄かに警戒して、顔を横に向ける(つまり私を見張る)。隙があったらヒナを触ろうと思ったけれど、無理らしい。
「自分がされて嫌なことを、他人にしてはいけないよ」と相棒に注意され、私は大人の思慮で引き下がる。

 To be continued...

 画像は、ヘルシンキ、ヘスペリア公園。

     Next
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« ラトビアの夏... 音楽の誇り(続) »