世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
モスクワ情趣
移動派の画家で、ロシアのブィリーナ(お伽話)を主題に描いた有名な画家に、ヴィクトル・ヴァスネツォフがいるが、彼の弟アポリナリイも画家だった。
アポリナリイ・ヴァスネツォフ(Apollinary Vasnetsov)。兄貴の影に隠れて、画像や解説があまりヒットしてくれない。
ヴァスネツォフの家は祖父・父とも絵の素養があり、兄ヴィクトルは苦学して美術アカデミーにまで進んだ。
当人にとって幸となるか不幸となるかは一概には分からないが、家族に画家なんぞがいると、そうでない場合よりも絵に関心(プラスの関心にせよマイナスの関心にせよ)を持つようになる。それほど素質があるわけじゃなくても、絵を描く機会が増える。……かも知れない。
で、アポリナリイの場合もそうなった、多分。
兄よりも8歳下。正規の美術教育は受けず、兄から絵を習ったという。確かに技量や造詣という点で、素人臭いところがある。画材のせいもあってイラスト的だし、見る人が見ればパースに難癖をつけることもできるんじゃないか。
でもまあ、知的活動というものは、きちんとした手順を踏んで一歩一歩を地道に重ねていけば、着実な進歩を得ることができる。それが創造的な活動である場合には、何の主題を選ぶか、どう表現するか、等々のその人ならではセンスと相俟って、その人ならではのスタイルが自然と生まれてくる。
で、アポリナリイの場合もそうなった、多分。
彼が描いたのは、古いモスクワの街の情景。
玉葱頭の宮殿やら大聖堂やらがカラフルに林立する城塞の古都。時代考証的な研究も踏まえて描かれたというその市景には、カフタンやらルバシカやらを着た安野光雅チックな小さな人物たちが右往左往していて、往時のモスクワを叙事的に、生き生きと再現している。
彼の関心は主にクレムリンにあり、他の建築群は実際とは違ったふうに描かれていることも多いらしいのだが、モデル(=モスクワ)に愛着を持つ者の観察と感覚が、それを不自然に感じさせない。
こんなふうに古い時代の風景を再現させるのって、ありなんだな。
画像は、アポリナリイ・ヴァスネツォフ「モスクワ」。
アポリナリイ・ヴァスネツォフ(Apollinary Vasnetsov, 1856-1933, Russia)
他、左から、
「17世紀末モスクワの石橋」
「キタイ・ゴロドの街路」
「クレムリン」
「ロシアの古塔」
「湖畔」
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