高等遊民の日常

 

 ヴァージニア・ウルフは、20世紀モダニズム文学における重要な作家の一人とされる。が、私は苦手。登場人物の瑣末で感覚的な思考が流れては砕け、その破片が再び寄せ集まる、その一連についていけない。
 で、ヴァージニアにはヴァネッサという姉がいて、彼女は画家だった。結婚後の姓で、ヴァネッサ・ベル(Vanessa Bell)として知られる。

 ヴァネッサとヴァージニア姉妹の母は、ラファエル前派のモデルも務めたほどの美人。なので姉妹も母に似て、ラファエル前派的な美人。こんな彼女らが、盛期ビクトリア朝時代の芸術を継承する。しかも反撥的に。

 ロンドンのハイドパークゲートの家に生まれ、両親のもとに家庭教育を受けたが、それとは別に、ヴァネッサは画家からデッサンのレッスンも受けており、のちにロイヤル・アカデミーでも絵を学ぶ。
 が、その間、母、さらに父が相次いで亡くなったのを機に、ヴァネッサはハイドパークゲートの家を処分し、ヴァージニアや弟トビー、エイドリアンらとともにブルームズベリーに移り住む。両親はともに再婚で、異父兄らから性的虐待を受けていたヴァネッサとヴァージニアが、弟らを連れてとっとと出て行った形。
 このブルームズベリーの家に、トビーのケンブリッジ大学友たちが集まり、ブルームズベリー・グループ(Bloomsbury Group)として知られる知識人・文化人のサークルとなった。
 このサークルの内輪で、ヴァネッサは美術評論家クライヴ・ベルと、ヴァージニアは作家レナード・ウルフと結婚している。

 ヴァネッサ夫妻はいわゆる開放結婚(open marriage)で、それぞれが別の恋人たちと関係を持つことを生涯認め合った。で、ヴァネッサはサークル内の画家ダンカン・グラントやロジャー・フライらを恋人としている。グラントとの間には娘アンジェリカが生まれ、夫クライヴが自分の娘として養育している。
 ちなみに、グラントは両刀使いの同性愛者で、経済学者ケインズの一番の愛人。グラントは作家デヴィッド・ガーネットとも関係を持ち、このガーネットはのちに、アンジェリカと結婚している。……うう、ブルームズベリー、開放的すぎてついていけん。

 ヴィクトリア朝時代には同性愛は犯罪だったのだから、ブルームズベリーのヴィクトリア朝芸術の継承というのは、物凄い内容だ。

 さて、その後ヴァネッサの絵は、イギリスにポスト印象派をもたらした、切り裂きジャック疑惑の画家シッカートに評価される。当初は地味だった自然主義的画風は、やがて、押しつけがましいディテールとセンチメントとを一切削ぎ取った、ポスト印象派的な表現へと突進。さらに暴走して、イギリス初の非具象的なアバンギャルドの前線に躍り出たかと思いきや……、第一次大戦後には、具象へと舞い戻った。

 ヴァネッサの絵は、私には取りとめづらい。形象も色彩も、控えめで無理がなく、こだわらず、あっさりしている。彼女は室内装飾も手がけていたのだが、その絵のテーマもモチーフも、装飾されるべき室内そのまま。画面は淡白でありながら工芸的でもある。
 その雰囲気は日常的なのだが、その日常は、世界に視野を開いた開放系の日常、知と美を奨励する知識人の日常、旧弊なモラルからの逸脱に寛容な自由人の日常、暴力を忌避し愛を尊ぶ平和主義の日常といった、高等遊民的な日常の姿に見える。

 画像は、ベル「お喋り」。
  ヴァネッサ・ベル(Vanessa Bell, 1879-1961, British)
 他、左から、
  「アイスランド・ポピー」
  「スタッドランド・ビーチ」
  「ヴァージニア・ウルフの肖像」 
  「オルダス・ハクスリーの肖像」
  「菊」

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