猫婦人の猫絵

 

 猫の絵で有名な画家の一人に、オランダの女流画家アンリエット・ロナー=ニップ(Henriëtte Ronner-Knip)がいる。犬の絵も描いているが、インパクト大なのは断然、猫のほう。
 ……いや、それほど有名じゃないかも知れない。絵そのものが愛玩的なので、猫好きな人たちの猫グッズとして、複製画やポスターが出回っているだけかも知れない。けれども、当時も現在も、将来も、猫好きな人たちがいる限り、ロナー=ニップの絵は継承されていくんだろう、多分。

 アムステルダムの生まれで、父親は画家。なぜそうだったか、その理由を私は知らないのだが、ロナー=ニップは生涯、ベートーベンのように引越しばかりしている。結婚前には父親に率いられて一家で、また結婚後も、夫と子供たち、そしておそらくモデルである犬たち猫たちともども、転々と移っている。
 片眼の視力がなかったという父だが、子供たちが幼少の頃から、手ずから絵を教えたという。画家の形質と環境。ロナー=ニップも画家になったし、彼女の子供たちの多くもまた画家になった。

 風景画を描いていた父親の影響からか、ロナー=ニップも初期には村市場や農場の情景を、動物を登場させながら描いていた。まあ、ロマンチックな田園叙情がよかったのだろう、早くからサロンで成功を収める。30歳になる頃、実業家の夫と結婚し、ベルギーに転居。

 猫の絵を描き始めたのは、早熟の画家にしては遅くからで、50歳になる頃だったという。ほわほわの毛をした丸く柔らかい子猫たちが、上流家庭の室内で、やんちゃに、愛らしく戯れる、逸話的なシーン。贅沢なドレープを取った布を背景に、アンティークな調度類をおもちゃにして、傍若無人にお祭り騒ぎで駆けまわり、疲れたら猫ダンゴになって眠る子猫たち。
 ……こりゃちょっと、猫を甘やかしすぎなんじゃないの、と思ったら、実際には、猫は確かに画家の家で自由奔放に過ごすことができたようだが、それは画家が望む猫ポーズを得るための環境づくり。画家は猫の習作を描いたのちに、お洒落な調度・布などのロケーションにそれら猫を置いてアレンジし、絵を完成させた。

 被写体子猫の表現は飾らず、誇張もない一方、画面は豪華な小道具で演出されている。それが、職人的に年季の入った闊達な筆捌きで、自在に描かれる。
 このパターンの猫画がウケにウケて、ベルギー・サロンで永続的な名声を手にしたロナー=ニップは、晩年には、大きな裏庭付きの邸宅を猫たちのために用意し、88歳で死ぬまで、猫画を描き続けた、らしい。

 画像は、ロナー=ニップ「お茶の時間」。
  アンリエット・ロナー=ニップ(Henriëtte Ronner-Knip, 1821-1909, Dutch)
 他、左から、
  「猫」
  「陽気な一団」
  「遊ぶ子猫たち」 
  「猫の習作」
  「遊ぶ子猫たち」

     Bear's Paw -絵画うんぬん-
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