消えゆく花のように

 

 フィンランド現代絵画のなかに、ヘレネ・シェルフベック(Helene Schjerfbeck)という女流画家がいる。北欧では高く評価されているが、北欧以外の国ではあまり知られていないらしい。日本では名前を聞くことも難しい。

 シェルフベックは幼い頃に大病を患ったせいで、生涯ひ弱で、片足も不自由だった。虚弱な子供は退屈する。退屈を紛らわすため絵を描く。
 そうやって、画才を発揮するようになった彼女は、家が裕福ではなかったために、授業料免除で絵を学び、さらに奨学金を得てパリへ。人々の素朴な生活の情景を、輝くような色彩と素直な写実で描いた、生気がみなぎりあふれるような絵は、飛躍への夢に満ちていた若い彼女そのままに眩しい。

 若くしてパリやイギリスで活躍して、やがて帰国すると母校で教鞭を取る。けれども幼少時の病気が悪化し、やむなく教職を退くことに。
 シェルフベックが田舎に隠遁したのは、私と同い年くらいのこと。まだ十分若い。

 田舎に引っ込んで、残り多い長寿の人生を孤独に描き続けたその画風は、劇的に変化していく。この時期、彼女はモダニズムの画家と呼ばれるようになる。
 彼女は自画像を多く描いた。あんなにも輝いていた色彩はトーンを落とし、血の気のない仄白い背景に、黒に似た濃い質素な服を着た画家自身が、何の飾り気もなしに描かれている。人物は往時のように繊細ではなく、その繊細さが凝縮されたような単調さで簡略化されている。
 老い衰えた幽霊のようなその肖像は、荒涼としていて殺風景。消え入りそうに弱々しく、ますます色褪せながらも咲き続ける、哀しい、静かな花のよう。

 自分の周りをじっくりと見回してみる。そして、そのなかで最も価値のあるものは自分だと気づく。そうして自分自身に語りかけるようになる。自分の内奥へと入り込んでいく。
 ……シェルフベックの絵には、そんな感じの冷めたナルシシズムがある。

 画像は、シェルフベック「自画像」。
  ヘレネ・シェルフベック(Helene Schjerfbeck, 1862-1946, Finnish)
 他、左から、
  「少女像」
  「母と子」
  「本を読む少女」
  「青いリボンの少女」
  「自画像」

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