ギリシャ神話あれこれ:木馬の詭計(続々)

 
 トロイア勢はイリオスの城門から出てきて様子を窺うが、はるか海の彼方までギリシア船団の気配はない。斥候を放った後、どうやら大丈夫そうだと見て取ったトロイア勢は、ぞろぞろと木馬に群がる。

 そのうちに斥候が、惨めっぽいギリシア人を一人、取っ捕まえてきた。これはシノンという男で、木馬をイリオスの城壁内に運び込ませるべく、志願して一人トロイアの浜辺に残った間諜だった。
 トロイア勢はシノンにギリシア軍の行方を詰問し、やがて暴行まで加え出す。耳や鼻を引きちぎられ、血みどろになりながらも、甘んじて耐え忍ぶシノン。やがて一言、ぼそりと呟く。
 ギリシアもトロイアも俺を殺そうとする。憐れな俺。
 
 何、何、どういう意味だ? まんまとシノンに乗せられて口々に尋ねるトロイア勢に、シノンはいかにも尤もらしく繕って、オデュッセウスの指示どおりの内容を、ぼそぼそと答える。
 ギリシア軍は長らく戦争に倦んでいたが、このたび補給が続かず、諸将たちが不和から分裂したために、撤退を決め、帰国の途に着いた。自分は不運にも、帰途の航海の無事を祈って海神の生贄とされ、血祭りになるところを、神の計らいで逃げ出し、皆が帰り去ってしまうまでここに隠れていた。木馬は、予言者カルカスの神託を受け、パラディオンを奪ったことによるアテナ神の怒りを鎮めるために捧げたものだ。と。

 シノンはこう言葉巧みに欺き通す。人は自分の信じたいものを信じるのだというが、同じく戦争に倦んでいたトロイア勢もまた、このシノンの言い分に呆っ気なく騙される。
 なるほど、辻褄が合ってるじゃないか。万歳! じゃあ、ギリシア軍はすっかり逃げ帰ってしまったのだ!
 シノンは一転、トロイア勢から、同情と信頼を勝ち取ってしまう。

 To be continued...

 画像は、コリント「トロイの木馬」。
  ロヴィス・コリント(Lovis Corinth, 1858-1925, German)

     Previous / Next

     Bear's Paw -ギリシャ神話あれこれ-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« ギリシャ神話... ギリシャ神話... »