ボーデン湖畔にて(続々々)

 
 湖岸は緑の並木のプロムナードになっていて、そこから湖側へと外れれば、石塊だらけの岸辺に出る。
 ボーデン湖は北西が二股に分かれた形をしていて、ユーバーリンゲンの岸からは対岸の町がはっきりと見える。さらに遠く、もう一股分の湖を隔てた対岸には、晴れた日にはスイス・アルプスを見晴るかすことができるというが、この日の鈍色の空の下では望むべくもない。

 空の色を映した鈍色の湖面にゆらゆらと揺れる波が、タプタプと音を立てて岸辺を打つ。波の湖面には、無為に浮かんで揺られ続ける水鳥たち。岸辺のタプタプと、水鳥たちが波間に漂い、上へ下へ揺れる小刻みなゆらゆらとが、同一のリズムで繰り返す。日常から隔たった、眼に心地好く、耳にも心地好い永遠のリズムで。
 その岸辺にベタリと座って、ただ何となく湖を眺める。すると、達観したように揺られていた水鳥たちが、一転、せっせと岸辺へと泳ぎ寄ってくる。……動物って、現金だよね。

 でもねえ、今日はもう、余ったパン持ってないんだよ。自分たちの夕食用に残しておいたパンを少し、セコく小さく千切って投げてやる。
 水鳥たちはなおしばらく、未練がましく岸辺をウロウロ浮かんでいたが、いくら待ってもそれ以上貰えないと悟ると、さっさと泳ぎ去ってしまった。……動物って現金だよね。

 しばらくして、地元の人らしいおばさんが一人、紙袋を片手に、すたすたと岸辺にやって来た。紙袋に手を突っ込んで、大きく千切ったパンの欠片をむんずと掴むと、湖にバッと投げ入れる。
 水鳥たちがあっちからもこっちからも、パンを目がけて飛んで来る。おばさん、水鳥には大きすぎるパンの欠片をバッ、バッと2、3回投げると、紙袋の底を湖に向けてバーッとはたき、大わらわにパンをついばむ水鳥たちを後に残して、すたすたと帰っていった。
 ……ドイツ人て、豪放だよね。

 To be continued...

 画像は、ユーバーリンゲン、ボーデン湖畔の遊歩道。

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