木曽馬の里(続々々)

 
 爺さんが慌てて孫を抱えて牧柵から出ていくところを、相棒の奴、怒る、怒る。
「あんた、自分のことしか考えてないだろう! 他の子供らがみんな真似したらどうするんだ、責任取れるのか! あんたみたいな老人が、孫を駄目にするんだよ! 馬は前歯で噛むことがあるんだぞ! 子供が怪我して、迷惑するのは馬なんだぞ!」
「ハイ、ごめんなさいね」と、小さくなってすたこら退散する爺さんの背に、なおも相棒、
「馬に謝れ、馬に! ブヒヒッ!」

 かつて木曽谷の人々は、人間よりもむしろ馬のほうを大事にしたという。相棒も、そんなところがある。この人の言うことは、正論だが極論なのだ。

 ちなみに落合監督は、馬に噛まれた手を無理に引き抜こうとせず、馬が口を開けてくれるまで、辛抱強く馬の行く先々に、手を噛ませたままついていったという。
 ……馬に餌をやるときは、手のひらを広げて、そこに餌を乗せて、やるようにね。

 木曽馬というのは、相棒の言うとおり、ずんぐりむっくりしている。つまり頭でっかちで体躯は小さく、腹がぽってり出ていて、首や脚は太くて短い。スマートなサラブレッドに比べると、確かに見栄えが悪い。
 が、山間の農耕馬として木曽谷の人々とともに生きてきた木曽馬は、そのずんぐりむっくりなおかげで、足腰が頑強で傾斜を行き来もでき、ただの山野草という粗食にも耐えられる。また、農婦たちに子供同様、鞭を使わずに育てられてきたせいか、温和な性質なのだという。

 To be continued...
 
 画像は、開田高原、馬舎の窓から外を覗くお馬。

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