THE CHASE P68～隠れ蓑

※絵はチューリップの群れです。ヨーロッパ旅行の広告を参考にしました。
　適当にアレンジして墨の濃淡であっさり仕上げたつもりでしたが、押印まで
　完成していません。またチューリップの季節に挑戦しましょう。
　
☆番号札をかけていた審判員が正男をチラッと見て「ようやく間に
合ったんだね、もうすぐ出発だよ。」と言った。少しして番号札が
正男の背中にかけられた。
走者達が位置について出発の号砲を待っていた。
正男は身を隠せる、集団の中央の方へ移動した。
彼はレースに参加する意志ははなかった。
彼が欲したことの全ては、彼の叔父が居なくなるまで群集の中に
居させてもらうことだった。
しかし、出発の合図をする係りがピストルを空に掲げたとき、
その一団体の方に向かってくる黒いリムジンを正男は見たのだ。
ヨーイドンのピストルの鋭い音がして、正男は他の人と並んで、
走り出した、見つからないように真ん中に位置しながら。
リムジンが走者のグループを通り過ぎるとき、正男は頭を低くして
背中を丸めた。リムジンはゆっくり通り過ぎた。
正男は長い夜を過ごして疲れていたがいつ彼の叔父がもどってくる
かもしれないのでレースから抜けることには恐れをなしていた。
彼の唯一の安全はカムフラージュとして他の走者を利用することにあった。
そこで正男はもっと長く走ることにした。
彼は楽な大股のステップ走法を取った。
そうする内に彼が若く体が丈夫だったため、彼は間もなくレースのリズムにのれた。
彼は他の競技者を見回した。彼らの内幾人かは彼より年上だったが、他は彼と同世代だった。
彼はレースについて考えてみた、毎年企画されているのかとか、
目的は何かとか、終りに何があるのかとか。
これらのことは重要でないことを彼は知っていた。
重要なことは彼が走者の一人である限り、彼は安全であった。
他の走者が彼を保護していたのだ。

THE CHASE P67～マラソン

※会社で大工さんが３日かけて手作りした、世界で一つのドアです。
　出来立てを土手に立てて記念デジカメしました。カーポートの屋根材の
　ポリカボネードで節のある天然木を挟んでしあげたのです。

☆次の朝早く、正男は自分が小さな村の郊外に居ることを知った。
主要道路は一団体になった人々で混雑していた。
そこで一瞬正男が恐れたのは、彼らが彼を捕まえるために探したり待ち構えたり
しているのではないのかと思ったからであった。
しかし彼らは話したり笑ったりして彼らの間には、お祭り気分が漂っていた。
分けが分からなくて、正男は見えないようにして何をやっているのか見ることが出来る所まで、道路の橋まで移動した。
通りの中央に半ズボンと下着姿の男達が少なくても12,3人いて、一方完全に服を
着た人々のグループその場近くにいた。
正男は何が起こっているのか理解できず見つめていた。
一人の男が集団を通り過ぎながら人々の背中に厚紙の番号を付けていた。
突然正男はひらめいた。マラソンだ！
即座に正男は加わろうと思った。
彼は他の人と同じ格好をしていた、それは彼にとって完璧な変装だったが、あまりにも疲れていた。彼は心身共に疲労困憊していた。
彼は一晩中歩いてもはや力は残っていなかった。
彼は人々が居なくなるまで待とうと決心した、それから又逃げ続けようと思った。
しかし、すぐに正男に気持を変えさせることが起こった。
道路を下って、彼は彼の叔父のリムジンが近付いてくるのが見えた。
そうか、正男は逃げ切れていなかったのだ。
探索は迫ってきた、彼はすぐ見つかるかもしれない。
すばやく正男は半ズボンと下着を着た集団に入るように前に移動した。

THE CHASE P65～逃げる

※絵は有名なスペインのガウディ設計サグラダファミリアのつもり。
　昨日テレビで特集をしておりました。これは新聞の写真で描いてみた物ですが、
　映像を見ましたら、塔が１３本もあり威厳風格がででーんとありました。
　もう一度書き直そうかなと思い始めましたです。

東との戦いは彼を疲れさせたので正男はひどく休息を必要としていた。
しかし、彼は動き続けなければならないことを知っていた。
もし彼が立ち止まり捕まりでもしたらそれは死を意味するだろう。
そこで彼は長い夜中一時一歩と進み続けた。
彼が彼の叔父からどんどん遠ざかる歩み毎に危険から遠ざかったのだ。
正男を歩み続けさせる燃えるような思いは照夫に対する激怒だった。
照夫は正男の両親が正当な葬儀を受けるのを見ることに興味はなかった。
彼の唯一の関心は正式には正男に属するその大企業を乗っ取る事だった。
しかし正男は彼の両親が受けるに足る葬儀をさせてあげようと決意した。
何とかして彼らの遺骨を手にして日本に帰りたかった。
照夫も誰も彼を止めることはできなかったが・・・。
彼はどの様にすれば良いかわからなかった。
ただ、やりたかったし、やれなければ死のうと思った。
夜の空気は凍るようだったので正男は下着姿で震え始めた。
彼は衣服を得るところも暖を取るところもなかった。
彼は眠れる農家を通り過ぎながら快適で安全な、内に居る人々を羨ましく思った。
彼はどの位行き続けることができるかなと思った。前途は暗いように思えた。
もしたとえ、彼が彼の話を聞いてくれる人を見つけたとしても、それが彼の叔父に
対抗する言葉であり、彼は単なる少年で彼の叔父は偉大な立場と地位の男であった。
彼の叔父が持っている物はアメリカの言葉で言うなら勢力だろう。
ブラニガン署長は正男を信じなかった。他の誰も信じないだろう。
彼は逃れようのない悪夢にはまった気がした。

THE CHASE P63～

※写真は我が家の玄関にあるプランターのマーガレットです。
　本当はもっと、陽のあたるベランダの方が居場所にいいのでしょうが・・

しかし、どこへと。彼が行くことのできる所はどこもなかった。
彼はブラニガン副署長の所へはもどれなかった。彼は彼を連れ戻すための電話を
又、叔父にするだけで今や人一人が死んでいるのだ。彼らは彼を非難さえするかもしれない。
正男は下着姿のままで、ひどく考えながら暗闇に立っていた。
彼はお金もなければ着物もなく、命さえ危険にさらされていた。
正男は突然その家の２階にひとつの光が点いたのをみて振り向いて闇雲に
いくあてもなく道づたいに走った。
明るい満月があったので、正男はその光をたよりに道の際を進んだ。
彼はあの後ロッジで何か起こったのかなと思ってみた。
照夫はもう東の死体を発見しただろうか？
彼はもう正男を探しているのだろうか？
彼の考えに答えるかのように彼の背後にせまる車の音が聞こえた。
すばやく正男は見えないように、藪の中に身をかがめた。
少しして見覚えのあるリムジンがカーブを回って、ゆっくりと動くのが見えた。
照夫が運転していた。彼の目は主要道路の両側を探していた。
正男は藪の中で身をより低くして、その車が通り過ぎるのを待った。
彼はもはやエンジンの音が聞こえなくなってから隠れていた場所を後にして
また道路を歩き始めた。１０分後彼はリムジンの音が戻ってきたのを聞いて
すばやく身を隠した。彼には彼の叔父が狩小屋の方向に戻っていくように見えた。
おそらく彼は正男がまだその地所のどこかにいると思ったのだろう。
少年はペースを速めた。
正男がウエリントンの村に着いた時、彼はだれにも見られないように村のはずれを通った。
彼は又警察に行くような間違いをしようとはしなかった。彼は１００回もどこに行けるのかを考えた。
彼は道に迷ったより悪い状態だった。彼は行き先がなかった。

THE CHASE P61～

※写真は園芸店で買って来たペチュニヤを鉢に移した所、きれいでしょ！

彼は少しずつ右に動き、その木から離れつつあった、そして東がいよいよ彼に
迫り始めた時、正男は突然反対方向に回転し手すりを飛び越え、またその木の
大枝を掴んだのであった。
それは有効でなかった。
東は野生の男のようにすぐさま彼のところにやってきて彼を引き戻そうとした。
正男は大枝を掴んでいる手が緩んでいくのがわかった。万事休すだ！
東もまた、それに気付いた。勝利は彼にあった。
しかし、あせったのあまり、東はよりよい位置を得るために、正男の隣へと
手すりの上に飛び乗ったのだ。
その手すりは巨大な男の加重に耐え切れず、突然期せずして足元から崩壊した。
正男は木の枝にしがみついて、東の体がはるか下の地面まで突進するのを
恐怖の中で見つめていた。
東は甲高い叫びを発し、体は地面に突き当たった。彼は動かなかった。
彼の頭は、不自然な角度でねじれたままだった。
正男は木の枝に必死につかまりながら、深い息をして自分を
落ち着かせてそこにとどまっていた。手すりは彼の足元にはなかった。
彼と地面の間にはもはやなにもなかった。一歩間違えれば、彼は東と同じように
死ぬだろう。ゆっくりと、正男は枝から枝へと移動しながらその木を降り始めた。
一つ一つの動きが彼に急ぐようにと叫んだ。彼の叔父は東の叫び声を聞いたかも
しれないし、すぐにも現れるかもしれなかった。ここでは無力に的だった。
しかし正男は自分の身の安全を考えて各々の小枝を試しながら、注意深く移動して行った。
長い時間が経ったと思われるかもしれない後に、地面が彼の真下になったので、
彼は飛び降りた。彼はそこで、動けなかったので息を整えようと横たわっていた。
彼の体の全ての筋肉が痛んだ。彼は冷たい地面の上に休みながら、そこに永久に
いたいと思った、しかし逃げなければならない、しかも早く立ち去れねばならないことをしっていた。

THE CHASE P59～

※写真は今年もみごとなトマトです。近所のハウスまで買いに行きます。
　朝９時過ぎからですが、すぐ売り切れてしまいます。
　主人まで巻き込んで必死ですよもう。でも、とっても新鮮でお・い・し・い！

背の高い優雅な松ノ木の枝々がバルコニーに張り出していた。
それを正男が見た時、突然突拍子もない希望を抱いたのだった。
チャンスがあった！それはわずかで途方もないチャンス。でもそれしかなかった。
もし彼が失敗すれば彼は死ぬであろう。しかし、彼はどっちみち死ぬのだから。
正男の心臓はより早く打ち始めた。
彼は、彼らがバルコニーの反対側に行くまで待って、つまづいた振りをした。
彼が倒れたとき、東は自動的に彼を起こそうと腰を落とした。
一瞬、東がバランスをくずした。それこそ正男が彼に突き当たり、握った手を
はずす瞬間だった。正男は飛び越してバルコニーの外に出た。
彼は見下ろして地面まで少なくても15ｍあることを知った。
もし彼が落ちたら、すぐさま死ぬであろう。
しかし、彼には選択の余地はなかった。
その木は安全への唯一の道だった。
彼は松の木の大枝に手を伸ばした。
彼の指は始めすべったので、彼はきつく握って幹の方へゆすり始めた。
その瞬間、彼は何者かが彼の足を掴んだのを感じた。
東が掴んで引き戻そうとしていたのだった。
正男はもがいたが、どうにもならなかった。
東の筋肉質の腕が正男の首に巻き付き、彼を息苦しくさせた。
正男は息をするために、体をくねらせたり掴まれた手からすり抜けようと
あがいた。その運転手は怒りで顔をいっぱいにして、また彼に向かって来た。
彼は怒って言った。「ここでお前を殺してやる。」
運転手は正男の腕を掴み、引っ張り込んで彼を掴もうとした。
正男は身をかわし続けた。
彼は運転手の腕が彼の背骨を折るに充分なほど強いことを知っていた。

THE CHASE P57～

※写真は我が家のベランダのプランターに咲くイチゴの花。
イチゴの花って白くなかった？でもとてもかわいいでしょ？

正男の所にやって来たのは東であろうし、巨大な力持ちの男に対抗できる
はずがないことを、正男は知っていた。
彼は彼自身を守る何か武器のようなものを探そうとあたりを見回したが、
何もなかった。
照夫は正男を殺すために、その運転手にいくら払うのだろうかと想像した。
恐らく、一財産。しかし、そんなこと照夫にとって何の問題もないだろう。
正男の死によって、計算できないほどの富を持つことになるのだから。
足音がより、近くなった。
正男は鍵を回す音を聞いた、そしてドアが開くを見つめた。
東が入って来て、彼の巨大な体が扉までの行方を遮った。
一瞬、正男は彼を飛び越えようか考えたが、その運転手は正男よりずっと
大きく、少なくても４５kg大きかった。
東が、がなった。「こい！ボートで舟遊びしようぜ。」

それ見たか！彼（の考え）は当たった。
彼は彼の叔父が何をするか計画した事を整理できた。
彼らは底なしの湖のまん中に彼を埋めようとしたのだ。
彼の死体は決してでてこないだろう。
東は正男の方へやって来て、万力のようなにぎり方で彼の腕をつかんだ。
「行こう！」
東は人のいない広間にその少年を連れ出した。
彼らはそのロッジの最上階でもある４階に居た。
東の指は鋼のように正男の腕を圧迫し、彼を痛がらせていた。
彼は必死になって言った。「ねえ、もし僕を逃がしてくれたら、
叔父さんよりたくさん払うよ。東京に戻れば・・・」
「だまれ！」東はがなった。「私はできるよ・・・」
東はしっかりと掴み直して彼を自分の前におしやって階段を下りた。
彼らが３階にやって来た時、バルコニー越しにはるか下方に湖を
見ることができた。突然悪い予感が浮かんだ。
数分後、正男はあの湖の一部となり、彼の溺れた死体は永久に見つからない。
そんなことさせてたまるか！

THE CHASE P56～、3章

※2章で終りにしていましたら、ずっと読んで下さっている方がいらっしゃった
ことがわかりましたし、その後の方がずっと興味深いので、又復活することに
します。ごいっしょに楽しんでいただけたら幸いです。

正男はゆっくりと目覚め、目を開けた。彼は見慣れない部屋にいた。
彼の頭は重く、痛みでずきずきした。彼はどれほどの間意識を失っていたか
わからなかった。彼はパニックに陥らないように、又、ここにどのようにして
来たのか思い出そうとしてそこに静かに横たわっていた。
彼は警察官のブラニガン副署長に話しかけたことを思い出した。
すると彼の叔父と東が入ってきて彼を車に連れ込んだことも思い出した。
薬を打たれたことも。
正男が小さなベッドに起き上がると頭がくらくらし始めたので、
彼はそれが治まるまで待った。彼は注意深く立ち上がり、周りを見回して
その部屋をよく観察してみた。
窓はなく、天井の傾斜からして正男は自分があのロッジの一番上の
屋根裏部屋に居ることがわかった。
彼は重い樫の木でできたドアまで行って取っ手を回してみた。
ドアは外側から鍵がかかっていた。外に出る方法はなかった。
正男は自分が下着の上下しか着ていないのに気付いた。
彼らは彼の衣類を剥ぎ取ったのだ。
「それじゃあ、私はどこへも行けない。」と正男は思った。
それから本当の理由に思い当たり、彼は突然寒気を感じた。
彼の衣類は恐らくきれいにたたまれて、警察がそれらを
見つけるであろう湖のほとりに、偽装の遺書と共に置かれて
いるのであろう。
照夫は正男の生き延びるいっさいのチャンスを与えていなかった。
「私の甥は、彼の両親の死に直面することができず・・・」
正男の思想は廊下の外側の音で遮られた。
だれかが近付いて来た。

THE CHASE P53～

「あなたは具合が良くないのですよ。正雄。私はあなたのことを非常に心配しました。実際、大変心配しました。あなたの叔母さんと私がもっと早くから話すべきだった。あなたが何かばかげたことをするのではと私達は心配していたのです。」突然、言葉がはるかかなたから聞こえてくるように思え、叔父の顔が正雄の目の前で揺れ始めた。彼の頭が重く感じられた。彼らは彼をだましたのだった。薬をもられたのだ。彼らは彼に逃げるチャンスを与えまいとしたのだった。彼が気を失っている内に彼を殺そうとしているのだった。「おまえはー・・・」しかし、彼の舌は重くて言葉を発することができなかった。正雄の目は閉じた。それから無になった。

THE CHASE P51～

あの大きな運転手が向ってきて正雄の腕を取った。「行きましょう。」と東が命令した。正雄が最後の嘆願をした。彼は頼んだ。「副署長、彼らに私をつれて行かせないで。私を東京にもどして。」と。「私達があなたを日本につれていきましょう。」と照夫がなだめるように言った。「あなたが適切な世話を受けられる所に。」彼は副署長に向って言った。「ご助力ありがとうございました。」「何の何の、私はその少年が正常になることを望んでいます。」照夫は言った。「私が彼を介護いたします。」と。マットブラニガンは二人の男が正雄を事務所から連れ出すのを見ていた。彼はその少年を哀れと思った。良い顔付をした子供だった。彼を彼の叔父が殺そうとしていると言う狂った考え以外には、あまりにも正常に思えた。尊敬すべき企業人である佐藤氏を見るだけで、あなたはそう告発できただろうか。その子供はおそらく薬を飲んでいたのだろう。たぶんＬＳＤかヘロインを。彼はその少年の叔父をねたんではいなかったのだろう。外に出ると、照夫と東は正雄をリムジンに乗せた。東のごつい手が正雄の腕を締め付けて彼を痛めつけていた。逃げるチャンスは無かった。「私にこんな迷惑をかけて、少しは恥を知りなさい。」照夫は怒った。正雄は東と叔父に間の車の前席に押し込められた。正雄の心は荒れ狂っていた。彼は彼らに自分を殺させるつもりはなかった。車が狩小屋に停まった瞬間、ひと息つくだろう。彼は彼らから逃げ出せるだろう。彼らは捕まえられないだろう。－と。正雄は突然腕に鋭い痛みを覚えたので、腕を見た。叔父が皮下注射の針を片付けていた。「何をした？」正雄はきつく聞いた。「あなたをリラックスさせるためのちょっとしたものをあげたのですよ。」照夫はなだめるように言った。