満ちるは桜。

好きなものを書いてる普通の人日記。

人生登記簿

2017年12月08日 01時27分41秒 | その他
人生には限りがある。
それはまぎれもない事実であり、それ故に人間は不老不死の夢を抱いてきた。
不老不死は創作話の中の夢物語だが、それでもいかに長生きするか?それとも豊かな人生というものを謳歌するか?人々は常日頃から意識せずとも心の片隅におき考えている。
30XX年、エス氏もそんな事を思案していた。
「さて、もうそろそろ書類が集まる。
これをどうすれば受理してもらえるのだろうか…」
エス氏は人生初の試みの直前だった。
人生に関する登記である。
エス氏が生きる時代に、日本人にとって生年月日はさほど重要な意味を持たなくなった。
なぜか?
100年前に施行された人生登記簿法が大きな理由だった。
これにより、日本人は何歳の自分でいるかを自分で選択できるようになった。
戸籍と同時に人は人生に関して登記をしなくてはならなくなったが、これにより同時に安楽死の選択も可能となった。
人生登記簿の閉鎖を4ヶ月前に宣言、すなわち皆にいつ人生の幕を閉じるか宣言すれば、手続きを踏んで死ぬことが可能になったのである。
「あなた、何してるの?」
エス氏の奥さんが話しかけた。
「ああ、以前から話していた登記のことだよ。」
「…気持ちは変わらないの?」
「ああ」
「私も病気を治す為にこの制度を使ったことがあるけど…」
「そうだ、だから僕と君は出会えたんだ」
「そうね」
エス氏は結婚していた。妻は生年月日を考えたら大分年上であるはずだが、年齢はエス氏の年下だった。
人生の登記は開始と終了があるが、その中に一つイレギュラーなものがあった。
それが休業登記である。登記が済むと身体は冷凍保存される。そして、また時期が来れば休業登記を取消し、人生の続きを始めるのだ。
妻は以前病の為に人生の休業登記をし、凍結作業をした。病の治療法が開発された時、親戚が手続きを踏んで彼女は解凍され、人生が再開されたのだ。
その為、生年月日と経過年月が一致しなくなった。
「それにしても、こんなことがあるんだな」
「こんなことあるのかしら…」
「人口調整の依頼が来るなんて思わなかった。3年人生を休業して待てば働かずして三千万の依頼お礼金が手に入るなら良い話だよ」
「3年て、長いわ」
「待たせてすまないが、その間よろしく頼むよ。」
「ええ」
こうしてエス氏は人生初の登記を行い、人生の休業が行われた。

「お昼のニュースです。
休業登記をすれば人口調整お礼金が貰えると騙し、
登記簿を不正に改ざんして安楽死にみせかけ、凍結させたまま相手を死亡させる事件が発生しました。
犯人は意味不明な言動を繰り返しており、
他にも登記手続きに慣れた協力者がいるとみられています…」


(終)

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